818 霊山を巡って
本日、異世界農場書籍版11巻の発売日です!!
よろしくお願いします!!
異世界百名山。
今となっては懐かしいな。俺も編集に関わったゴールデンバット渾身の名著。
S級冒険者として山登りが趣味というかライフワークのヤツが、その経験を活かして作製した。
世界中すべての山の情報をまとめ、ゴールデンバット自身の評価と感想を付け加えたデータブック。
それが異世界百名山。
俺もその作製に協力したが、その際のすったもんだは思い出に残っている。
「無事出版された異世界百名山は、魔国人間国の双方で販売され爆発的な売り上げを記録し、四千万部の大ベストセラーになった」
マジかよ。
俺も四千万部売れてみたい……!
「彼のホーム人間国だけでなく、魔国の山々まで取り上げられたことが多くの人にヒットした要因ですね。お陰でただ売れただけでなく人魔双方の理解が深まるきっかけにもなり『かけ橋の一冊』と称えられることになりました」
「そこも釈然とせんよな……!」
説明しながらも納得いかない様子のシルバーウルフさん。
他のS級冒険者もみずからの立場から、人族魔族の融和を進めるように様々な施策を行ってきた。
唯一我関せずで自分のやりたいことだけしかやらなかったゴールデンバットが、ただ趣味を押し進めただけの山書著作で最大の成果をもたらしたんだから、そりゃ真面目にやってる人たちからしたら堪ったもんじゃない。
「そんな人魔の融和に貢献したゴールデンバッドの著書に、ベルフェガミリアさんは不満があると?」
「『かけ橋の一冊』? とんでもない間違いだね、この本は『争いの一冊』だ」
なにぃ……!?
ベルフェガミリアさんがそこまでストレートな敵意を口にするとは?
一体、異世界百名山の何が行けないというんだ。
「まあ、私がこの本を手に取ったのは偶然からだったんだがね。特にやることもなく暇だったので、店に並んでいたこの本にたまたま目が行った。暇潰しに読んでやろうかと……」
「暇じゃありませんからね! アナタの裁可を待ってる案件が山ほどあるんですからね魔軍司令!」
マモルさんの悲痛な訴えが相槌になった。
「言うほど私は登山に詳しくはない。山登りの経験はあるが大体が魔王軍による行軍でのことだ。だからこの本の内容はほとんどチンプンカンプンだったが、ただ一ヶ所。……一ヶ所だけ私の認識をまったく違う部分があった」
えッ? 何?
誤字脱字とかですか? 余程意味が通らなくなるほどのものでないならスルーしてほしいんですが……!?
「それは……このページにある!」
ベルフェガミリアさんがわかりやすくも実物の本のページを広げ、問題らしい部分を指し示す。
親切。
そこは奇しくも……不死山の書かれているページではないか?
霊峰、不死山。
俺も思い入れが深いので懐かしいぞ。
ゴールデンバットから協力要請されて一緒に登った山がその不死山だったからな!
「この本にはこう書いてある……!『不死山:世界最高と言っていい霊峰。その標高は世界一であり、山がまとう空気の清浄さもまた一級、様々な自然の彩りを抱き、山頂には最強のノーライフキングが住まう。著者がこれまで数百の山を登って制覇した経験から照らし合わせて、あらゆる意味で最高の山だと断言できる』と……!」
ベタ褒め。
執筆前からゴールデンバットの野郎は不死山に御執心だったので筆が乗ってしまうのもわかるが……。
ベルフェガミリアさんは、その文が気に入らないというんですか?
わかった、彼にはもっと推しの山があって、それを差し置いて不死山をもてはやされるのが気に入らないと?
解釈違いだと!?
「キミはバカだな」
「バカって言われたッ!?」
「ここまで読んだ分に間違いはないよ。むしろよくわかっているなと評価している。不死山は最高の山だ。大きさといい景観といい神聖さといい、あれ以上の山は世界中探しても他にない。そこは真理だ。この本は真理を歪めずよく文章に昇華させている。見事だと讃えようじゃないか」
なんか早口になってる……!?
「感想ありがとうございます!」
ゴールデンバットがお礼言ってる!?
ホント何なのコイツら!? 年中コイツらに振り回されてるマモルさんとシルバーウルフさんのつらみが深まってきたんだが!?
「しかし他が真理をついているからこそ却ってたった一点の間違いが許しがたくなるのだよ。本当に罪深い間違いだ。この一つだけでこの本の価値を丸々無にしていると言っていい。いやむしろマイナスになっている。それほどの致命的な間違い……!」
「いいからもう結論言えよ!」
さすがにもう付き合いきれなくなってきた。
夕方までには帰って子どもたちと団欒したいんです簡潔に済ませてください!
「ふむ、では確信に至ろうじゃないか。この本の重大な間違い……それはこれだッ!!」
ベルフェガミリアさんが指で示す、異世界百名山の不死山紹介のページ。
そこにはこう書いてあった。
――『エリア:人間国』
……。
「……それが何か?」
「いやいや、わからないの信じられないな! ここまで一目でわかる大間違いも他にないだろう。なあ!?」
「『なあ!?』って言われても……!?」
すまない俺にはマジでわからない。
助けを求めて視線をクローニンズの方に送る。
助けてクローニンズ! 空気を読めることが苦労人の条件でしょ!
「……では説明します」
俺の想いを受け取ったのかマモルさんたちが説明し始めてくれる。
「たしかにこの問題に気づくには地理的知識が必要なので……。そうですね、端的に言うと不死山は、ちょうど魔国と人間国の国境上にある山なのです」
はい?
「そして不死山は世界有数の高山だから自然山裾も広がる。実質人間国の側にも、魔国の側にも、不死山の裾野は大きく食い込んでいるんだ」
「その関係から両国ではそれぞれ独自の主張が押し進められてきました……」
人族の者は言う。『不死山は人間国の山だ』と。
魔族の者も言う。『不死山は魔国の山だ』と。
「魔族も人族も、不死山は自分たちのものだと主張して譲りません。これまではそもそも戦争中だったので、もっと大きな政治的主張が衝突してたので取り沙汰されなかったんですが、平和な世の中になってそうした小さなすれ違いがピックアップされて……!」
「奇しくもこの本が引き金を引いた形だな」
シルバーウルフさん、みずからも異世界百名山の冊子をパラパラさせて言う。
表情が煤けている……!
「それで全面戦争に突入しようと?」
「どの分野にも過激派はいるようで……!」
人族側ゴールデンバッド(著者)の主張。
「まったく言いがかりも甚だしい。不死山は天地開闢の始まりから人間国の山だというのに……。だからこそオレは自著にそう記した。本に書いていいのは真実だけ。それに反したつもりはない!」
魔族側ベルフェガミリア(読者)の主張。
「だからそれが間違いだって言ってるんだよ! ビッグバンの原初から不死山は魔国にあるんだよ!! ゆえに本の記述は間違い! 私は修正を要請する手紙を月五十通送り続けた!」
熱心な読者!
「事実無根の指摘に対応する義務はない! そっちこそ迷惑行為はやめたまえ!」
「真実を守るために私は手紙を送り続ける!!」
「それが迷惑行為だと言ってるんだ!」
なーほーね。
これが争いの根源だということか。
国境をまたいだ山の帰属を巡っての大論争。
しかしお互いの立場がそれらをのっぴきならないものにしている!
あのさあ、互いに四天王とS級冒険者なんだから口ゲンカがガチ戦争に発展しかねないってわかってます!?
「魔族は現実を認めろー!」
「虚構に逃げているのは人族の方だろうがー!」
ワイワイガヤガヤ、ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ……!
ひぇッ!?
よく見たらあの問題児ズだけではない!?
他にも魔族人族双方から過激派っぽい人員が、各問題児の後ろに集合してる!?
そしてその先頭に立つベルフェガミリアさんゴールデンバッドの問題児ズたちも……。
「やはりこうなったら実力行使しかないね……! 面倒くさいけど力は行使してこそ意味があるのだからね!」
「来るがいい! ドラゴンすらぶっちぎるS級冒険者の逃げ足を見せてくれよう!」
……とまったく矛を収める様子がない。
ワイワイガヤガヤ。
ガヤガヤワイワイ。
ワイワイワイバーン。
あまりの煩さに普段温厚な俺も、頭の後ろでプッチーンと鳴る幻聴がした気がして……。
「うらぁあああああああッッ!!」
ごどーん。
久々に邪聖剣ドライシュバルツの閃光を撃ち放っていた。
蹴散らされる不死山過激派たち。
シルバーウルフさんやマモルさんたちは日夜こんなストレスを抱えながら、あの問題児どもを監督しているのだな、と思ったら本当にクローニンズだなと感服した。







