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821 人をダメにするコタツ

 冬は続く。


 寒い。


 まあ農場生活も長くなって、設備も充実してるんだけどね。


 防寒対策だって昔と比べると随分発達した。


 オークたちが作成してくれた薪ストーブもあれば、バティたちが拵えてくれる毛皮のセーターも暖かい。

 温泉も滾々と湧きだして冬にはいい湯加減だし。


 しかしそろそろ新しい試みもしてみたいなという気持ちも出てくる頃合いだった。

 同じことの繰り返しでは冬も楽しくなかろうしね。


 というわけで新企画を立ち上げてみることにしました。


「コタツを作ろう」


 そう、あの魔具。

 一度入ったものは決して逃さず、精神をどん底まで堕落させるという禁断の罠。

 いや兵器と言っても過言ではない。


 一体この世で誰がコタツの誘惑に抗えることだろう。


 だから俺は今までコタツの製作をためらってきた。

 この平和な世界にコタツを持ち込むことで、堕落と停滞によって世界崩壊しやしないかと。


 しかし俺は信じる。この世界の人々が持つ自律心と克己心に。

 まあ実際のところは俺が最近無性にコタツに入りたくなったということもあるんだが。


 そうと決まれば行動開始。


 コタツの骨子となるローテーブルの部分はエルフの木工細工班に頼んだらすぐさま作ってくれた。

 さすが仕事が早い。

 ちゃんと素材には熱に強い木材を使用してもらった。


 さらにそのテーブルに掛けるコタツ布団もバティらに頼んで作製。

 綿をたっぷり仕込んだ布団はバッチリ熱を閉じ込めて暖かそう。


 そして肝心かなめの核心部分。

 熱を発するヒーターこれがなければコタツにならない。


 だからヒーターを取り付けんと右往左往するんだが、改めてここはファンタジー異世界。 

 機械部品などは当然なく、したがって赤外線ヒーターなどあるはずもない。


 機械のない昔は火鉢などを布団の中に入れて温めていたというが、ウチには小さい子もいるしあまりに危険なものは家中に置きたくない。


 コタツ作製頓挫の危機? と思ったが心配めさるな。

 ファンタジー異世界だからこそ、ないものもあればあるものもある。


 俺は早速先生のダンジョンにいって適当に探したら、出てきた。


 みずから熱を発する魔石。


 ちょうどいい温度で触ってもやけどしない程度。

 これなら熱源として座卓の裏に張りつけといてもまったく安全安心。


 文明がないとどうにもならないものでもダンジョンか魔法に頼れば大体なんとでもなる。

 それも俺が異世界にやってきて学んだことだった。


 それら素材が揃って、組み立てドッキング!

 完成!


 なんとコードレスの異世界コタツ!

 熱源が魔石で、電力供給しなくていいなら電源コードもいらぬ!


 室内がゴチャゴチャする最大の要因は電源コードなんだよ!

 それがなくて部屋内がスッキリする異世界生活万歳!


 さて、では早速みずからの脚をコタツにイン!

 するっと滑り込ませる。


「うわわわわ、あったかーい!」


 俺は帰ってきた。

 この常春のパラダイスに。


 あったかいコタツの中に足を入れたらもう外には出られない!

 オシッコに行きたくなって我慢できずに漏らすことになろうともここにいる!


 思った通りにとんでもないものを完成させてしまったと確信を深める俺であった。


「新しい刺激の匂いがするのだ」


 ヴィール登場。

 本当にコイツは俺が何か新しい試みをするたびに真っ先に勘付いてやってくる。


 監視カメラでも取り付けてるんじゃないか、って思う。


 しかし残念だったな。今日作ったのは食い物ではないぞ。

 と俺はコタツにくるまったまま思う。


「ほぬ? どうしたんだご主人様? そんなところから顔だけ出して?」


 いつのまにか首から下は全身コタツにズブズブ沈んでいた俺だった。

 コタツあるある。


 しかし成人まで成長してしまうと身の丈がコタツが合わなくなってしまって、肩まで収めようとしたら足がはみ出し、足を引っ込めようとしたら肩が出る。

 成長してしまうことの寂しさを感じさせる一幕……。


「なーんだ? この布団をかぶせたテーブルは? コタツ? ほうほうかけた布団の中身をあっためてるんだな? まーたニンゲンどもはいじましいものだ。そんなものがなくては冬の寒さを乗り切ることもできないなんてなッ!」


 ヴィールが久々にドラゴンっぽい傲慢なことを言ってる。


「おれたちドラゴンなら熱く覆ったウロコで、極寒だろうと灼熱だろうとヘッチャラなのだ! 猛吹雪の中だろうとまったく寒くないぞ! だからそんな防寒具など最初から不要なのだ! ガハハハハハハハーッ!」


 そうかい。

 だったら今回お前の関わる要素はないってことで、俺はもう少しコタツを満喫……もとい、家族に紹介する前の性能テストに没頭するので、お前は自慢のドラゴンの翼で南極でも北極でも回遊するがいいや。


 てーことでしばらくコタツに潜って小一時間。

 ……。


「ふわー、ぬくぬくなのだー」


 やっぱりヴィールもコタツに飲み込まれた!?

 どうせこんなことになるだろうと思ったんだ!


 灼熱も極寒もものともしないドラゴンでもコタツの温かい誘惑には抗えない!


「ふわー、どうしてさからえないのだー? もうここからでたくないぞー?」


 コタツにやられて賢さが低下していくヴィール。


「コタツに入りながらミカンを食いたいのだー。ご主人様取ってきてくれー」

「嫌だよ、お前がとって来いよ」


 コタツにミカンのマリアージュを的確に直感するヴィール。

 しかしミカンを取りに行くということはこたつから出ていかなければいけないこと。


 そんなの絶対嫌だ!

 コタツから出るぐらいなら飢える!


 まあ、もう一つのコタツ問題『テレビのチャンネルを回す』についてはテレビ自体がこのファンタジー異世界にはないので助かったけど。


『もう一つの定番がお出ましにゃーッ!』


 ああッ!?

 ネコが現れた!?


『常に寝心地のいいところを探し続けて三千年! そのネコの本能が告げたのにゃ! ここに黄金郷があると! だからやってきたにゃー!』


 ネコの快適な場所を探し求める本能。

 ソイツがコタツを見逃すわけがなかった。


 ところでネコがなんで流ちょうな人語を喋っているのかといえば、手早く概要だけ説明すると、人外のノーライフキングが憑依しているから。

 ただし大分ネコの本能に引きずられている。


『ミャーはこの楽園への入場を所望するのにゃー! ただちに扉を開くのにゃー!!』

「はいはい」


 ネコあるある。

 コタツに入ろうとして入り口がないので『開けやがれ』とニャーニャー鳴く。


 人間はその命令に抗えずに布団を上げてやるのだ。


『よしゃー! 突入にゃー!』


 喜び勇んで入るネコ。

 それからしばらく経って……。


『暑いにゃー、コタツ飽きたにゃー』


 コタツの温度はネコには高めなのかすぐ出てくる。コタツ布団を翻して。

 そこに空いた穴から外気が入ってきてせっかくの温度が下がっていく! しかもネコの野郎が出ていく時に限って俺たちから見て足側から出ていくから布団を直すのも一手間だ!


「おらネコーッ!! 出ていくならせめて布団の形を直してからいけ! テメーが出てった穴から冷たい空気が入ってくるのだー!」

『外に出たら寒くなってきたにゃー。もっかいコタツに入るので開けやがれにゃー』

「出てった穴から入りゃいいだろうがーッ!!」


 さらなるネコあるある。

 ネコは一度使った出入口は二度と使わない。


『コタツにネコは付き物なんだからもっとネコをありがたがるにゃー! ネコはコタツで黄金長方形にゃーッ!!』


 風物詩を盾に我が物顔しようとするネコ。

 ふてぶてしい。


 そんなネコの野望を打ち砕かんとする新たな乱入者が……。


「ポチ?」


 やってきたのは農場に住み着くオオカミ型モンスター。

 種族名はヒュペリカオンというらしいが個体名はポチで親しまれている。


 そんなポチは、コタツ布団と床の間に鼻面を突っ込むと、そのまま潜り込んでいった。


「んにゃああああッッ!? イヌのくせに何コタツに入ってるにゃあああッ!?」


 イヌもコタツで丸くなる最近は。

 イヌやらネコやらヴィールやらで詰め詰めになったコタツはパンパンで寝返りも打てなくなるのだった。


 やはりコタツは魔性。

 あらゆるものを、その内側に飲み込んでしまう。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] 大人数用のコタツ作りましょー!
[良い点] ヴィールがかわいい
[良い点] 最終暖房兵器、こたつ異世界に降臨。 [気になる点] プラティが来ない件。人魚の奥さまは人化しても下半身が乾くからあまりこたつは良くはないのかも? [一言] 犬は雪を喜び庭駆け回れよ。
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