812 とある少年の相撲大会
ボクはネヨーテ。
今年で15歳になりました。
ボクは人間国の小さな村に住む、どこにでもいるような普通の少年です。
清く貧しく、弟や妹たちを世話しながら働いたり、将来のために勉強したりしながら過ごしています。
そんなボクの一年最大に楽しみにしている日がやって来ました。
オークボ城です!
昨年参加したれどメチャクチャ楽しくて、だから今年も参加します!
去年のオークボ城は変則方式だったそうで、だから通常開催には初デビュー! 一体どんなイベントなのか楽しみだ!
実際に始まって、恒例の本戦にはボクも参加した。
初挑戦で第三関門まで行けたよ。次は完走したいなあ。
そしてそのあとにもイベントは残っていた。むしろ今年はそっちがメインらしい。
相撲大会というイベントだった。
なんだかよくわからないけどケンカみたいな感じ。
武器は使わずに殴り合って……殴るのもダメ?
殴る時は平手で?
そして叩いたり蹴ったりするよりも、投げ飛ばす方がメインの決闘らしい。
円状のフィールドがあってそこから出てしまったら負け。
倒れて手をついてしまったりしても負けなんだそうだ。
大会には人族だけでなく魔族や、人魚族まで参加しているから何やら壮大だ。
三種族の交流が益々進む、重要な催しだって皆言ってた。
知り合いの人たちが大体参加するようなのでボクも参加することに。
ボクなんかが出場しても多分一回戦で終わりなんだろうなあと思うので気軽に行く。
「何を言っているのよ!? 出場するからには優勝よ! それいが愛の選択肢はあり得ないのよ! しっかりしてよね、もう!」
と言うのはボクと一緒にオークボ城見物に来ていたサニータちゃんだった。
ボクの住んでいる村はオークボ城から遠いため、繰り出すには希望者を募って団体で移動するようにしている。
そうした移動中もサニータちゃんは何度もボクに突っかかってきた。
ボクが何かいけないことでもしたんだろうか?
「アンタ、去年はここで何かしたらしいけど調子に乗らないことね! 私はアンタのことなんてよく知ってるんだから所詮マグレだってわかりきってるんだから。相撲大会とかいうのですぐ負けちゃったら他の人にもマグレがバレちゃうんだから恥かきたくなかったら必死でやることね!!」
すぐこういうことを言う。
僕だって別に自分が凄いなんて勘違いしてはいないけど、こんなに正面からハッキリ言われるとへこむなあ。
なんでサニータちゃんはボクに辛く当たるんだろうと時々思う。
嫌なことを言ってくる人は避けたり離れたりすればいいんだろうけれど、ボクはサニータちゃんに対してそれができなかった。
だって……。
……ボクはサニータちゃんのことが好きなので。
わかってるよ変なことを言ってるのは。
どこの世界に自分のことを罵倒してくる女の子を好きになるのか。そういうのをマゾって言うらしいけれどボクはマゾじゃないと思う、多分。
サニータちゃんは村一番の美人と評判だし、皆からモテる。
悪口を言ってくるのはボクへだけで、他に対しては物凄く人当たりがいいんだ。
だからたくさんの男の人がサニータちゃんに恋して、でも彼女のお父さんはそんな美人の娘を都会の貴族か大商人に嫁がせようと考えていて、誰にも触らせようとしない。
そう高嶺の花ってヤツ。
そんなサニータちゃんに罵られながらでも近くにいられるのは今のうちだけ。ボクにはその思い出だけで充分だ。
でもボクはマゾじゃないので罵られるよりは褒められたい。
この相撲大会で上位まで行けばサニータちゃんも少しは僕のことを認めてくれるだろうか?
よし、できるだけ勝ち残れるように頑張るぞ! と思って、しかしそんな意気込みで参加した相撲大会がいざ始まってみたら……。
なんか予想外の方向に突き進んでいった。
『愛のマワシ』?
何ソレ?
『相撲を取る際のユニフォームだ』と言って支給された何かで皆が装着してるんだが、そのマワシに仕掛けがあるんだって!?
その仕掛けとは、マワシを着けた男性のことを愛する女性がいたら、その『愛』の強さだけパワーが増すと!?
なんて斬新なシステムなんだ!?
実際、その機能で僕の周りの相撲参加者さんたちもエライことになっている。
まず目に入ったのは領主ダルキッシュ様だ。
ここオークボ城が設営されている領地の主様で、その人も結婚されているから奥様からの愛情が注がれて凄いことになっている!?
世界初の人族魔族間の国際結婚をされた方と有名だから、愛情も深いのか!?
迸るパワーが尋常じゃない!?
今年二人目のお子様も生まれたとかで、ますますの発展を感じさせる状態だった!
その次に注目されたのがS級冒険者にしてギルドマスターであるシルバーウルフ様!
ボクも去年のオークボ城でお世話になった御方なんだけど、この人もパワーアップ具合が凄い!
この人が結婚されたのが同じS級冒険者のブラックキャット様とのことだが、その成果注がれる愛情パワーもなんだかネコッぽい(?)形というか気配というか匂いをしていた。
しかもそれがオオカミ獣人であるシルバーウルフ様に宿るんだからどうにも噛み合わなくてチグハグな印象が……!?
ネコのオーラをまとったオオカミ? 何ソレ? ってなった。
そしてさらに注目なのが、センデキラス領からやってきたリテセウスさん。
ここ最近色んなところで大活躍して有名になっている人だ。
凶悪なモンスターを一人で退治したり、盗賊団を鎮圧したり、凄いのは悪徳領主を糾弾し、その罪を暴いて領一つを丸ごと救ったんだとか。
公な肩書きのない人だがとにかく『凄い』と言われて、あちこちで話題が上がっている。
そんな人だが、実際に見てみるとやっぱり凄かった。
身にまとう愛パワーが七色に極彩色!?
いや七色どころか……十色? 二十色?
それくらいある。
アレって色の数だけたくさんの女の人から愛を注がれてるってことだよね?
ハーレムってヤツ?
大人の男の人たちが言ってた、たくさんの女の人から囲まれることをハーレムって言うんだと。
あれこそまさにハーレム!
リテセウスさんはハーレム王というヤツだったのか!?
凄いなあ。
たくさん活躍する英雄ってそんなにもモテるのか。
ボクみたいな普通の人間には想像もできない世界だ。
所詮ボクなんかは……マワシ着けたはいいものの、きっと誰からも愛されることなんてないだろうから無パワーなんだろう。
虚無こそ力。
こんなんじゃ益々一回戦敗退濃厚だからサニータちゃんに認めてもらうこともできずに……。
……あら?
なんかボクの周りシュンシュン言ってない。
ボクにも煌めくオーラが噴出している!?
愛される男にしか発現しない愛のオーラが!?
一体どうして!?
いや『愛のマワシ』の機能的に誰かボクのことを好きでいてくれるからだろうけれど……。
どこのどなたが!?
まったく心当たりがない!?
「ちょっと! 勘違いしないでよ!!」
と声を上げるのは……サニータちゃん?
風か彼女が顔を真っ赤にしてボクへ向かって叫び散らしている。
「違うの! 違うの違うの違うのッ! 別に私がアンタのことを好きだからアンタが光り輝いてるわけじゃないからね!! 私じゃないわッ! きっと別の子のせいよ!」
はあ……、そうですか?
「絶対! 絶対絶対絶対絶対、私じゃないんだからね! 私が好きだからとかそんなことないんだから! 絶対勘違いしないでよね!! 大体アンタが悪いんじゃない! 日頃からとっても頑張ってるくせに態度が弱々しいから、ウチのパパだってアンタのこと軽く見てるのよ! 私がアンタの近くにいると怒るんだから! 私のことが欲しかったらもっと頑張りを表に出して、自分が凄いんだってアピールしなさいよ! もう私何言ってんの!?」
必死になって否定する態度がむしろ雄弁なる肯定を示しているように思えてならないんだが……。
ここは追及してはならない、と本能的に察せられたので黙っておいた。
そういう直感はよく効くボク。
その他にも、今まで隠していたりあやふやだったりした好意が『愛のマワシ』のお陰で露見し、人間関係が大きく塗り替わったカップルは多くいたようだった。
罪深いと言うべきか、ファインプレーと言うべきか。






