782 異世界七五三計画
素数だ、素数を数えるんだ……!
三、五、七、十一、十三……!
という展開でまず出てくる数字で有名な七五三。
……えッ? 二も素数だって? いいんだよ細かいことは。
今大事なのは、満三歳となるウチのジュニアのために七五三の祝いを遂行することだ。
数え年とか満年齢とかも細かいことだ。
というわけで俺はゴリ押しで強行する。
七五三を。
細かいことは全部抜きで五歳の時も七歳の時も行う予定だ。
……そのように決意を固めて人類七五三計画を遂行せんとする俺。
そんな俺の脳裏を、ある一つの疑問が横切っていった。
「…………七五三って何をするんだ?」
クリスマスだったら、ツリーを飾ってケーキを食べ、靴下を下げてサンタクロースの迎撃用意をする。
節分だったら豆を撒いて屋内を鬼滅し、さらには太巻き丸々一本恵方に向かって一飲みする。
それぞれの作法がある。
照らし合わせて七五三って……、何をする決まりだっけ?
なにか食う?
そうだな、行事につきものの食事は重要だ。
ひな祭りの雛あられ、子どもの日の柏餅、バレンタインデーのチョコレート。
皆、記念日にとっては欠かせないツールで、食品業界としては販促の大チャンス。ロールケーキも太巻きの親戚として売り出すぜ、という感じだ。
さすれば七五三において付き物のご馳走とはなんだろう?
…………。
……。
………………千歳飴?
思い出すのにたっぷり時間がかかってしまったがたしかにあったそういうものが。
テレビ知識ではあるものの、七五三の時にはお土産になんか縦長い袋を渡されて、その中に白い飴がしのばされていたような記憶が……!
うん、それね!
間違いない。
七五三のイベントには千歳飴をバンバン振舞ってジュニアも大喜びだ!
……。
……とはならないか。
たしかに飴は美味しい。
しかし飴オンリーで終わってしまうイベントには若干わびしさが残るのではないか。
折角のジュニアが生まれた日であればもっと盛大な演出がさあ!
飴一つで終わりでは、俺の父親としての威厳にも差し障りが出てしまう!
とりあえず千歳飴は採用欄に置いておくとして……。
まだアイデアが必要!!
何か……何かないか……!?
そう……そう神社だ!
七五三に行うことと言えば……神社に行く!!
神社に行って……何する?
いかん基本的な知識がごっそり不足だ。
詳細は後々詰めるとして、大方針は決まった。
やはり七五三の大舞台は神社。
神社で何かする。
物凄いザックリとした方針だが、これを元に進めていけばまず問題はあるまい。
しかしながら、ここで一つの問題が生じた。
「……神社がない」
神社がない、ホントのことさー。
だってここは異世界だもの。
俺が前にいた世界の文化風習、一切伝わっていないのならその流れの一つである神社だってないわな。
どうする? 神社がなければ神社詣でもできない?
こっちの世界にも似たような施設もあるだろうが……教会とか? しかしながら可愛い息子の晴れ舞台。妥協などはしたくない。
そうだ……!
ないものは作ればいいんだ!!
我が異世界生活、いつだってそうしてきたじゃないか!!
ようし、神社を建てよう!!
我が農場には建築大好きオーク軍団がいるんだ!! 彼らの協力を仰げば神社建設ぐらいすぐさま成し遂げられるさ!!
* * *
ということで神社を建てます。
集合をかけたオークたちに説明する。
「……あれ? オークボは?」
「オークボリーダーは奥様へのご奉仕が途中だということで今日は欠席です」
……。
そうか……。
オークボも今や既婚者ということで色々都合がつかなくなることも多いな。
『わらわと仕事とどっちが大事なのじゃ!?』と詰め寄られるような苦境に彼を追い込むことはやめよう。
ということでオークボの状況に関してはスルー。
この分だとゴブ吉も大変そうだな。
まあ彼らには彼らの家庭の事情があろう。
俺は俺の家庭を営むために、神社を建てる。
「我が君! 質問です!」
オークの一人が元気よく挙手した。
その元気さを讃えて発言を許可しよう。
何かね?
「神社とはいかなるものでありましょうか?」
いい質問だね。
神社とは……そう……。
哲学的な質問だね。
神社って……なんだろう?
生姜の英訳……ではない。しょうがない。
「そうだな……神社というのはお参りしに行く場所だな」
お賽銭入れて鈴をガランガラン鳴らして、お願い事をしに行くところだ。
『宝くじが当たりますように』みたいな。
あとはおみくじも引いたり、お守りも買ったりする。
絵馬も欠かせんな。俺には絵心がないんで叶うことはなかったが萌え絵馬を描いて奉納したかったものだ。
「要するに神様の住む場所かな? 神様へ挨拶したり願いを言いに行くための施設だ」
「それは神殿のことなのでは?」
……。
うむ……。
実に説明がややこしい。
神殿と神社、どう違うの? と言われて正確に答えられる人が果たしてどの程度いるだろうか?
パルテノンなのが神殿で、鳥居があるのが神社だよ。……ではダメか?
「そ、そうだな……建築様式の違いかな?」
説明に窮した俺は、オークたちの建築スピリッツを刺激することでお茶を濁す!
「神社にはねー、そう、独特の家屋の形ってのがあってね? それをまあオークの皆と研究して建てようかとねー?」
鳥居とかね。
神社特有の和風建築とかね。
それらの変わった様式に挑戦するのは、オークたちの建築スピリットを刺激するんではないかと思うんですよ。
でね?
「おおおおおおおおおおおッッ!?」
「新しい建築様式!! それは燃えます! 燃えますなあああああッッ!!」
「是非ともやりましょう我が君! 新しいノウハウを納める時が来た!!」
効果は抜群だった。
本当建築に目がないなウチのオークたちは。
よし、これで神社建築の計画は進みそうだ
ジュニアの誕生日に間に合わせるためにも、可及的速やかに建築を進めねば。
三日以内に仕上がるかな?
他にも用意しておくべきものは数ある。
七五三の神社詣でには……、そう、それに合った衣装がいるはずだ。
せっかくのハレの日に普段着じゃ物寂しいからな。
女の子なら晴れ着で思い切りオシャレにし、柄にもこだわるという展開がありそうだがウチのジュニアは男の子。
だからと言ってオシャレしない道理はない。
男であれば羽織袴でビシッと決めようじゃないか。
羽織に家紋も付けて紋付き袴でな。
実は俺、自分の家の家紋知っている。
大抵の日本人て『ウチにも家紋あったの!?』と驚くものだろうが、俺も小学生の時に祖先の墓参りに行った時に知った。
バティに依頼して、我が家紋を刻んだ羽織袴を仕立ててもらおう。
彼女も新婚さんだけど、きっと大丈夫だよね。






