816 不死王vs姫様
勝負?
ノーライフキングの先生と、レタスレートが!?
他に邪魔ない一騎打ち!?
『レタスちゃんの成長ぶりを直に確かめてみたくてのう。どうする? 自信がないなら逃げてもよいが?』
「ふっふっふ……! 先生……、生徒をやる気にさせる言い方を心得てるじゃありませんか……!」
レタスレート、自分の両拳を握り合ってペキパキ関節を鳴らす。
最近はソレヤルとあんまりよくないって言われてなかったっけ?
「そんな挑発をされてはビビッて逃げるわけにもいきませんわよ! このレタスレート、人間国の元王女っていうプライドはあるんですから! 投げられた手袋を拾わず通り過ぎたら乙女の恥よ!!」
『意気やよし。では決闘成立じゃのう』
「『デュエル!!」』
何か始まった……!?
これはどういう状況!? 想像もしなかった対戦カード……先生vsレタスレートが成立している!?
どんな戦いになるのか予想つかない、一体どうなるんだ!?
たしかにレタスレートはここ数年で大分強くなった。人類最強の一候補といっても差し支えないほどに。
しかしそれでも先生に届くかと聞かれたら、安直に答えは出せない。
先生は人類最強を超えたさらなる次元の高みに立つ御方なのだから。
人の禁忌を乗り越え不死の身体を手に入れたノーライフキング。その中でも三本の指に入る強さと知恵を持っているのが先生だ。
その先生に、怪力無双といえども人間の枠を踏み越えていないレタスレートがどこまで食い下がれるか。
それが勝負の見どころとなるだろう。
「じゃあ私から行きますよ先生」
『無論先手は好きにとるがよい。子どもたちの振舞いを見守ってこその年長者ゆえにの』
「しゃらくせぇえええええッッ!!」
レタスレートが突っ込んでいった!?
しかし魔導を極めた先生相手に直進突撃はあまりに不用意ではないか!?
『いや、それでよい』
先生!?
『どうせ知恵でも力でも格上だとわかっている相手。ならば小細工を弄するより全力全速でぶつかる方が、死中に活を見出せようもの……』
「心を豆にせよ! 萌えいずる若芽だけが石畳を下から割る!!」
なんか教えめいたことをみずから唱えて先生の懐に入る。
そして鉄拳一発。
「豆拳!!」
何かギュルギュルした動きのパンチが先生の腹部に決まる。
あれも間違いなくダメージが内側にくる系のパンチ。ただでさえ力isパワーのレタスレートが、ダメージを内側に浸透させるようになったらどうなっちゃうんだ!?
『ふぐッ』
先生が僅かに呻き声を上げる。
何しろマナメタルを粉々にしたレタスパンチ、生物がくらったらとても十八歳未満には見せられないエグい状態になってしまうこと間違いなし。
しかしそれが生命を超越した先生にどこまで通じるのか?
『ふくくくく……、全身の筋力を拳に一点集中させた見事な一撃。日ごろの鍛錬が窺わせるのう』
「えッ? ウソ効いてない!?」
先生を倒せなかったどころかダメージ皆無!?
ノーライフキングである先生のお身体は、マナメタル以上の硬度だというのか!?
『まさか、このような腐りかけの身体など指で弾いた程度でも粉々となろうよ。レタスちゃんの鍛錬に鍛錬を重ねた結晶のような拳を受けきる手立てなどない』
しかし実際に先生はピンピンしている。
『秘密はノーライフキングという存り方についてある。不死の王と称えられしこの体は、物質であると同時に霊でもある。アンデッドの二大タイプ、ゾンビとゴーストの両特性を兼ね備えているということじゃ』
物体でありながら霊体。
二つの特性を兼ねているために一方だけの破壊手段では倒すことができない。
いかにレタスレートが物理攻撃を極めても、それだけでは先生の身体の一面にしか作用しないために結局無意味になってしまうんだ。
『人類たちの間でノーライフキングを討伐不可能とされる理由がそれじゃ。とはいえ不死王の霊体面にまで響き渡る重厚な一撃。成長を窺わせるのう』
「うりゃああああああああッッ!!」
レタスレート!?
先生の話も聞かずにガンガン撃ち込んでくる!?
彼女って勝負となると周囲が見えなくなるタイプだったか!!
一心不乱に勝ちを狙いに来ておるやんけ!
『おおおおおおおッ!? しかし通じぬ戦法を繰り返しても勝ち筋は見えぬぞおんおんおん?』
いかに半霊体の先生でも一秒間に二百回ぐらい殴られて、マッサージチェアに座る人みたいにぶれている。
しかしそれでも霊体に伝わるのはせいぜい震動ぐらいでダメージを与えるには遠い。
所詮人間のとれる手段で死を超越した王には通用しないのか?
「諦めてはダメですレタスレート」
ええッ!?
誰!?
二人の試合だというのに割って入って現れたのはまさかの天使ホルコスフォン!
レタスレートのマブダチ!
「アナタのピンチに私が駆け付けるのは当然のことです。二人で力を合わせてこのアンデッドを討伐いたしましょう」
「マジでぶっ殺そうとしてるわけじゃないのよ!」
一応これ形式で言えば練習試合みたいなものなんだが、それで助っ人乱入みたいなの許されていいのかなあ?
『かまいませんとも、若者が頑張っておる姿は気持ちいいではありませんか』
先生が寛大。
孫のことなら何でも無制限に許してしまうおじいちゃんみたいになってるじゃん。
「その余裕が命取りです。我ら天使には、アナタたちを殺せる最良の手段があることを存じませんでしたか」
そう言ってホルコスフォン、脇から物騒な大筒を出す。
「我ら天使の基本装備マナカノンは、霊体にも作用して破壊可能。しかも聖属性が付加されているためアナタたち邪悪なる不条理存在には最悪の脅威です。我が同志ソンゴクフォンも、かつてマナカノンでノーライフキングを仕留めたと聞きます。アナタも聖なる砲撃に飲み込まれて灰燼と化しなさい」
そして放たれる聖なるビーム。
先生は避けようともせず真正面から受け止める。命中だ。しかしそれだけだった。
ノーライフキングに絶大な特攻性を持つはずのマナカノンだがしかし、先生にダメージを与えることはやはり叶わない。
『……ほんの三、四年前のワシなら今ので大ダメージを負ったであろうが……』
先生まったく余裕のよっちゃん。
『ワシには素晴らしい出会いがあった。かつてこの農場で学んだ生徒たちとの触れ合いと学び合いによって、ワシはアンデッドが得るはずもない聖属性を得ることになった。同属性はとかく効果が表れづらいものじゃ』
先生は、アンデッドの持つ弱点すらもとうに克服していた!?
『聖属性による特攻効果さえ持たねば、不死王の無限の存在力を脅かすだけの火力はそなたの大砲にはない。物霊双方に作用できるまではよかったが、決め手にはならんかったの』
「くッ、まさか天使が不死者に後れを取るなんて!」
先生に対していささか失礼だぞホルコスフォン。
しかし年長者の威厳を見せつけて先生が勝利をもぎ取りそうだ。
「まだ諦めてはダメよホルコスちゃん!」
「レタスレート?」
「こういう時こそ友情パワーよ! アナタの技と私の力! 両方を合わせたらきっと先生にも通じるわ!」
「! わかりました!」
レタスレートには超硬金属すら粉々にする物理破壊力が……。
ホルコスフォンには霊体にも作用する破壊手段マナカノンがある。
その双方が力を合わせて、まったく同じに叩き込めればノーライフキングの身体といえども破壊できるんでは?
その望みに掛ける二人の行動は迅速だった。
「レタスレート音速パンチ!!」
「マナカノン・アストラルサイド全振りモード!!」
レタスレートが物理、ホルコスフォンが霊攻撃と役割を分担して、まったく同時にぶつかることで双方の特性を併せ持った先生の打倒に臨む!
元からズッ友の二人の呼吸はピッタリで完全同時に標的命中。
その瞬間に吹き飛ぶ先生のお身体。
木っ端ミジンコに粉々に四散した。
「やった! 勝ったわ!!」
「やりましたねレタスレート!」
ほぁあああああああああああああああああああッッ!?
待て待て待て待て!
先生が、先生が粉々になってしまわれた!?
なんてこと仕出かしやがるんじゃボケなすぅううううううッッ!!
『怒鳴ってはなりませんぞ聖者様』
本当にヤベェと思って取り乱したのもつかの間。
先生はすぐさま、塵の状態から再生してすっぱり元通りに復元された。
ヤバい様子はまったく引きずらない。
『いや、まさか我が不死体を打ち砕かれるとは思いませんでしたな。さすがレタスちゃんの頑張りにホルコスちゃんの友情。大したものですぞ』
「先生……あの、お怪我は……?」
『ノーライフキングに体などあまり意味がいないのですよ。塵すら残らずとも周囲のマナを吸って再構成しますのでな。そんなことよりもレタスちゃんたち、我が身体を破壊するまでとは思わなんだ! 見事な功夫じゃぞ!!』
思えばこの勝負、先生の方からは一回の攻撃もしてないんだよな。
レタスレートたちにやらせるだけやって、それですぐ再生してしまう傷をつけさせただけなんだから先生やっぱり凄い。
「やっぱり先生は凄い人だったわ……!」
「心より尊敬します……!」
レタスレートもホルコスフォンも先生への正しい認識を深める。
こうしてみると普段絡みのない人たちの絡みを見るのもよいかもしれないな。






