765 結婚式ドラゴンパート開始
そして結婚式当日の俺です。
式自体は無事に済んで、披露宴に移行してまあ山も越えたかな、というタイミングで真の山場がやってきやがった。
天空から飛来せし竜の群。
それが披露宴会場へ降りてくるというんだから居合わせた参列者は阿鼻叫喚の大混乱であった。
そりゃそうだろう。
竜といえば生きた災害。存在するだけで人と社会に大破壊をもたらす嵐や津波、火山噴火と同等同質の存在だ。
たった一体ですらそれぐらいの災厄なのにそれが団体さんとなったらもはや天災。
度を失い逃げ惑うのも仕方がない。
しかしこの乱入竜たちが着地するのと同時に体を光らせ、ズンズンと縮小して最後は人の姿と変わったので、それほどひどい状況にはならなかった。
数体の竜はそれぞれ見目麗しい紳士や淑女となり、披露宴の席に立つ。
ドラゴンが変身した人の姿は例外なく美男美女の様相ばかりなんだが、きっと自由に調整できるんだろうなあ。
ウェディングドレス選びでもブラッディマリーさんがいともたやすくプロポーションを変えていたし。
そりゃ自由にできるんだったらわざわざ三枚目四枚目なんて選ばんよな。
その中でもとりわけイケメンで、女性の憧れになりそうな美男子の竜がいた。
「我こそはグリンツドラゴンのシャルルアーツ」
その美男子ドラゴンが名乗ると、披露宴に参列していた貴婦人たちが次々と失神していった。
あの人化ドラゴンのイケメンぶりが極まりすぎて意識が吹き飛ばされたとか?
貴族のレディはちょっとしたことですぐ失神するから!!
「我らはドラゴンの正統を守るため、卑劣なる方法で玉座についた僭帝アードヘッグを討ちに来た!」
と披露宴の上座にいるオルバくんを指さして言う。
「ええッ!? 私!?」
「違います! アードヘッグ様はあっちです!!」
隣のバティが慌てて修正。
合同結婚式による思い違いがここに。もう少しでただの人違いによってドラゴンと対戦する羽目になったオルバくんだった。
「ぬうッ? 失礼したでは今度こそ、憎き我が敵アードヘッグよ!!」
「私はオークボです」
「じゃあ、あっち!?」
「ゴブ吉ですが」
天然ボケか、あのイケメン竜?
「くっそう! なんで花婿席があんなにたくさんあるのだ!? 結婚式というのは花婿と花嫁が一人ずつではなかったのか!?」
はい、まったく仰る通りで。
変則的ですみません。
「このおれがアードヘッグだ」
そして当の本人は己から名乗り上げ、この乱入者と対峙する。
今日は結婚式のために真っ白なタキシードを着て日頃と随分印象が異なった。
「おれとマリー姉上の結婚式に何用か? 招待状を出した覚えはないが?」
「ぐぬ……ッ!?」
「そもそも今日の式はおれたちだけでなく仲間たちのめでたい門出も兼ねている。他種族の彼らに、我らドラゴンの揉め事で祝いにケチをつけられては敵わぬ。攻めかかるにもわざわざ今日を選んでというなら、こちらも倍以上の報復をさせてもらうが?」
「ぐのの……ッ!?」
アードヘッグさんの熾す烈気に、乱入してきた竜たちは残らず怯む。
強いぞ怖いぞアードヘッグさん。
彼とてガイザードラゴンとなって早数年。威厳も充分に備わってきた。
かつては格上だったはずの強豪ドラゴンといえど、今なら気迫でも実力でも引けを取らない。
「さて……」
乱入者それ自体はアードヘッグさんに任せておけばいいと確信できたので、俺はもう一方の禍根を処理へと向かう。
「おいこら」
「あだだだだだだだッ!? やめてやめて! 痛い痛い!?」
混迷する現場からこっそり抜け出そうとしていた小僧アル・ゴールを目ざとく見つけて捕獲。
さらにこめかみグリグリするのはお仕置きも兼ねている。
「さて何でこんなことをしたのかなあ? 素直に答えないとこめかみが抉れるまでゴリゴリするぞ?」
「待って待って! そんな拷問を受けるいわれはない! おれはただアードヘッグやマリーに好かれと思って!!」
本当かなあ? マジかなあ?
何しろこのクソガキ、アル・ゴール。
見た目は子どもでも頭脳は数千年を生きた竜の皇帝のその先代。
それだけでも大概なのに往年は陰謀を巡らせて多くの同族竜を陥れた謀略家でもあった。
そんな相手の言うことなんかおいそれ信じちゃダメダメよ。
アードヘッグさんに負けて力を失い、最近は大人しくなったといっても油断してたらどんな策略にハメられるかわかったものではない。
今回も俺たちに内緒で他のドラゴンを煽って、またドラゴン同士の内乱を狙ってるんじゃあるまいな?
「今さらそんなことしてどうなるというんだ!? 既に数千年と続いたドラゴンの在り方は万象母神ガイアによって変更され、おれ自身も他の竜と生き場を奪い合う必要もなくなった。闘争など無意味さ」
「そうかもしれんが……!?」
「今回裏で色々と動いたのは、おれなりにアイツらに結婚祝いというものを贈ってやりたかったのだ。プレゼントの題名は……戦争と平和かな?」
トル○トイ?
そして結婚祝いとしてはいささか物騒な贈り物ではないか?
「アードヘッグが皇帝竜となってもう何年も経つというのに、それを不満に思う者は根強くいるのでな。ヤツも所帯を持ってなおそういう連中に煩わされるのは鬱陶しかろう?」
そう……かな?
そうかも?
「だから今日を機にそれらの問題を完全解決させてやろうというのだ。おれが誘い込んだあの竜たちは、マリーに次ぐドラゴンの最高実力者たち。アイツらをねじ伏せてしまえばもうアードヘッグに逆らおうなどというヤツはおらん。これからは穏やかな結婚生活を送れることだろう」
なるほど、その穏やかな生活こそが父竜からのプレゼントであると?
ざけんな?
「その穏やかな生活の前にしっかり大乱がセットされてるやんけ……!? 贈り物ならもそっと整えてから渡してはどうだい!?」
「それはできんなあ! いかなる贈り物も試練とワンセットでないと!!」
やっぱり最悪だこの竜!
だったら俺からも試練をプレゼントしてやらあ!!
レタスレートとホルコスフォンに引き渡して納豆作りを手伝わせてやる!!
「いやぁー!? ちょっと待って!? 働くのは嫌だぁーッ!?」
農場の納豆小屋へ強制移送した。
さあ、こうして元凶は片付いたが問題は依然として残っている。
めでたいはずの結婚式が、一気に不穏なムードになってしまった。
この場はゾス・サイラとオークボ、カープ教諭とゴブ吉、それにバティとオルバくんの記念すべき日でもあるのに。
しかしながら今回結婚する組で一番グレードが高いのは誰あろうアードヘッグさんとブラッディマリーさんのカップルだったのだ!
そりゃそうだよな地上最強の生物ドラゴン!
そのさらに頂点に立つ皇帝竜夫妻なのだから!
この二人のご成婚がもっとも大ごとにならないわけがない。
来るべきイベントが来てしまったということだ。
合同結婚式、ここからはドラゴンパートだ!?
「気を付けてアードヘッグ!!」
今日から正式に名実ともにアードヘッグさんの妻となったグィーンドラゴンのブラッディマリーさんが言う。
「あのシャルルアーツはドラゴンの中でも一二を争う強者! かつてはお父様の下で行われた後継者争いで私に次ぐ二位の勝者候補だったドラゴンよ!!」
「情けなくも僭帝竜の軍門に下ったマリー姉上。すっかり骨抜きにされたかと思いましたが、それでも私を警戒する程度の気骨は残っていましたか」
「どういう意味よ!?」
ウェディングドレス姿で高ぶるブラッディマリーさん。
「しかしまだまだ警戒が足りませんぞ? 何しろ勝者候補はおれだけではない。ここに集う同志は皆、次期ガイザードラゴンの有力候補として名前が挙がった者たちばかりなのですからな!!」
その宣言と共に、あのイケメン竜と轡を並べる者どもらが名乗りを上げる。
「次期ガイザードラゴン有力候補、序列四位! グリンツェルドラゴンのロゼ!!」
「次期ガイザードラゴン有力候補、序列五位! グリンツェルドラゴンのブラウディ!!」
「次期ガイザードラゴン有力候補、序列六位! グリンツドラゴンのワイルドバギ!!」
「次期ガイザードラゴン有力候補、序列七位! グリンツェルドラゴンのティキラー!!」
「次期ガイザードラゴン有力候補、序列十位! グリンツドラゴンのクロウリー・シーマ!!」
次々と名乗りが上がる。
「そして改めておれも名乗ろう。次期ガイザードラゴン有力候補、序列二位シャルルアーツ。我らを含めもっともガイザードラゴンに近い英傑竜をまとめて十傑竜と呼ぶ! それら上位十名にも選ばれなかったアードヘッグ! 貴様がいかに頂点に立つ資格のない竜であるかがわかるだろう!」
高らかに宣言するシャルルアーツさんとやら。
総勢六名の竜が、ここにアードヘッグさんの王権へ最後の挑戦を宣言する。
でもちょっと待て?
今、十傑竜とか名乗らなかった?
それなのに現れたのは総勢六名。
欠員がやたらと大きくありませんか?






