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78 一途なる神

『冥神ハデス、海神ポセイドス、そして天神ゼウス。この三神は陸海空の三つの世界を創り出したと言って、俗に三界神とも呼ばれております』


 緊急の問題で駆けつけてもらった先生に、解説を頼む。


『その三界神の中でも天神ゼウスと海神ポセイドスは、神話の中に多くの浮気エピソードを記しておりますが、反して冥神ハデスだけはまったくと言っていいほど浮気話がありません。彼は己が妻とする地母神デメテルセポネだけを一身に愛し続けているのだとか』


 へー。

 一途な神様なんだ。


『そもそも冥神ハデスは、みずから「冥神」と名乗ることはまったくなく、ほとんどの場合「地母神の夫」という称号をもって現れます』


 大地、大海、天空。


『それぞれが支配する領域を主張するためにもハデスにとって地の母である愛妻デメテルセポネとの繋がりは重要なもので、だからこそ浮気などもっての外、ということなのかもしれませんな』


 神様も色々大変なんだなあ。

 そしてだからこそ、自分の祝福を受ける者にも自分同様、妻一人だけを愛し続けよと強要するわけか。


「極めて普通な気もするけどなあ……!」


 結婚したら浮気しないのが普通でしょう?

 常識的な独り言のつもりだったが、多くの人からツッコミを食らった。


「旦那様、大多数の人には一般的でも、選ばれた者にとっては違うこともあるのよ!」


 まずプラティから怒られた。


「魔王といえば魔族の王。だからこそ考え方の違うたくさんの小集団をまとめて、大集団を率いて行かないといけない。そのために王との特別な繋がりを持つ王妃を何人も娶らなきゃいけない時もあるの!」

『そういうケースがむしろ大多数ですがな』


 先生まで。


「我が浅はかだったのかもしれん……!」


 魔王さん当人まで自責ムードだ。


「魔王の重責は充分に認識していたつもりだったが、アスタレスへの想いが募るあまり、責を担う者としては軽率な判断をしてしまったのかもしれぬ。ましてグラシャラがここまで我を慕ってくれていたことに気づきもしなかったとは……!」

「ゼダン様!!」


 女四天王の筋肉質な方が感涙している。


「何と勿体ないお言葉! このグラシャラ、そのお言葉だけで首を切り落とされても悔いはありません!!」

「お前は絶対に死んではならん! アスタレスと同様、我が妻に迎えて見せる絶対にだ! よいなアスタレス!」

「ゼダン様の御意のままに」


 アスタレスさんも聞き分けいい……。

 いいんですか? せっかく魔王さんを独り占めできるのに……。


              *    *    *


『それでは、やるべきことは一つのみですな』


 そう言って先生がまたハデス神を召喚した。

 この不死の王は、ちょっと気軽に召神しすぎじゃないだろうか。


「というわけで……!」

『ふーむ……?』


 神に事情説明中、冥界の神様は話を聞くほどに眉間に皺を寄せていく。


『聞けば聞くほどに不敬よ。この魔族の神たる我から直々の祝福を受けながら、一年も経たぬうちに反故にしようてか』

「返す言葉もありませぬ」


 ハデスさんお怒りだあ。

 対する魔王さんも今は平伏して、神の怒りをやり過ごすことで精いっぱい。


「お待ちください!」


 そこに四天王のグラシャラさんが割って入った!


「こたびの問題は、すべてアタシの我がままより発したこと! 魔王ゼダン様は、アタシの気持ちを受け止めてくれたにすぎません!!」

『うぬ……!』

「神罰ならばアタシに下してください! ゼダン様と結婚できないのなら、いっそこのままアタシをアナタの支配する冥界へ連れて行ってください!!」

『いや、それはな……!』


 恋する乙女の覚悟は凄い。

 神ですらタジタジではないか。


『いいではないですかアナタ』


 そんな冥府の神に、取りなすように掛けられる女性の声。


『アナタが融通の利かない祝福を与えるから、こんなことになったんじゃないですか。アナタが直接祝福を与えるほどの者、古今無双の英傑に限られるのは当然』

『そうかも……、知れんが……!』

『そんな英傑だからこそ、おもてになるのは当然のこと。酷な制約を課しては女の涙を増やす原因にしかなりませんよ』


 冥神ハデスに、ここまで言いたい放題言っている彼女は何者か?

 これもまた神らしい。

 ハデスに並んで、それこそひな人形のお内裏様とお雛様みたいに並び立つ、荘厳なる女神。

 若々しくて豊満で、常に微笑みを讃える美貌からは凄まじい母性が感じられる。


 冥神ハデスの妻、地母神デメテルセポネさんらしい。

 旦那さんを召喚した時、ついでに奥さんまで呼び出してしまったようだ。


『おっしゃ! ワシの召喚術レベル上がってる!!』


 この不死の王。

 魔王さんたちダシにして術の腕試ししてない。


『ウチの人はねー。私のことを愛してくれるのはいいんですけど、真面目すぎて融通が利かないのが玉に瑕でねえ』


 と地母神、その辺の主婦みたいに軽いノリで語り出す。


『浮気なんて神の甲斐性みたいなものですし、私を蔑ろにしない程度なら遊んでくれてもいいと思うんですけど。アホのゼウスやポセイドスに張り合っているのか無理ばっかりしちゃって……!』

『あんなヤツらと一緒にするな! 余が愛すのはこの世界滅ぶ時までお前一人だ』

『あら、そんなこと言って何千年か前に一回だけ浮気なさったじゃないですか。あのメンテーとかいう大地精霊……』

『わーわーわー!!』


 先生の説明では冥神ハデスはまったくと言っていいほど浮気しない神らしいが。『まったく』と『まったくと言っていいほど』の間には大きな違いがある。


『私はいいと思うんですけどねえ。私は地母神ですし、たくさん娶って、たくさん孕ませて、たくさん生み殖やすのは奨励すべきことです』

「ではッ……!?」

『でもごめんなさいね。私もこの神の妻である以上、夫の意思を蔑ろにはできません。そんなことをしたら、アナタたちにも示しがつきませんでしょう?』


 地母神の実に反論し難い主張に、誰も何も言えなかった。


『神の祝福は、人と神との約束の一種です。それを簡単に破っては、以後すべての契約の価値が崩れてしまいます。契約の価値を保ったまま契約を破るには、それ相応の特別が必要となる……』


 地母神はどうしたものかとあちこち視線を泳がせたが、それがある一点で止まった。


『あらあら、まあまあ』


 この俺を見定めて。


「俺が、何か?」

『アナタ、ゼウスの眷族? いいえ違うわね、私たちの支配地の外からやって来た人。ヘパイストスからいいものを貰っているじゃない』


 え?

 まさかそれって、俺の『至高の担い手』ギフトのことを言ってる!?


『面白くなってきたわ。これなら上手くいけばアナタたちに特例を認めてあげられるかもしれない』

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