805 集結する力士たち・魔族編
私は魔国宰相ルキフ・フォカレ。
非常に多忙な立場である。
そんな目の回るほど忙しくて体が三つ四つあっても足りないという私だが、今年もやってきてしまった。
このオークボ城という催しに。
去年も来たというのに。
宰相という立場としてはこの手の遊興的企画に参加する暇などないし、そんな時間があるなら法案の一つでも検討しろなのだが、何かと懸案もあり結局参加することになってしまった。
まずは、突如として降ってわいた人間共和国なるものの発足話である。
魔族の政策を与る私の立場からして寝耳に水だったんだが?
どういうこと?
まあ、これからの普遍的な旧人間国の扱いについては私も頭を悩ませていたんだがな。
何しろこれまで新たな支配地となった旧人間国は、魔族側にとって負担でしかなかった。
かつて彼の地を支配していた人王と、それにおもねる教会どもは実にいい加減な統治をおこなっており、そのせいで土地は荒れ、民は困窮し、魅力のある領土とはとても言い難かった。
むしろ立て直しの必要性に迫られてその分の時間と労力がとられる。場合によっては魔国側の物資を回さなきゃならん場合も発生して、下手したら自国まで引っ張られて困窮しかねないという、ハッキリって不良物件。
それが我ら魔王軍によって制圧されたばかりの頃の人間国であった。
たとえ荒れ果てた国であろうと、そこからさらに搾って、血の一滴まで搾り尽くすまで搾り取って自国の利益に組み替えるという方法も取ることができた。
しかし我が主、魔王ゼダン様は思いやりの深い御方。
そのような残忍な治世など絶対に許さず、これまで暗君に虐げられてきた人間国を救済し、それに加えて元から善政を敷いていた魔国の現況も僅かだって悪化させないようにとアクロバティックな政務を求められた。
まあ、大体のしわ寄せが私に来たんだけどな。
だからこそ内政における大変さは戦時中よりもむしろ戦後の方が段違いで、ここ数年よく過労死せずに済んだなと自分に感心するぐらいだ。
これもここ何年か通っている温泉地のおかげで、温泉でリラックスすることがなかったらきっと多分確実に死んでた。
というわけで内政的には人間国の併合は魔国にとって負担でしかなかったわけで。
その保護から離れて独り立ちしてくれるんなら、こちらとしては大歓迎でしかない。
負担が丸っとなくなってくれるわけだから。むしろ一日も早く独立してくれと思う。
魔王軍代表としてもう長く人間国を代理統治してくれていたマルバストス総督を、やーーーーっと本国に呼び戻せる。
『五人目の四天王』とまで称えられる稀有な人材を、こんな国外で遊ばせておくというのも人間国統治で気に入らなかったことだ。
本当に面倒ごとばかりで一利もねえ!
なんで攻め落としたんだこんな国!?……と愚痴が多くなってしまった……!
なのでこのたび湧き上がった人間共和国発足には前のめり的に賛成で、詳しい話をするためにもみずから人間国へ訪問する必要があったのだ。
そこで例のオークボ城の開催タイミングがあってしまったのが運の尽き。
むしろ率先して毎回欠かさず出場している魔王ゼダン様が同行されたら私も付き合わないわけにはいかないではないか!
というわけで今年もオークボ城に参加することとなってしまった……!
まあ、いいけどな。
私としても戦友となったクローニンズの面々と顔を会わせるのは楽しみなことでもある。
特にゾス・サイラ殿は先日ご結婚なされたというが私からの祝いの言葉がまだだったので、是非ともこの機会になんか言おうと思っている。
しかし人魚国の宰相に、魔国の宰相が誼があるって単純に強いな。
もう一人の苦労人シルバーウルフ殿なども冒険者ギルドマスターで間違いなく実力者だし。
……苦労人の絆侮りがたし。
苦労人ほど高い役職にいるって果たしてどうなのかな? 世の中的に正しいのかな?
ともかくそんな諸々を飲み込んで今日の私はオークボ城の会場にいる。
去年の同催しとはかなり趣が異なっているのにまず驚いた。
聞くところによれば去年は大雪というハプニングで開催すら危ぶまれていた状態から大胆な企画変更を行うことで開催までこぎつけたという。
つまり今年の装いが平常運転ということか。
まあ、いい。どちらにしろ今年も私は競技に参加申請をしてきた。
あくまで観客としてでなくプレイヤーとしてオークボ城に参戦するのだ!!
何故そこまで意欲的なのか?
忙しい中の参加ならなるべく体力を使わない関わり方の方がいいのではないか?
と。
一方では真理だ。
しかしながらもう一方で私には、残り少ない体力を削ってでも参戦する理由があった。
このイベント……、あの大魔王バアルの野郎も必ずや参加していることだろうからな!
文化文化とアホのように繰り返す彼奴めにとって、こうした目新しいイベントなど美味しいエサのようなもの。
そして競技というからには公の場でバッコバコにしても何ら不都合はない!
ヤツが現役だった時代から積もりに積もっている恨みを合法的に晴らしたらぁー!!
それがオークボ城に参加するさらなる理由だ。
さあ大魔王よ!
早く姿を現すがいい! 今度こそ完膚なきまでにしばき倒してくれよう!!
と思っていたら魔王ゼダン様に言われたのだ。
「親父殿なら今年は不参加だが?」
なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!?
あの大魔王野郎!? 日頃から祭りともなれば呼ばなくてもシャシャり出てくるというのに!?
何で今回に限って!?
「何でも腰を痛めたらしくてな。あの人も矍鑠としているが、やはり歳には勝てぬようだ。宰相も気を付けなければならんぞ」
私だって気を付けていますよぉおおおおおおッッ!?
何なら今この時だって体の節々が痛いですよ! 週に一回整体にかかっていますよ!
忘れないでほしい! 私はアナタのお父上の時代からお仕えしてるんですよ!!
「しかし、ははははは……! ルキフ・フォカレには無用の心配であったな! 先ほどのオークボ城本戦でもしっかり天守閣まで到達したほどだからな。完走達成者で最年長記録を更新らしいぞ!」
だって!
コースにあの大魔王も参加しているものとばかり思ったから!
ヤツより先に脱落してなるものかと死力を振り絞っちゃったんだが!?
先に進んで人数が少なくなればなるほどヤツを見つけられる可能性も高まると思って!
ヤツが脱落していく無様をしっかり目に焼き付けてから、私も悠々退場するつもりでいたのに!
あのやたら太った者どもの壁をかき分けながら必死に進んだよ!
最初からいないんだったらどんだけ探しても見つかりようがねえよ、あの野郎!
本当にあの野郎!!
「相変わらず大魔王様に振り回されてばかりの人生ですね」
煩いぞ、今年もお供で出場している四天王マモル!
今年もお前だけか!? 上役のベルフェガミリアはどうした!?
「あの人が来るわけないじゃないですか……。また『面倒くさい』と言って欠席ですよ」
アイツ今年もか!?
本当にどいつもこいつも!!
「まあよいではないか。せっかくの祭り、ここにいる者だけで存分に楽しむがよいのだ。今年のオークボ城はまだまだここからが本番であるらしいからな」
「えッ? まだ何かあるんですか?」
「人魚王のアロワナ殿が主宰となって、大相撲大会を同日開催するものらしい。昨年は人魚国で行われたが、それをこたびはここオークボ城を舞台に替えたとのこと。人族や魔族にも参加しやすいようにな」
ふむなるほど……!?
それによって今まで接する機会の少なかった我ら魔族との交流を深めていこうという目論見ですな。
古来より人魚族とは海という厚い隔たりがありましたから、国交を活発にしていくのにはなかなか有効な方策ですな。
……いやいや、また見方が仕事モードになっている。
大魔王のヤツが欠席しているとわかった以上は、私も速やかに渦中から離脱していきたいのだが?
少なくとも、その中心からは。
「安心せよ! 宰相の分もマモルの分も、我がしっかり出場申請を出しておいたぞ!」
「「魔王様ぁあああああああああああああッッ!?」」
何をやっていやがるんだこの人!?
名君だ名君だと思っていたら時折とんでもないポカを出してくる!?
「各種族の交流を目的としたのがこの企画であれば、上に立つ我々こそ率先して参加しなければ意味がなかろう。これも政略に携わる者の使命と思い存分に相撲を取るのだ」
それはそうかもしれませんが……!?
「そのような細かいことはあえて考えず、存分に相撲を楽しむのもよかろう。土俵に上がったからには我も魔王ではなく一人の参加者にすぎぬ。もし対戦した時には遠慮なくぶつかってくるがいい」
そんなことできるわけがないでしょうッ!!
競技のこととはいえ魔王様に勝ってしまう気まずさは去年で充分味わいましたッ!?
今年は是非とも魔王様と対戦するより前にどこかで敗退しておきたい!
何!? 今年は人魚王も出場して注目株!?
そちらとも当たらないで済ませたい!?
しかしもしどこかで魔王様と人魚王が戦って、下手に勝敗がついて険悪になってしまったら!?
それもまたこれからの魔国人魚国の交流に影を落としそうな!?
それを阻止するためにも私が立ち回らなければならんのか!?
どうしてこう苦労の種が増えていくのか!?







