800 無限の真円
一年越しの念願、ホイル焼きを食べることができました。
もちろん農場の皆にも振舞って、皆、語彙を失うほどに好評だった。
「おほほぉーーーーーーんッッ!!」
「ぐばがつがつがつがつがつがつがつ……!!」
「はひゅひゅばぁーーーーーッッ!!」
こんな感じ。
語彙どころか言語を失っとるやんとも思ったが、それだけホイル焼きを好んでくれたと思えば俺も気分がいい。
俺も一年分溜まってきたホイル焼き欲を一斉開放してホイル焼きまくったが、それでもまだアルミホイルが余っているということ。
俺の面前に、ロール状のままのアルミホイルがうずたかく積まれている。
「……情熱を先走らせて発注しすぎたか……?」
それを受けたドワーフたちが創作意欲を先走らせてさらに倍増。
農場全員分のホイル焼きを賄ってなお、大量にストックが残っている。
この異世界中の鮭を絶滅するまで乱獲しても使いきれるかという量。
一生分のアルミホイルが目の前にある。
「こうするとどうしたものか……!?」
まあ一生かけてチマチマ使っていけばいいんだけども。
そもそも保管場所の問題とかもあるし、こんなの積み上げといたらそのまま農場の一角がデッドスペースになってしまう。
そもそもアルミホイルって金属だから永遠に使っていけるイメージがあるけど、そうでもないんじゃない。
俺も若かりしはそんな風に思って何年も放置していたアルミホイルをある日使おうとしたら、なんかすっかり変質して輝きを失って使えない状態になっていた。
…………。
このアルミホイルも早急に使ってしまわねばならぬようだ。
しかしどう利用する?
鮭が絶滅するまでホイルで焼くか?
……。
そうだ、いいことを思いついた!
「あれを作ろう、アルミでボールを!!」
なんか見たことがある。
アルミホイルをくしゃくしゃに丸めて、ハンマーとかでコンコン叩いていくと、それは綺麗な光り輝くボールになるという。
テレビだったか雑誌だったかネットだったかで見た。
とても手作りとは思えない感じで、表面も艶々して顔が映り込むほどだったと記憶している。
パチンコ玉が何十倍にも拡大されたような?
特に役にも立たないチャレンジ系遊戯だが、思い立ってみるのも悪くないかもな。
必要なことだけやったって人生楽しくないし!!
では実際に作ってみようアルミボール!!
* * *
というわけでまずくしゃくしゃに丸めたアルミホイルをハンマーで叩いていきます。
しかし、興に乗ってアルミホイル使いすぎたか?
現時点で大層大きいんだが、スイカぐらいの大きさがある。
これじゃあ完成したとしてもかなりの大きさにならないか?
と心配しつつトントンと叩いていく。
トントントントントントントントントントントントン……。
トントントントントントントントントントントントントン……。
……はッ?
無心になってしまっていた!?
しかしそれだけのめり込んでいたということだからアルミボールも少しは完成に近づいたということだろうか?
……。
ボール小っちゃくない?
クシャッと丸めたスタート段階では心配になるような大きさだったんだけども。
トントン叩いていった果てにこんなにも圧縮していったのか?
今ではもう野球ボール大といったスケールだ。
しかしそれでも完成にはまだ遠い。
ここからさらにトントン叩いていって形を整えねば。
トッ。
……ん?
トッ、トッ、トッ、トッ、トッ、トッ、トッ、トッ、トッ、トッ、トッ、トッ、トッ、トッ……!
叩く音が変わった?
なんだか身が詰まっているような感じの音になっている。空洞がなくなって響きが消えたような!?
これも完成に近づいている証なのか!?
なんかグッとやる気が湧いてきた!?
さらに叩いていくと音の響きがまた変化してくる?
カンカンカンカンカンカンカン……!
金属的な響きになってきた!?
アルミホイルだから金属なんだけども。薄い紙の質感が消えて、中身のギッシリ詰まった金属塊へと完全なる変貌を遂げつつある!!
もっと叩け! アルミの神髄を魅せろ!!
……箔の端っこの部分が溝みたいになって見苦しいな。どうすれば消えるんだろコレ?
などと紆余曲折を経て完成した……。
アルミボール!!
「綺麗だー! 真円だー! 銀色に輝いて鏡のように映し出すー!!」
本当はハンマーで叩いてから紙やすり当てたり、カーワックス塗ったりとか磨きの工程があるはずなんだが……。
それなしでもなんか光り輝いた。
『至高の担い手』の効果だろうか?
形も完全なる真円そのもので、地面に置くとひとりでに転がっていくほどだった。
……ん?
ってことはここの地面、傾斜ついてる?
まあいいか。
とにかくここに極限まで美しいアルミボールが完成した!
俺も達成感を得られてご満悦じゃあああああッッ!!
と一人で盛り上がっていたら来客があった。
ドワーフ族のエドワードさんだった。
「聖者様、先日納入したアルミ箔の追納ですが……、ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?」
エドワードさんが部屋に入ってくるなり絶叫を発した。
一体何?
この人はホントに来るたび一体何?
「聖者様ぁあああああなんですかその銀色に輝く球体はあああああッッ!? 新種の宝石ですかあああああッッ!?」
どうやらこの完成アルミボールに興味津々のご様子だ。
……フッ。
さすがお目が高い。
これこそキミたちが納入してくれたアルミ箔で作り上げたアルミボールですぞ!
「こんな金属の球体が実在するのか!? 表面に曇り一つない滑らかさ! それでいて球体は完全なる球体で、少しも歪みがない! 楕円ではない真円だ! 鍛冶生活五十年! ドワーフを率いるこの親方エドワードが言うからには間違いない!!」
そんなプロ目線をして絶賛されるほどの出来?
いやー照れるなあー。
そりゃ俺が作ったんだから『至高の担い手』が発動して多少のクオリティに寄与したことは考えられるが。
……それで、こんな無限の回転ができそうなぐらい綺麗な円球なのであろうか?
「聖者様! どうかワシに教えを賜りくだされ、この素晴らしい鉄球の作り方を! アナタは造形神ヘパイストス様の生き写しですぞぉおおおッ!?」
鉄球じゃなくてアルミ球ではあるけれども。
まあ教えるぐらいなら喜んで致しますけれども。
アルミボール作りの同好の士ができるのは嬉しい限りだぞ!
皆で真円の、光り輝くアルミボール作りを目指そう!
「ぐぉほほぉおーーッ!! ドワーフ族の職人魂にかけてぇえええええッッ!! ワシも聖者様には及ばずとも欠けることなき満月のような銀色球体おぉおおおおおッッ!!」
エドワードさんもすっかりアルミボール作りに没頭してしまった。
トントントントントントントン……という音が農場に響き渡る。
そんな風に異世界中にアルミボールブームが広がり、世界を席巻するようになってしまったらどうしようか?
そんなことを考えていたら、我が子ジュニアまでもがアルミボール製作に参戦してきた?
「ぱぱ、できたー」
とか言ってたら早速ウチのジュニアがアルミボールを作り出したッ!?
その手に宿る『究極の担い手』が発動して、もはや真円鏡面なのは当たり前のレベルに。
それどころか永遠に回転して、ぶつけた相手のことを絶対殺しそうな威圧感さえ感じさせるボールが出来上がった!?
さすがジュニアッ!
作るものにこめる意気込みが違うぜッ!?






