760 式当日
とりあえず実際に式場となる施設を見せてもらった。
こりゃすげえ……!?
まず式自体を行うのは、まるで教会のような荘厳さを持った空間。
一段高く設えられた祭壇、それに向かい合うように椅子が並べられている。
「まあ結婚式っちゃ教会なんだろうけど……!?」
ここは異世界なので『文化が違う!!』てな感じで、本来違った結婚の様式が採用されるかと思ったが。
異世界転異者である俺の影響からか、却ってあっちの世界よりになっている。
「当日、式の進行を務める司祭にはノーライフキングの先生にお願いしている」
「また農場関係者!?」
あの人、本当に結婚式で欠かせないキーマンとなっていらっしゃる!?
そして農場全面協力の感がまた上がっておりますなあ!
「披露宴?……会場は向こうになります。要するに酒盛りの場という理解でよろしいか?」
「まあ、そうなります……!」
そう言われると、結婚式にあったキラキラ晴れ舞台感が一気に盛り下がる不思議。
ただの酒盛りにならないように、俺が頑張ってかくし芸を披露しなければ!
……やっぱ酒盛りだった。
そして実際に完成した披露宴会場を見せてもらったが、これまた凄い。
スタジアムかという広大な空間に並べられたテーブルや調度品。そのすべてが農場エルフの作成した一級品であった。
当日はこれに極上の料理や酒が並んで、さらなる豪勢感を醸し出すのだろう。
……。
ひょっとして、その料理も酒もfrom農場?
もう完全に農場プロデュースじゃん。
さらにいえば会場は青空の下で開放感たっぷり。
ただこれ雨天の時はどうするのかと思ったが、ここはドラゴンの居城。天気なんて関係ないのか。
「竜魔法で天候管理しているから、当日は晴天率100%だ」
ほうらやっぱり!
そこへ今度はヴィールが飛来してきて……!?
『こんちゃーす、お届けものなのだー!!』
ドラゴン形態のまま、なんか大荷物を抱えていた。
コンテナっぽいその大荷物から、なんかビチビチ言ってるのが……!?
『当日出す料理の素材なのだー! その辺の海で魚を大量にゲッドしたぞー! クラーケンや化けガニにも声かけてたくさん食材を送ってもらう予定なのだ!!』
「もしかしてそれを料理するのが俺!?」
何故なら農場で料理するのは大体俺だから。
農場の総力を結集するという流れで俺の負担が偉いことに!?
だって当日何百人っていう参列者が来るんですか!?
『大丈夫だご主人様! おれだって料理を手伝うのだぞ! ゴンこつスープ大量消費の大チャンスなのだーッ!!』
だからお前が作るのはラーメンばっかりじゃないか!?
やっぱり俺の負担がムゲンダイ! という感じで準備も着々進み、式当日へと近づいてくるのだった。
* * *
そしてついにやってきました!
合同結婚式当日!
現地には世界各国から招待された参列者でごった返し。
先日下見した会場はあんなにも広々としていたのに、今日は逆に手狭に感じるほどに人で埋め尽くされていた。
「たくさん人来てるなあ……!?」
「当然よ、あれで一応主役がVIP揃いなのよ?」
隣に立つプラティが言う。
今日は参列者の一人としておめかし。さらには次男ノリトを抱きかかえていた。
ちなみに長男であるジュニアは、このめでたい日を祝って例の三つの袋のスピーチをしていた。
「四組の夫婦のうちの一組が魔国の一流貴族、もう一組が人魚国の宰相ですからねぇ。自然招待客も豪華になるわよ。魔王さんも、ウチの兄も来てるのよ!?」
プラティのお兄さん=人魚王アロワナさん。
「それに加えて竜の皇帝夫婦……本当に改めてとんでもない顔ぶれよね……!? これをきっかけに世界が変わるんじゃない?」
「いやいやそんな……!?」
まさか……!?
と言い切れないところが苦しい。
「ところで今日式を挙げるのは全部で四組だけど、ここまではまだ三組しか挙がってないよね?」
残り一組は?
「それは別に重要じゃない」
「悲しいなあ」
ともあれ式開始にはまだ時間がある。
それまでの暇潰しもかねて、今いる参列者の顔触れをチェックしてみよう。
まず注目を集めるのがなんと言っても魔王さんだな。
前述ではあるが、さすがは魔族の王様にして地上の覇者としてネームバリューは随一。
周囲も及び腰になりつつ注目している。
傍らには魔王妃のアスタレスさん、その間に生まれた魔王子のゴティアくんを連れていた。
アスタレスさんは昨年第二子を出産、その関係であまり表に姿を見せず、公式行事は第二妃のグラシャラさんに任せていた。
よく見たらベルゼビアちゃんを抱きかかえている。
さすがに今回は元部下バティの晴れ舞台ということで参加は当然という感じ。
先輩夫婦という感じがよくにじんだ一組だった。
そして魔王さんが地上の覇者なら、こちらは海中の王。
人魚王アロワナさん一家が出席だぁああああッ!!
人魚王妃となったパッファを引き連れ、一人息子のモービィ・ディックくんもいる。
さすがに今日結婚する組み合わせの中に人魚宰相がいたら参加しないわけにもいかないか。
え?
人魚教師はどうかって?
だからそれはいいじゃない。
魔王一家と人魚王一家は、互いを見つけあうとすぐさま歩み寄って談笑。
もはや家族ぐるみの付き合いだ。
俺としてはよく見る風景なんだが、周囲にいる他の人たちにはかなり異様に映ったらしい。
だって魔王と人魚王、地と海の王たちが思いっきり馴れ馴れしくしているんだ。
かつては世界の覇権を巡って戦争するかなんて噂された二者なので、この打ち解けた空気は重大な影響を与えていくだろう。
不特定多数の集団がいるところではそこまで一緒にならないんだよなあの二人。
「世の中にはまだ煽って戦争引き起こそうなんて言う輩がいるようだから、あのフレンドリーさの見せつけは大きな牽制になることでしょう」
「そんなこと考えてるやつがいるの?」
「平和より戦争の方が手柄を立てやすいとでも考えているのよ。本当頭が悪いわね」
プラティの解説まことにありがたい。
さて、今回出場の花嫁は魔族一名、人魚族二名、ドラゴン一名ということで人族に掠りもしません。
だから参列者も人族はいないかと思いきやそうは問屋と転売屋。
いますよ、人族からの参列者は。
それこそ人族領主ダルキッシュさんとヴァーリーナさん夫妻だ!!
領主夫人であるヴァーリーナさんはそもそも魔族。
さらに魔王軍に所属していた時代もあり、今日の花嫁バティとは一緒に仕事したこともあったんだとかなかったんだとか。
それに加えて彼らの領で行われている風雲オークボ城はオークボメインのお祭りでもあるので、彼の門出でもあるこの式に顔を出す義理はあるのだった。
そのダルキッシュさんが、魔王&人魚王コンビに発見された途端、肩を掴まれ取り込まれた。
前々から三種族懸け橋同盟とか言うチームを結成しているあの三人。
しかしダルキッシュさんだけいつも浮いていて見ていて苦しい。
今もまたテンションアゲアゲな魔と海の王の間で『場違いだなあ』と表情で語っているダルキッシュさん。
周囲の魔族や人魚族の貴族たちも何事かという表情で凝視していた。
「あの人族は……!?」
「魔王様と人魚族の王にあれほど歓待されるなんて……ただ者じゃない……!?」
と警戒していた。
ダルキッシュさんの心労がまた上がっていく。
その他には、前人魚王妃であるシーラさんも旦那さんを伴って出席。やはり花嫁二名の姉貴分でもあるのだから祝いには駆け付けないとね。
さらに偉そうな顔ぶれがガンガン並ぶ中で、また一人気になる相手を発見。
最強ドラゴンのアレキサンダーさんではないか。
人間の姿を取ってまぎれてはいるが、あの穏健そうな老人の顔は見間違えようがない。
「アレキサンダーさん!」
思わず声をかけてしまった。
さすがに魔族人魚族の中で彼に気づいて話しかける者もいないので。
「アードヘッグさんとブラッディマリーさんのお祝いですか? さすがですね!」
そのドラゴンらしからぬ気遣いに。
「私も兄として祝ってやらねばならんからな。この子と一緒に出席させてもらったわ」
この子?
よく見たら老人アレキサンダーさんの隣に、十代半ばぐらいの年頃の少女がいた。
不機嫌そうな顔つきで、そのはねっ返りぶりがいかにも思春期といった感じ。
「誰ですこの女の子?」
「テュポンじゃ」
テュポンってあの、プロトガイザードラゴンの!?
不死山から飛び出してきた最古のドラゴン!?
「突如襲い掛かってきたので迎え撃ったのだがな。それ以来我が下に身を寄せさせ、今の世界の道理を学ばせている。ドラゴンとて他者に迷惑をかけるならば教育せねばならんからな」
と言うアレキサンダーさん。
テュポンって女の子だったのか……!?
とにかくも様々な参列者を伴い合同結婚式が始まる。






