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791 マスク狩りの使者

 そしてついに始まった。

 レタスレートの選手生命と、そのついでに世界平和が断たれるかどうかの瀬戸際となる一戦が。


 マスク剥ぎ取りデスマッチ。


 なんかその筋ではよくある形式みたいだね。

 覆面レスラーは一定以上いるので。


 マスクマンにとってはマスクこそが自分自身の『顔』であり誇りでもあるんだから、それを剥ぎ取られることは自身の存在否定。

 絶対に負けられないスリリングな戦いになるのは間違いない。


 それに加えてファンにとっては隠されていたマスクの下が明らかになるのは純粋に興味だ。

 ともすればアイドル的な対象に捉えられる女子レスラーならなおさらのことだろう。


 ……やはりここまで熱狂されるのも当然のことなのだろうかな?


「ほぁッ! ほぁッ! ほぁッ! ミス・マメカラスーッッ!!」


 といかにも厄介ファン風の観客が騒げば……。


「ほぁ、ほぁ、ほぁー」


 ぎゃああああああッッ!? ジュニアが真似したッ!?

 ダメだ、やっぱり座に帰りますよ!! ここは確実に子どもの教育に悪い!!


「いけません、もう試合が始まりますので席を立つのは他のお客様の迷惑です。行儀よく座って観戦をお楽しみにください」


 ホルコスフォンに抑えられたらもう抵抗できねえ!?


「今日の主役が入場しますよ」


 促されて見ると、リングへと続く花道をしずしず歩く覆面女子。

 覆面しててもわかるな、あれはレタスレートだ。

 いかにも女子プロレスらしい、派手なレオタード調の衣服を着て煌びやかながらも艶やか。

 さらには力強い。


「ミス・マメカラスぅうううううッッ!!」

「リングに降り立った覆面の貴婦人んんんんッッ!!」

「今日もお前の完全勝利を見に来たんだッ!! 有象無象の小娘なんか蹴散らしてくれええええッッ!!」


 観客の沸きようも凄い。

 本当にレタスレートってここでは大人気のトッププレイヤーなのか。


 彼女がクソガキな頃から見守ってきた俺としては成長に驚きすぎて親戚のオジサン気分になってしまった。

 立派になったなあ。


「しかし当人自身は静かめに登場したな……?」


 そこは古くからのアイツを知る俺としては意外なところだ。


「結論は早いですよ。レタスレートも経験を重ね、ショーアップの作法を心得ているのです」

「ほう?」

「今にご覧ください」


 ホルコスフォンから言われた通りによく注視していると……。


 ……お?

 レタスレート、どこかから何かを取り出した?

 何やら紙袋に包まれている?……本当にどこから出した!?


 ミス・マメカラスの覆面を被ったレタスレート、その俺が知らない謎の小袋をいくつも手に抱え、お客さんに向かって投げつけだした!?


 何してるんだアイツ!?

 しかし観客どもは大沸きだ。小袋を投げつけられても怒るどころか大喜び。

 むしろ自分から小袋をゲットしようと手を伸ばす。


「あの小袋の中には煎った豆が入っています」

「煎った豆!?」

「レタスレートファングッズとして人気もありますし、当然食べても美味しいということでファンがこぞって求めます。レタスレートの『豆を世界に広める』という目標にも適っております」


 レタスレート……そんないかにもアイツらしい売り込み方を……!

 提供品で集客すると同時に自分自身の愛する豆を世に広める効果までもたらすとは。

 いつの間にそんな策士になったんだ!?


「ぱぱー、ぱぱー」

「うん?」


 おもむろにジュニアにそれを引っ張られる。


「ぼくも、まめほしー」

「よぉおおおし! ジュニア待ってろ! ほりゃああああああッッ!!」


 ノリトをホルコスフォンに預けて、俺はレタスレートへ突進!

 人ごみを掻き分け弧を描いて振ってくる小袋を俺が掴むんだ!


 どけ! それを取るのは俺だ!

 俺が必ずジュニアに豆入り小袋を持って帰るんだぁああああああッッ!!


 ……。

 なんとか一袋だけゲットできた。


 よく考えたらこの豆うちの農場で収穫されたブツじゃん。

 なんなら煎ったのも俺だよ。

 先日レタスレートから手伝い頼まれたのを今さらながらに思い出したよ。


 自分の土地で採れた自分で調理した煎り豆を、何必死こいて争奪してるんだ俺は?

 ジュニアよ、家に帰ったら丼いっぱいの煎り豆を食わせてやるよ!!


「これがいいー、まめおいしいー」


 いつも農場で食べてるのと変わらないんだぞ!?

 くそッ、イベントの特別感が我が息子をも惑わすのかッ!?


「さて、セレモニーも終わったところで、ここからが本番ですね。最初の対戦相手が入場しますよ」


 おッ、レタスレートとは反対側のコーナーからやってくる、もう一人のリングコスチュームを着た美女が。


「私はモモコマスク! 今日こそマメカラスを倒すために覆面被って参戦よ!!」


 誰か知らんが、正体隠す気がサラサラないリングネームだな。


 このマスク剥ぎデスマッチに参戦するために急遽マスクマンになることにした、という経緯は本当のようだ。


「ただマスクを被ったと思うなかれ! 人族の特別な祈祷師に頼んで呪いをかけてもらったこのマスクは、装備したものに様々な支援効果を与えるのよ! というわけで食らえ必殺! モモコマスク奥義ダイビング・ピーチ・アタック!!」

「鋼の豆ボディ!」

「ぐはぁッ!?」


 高速で体当たりしてきた相手レスラーに、レタスレートはただ棒立ちのまま受け止め、そのままはね返したッ!?


 レタスレートの豆で鍛えられた強化体は、生半可な攻撃でははね返されただけで致命的なダメージを負うのかッ!?


「モモコマスク試合続行不能! 勝者ミス・マメカラス!!」


 審判の宣言で大歓声が沸き起こる。

 第一試合が始まったと思ったらもう終わっていた。


 展開が早すぎてついていけない。ホルコスフォン解説して?


「モモコ選手も着実に強くなっていますが、レタスレートの方が宇宙膨張するレベルでの成長速度についていけずにどんどん差をつけられていますね。この分ではまだまだ勝利は不可能でしょう」

「そうすか」


 吹っ飛ばされて目を回す対戦相手。

 歩み寄ると、相手の被っている覆面を剥ぎ取って……。


「マスクとったどー!!」


 高々と掲げ上げるレタスレート。

 勝利宣言と共に。


 そいういやこれそういうシステムだっけ?

 マスク剥ぎデスマッチだから、レタスレートに負けた対戦相手も覆面を取られるんだな。

 まったくリスクじゃないんだけど。


 次、第二試合。


「はん、やはりあの豆女を倒せるのは私しかいないようね! この究極無双超絶美女! パンドラ仮面様が!!」


 あれー、パンドラ?

 アイツ箱の中に封印されてたはずなのになんで出てきてんの?


「あの最低身勝手な性格がヒールとしては中々に打ってつけでして。こうして試合の日には封印を解いて戦わせてあげるのです」


 なんという適材適所!?

 どんな人材にも使い道があるものだなあ。


「今日こそアンタを倒して、私の代わりにこの箱の中に閉じ込めてあげるわ! 敗者が箱行きなのよ!!」


 それ棺桶デスマッチでは?

 マスク剥ぎデスマッチと棺桶デスマッチが複合するという。要素が多いイベントだなあ。


「さあ食らいなさい! 決まれば勝利確定! 必殺パンドラバスターよ!!」

「返し技、豆ホールド!」

「ぐげぇええええええええッッ!?」


 また一瞬で勝負がついた。

 関節技で背骨をゴキゴキいわせたパンドラは、そのまま泡を吹いて失神した。


 本当にレタスレート、マジ強くない?


 とにかく勝利したレタスレートは、パンドラの覆面を剥ぎ取ってから、再び箱の中に押し込んで蓋をした。


 レタスレート二人目の挑戦者を撃破。

 っていうか何人と戦うのこれ? 本当に自然に連戦しているけれど?


「今日はレタスレート以外の全出場レスラーがレタスレートと戦うことになっています」

「マジかよ」

「レタスレートの素顔を掛けた勝負ですからね。彼女も正々堂々すべての挑戦者を叩きのめす心づもりです」


 大きく出たものだなあ。


 自身の素顔、ある意味世界の命運を賭けたレタスレートと他すべての女子レスラーとの戦いはまだ続く。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 往年を喚起させるストロングスタイル!! [気になる点] 本家はテクニカル違うかったっけ? [一言] ミセス・マーメイドは誰なんだと、、、
[一言] レタスレートさん、ストロングスタイル過ぎる…w
[一言] >「これがいいー、まめおいしいー」 >いつも農場で食べてるのと変わらないんだぞ!? >くそッ、イベントの特別感が我が息子をも惑わすのかッ!? 珍しく家族で出かけたイベントで、とーちゃんが頑…
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