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778 海と山の戦

 はい、俺です。

 長かった合同結婚式が終了いたしまして、今日より通常業務が再開です。


 はーい皆、気持ち切り替えてー。

 もうお祭りは終わったよー。浮ついた気分はうっちゃてー、浮かれるのストップしてー。


 結婚したからには当然のことでゾス・サイラもオークボと一緒に住むことになった。

 嫁入りだ嫁入り。


 オークボも身を固めるからにはみずからの家宅をかまえることになり、農場の一角に建てたお家が7LLDDDK。


 ……俺の屋敷より大きくねえ?

 まあ俺の家は農場で最初に建てた家だし進化のほどはあると思うんだけど……?

 ……今度俺の家も増築するか? リフォーム?


 まあいい。

 とにかくゾス・サイラもそこに住んで、一緒に寝起きすることになった。夫婦だしな。


 とはいえゾス・サイラは現役の人魚宰相なので毎日のように人魚宮に『出勤』しないといけない。

 そういう時は転移魔法で一っ飛びなんだそうな。


 とても便利な転移魔法。

 世界中に転移魔法が行き渡ったら通勤問題は一挙に解決するだろうに。

 ……でも休日出勤も簡単にできちゃいそうだからダメか。


 とにかくそんな感じでバティも嫁入り先である魔都のお屋敷(結婚相手が貴族様らしい)から毎日転移出勤しているし、人魚教師のカープさんは本格的に農場学校で常勤教師を務めている。


 そんな感じでそろそろ落ち着いた頃に、久々日常的なネタをやりたいよね、と思っていたところにタイムリーで相談相手がやってきた。


   *   *    *


『助けて聖者ちゃん!!』

『助けてほしいんですます!!』


 深海よりやってきしモノ。


 クラーケンのクラーク・ケントさんと大蟹デスマスくん。


 コイツら宿命のライバル同士だと伝え聞いていたけれど、なんで仲よく一緒に訪問してがるんです?


『急遽、共同戦線を組んだのよ! バラバラになっていては到底敵わない強敵が現れたのよ!!』

『ソイツを撃退するのに、聖者さんにも協力してほしいんですます!!』


 しかしコイツらも本当気軽に訪問してくるようになったなあ……。


 クラーケンとデスマスくん。


 仮にも海の大精霊であるこの二人(二匹?)を揃ってビビらせるような敵がいると?


 穏やかではない話だな?

 それは一体何者なのか!?


『アンタのところの角イノシシよッ!!』

「んー?」


 思ってもみない名が出てきて、しばし思考硬直した。


 角イノシシ。


 そう言われて心当たりがないでもない。


 たしかに我が農場近辺では、イノシシ型のモンスターが野を駆け山を駆けて、狩りの対象ともなっておりますが?

 だってまあ、恰好のタンパク源でもあることだし。


 俺がここで農場を営み始めて最初に口にした肉もヤツら角イノシシだった。


 頭に二本の角が生えているイノシシ、という外観であだ名がそのまま角イノシシ。

 正式名称をスクエアボアというらしい。


 でも待って?


 ヤツらはあくまでの山を徘徊するモンスター。

 しかも難易度的には中の上程度の強さしか持ち合せない連中だ。


 まあ、それでも群れを成したらそれなりに恐ろしい相手だけれども……。


 それでも大海に君臨する大精霊の御二方には、どう頑張っても敵う相手とは思えないんですが!?

 そもそも海のものと山のもので出会うきっかけもない!!


『そんなことないですます! ヤツらは取っても恐ろしい強敵なんですます!!』

『そもそもアタシたちが遭遇する機会を作ったのは他でもない聖者ちゃんじゃない! 自分の仕出かしたことの責任は取りなさいよぉ!!』


 えぇ……、俺……!?


 なんか最近世の中の異変すべてを俺の責任にするムーブが起こりかけている気がするんだけれども?


 そもそも俺にまったくの覚えがないよ?

 さすがに今回ばかりは言いがかりなんではないか?


『イノッシッシッシッシ……。海のモノたちは案外心が狭いようブタだなあ……。深海のごとき懐の深さは持ち合わせていないブタか?』


 何ぃ!?

 この声は!? 一体どこから!?


 何者の声だ!?

 ……あそこか!?


 一段小高くなった丘の頂上に立つ、気高き四足の姿。

 逆光が眩しくて詳しい姿を確認できない!?

 なんだこの演出。


『とーんッ!!』


 掛け声と共に跳躍!

 天翔けるような軌道で空中を進み、最後に俺たちの目の前でスタッと着地した!?


「お前は角イノシシことスクエアボアッ!?」

『いつもお世話になっておりますブヒ聖者様』


 いや!? お世話になっているのはむしろこちらだが!?

 主に胃袋的な面において!?


 俺たち毎日のように山に入ってはお前らのことを殺して血を抜いて皮を剥いで解体しては煮てさ! 焼いてさ! 腸詰にしたりしてさ!

 美味しく召し上がってるんですけども!?


 キミらにとっては俺たちこそ、許しがたき怨敵かと認識しておりますが!?

 なんでそんなに親しげなの!?

 そもそもなんで喋っているのコイツは!?


『我々は、聖者様のごとき貴きお人に何度も何度も食されることによって輪廻の循環を何千億周もしたことになって、その分徳を積んだのですブヒ。それによって魂の格が上がっトンです』

「俺はマニ車か?」


 そうして魂的にレベルアップしたおかげで言葉を解せるほどになったと?


 無限の生と死の繰り返しが魂を高次元へと導くというのか。

 マジか。


「あー、そういやなんかなんか。思い出してきたぞ……!?」


 前にも同じようなことがあった。


 こうしてクラーケンとデスマスくんが押しかけてきてギャーギャー騒いでいたところに角イノシシが颯爽と現れてオチがついた話……。


 あれなんだっけ?


「……そうだ、カレーの話だ」

『『『そうそれよ!』ですます!』ブヒ!』



 一斉にハモるな。

 海の幸山の幸どもよ。


 そうそれは俺の妻プラティと一緒にカレー作りをしていた時の話。


『最強カレーに相応しい具材は何か?』という話になって牛肉だ豚肉だチキンだ、あるいはシーフードだと喧々諤々の議論になって……。


 そうだよ!

 その時もクラーケンとデスマスくんが押しかけてきたんだった!

『オレたちの肉を使え』とかなんだか言って!!


 正気かと思ったけれど!


『本当ならあの時、カレー具材の栄冠を手にするのはアタシたちだったのよ!!』

『それをそこのブタ野郎がかっさらっていったんですます!!』


 ブタ野郎ではありませんイノシシです。

 そういう話ではない?


 ともかく、カレー具材決定戦で大敗を喫したタコカニコンビが、イノシシに向かってリベンジを画策しているという理解でOK?


 しかし勝負項目、食材としてなんだけど?


 自然界の掟としてはそれでいいの?

 食われること=敗死とばかり思っていたけど違うの?


『ブヒは聖者様に食していただければそれだけ魂の格が上がって転生できますので』

「輪廻転生を楽しようとするな」


 あと一人称『ブヒ』なの?


『お願いよ聖者ちゃん! こんなブタ野郎のお肉より私たちの方が美味しいって証明して! いつかのタコ焼きのように!!』

『蟹の方が高級食材なんですます!!』


 そうはいっても豚さんだっていい食材ですよ?

 恐らくは地球上でもっとも食われているお肉だろうし。


 ブランドだってイベリコ豚とか鹿児島産黒豚とか色々あるしなあ。


 まああのカルマを積んで明らかに畜生道から解脱しているアイツは豚ではなくてイノシシなんだけども。


 というか俺に何を求めてるんだ?

 話の概要と相手側の希望がしっかり伝わった上で、俺が何をすべきかというのがさっぱりわからない。

 見えてこない。


 俺のことを、とりあえず話を投げておけば上手いことまとめてくれるドラ○もんみたいな存在と認識しておらぬか?

 でもドラ○もんが上手くまとめても最後は必ずの○太が台無しにするじゃん。


 そういう問題じゃない?


 じゃあ自分がの○太のいないドラ○もんだと信じて、事態改善のために動きだすとしますか。


 具体的にどうする?


 こういう場合、対立構造を伴う両者のどっちに肩入れしても禍根を残すことになるから八方丸く収める方向にもっていきたい。

 世の中角より丸だ。

 処世に長けていると捉えてくれたまえ。


 ……よし。

 大まかの方針は決まった。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] お好み焼き??
[一言] 何が一番かはその時の気分次第なんだよなぁ(真理)
[気になる点] ・・・ 嗚呼 ・・・ 二大不遇ヒロインの婚期は またしても亜空間の彼方へ ・・・ (哀涙) もはや これまで ・・・? [一言] ・・・ 中華料理ならば ・・・
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