784 神住まう場所
神社完成。
要した時間、約三日。
迅い。
さすがこれまでいくつもの建築物を完成させてきた我が農場のオークたち。
仕事の早さは目を見張るほどだが、だからと言ってクオリティを犠牲にしているわけではない。
神社本体の佇まいは寝殿造っていうヤツ?
いかにも和風という雰囲気を醸し出し、本殿を囲う手すりの様相まで神聖だ。
さらには神社に付き物の鳥居や手水舎までついていて、これまた神社の雰囲気満点。
あっちにおみくじ引くところまであるぞ?
俺そこまで細かく構成を指定したかなあ。
「いや、何にしろ完璧以上の出来栄えだ! さすが俺のオークたち! まさに職人!!」
「お褒めに預かり恐悦至極……!」
一仕事終えたオークたちも満足げで、表情晴れやかだった。
うーむ、鳥居の朱さがが眩しいぜ。
「この神社ならジュニアの成長を祝うに相応しい! 早速当人と参拝しよう!」
七五三! 七五三!
疾風のごとく駆け抜け、農場の母屋へと戻る。
そこでは既にジュニアが準備完了していた。
「見て見て旦那様! 今日のジュニアは取っても立派よ!!」
付き添うプラティが親バカを発症している。
それもそのはず今日のジュニアは、この日のために仕立てられた紋付き袴を着こなして、どこのお坊ちゃまかという凛々しさなのだから。
「ちかくばよって、めにもみよー」
ジュニアも自覚があるのか幼いながらに胸を張って誇らしげだ。
「はぁうぅ~ん! ジュニア! 何て立派なのジュニアぁ~!! こんなに凛々しくなってママ過呼吸しちゃうぅ~!!」
そんな息子の晴れ姿にママが発狂しているというわけだった。
この世界にスマホがあったら最高画質で写メ(死語)しまくってるんだろうな。
ハァハァという息の荒さが俺の耳まで聞こえてくる。
「カッコいいのだジュニア!! まるで大人のようなのだぁああああッッ!! ハァハァハァ……!!」
ヴィールまで正気を失っている。
常日頃からジュニアを溺愛しているコイツだから、こんなおめかしした姿に常軌を逸するのは当たり前のことなのか。
「みはたたてなし、ごしょうらんあれー」
「「ご照覧!! ご照覧ッッ!!」」
しかしやっぱり実母プラティの熱狂ぶりが熱い(重複)。
「最高よ旦那様!! ジュニアの新しい誕生祭にこんなに大層な催しをしてくれるなんて、親の愛を感じざるを得ないわ!!」
「うん、まあ、喜んでいただけて幸いです」
迫力に押されて敬語になる俺。
頑張った甲斐がありました。
「しかし、イベントはまさにここからが始まり! 農場の外れに、ジュニアの成長を祝うための重要施設を用意した! いざ詣で参ろうじゃないか!!」
「素敵よ旦那様!!」
「凱旋なのだーッ!!」
神社は聖域ゆえ、世俗に騒がされてはいけないと農場中心部から離れたところへ建てた。
そちらへ向かって我が家から練り歩くのはまさに神社詣で。
ここから既に儀式は始まっているのだ。
「あ、そうだ旦那様も着替えてよ」
「えー?」
「当たり前でしょう!! ジュニアの大切な行事に親のアタシたちが普段着で臨むつもり!?」
そう言われりゃそうなんですけれども。
幸い俺の手元には、バティが注文を誤解して仕立て上げた俺サイズピッタリの紋付き袴がある。
それを着こめばTPOをバッチリか?
さらにプラティも和服を着こんで家族の統一感はバッチリ。
「いざ詣で!」
やっとこさ出発した。
まだ一歳のノリトは母親に抱かれて大人しくしているが……。
ジュニアはお兄ちゃんらしく、しっかりと自分の足で誰の助けも借りず歩いていく。
その成長が嬉しかった。
ウチのジュニアが生を受け、ここまで成長できましたぞという報告と感謝と述べに行くのが、この神社詣で。
そうして神社の到着した先にあったのが……。
* * *
『退け邪神! 我らの領域から立ち去れえええッッ!!』
『邪神はテメーだろうが! 我が眷属が我がために建てた神殿に立ち入らせるかああああッッ!!』
当の神々が熱い戦いを繰り広げていた。
何なの?
神社の境内的な区画でハデス神とポセイドス神が対峙して火花を散らし合っている。
まーた現れたよ、この厄介な神ども。
コイツらがいるってことは、本来別次元の神界から連中を呼び出した者がいるってことで……。
……あ、いたいた。
一二度視線を巡らすだけで簡単に見つけることができた。連中の召喚主を。
ノーライフキングの先生だ。
『お、聖者殿。今日はご立派なお姿で』
先生もいつもながら威厳に満ち溢れておりますなあ。
さあ、ジュニア。今日はお前が主役なんだから真っ先に先生に挨拶なさい。
「せんせー、おはようございます」
『うむ、おはよう。ちゃんとご挨拶ができてジュニアくんは偉いのう』
先生に褒められて凄いねジュニアはー。
で。
あっちのザマは何なんです先生?
『今日の催しをどこからか聞きつけたようでのう。「召喚しろ」と神託がけたたましくて敵いませんでしたわ』
先生すら難色を示させる神々の振舞い。
まあ神って大体そうなんでしょうが。
『おお、聖者よ! ちょうどよいところへ参った!!』
『我らのためにこのような神殿を設営するとは大儀であるぞ!!』
……………………は?
何が誰のための何ですって?
『この建物は神殿であろう? つまり我ら神を祀るための場所!!』
『そこに余がやってくるのは当然オブ当然!! だって余は神なのだから!!』
うーん、この正論に見えてまったく正論でない感じ。
たしかこのたびに建立した神社は神様を祀るところではあるがさ。
別に『神様=お前ら』ってことじゃねえんだわ。
今回の神社建立はあくまでジュニアの七五三を祝う目的あってのことで、アンタらをお祀りする意図はこれっぽっちもねえ。
というかこれをきっかけにアンタらに神社に居座る気満々じゃね。
『ぐっふふふふふ……! 神殿といえば人の子たちが捧げものをもってくる場所でもある……! 毎日のように……!!』
『農場の美味なる供物が毎日……!!』
俗欲に塗れる神どもよ。
『そういうわけでこの神殿には、この地上代表ハデス神が鎮座してやろうではないか!! 遠慮なく崇め奉るがよいぞ!!』
『だから違うっつーの!! 聖者は我が眷属の乙女を娶ってるんだから、ここの守護権は海神たる余にあんだろーが! この海神ポセイドスこそが、この神殿に鎮座する資格がある!』
『ざけんな地上だぞここぁー!!』
そうしてまたお決まりの支配権抗争が始まる。
というか神殿じゃねえよここは神社だよ。
アイツらを居座らせたらロクなことにならないと俺のゴーストが囁いている。
断固としてシャットアウトしなければ!!
「えー、神々のお気持ちは理解いたしましたが。大変心苦しいながら、こちらにお呼びする神様は既に決まっておりまして」
皆様のご活躍をお祈りいたします。
『『えぇーッ!?』』
『早まるでないぞ聖者よ! 三分した世界それぞれの頂点に立つ、我らの以上の権能を持つ神がいるだろうか!? いやない!』
『そうだ! 我らを勧請した方が絶対お得だって! 余かコイツのどっちかにしとけ!』
そんな大物家電でも選ぶかのような?
しかし俺は耳を貸さない。
たしかにこの世界においては地上を支配するハデス神、大海を支配するポセイドス神を上回る同類はなかなかいないだろう。
しかし俺たちにには先生がいる。
ノーライフキングの先生が。
その術極みへと達し、今や次元を越えて異界の神すら召喚できるようになった神が。
「先生、お願いします!!」
『承った』
快く応えてくれる先生。
厳かな詠唱の末に異界の門が開き、顕れしその荘厳たる姿は……!?
『海ならず、たたへる水のそこまでに、清き心は月ぞ照らさむ』






