表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
809/1400

807 土俵際の男

コミック版『異世界で土地を買って農場を作ろう』5巻好評発売中です!!

エルフやグラシャラが初登場是非読んでみてください!

 我が名はオークボ。


 農場の主……聖者様に忠誠を誓うオークなり。

 オークでありながら家庭を持ち、愛すべき花嫁を迎えていくらかの時が過ぎた。


 新婚という期間は、とにかく互いの時間を大切にするものらしい。

 私と妻が二人きりでいるようとにかく回りが気を使ってくれる。


 農場での作業も、他のオークたちが代わりにやってくれることも多くなり、先日の神社作り? なるものも私は抜きでほとんど他のオークたちがこなしてくれた。


 ……いや、私もやりたかったんだが。

 神社作りとやら。


 我々、農場オークにとって建築とはもはや仕事ではなく、趣味。

 どんな素晴らしい建物を築き上げるかがライフワークなのだが。


 だから我が君が提唱した神社作りにも是非参加したかったんだが、他のオークたち曰く……。


 ――『リーダーは家にいなくちゃダメでしょ!?』

 ――『新婚が何ってんだ!?』

 ――『今が一番幸せな時間なんだから、それを邪魔したらオレたちが奥さんに恨まれます!!』

 ――『スレイプニルに蹴られて死にたくない!!』


 などと言って私のことを現場から遠ざける。


 ……いや、それが彼らの好意であることはわかっている。

 私を思ってのことだ。


 とにかく新婚に対してはそういう風に振舞っておけば吉だと。

 主に我が君……聖者様からの情報であるらしい。


 ただ、私はオークである。


 農場に仕え、農場で働くことを使命としたオークだ。

 だからこそ仕事をするのは我が喜び、仕事をしている時にこそ幸福はあると思っている。


 それを取り上げるのは却って私のためにならないのではないか?


 ん?

 皆?


 とはいえ私を思いやってのことだとわかっているから無下にもできず、結局は勧めに従って帰宅してしまう。

 私は空気に流されてしまうオークなのだ。


 それで帰宅すると待っているのは、こないだ私と結婚したばかりの新妻ゾス・サイラ殿なのだ。


「あぁん旦那様、よく帰ってきたのう! ごはんにするか? 実験にするか? それとも、わ・ら・わ?」

「ゾス・サイラ殿……何ですかその格好は……!?」

「ん? 結婚式を挙げたばかりの新妻は、これをするのが仕来りだと聞いてのう。……裸エプロンとかいうそうじゃ」


 ゾス・サイラ殿の攻勢ぶりが物凄い。

 防御を捨てた突撃兵ですらここまで激しい攻勢はしてこない。


 しかしそれが女人魚の過激さなのだろう。


 その辺は我が君と奥方の結婚生活を間近で見てよくよく心得ているつもりだったのだが……。

 自分が対象になったらそれはそれで恐ろしいものだと震えざるを得ない。


 出会ったばかりはあんなにクールで、凛々しさすらあったゾス・サイラ殿がこのようにほんわかラブラブ、可愛いの化身になられようとは……!


 これが結婚。

 怖い。


 ここまで人を変えるのか、異性と共に暮らすことは、と。


 気づけば私も農場での仕事を最小限に切り上げて、すぐさま家に帰るようにしている。

 家に帰ればゾス・サイラ殿が待っているから。

「旦那様? そろそろやめてくれんかのう?」

「え? 何がです?」

「わらわのことを『殿』などとつけて呼ぶことじゃ。なんとも他人行儀ではないかえ? わらわはもうぬしの妻、身内なのじゃから気軽に呼び捨てにしてもらわぬと」

「いや、そのように失礼なことを……!?」

「呼び捨て……」

「……ぞ、……ゾスサイラ……!?」

「はぁい、わらわじゃ!」


 か!

 かわえぇえええええええええッッ!?


 ゾス・サイラ殿……もといゾス・サイラが心底可愛い!!


 本当に変わったなあ彼女は、と思い毎日いそいそと帰っている自分を顧みて、ある時ふと思うのだった。


 ……私も変わってきているんじゃないか?

 と。


 私はオーク、主のために働き、敵を打ち破り、死をも厭わぬ最強最悪の生物がオークではなかったのか?


 それがなんだ? 最近の体たらくは!?


 可愛くて華憐で色気たっぷりで悪戯っ気もあって妖艶さもある新妻にメロメロ参っていて、それがオークと言えるのか!?


 腑抜けている!

 ここ最近のぬるま湯のような結婚生活ですっかり骨抜きになってしまっている!!


 と気づいたのだった。

 危ない。

 気づくのが遅れていたらどこまでも堕落して取り返しがつかなくなるところだった。


 私は、農場の聖者様にお仕えする農場オーク!!


 その本質を見誤ってはいけない!

 どのように生活が変化しようと、我が君をお助けお守りするためのオークボであることに変わりはない。


 そのラインを越えないようにしなければ!!


 と思うんだが日々ゾス・サイラの可愛さは増すばかりで、私の自我を侵食する!

 このままではヤバい!


 そうだ、ゴブ吉殿はどうなのだ!?


 私とほぼ同時期に結婚して幸せな家庭を築いているはずのゴブリンのゴブ吉殿!?


 そう思い、ご近所のゴブ吉宅をそっと覗いてみた垣根越しに。


 さすれば……。


「ゴブ吉様、ゴブ吉様♥♥」

「何だいマイハニー?」

「今日のゴブ吉様も大層素敵ですわ♥♥」

「ハニーだってとっても可愛いよ」


 奥様のカープ殿とただひたすらイチャついているゴブ吉殿の姿があった。


「ゴブ吉様、なんでそんなに凛々しくて素敵でカッコいいの♥♥♥♥」

「マイハニーは世界で一番美しいよ。まるで夕日が映り込む宝石のようだ」

「ああんッ♥♥ しゅきですゴブ吉様ぁーんッ♥♥」

「私もハニーのことしゅきしゅきしゅきしゅきー」


 アレはもう終わっている。

 手遅れだ。


 私の知っているゴブ吉殿はもう世界のどこにも存在しない。

 消えてしまった。


 そして明日の我が身でもある。


 私が何のすべもなく今の生活に浸りきっていたら、いずれはああなってしまうだろう。

 なんとしても阻止しなくては!!


 私という自我が侵食されるだけでなく、我が君を守り抜く手下としても、その使命をまっとうできなくなるのでヤバい!!


 取り戻さなければ! あのヒリついた感覚を!

 独身時代の乾いて尖っていた、戦士としての感覚を!!


 このまま新婚のぬるま湯に浸かっていたらダメだ!!


 そんな風に危機感に襲われていた最中、持ってこいの話が舞い込んできた!!


 オークボ城コラボ相撲大会……だと?


 そもそも、他でもない私の名を冠して始まったイベントではあるのに、最近私が表に出ることがすっかりなくない? とは思っていた。


 しかしこれはチャンスだ。

 相撲なれば私だって豊富な経験と実績がある。なにせ農場から発信された遊びであれば。


 さらに言えば競技とはいえ勝ち負けのハッキリした闘争であるならば、私から薄れかけていた戦闘本能を取り戻すに絶好の機会!


 なんですと我が君?

 その相撲大会に、目玉選手として私に出場を!?


 望むところですぞ!

 オークボ城の名がついたイベントで、このオークボが最注目を浴びなくてどうしますか!


 そして闘争の気炎を取り戻すチャンスでもある。


 見ていてください我が君!

 土俵の上で、並み居る強豪たちを片っ端から血祭りにあげて!

 噴き出る返り血を全身に浴び、真紅をまといしオークボとなって農場オークの恐ろしさを知らしめてご覧に入れましょう!!


 私はオーク!!

 残忍と凶暴の化身!!


 誰もが恐れる凶悪モンスターの本能を、相撲大会で取り戻す!!

 腑抜けてない!

 ぬるま湯などない!


 我はオークボ! 近寄る者すべてが恐れる怒涛のオーク!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bgb65790fgjc6lgv16t64n2s96rv_elf_1d0_1xo_1lufi.jpg.580.jpg
書籍版19巻、8/25発売予定!

g7ct8cpb8s6tfpdz4r6jff2ujd4_bds_1k6_n5_1
↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] ・・・人間国代表選出も兼ねてるんでしたっけか。
[一言] 幸せそうで何よりw
[一言] オークボ、遠くない未来に陥落してそうな気がする…w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ