770 ドラゴンハンティング
さあ始まりました。
結婚披露宴の余興(?)ドラゴン集団対決ももはや終盤。トリの大勝負。
現ガイザードラゴンであるアードヘッグさんと、その対抗勢力ドラゴンの旗頭であるシャルルアーツ。
その最後の一騎打ちだ。
反アードヘッグを謳う彼らは、このめでたい日に招待状もなしに乗り込んできて唐突に宣戦布告。
その返礼として勝負が開始されたわけだが雰囲気的には披露宴の余興である。
参列した魔族人魚族の人々も概ね楽しんでくれているが、最後ばかりは緊張感が高まる。
何しろ最強竜アレキサンダーさんを仮装標的にした模擬モンスターハンティング勝負なのだから。
フィールドは、ノーライフキングの先生が用意してくれた疑似異空間だ。
『……空間操作は老師の得意分野なんですがのう。まあワシも真似事ぐらいならできますわ』
「手間かけさせてすみません!!」
『フィールドは無人島、原生林、砂漠、氷山、古代遺跡どれにしますかのう?』
現界から切り離された亜空間に仮初の自然環境が作れる先生だった。
これでも他のノーライフキングで一長のある相手に及ばないという。
「……まあ、無難なヤツで」
フィールド内の様子は先生の魔法でもって披露宴会場に中継されるとのこと。
天空に浮かんだ別世界の風景は、映画館のスクリーンよりもなお大きくて野外シアターの様相を呈している。
画面に移っているのはジャングルと見紛う熱帯の原生林だった。
葉っぱの様相が見たこともない。
そして画面の中には既にアードヘッグさんとシャルルアーツがいた。
それぞれジャングルの中を注意深く歩んでいる。
画面の中のアードヘッグさんが言う。
「アレキサンダー兄上は既に異空間内にスタンバイしてもらっています。もう役には入ってもらっているので、視界に入り次第襲ってくると思いますからお気を付けを」
「うううう煩い! 指図するな!」
「本当に素手でよかったのですか? ニンゲンの冒険者は、狩りの際には武器を持ち込むものですが」
そういうアードヘッグさんは背中に大剣を背負っていた。
剣というにはあまりに武骨すぎる系の長大なヤツだ。
人間とはあまりに規格の違うモンスター相手では、緻密に練り上げられた剣術が通じない場合が多くそれなら単純な破壊力を期待して大体積大質量の凶器をぶん回すことが多い。
……というのは知り合いになったS級冒険者シルバーウルフさんの言葉。
「大体、何から何まで人間の真似事をしようと言う貴様がおかしいのだ。ニンゲンごときの作った武器などよりドラゴンの四肢の方がよっぽど硬いし強力だろうが!」
「改めて確認しますが、これはニンゲンたちの生活に即した勝負なのでニンゲンの姿で行わねばなりません。竜の姿に戻ったら即失格ということで」
「わかっている」
言い合いをしながらジャングルを進んでいく姿がスクリーンに映し出された。
そして現れた。
ドラゴンなアレキサンダーさんが。
真の姿を現したアレキサンダーさんは裏ボスも裸足で逃げ出すほどの威容。
アードヘッグさんとシャルルアーツ……二人の狩人を発見した瞬間、あいさつ代わりに咆哮を浴びせた。
『グオオオオオオオオオッッ!!』と。
「うわぁああああああああッッ!?」
あまりにもけたたましい轟音は、むしろ音速で発射される透明な壁。
それを何の準備もなしに浴びたシャルルアーツは、あえなく吹っ飛ばされて地面をゴロゴロ転がる。
「ぐひッ!? うべッ!?」
対するアードヘッグさんは咄嗟に防御態勢を取り、大剣の腹で衝撃波を受け止め体勢を保った。
「咆哮だけで体力が削られた……!? アレキサンダー兄上恐るべし……!」
「おのれ、このままでいるものか! アレキサンダー兄上覚悟!!」
目が合った時が戦闘開始。
冒険者とモンスターの間に結ばれたたった一つのルールそのままに、シャルルアーツがまず駆け出した。
「あッ、迂闊に近づいたら……!?」
「喰らえ竜魔法! 紅流桜花獣閃……ぎゃあああああッッ!?」
なんか凄そうな技名を呟いていた矢先、迂闊に相手の間合いに入ってしまったシャルルアーツは吹っ飛ばされた。
グルンと振り回す竜の尾がまともにヒットしてしまったからだ。
いくつもの生木を根元から薙ぎ倒す鉄砲水のような尻尾。
それがブチ当たったらいかに人化した竜でも衝撃に耐えきれず。打球のごとく打ち上げられてキラリと光るお星さまになった。
シャルルアーツ DEAD(1/3)
早速一人死亡した。
しかしこれは冒険者の仕事を模したものであっても余興なので、死んでも復活できるように先生の異空間が調節してあった。
復活も三度までならOKらしい。
そして一旦ドラゴン化したアレキサンダーさんと一対一になるのはアードヘッグさん。
携えた大剣をかまえて対峙する。
「今まで出会ってきたニンゲンたちの言葉を思い出せ……。対峙したモンスターからは目を逸らさない。それでいて周囲にも気を配る……!?」
冒険者によるモンスター討伐は、語られるよりずっと危険な仕事だ。
基本的にあらゆるすべてのモンスターは人類の能力を上回る。
上位になればなるほど人間など木っ端のように脆く小さく、一撫でで粉々にすることだってできるんだ。
基本的に魔法も使えない人間国の冒険者は、それこそ鍛えあげた肉体と、あとは知恵と度胸だけで立ち向かっていく。
自分よりも遥かに強い存在に。
今のアードヘッグさんも同様だった。
相手は最強竜アレキサンダー。
いつも朗らかに笑っているけれどその実力は世界を消滅させてもなお余るほどに凄まじい。
いかにアードヘッグさんでも敵うはずのない相手に、果敢に挑む。
しかもやぶれかぶれでははない。先のシャルルアーツのように考えなしの突撃などせず、まずは守勢に徹して観察し、相手の動きの合間合間にできる隙を見つけ出す。
見極めたならあ次にその隙が現れる瞬間を辛抱強く待って、絶好のタイミングが訪れたら即、大剣を振り下ろす!
そうだ! 敵が火のブレスを吐いた瞬間が狙い目だ!!
フェイントで尻尾攻撃してくるのに注意するんだ! 爪の部位破壊も忘れるなよ!!
そうして食い下がってるうちに復活したシャルルアーツがまた登場!
「うおおおおッ! 今度こそ! ぐべッ!!」
シャルルアーツ DEAD(2/3)
最強生物ドラゴンの戦い方は、持ち合わせた超戦闘能力でガンガン押ししていくだけ。
実際最強なのだから、どんな敵でもそれだけで倒せる。
だから戦い方には辛抱というものがなく、じっと耐えて相手の出方を窺うという用心深さもなかった。
だから格上相手には辛抱もなく突っ込んでいって玉砕する。
シャルルアーツ DEAD(3/3)
とか言ってる間にシャルルアーツが三死した。
催しの設定上もう復活はできない。
あとはアードヘッグさんの独壇場。
力ですべてをねじ伏せられるドラゴンが、辛抱と忍耐で凌ぐ『弱者の戦い方』をしているのだ。
それが披露宴会場から観戦している参列客にも感動を呼び、直に大きな歓声へと上がった。
アードヘッグさんがギリギリで尻尾をかいくぐり、柔らかそうな腹へ大剣の一撃を叩きこむと興奮の拍手が巻き起こった。
そうしたギリギリの攻防が永遠に続くかと思われた末に……。
* * *
『う~ん、まいった』
竜化したアレキサンダーさんがばたりと倒れた。
一応『これぐらいダメージを受けたら倒れますよ』とあらかじめ決めておいたのだがそれでも倒しきれたのは凄いことだ。
アレキサンダーさんの攻撃は小技であっても体力満タンから根こそぎもっていくレベルの凶悪さ。
ゲームバランス? 知ったことかプレイヤーがゲームに合わせろとか言いそうな極悪だ。
それを乗り越え見事討伐成功したアードヘッグさんは讃えられる資格がある!
『さすが私の見込んだアードヘッグだ! 偉い! 偉いぞ!』
やられたアレキサンダーさんが真っ先に抱え上げて栄誉を称えるのだから違和感はある。
そこへ……。
「……敗北を認めるしかないようだな」
寄って来たのは三死したシャルルアーツ。
さすがに本質ドラゴンだけあって傷の治りが早い。
「このような実力主体の勝負で後れを取ったからには、な。おれもグリンツドラゴンとしての能力すべてを注ぎ込んだのにアレキサンダー兄上には毛ほども通じなかった。それに対してアードヘッグは見事に成し遂げた」
ゴリ押しで玉砕した者と、相手の動きを見極め適切に行動した者。
その明暗が分かれたのみ。
「いやそれ以前に純粋な実力でも私よりヤツが上。僅かでも戦いの素振りを見ればわかる。やはりガイザードラゴンを名乗るのは伊達ではないようだ。継承の過程がどうであろうと……」
なんか急に神妙になったな。
彼だけでなく、他の乱入した竜たちも揃て恭しく頭を下げた。
「アードヘッグ様、我々はアナタを新たなるガイザードラゴンと認めます。我らは臣下として永遠にお仕えしましょう。アナタが治める竜世に栄光あらんことを」
なんかアードヘッグさんが認められた。
今日乗り込んできた竜たちは、いずれもトップテンに入る強豪の竜。
それらに認められたからにはアードヘッグさんの王位は揺るがず安定することだろう。
ドラゴンの社会にとっては皇帝竜が皇妃を迎えただけでなく、めでたいことが二重に引き起こされる日となった。






