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836 皇帝竜夫婦訪問記・ドラゴン前編

 魔族たちとの聞き取りが終わって、なんかもう気疲れが大きかったので一旦帰る。


 帰宅先は黒寡婦連山。

 マリー姉上のダンジョンだ。


 おれの新生竜帝城も完成したというのにあっちはあんまり使われていない。


「衝撃の大きい話だったわね……!」


 マリー姉上も聞いた話の衝撃の大きさからか、声に元気がない。


 特に最後に聞いた魔国宰相のエピソードが相当衝撃だったらしく、帰り際もほとんど無言になったほどだ。


「ニンゲンたちは本当に様々な恋愛や結婚をしているのね……。しかも皆が皆、幸福とは限らない。今さらながら結婚が怖いとすら思えてきたわ……!」


 マリー姉上、衝撃的すぎて及び腰になっている模様。


 それはいかん!!

 ここはおれが何とかしてマリー姉上を励まさなければ!


 各国の夫婦たちを見回っておれなりに学んだこと!

 それは、夫は妻を大事にせねばならないということだ!!


「深く考えすぎてはいけませんよ姉上。せっかく帰ってきたのですからゆっくり休みましょう」

「アードヘッグ……」

「ニンゲンはそれこそ数百万といるのですから、それに対応して夫婦も数多くの形があるのでしょう。その形が不幸か幸福かを判断していいのは本人だけかと存じます」

「そうね……そうでしょうけれど……」


 マリー姉上はすっかり意気消沈し、出かけた直後の意気揚々さはほとんど残っていなかった。


「……そうね、この程度でへこたれていたら最強種族ドラゴンが廃るわ! もっと多くのサンプルを集めて、夫婦の実態を把握していくべきね!」


 その意気ですとも姉上!!


 では巣で一休みしてから今度は人間国へでも行きますか!

 人族のダルキッシュとかいうものが既婚者で聖者殿とも懇意にしておりますから、そこへ訪ねてみましょう!


 と思ったら……!


   *   *   *


「お帰りなさいませ皇帝竜と皇妃竜」

「お前はッ!?」


 何と戻ってくるなり意外なる出迎えがあった。


 待っていたのは人化したドラゴン。

 しかもその気配には見覚えがあった。


「お前はクロウリー・シーマ!?」

「覚えておいででしたか。皇帝竜の記憶に留めおきいただけるとは光栄の極み」


 そう言って恭しく礼をする人化ドラゴンであるが、このクロウリー・シーマ。ほんのつい最近におれへと挑んできた反乱竜の一角ではないか。


 ドラゴンたちの中にはいまだおれが皇帝の座に就いたことへの不満がわだかまっていて、そのうちでもっとも大きな反乱が、コイツを含めた『十傑竜』なる者たちの反乱だった。


 しかしそれらは激闘の末に鎮圧された。

 それをきっかけにしてヤツらの気は挫け、もはや抵抗もすまいと思っていたが……。


「我らの留守中に巣へとズカズカ入り込んで待ち伏せしているということは、まだおれを倒して皇帝竜の座を窺っているようだな? 挑戦ならばいつ何時でも拒みはしない。これからすぐにでも決闘場へと赴くか?」

「お戯れを。我々はとうにアナタのことを皇帝竜と認めております。市の決定に今さら異論を挟もうなどとは思いません」


 恭しく礼をするクロウリー・シーマ。


 人化した彼の姿は細身の青年で、ニンゲンで言うところの礼服を身にまとう姿はビシッと決まっていて優男の印象だった。


 無論その気になればいつでも巨大なドラゴンの姿に戻り、この辺一帯を粉砕することもわけがない。


「戦う気がないとは、これほどドラゴンに相応しくない言葉はない。では一体何しにここへ来た?」

「ドラゴンのあり方を一挙に変えてしまったのはアナタでしょう新帝。本日はちょっとしたご報告を。間の悪く留守中に来てしまいましたので待つ羽目にはなりましたが」

「なるほど……」


 それならそれで出直すという手もあっただろうにとは言わない。

 あまり追求しすぎるのもヒトが悪いだろう。


「わかった。それで報告とは? まさか再びおれに対する反乱の動きが上がったというんではあるまいな?」

「そんなことはありません。全竜族においてトップテンに入る強者『十傑竜』が蹴散らされて臣従を誓っている今、他の木っ端ドラゴンどもがどのような悪事を行うことができましょう。それよりもおれが伝えたいことは、もっと喜ばしい慶事の報告ですよ」

「慶事?」


 慶事というのは、めでたい出来事って意味だったよなたしか?


「じつはおれたちぃーー……!」

「結婚しましたぁーーーーーーッッ!!」


 うわ誰ッ!?

 いつの間にはクロウリー・シーマの隣にもう一人、人化した雌ドラゴンがいるではないか!?


 肩を寄せ合い仲睦まじく!?

 一体これはどういった光景!?


「あら、わたしの顔に見覚えがありません? かつてアナタに挑戦した十傑竜の序列七位、グリンツェルドラゴンのティキラーですわ!」


 それはどうも……!?

 皇子竜と皇女竜……雄雌ドラゴンが仲よく並んで!?


 結婚したのだから仲がいいのは当たり前……!?


「いやどういうことよ! ドラゴン同士で結婚などと!?」


 ここまで沈黙していたマリー姉上が喋り出す。


「どういうこととは心外ですな。今までドラゴン種族になかった『結婚』という概念を持ち込み、誰よりも真っ先に実行したのはマリー姉上、アナタでしょうに」

「うぐッ!? それは……そうだけど……!?」


 ドラゴン入籍カップル第一号の我々ですぞ。

 そのことを指摘されるとぐうの音も出ない、おれは仕方なく目前の二人に話の続きを促す。


「しかし、よくそうすんなり実行する気になったものだ」


 結婚はそもそも人間たちの間で行われる習慣。

 ドラゴンの中にはニンゲンを下等種と侮る者もいて、そんなニンゲンの真似をするのは恥だ……などという風潮もあり得よう。


 そんな中でいち早く、いかなるものかもわかりづらい結婚に踏み切るなど……。

 コイツらはイノベーター(新技術を意欲的に取り込もうとする者)か!?


「何を仰る。我々よりも率先して結婚を取り入れたのはアナタたちでありましょう。おれたちもアナタたちの幸せな姿を見て、真似してみようと思いついたのです」

「わたしたちの幸福は、竜帝夫妻よりの下賜物ですわ。このご恩にお応えするためにも我ら夫妻は永遠の忠誠をお誓い申し上げます」


 そっすか。


 ただ、どうしてそんなにスピーディに結婚まで決まったのか?

 互いにどこか惹かれるところでもあったというのか?


「もちろん、おれにとって彼女は最高の女神……、そう思ったのは他でもありません……! 彼女のエキスを飲んだからです!!」

「んッ!?」


 かの竜帝の座をかけたドラゴン勝負の折、クロウリー・シーマの対戦者はヴィール姉上だった。

 全ドラゴン中もっとも珍妙なヴィール姉上に敗北した彼は、罰ゲームとして寸胴いっぱいのドラゴンエキスを一気飲みする羽目となった。


 ドラゴンエキスというのはドラゴンを丸々湯に浸しておくことで抽出されるもので、狂気の産物としか言いようがない。


「すべてのエキスを飲み切ったあと、次の勝負で鍋に浸りエキスをとる彼女を見ました! おれが飲んだドラゴンエキスが彼女から出たモノだったとは! 彼女のエキスがおれの体内に注ぎ込まれた! それを思っただけで全身が熱くなるような感覚に囚われまして!!」


 ……。

 キショい。

 いやいやいや、ニンゲンたちの言う変態ってこういうのに適用されるんじゃないのか? 

 いや怖っ。


「それからわたし、彼の猛烈アタックを受けて、ついに陥落されてしまったのですわ……!」

「これほど息詰まる攻防はありませんでした! そして勝ち取ったものは愛! 強者としての証明よりなお尊い! 皇帝竜が進められるのにも納得ですよ!!」


 心底幸せそうに仲睦まじい二竜。

 しかしおれには、ここまでの話を聞いて引っかかるところがあった。


 クロウリー・シーマが相手の雌竜に惚れ込んだきっかけ……彼女から抽出されたドラゴンエキスを大量摂取したからというのは語るだけでも身震いするが……。


 ヴィール姉上の保有していたドラゴンエキスの生産経緯はおれも知っている。おれ自身被害に遭ったこともあるので……。


「ヤツが飲んだドラゴンエキスは、シードゥル由来の……!?」

「しっ」


 すべて語り終わるより前に口を塞がれた。

 俺の口元に当てられた手はマリー姉上のもの。


「その情報は彼らに必要ないものよ。あんなに幸せそうにしているなら、馴れ初めなんてどうでもいいじゃないの」


 た、たしかにマリー姉上の言う通りではあるが……。

 あの時飲んだドラゴンエキスが他由来とわかったら最悪、関係が壊れかねないものな。


 大切なのは過去より今。

 それを思えば沈黙こそが正解だと思えるのだった。


「力だけが正義のドラゴンからして、そんなまどろっこしい配慮が浮かんでしまうのだから結婚とは不思議なものね……」

「たしかに」


 しかし、それならドラゴンエキスの生産元にもしっかり口止めをしておくべきだよな?

 ヴィール姉上にはもちろんのこと、流出元であるシードゥルにも何かしら言い含めておいた方がいいだろう。


 そういやヤツらは今どうしているんだ?


 人魚国で別行動のきり見ていないが……。


   *   *   *


 戻ってきたシードゥルと、そして父上のアル・ゴールが事のあらましを聞いて、とんでもないことを言い出した。


「ほう、奇遇だな。おれとシードゥルも結婚することにしたぞ」

「はッッ!?」

「でないと舅姑コンビにならないじゃないか」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 774話 合同結婚式まとめにて、シードゥルに求婚しているので、ティキラーと結婚するまでの経緯がないと???となりませんか? 求婚された側のシードゥルも特になんの反応もなくアルと登場して…
[一言] まだ姉上呼びなのかこの帝ドラゴン……
[一言] 今回はオチが一番衝撃的だったよwww
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