845 広がる煙
そんで燻製欲に目覚めた俺は、探求欲の赴くままに色んな食材を燻してみる。
安直なところで肉とか魚とか。
一旦干してカラカラになった干し肉やら魚の干物やらが比較的難易度低いので安易に実行。
やはり燻製の難易度は食材に含まれた水分に比例するようだ。
すると他に水分少なめで簡単にスモークできそうな食材はないか。
まずゆで卵。
かまぼこなんかも割と行けそうだ。
ドライフルーツも……干物なんだから行けるんではなかろうか?
ソーセージ……そう燻製といえばソーセージだよな!!
ソーセージを開発した際、燻製がいると知っていながらも面倒くさかったのでそのままにしておいたんだ。
燻す時は今!!
そんなして騒いでおると当然、好奇心旺盛な農場住人たちも知られるところとなる。
そして燻製品試食パーティへと雪崩れ込んでいくわけだ。
「美味い美味い!」
「今までにない類の味ですの!」
「これに合う酒はビール? いやウイスキーか?」
と流れるようにバクバク食っていく。
そして一通り食欲が満たされたところで次に何が来るか?
余所ならばいざ知らず、この農場の住人たちなら起こるのは探求心。
すぐさま自分に馴染みのある食材をスモークできないかと雪崩れ込んでくるのだろう。来た。
「セージャ、セージャ! この面白そうな新企画に私も乗るわよ!」
まずやってきたのがレタスレート。
豆の国の姫。
彼女が持ってきたのは当然豆。
大豆とかサヤエンドウとかもいいが、ナッツ類をスモークするとあら不思議、小洒落たバーで出るおつまみだ。
めっちゃ小洒落た味がする。
ナッツが煙を吸ってここまで小洒落るなんて……!?
「あと、豆腐も燻したらどうかなって思うのよ」
「豆腐? さすがに水分多すぎやせんか?」
「そう思って、重しを載せてできる限り水を切ってきたわ。さらに天日に干して徹底的に水気を抜いたわ」
なんと手回しのいい。
料理番組の司会が務まる手際のよさじゃないか。
よし、では格段に燻し難易度の下がった水切り豆腐をスモーク!
予想通りに美味い。
色々モチッと濃縮されてチーズのような味と歯応え。
『だったらチーズでいいじゃん』とは言わないで。
「さらに枝豆も燻してみたら美味しいと思うんだけどどうかしら?」
「試しにやってみよう」
やった。
美味い。
枝豆に高級感が出て益々ビールが進む。
豆使いレタスレートの深淵によって燻製地図が一気に大いなる広がりを得た。
そして次に来たのが……。
天使ホルコスフォン。
「納豆です」
「だよな」
誰もが予想した納豆攻勢。
あまりに容易に予想できて、最近じゃオチ要員として機能できていない。
かつては最有力のオチ候補だったというのに。
「……しかし燻製納豆というのはどうなんだ?」
まず『ありうるのか?』というところから疑問。
いや納豆の、強いクセながら何にでも合う柔軟性は知っている。
何にも合わないようでいて、実は何にでも合う。それが納豆。
そして対するスモークにも、それと同等の万能性があることに俺は気づき始めている。
とりあえず水分の問題さえクリアできれば煙はどんな食材にもまとわりつくんだ。
この二つが手を結んで、切れるということはない。
しかし一方で燻製最大の問題となりうる水分。
それを納豆と切り離すことができるのか?
干せばいいのか?
とりあえず干して……燻してみたが……うむ? イマイチ風味がつかめない?
これはまだ要研究だな。
「めげません……! たとえ幾年月かかろうと、ベストマッチした燻製納豆を開発してみせます……!!」
決意も新たに一旦下がっていくホルコスフォンだった。
彼女ならフツーに何とかしそうだな。
よし、では次の人。
人魚ディスカス。
農場の発酵食品部門をパッファから受け継いだ若手魔女だ。
「たくあんの燻製とかどうでしょう!」
「いいね」
漬物も保存食だから塩なり何なりが水分を吸ってくれる分、燻製との相性もよさそう。
実際よかった。
スモークの香りと味が、たくあんの美味しさをさらに引き立てて無難に美味しい!!
「やった! これでパッファ姐さんに顔向けできますぜ! いぶりがっこ、いぶりがっこ!」
やっぱりディスカスは姉貴分のパッファのことが大好きだなあ。
よし次! どんどんおいで!
「ついに真打ちの出番なのだなご主人様」
「お前はヴィール!?」
ここでドラゴン、ヴィールも参戦!
彼女が出してくるものも概ね予想がつく。恐らくは……。
「ラーメンなのだ!」
「ダメだぁー!」
「どうしてだ!? おれ様のゴンこつラーメンに煙をまとわせ、新たな境地を開拓するのだ!!」
だからってドンブリ丸ごと燻製機に入れられるかよ!?
それに燻製には水こそが最大の難敵ということがこれまでの経験でしっかりわかってきたのに。
こんなにスープにどっぷり浸かっては底にまで煙は染み込まねえよ!
やるならせめてスープから麺を出した状態で、さらに極限まで水気を抜いて乾かした状態ならなんとか行けるんではなかろうか?
乾麺?
いやカップ麺か?
「うぬぬぬぬぅ~。要研究ってことだな! やってやるのだぁ!」
そう言ってヴィールはドラゴン形態に戻り、飛び立っていってしまった。
……。
ヤツもまた熱心なラーメン研究家になってしまったものだ。
……アイツなら創造してしまうかもしれんな、異世界カップ麺。
そして次にはプラティもやってきた。
「話は聞いたわ旦那様! 今こそアタシのカレーに新たな息吹を……!!」
「カレーも無理だろー」
最近のプラティはカレーという……彼女もまた自分の料理道を見つけ邁進しているのだった。
ホルコスフォンやヴィールほどまだ年季の入ったものではないが。
しかしカレーの燻製はやっぱ無理。
水分の含有量で察してほしい。
って未経験者には察し難いのか。
ドライカレーにすればいいのか?
しかしドライカレーの中のごはんにもしっかり水分は含まれているだろうがなー。
ルーを燻す?
この異世界にはカレールー自体がない。今はまだスパイスを一から調合して料理している感じだ。
……この分ならプラティもいつかは……異世界カレールーを創造してしまうか?
ルーができたからと言ってそれを燻せるかというと別問題になってきそうだが。
「カレー自体じゃなくて具を燻すのはどうなの? 肉とかさ?」
たとえばキーマカレーなんて八割ひき肉みたいなところがあるからそのひき肉に煙をつけたら燻製『風』カレーには充分なりえるんではないの?
「よぉーし! じゃあ早速肉をひきひきまくってやるわぁーッ!!」
とプラティも駆け去っていった。
よし息子たちよ、今日の晩御飯はカレーで決定だな。
* * *
……さすがにこれで一通りはけたか?
あとは精々バッカス辺りが『燻製料理に合う酒ばっかっす!』って各品のベストチョイスなお酒を探し出してハッスルすることぐらいか。
俺もとりあえず探求心を満足させたかな……。
……いや。
俺も色々燻製品を作っていくうちに気づいたことがある。
特にソーセージの話が出てきた時にビビッと。
世の中には、燻製工程を経ることなくしては作れない、そしてとても美味しいシロモノがあったではないか。
ソーセージの親戚というべき……。
ベーコン。
「あれは燻製が必要不可欠なんだと聞いたことがある……!」
その燻製にチャレンジしてみた今こそが絶好の好機。
創造してみようではないか。
俺の異世界ベーコンを!!






