748 反省と報告
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はい、俺です。
農場で畑仕事をしていたら、なんか奇妙なものを目撃した。
説教されているブラッディマリーさんだ。
彼女一人だけ正座してガチの説教モードに晒されている。
説教している側はヴィール。
「姉上ってさー、もうちょっと分別のあるドラゴンじゃなかったっけ?」
「ごめんなさい……!?」
ヴィールに説教されてるって大概だぞ?
あの農場にてもっともヤンチャかもしれない、叱られる側に回ることの方が断然多いヴィールに?
ブラッディマリーさんってもうちょっと分別のある人だと思っていたんだが?
俺は詳細を知りたくなり、声をかけた。
「あの……、一体何があったの?」
「姉上が、魔族どもの本拠地を襲撃したのだ」
「しゅうげきッ!?」
魔族の本拠って……もしや魔都!?
それが本当なら大惨事じゃないですか!?
「すんでのところでおれ様が駆けつけたから安心なのだー。魔族どもから救世主として崇められたのだ」
「そりゃそうなるわな……!?」
よく見れば、正座するマリーさんの首から看板がヒモでぶら下げられていて、さらにその看板には『私は魔都で悪いことをしました』と書かれていた。
「しかし一体何で魔都を襲ったんです? 魔族が何かマリーさんの恨みを買った?」
「違うのよ! 私はただお願いしに行っただけなのよ!!」
お願い?
「ちょっと力ずくで押し通そうとしたらヴィールがやってきてコテンパンにされたのよ! 酷いじゃない! 私はあくまで平和的に物事を運ぼうとしたのに!!」
「武力をチラつかせている時点で平和的じゃないのだー」
ヴィールに論破されてるって大概だぞ。
このまま何も見なかったことにして通り過ぎてしまおうかと思ったが、放っておいてもロクな未来にならなそうなので介入する。
まずは詳しい事情聴取だ。
「……で、何をお願いしようとしたです?」
「お、ご主人様介入するのかー? さすがはこの世界の何でも解決お任せ屋さんなのだー!」
「ヒトを変な立ち位置に追い込むな!」
誰がズバッと参上ズバッと解決する人か!?
それはともかくマリーさんから詳しい事情を聞かないとテイク2。
「バティちゃんの結婚を魔王に認めさせようとしたのよ……!!」
「なんで?」
色々よくわからない。
バティって、我が農場で服作りをしてくれている魔族バティのこと?
彼女が結婚するという話も初耳だし……え!? そういう相手いたの!?
そのことからしてビックリだし、そのことにマリーさんが介入するのも謎だし……え!? マリーさんとバティに何の接点があるの!?
仲良しだったのも初耳!?
さらには何故結婚の許可を魔王さんに取りに行くのか!?
いくら魔族の王様でも魔王さんにいちいち許可とかいらんだろう、結婚なんて本人たちの問題なんだし?
魔王さんも『勝手にやってくれよ……!』としか言いようがなかったろうよ。
「バティのヤツは、結婚したら仕事を辞めなきゃとかで悩んでたっぽいぞ」
「えッ? マジで?」
「相手はなんか貴族っぽいヤツらしいし、そんなのと一緒になったら益々今の仕事続けらんなくなるだろ。おれはよく知らんが、貴族の嫁さんってのも忙しいらしいしなー」
俺もよく知らんけどそんなイメージはある。
バティがそんな悩みを抱えていたというのに俺はまったく知ることなくのほほんとしていたのか!?
農場の主である俺こそが真っ先に気づかないといけなかったのに!?
なんということだ、俺ショック!?
「俺こそが率先して彼女の相談に乗ってあげねばならなかったのに! バティはどこだ!?」
「魔都に残ってるのだ。アイツはアイツで上から絞られていると思うぞ?」
上司ってもしやアスタレスさん!?
あの人、叱る相手に容赦なくサマーソルトで蹴り上げてくるんですけど!?
二児の母になろうとその蹴りの鋭さ衰えを知らず!
その餌食になる人って大体バティのような気がする!
「本当、人類って残酷よねー。あの子はただ私に引きずられてきただけなのに」
「マリーさん!?」
諸悪の根源アンタかよ!?
責任を転嫁すんな、いくら自分の意志でなくてもドラゴン引き連れて首都に乗り込んだら大騒ぎとなるに決まっているだろうよ!
そりゃ魔王妃様からサマーソルト案件になるわ!
なるか?
「そんな大ごとにまでして、どうするんですか!? マリーさんが介入しなければここまで大ごとにもならなかったろうに、どうして介入しちゃったんですか!?」
首都にドラゴンが飛来してきたら大ごとにならざるを得ないだろうに。
それを押し切ってまでマリーさんがなんかした、その動機とは。
「私にもウェディングドレスを作ってほしかったからよ!!」
……。
うわーあ。
「あのバティって子、ドレスを作るのが得意なんでしょう! だから私とアードヘッグの結婚式のためのドレスを作らせるにはあの子以外いないと思ったの! このグィーンドラゴン(皇妃竜)たる私の晴れ姿なのよ! 最高のドレスでなければいけないじゃない!」
「それで彼女の恋路に介入を?」
「そうよ、先に貸しを作っておけば要求しやすいじゃない!?」
お金払って依頼してください。
大体の皆がそうしているんだから。
「でも、あのご立派魔王は姉上に脅されなくてもアイツらの結婚認めてたぞ。フツーに余計なお世話だったんじゃないのか?」
ヴィール冷静なツッコミ。
コイツ自分以上に暴走するドラゴンがいたら抑え役に回れるヤツだったのか……!?
「それどころか話をややこしくされてバティから恨まれる節があるから。むしろ頼んでも聞き入れてもらえないんじゃ?」
「そんな!? そうなったらいよいよ脅して従わせるしかないわね!!」
「断固阻止するのだー」
今回ヴィールが良識派としてとても頼りがいがあった。
一体どうしたんだヴィール!?
* * *
そんなこんなで、魔都から遅れてバティが帰還。
傷だらけだった。
「どうした満身創痍!?」
いや聞くまでもない。
お仕置きと称してサマーソルト十六連ぐらいするのがアスタレスさんの恐ろしさである。
しかしながら顔は笑っている。
バティ。
「いやぁー! 無断で席を外して申し訳ないですぅー! 失敗失敗! アハハハハハハハッ!!」
「本当に大丈夫!?」
そんな傷だらけになりながら明朗快活に高笑いされると却って怖いんだが!?
大丈夫ですかバティ!?
主に心の方が!?
「まったく大丈夫ですよ! アッ、ハイ! 心はいつも晴れやかです!!」
サマソられて!?
あまりにもサマソられたがために心が支障をきたしてしまったのか!?
「心配ナッシングなのだ! 全身傷だらけでもゴンこつラーメンを食せば即リカバリーなのだ!!」
「ヴィールまで暴走しないで!」
今回は抑え役の良識キャラとして通すんじゃなかったのか!?
「いやぁー、実はアレがきっかけで彼との結婚が正式に決まりまして! その手続きやらなんやらで遅れてしまいました! すみますぇーん!!」
「ああ、そうなの?」
それはおめでとうございます?
バティにとっては仕事とか立場とかの関係でなかなか踏み出せずにいた関係を進展させられたのだから。
雨降って地固まるというヤツであろう。
「ならば私のおかげということよね! その礼として素敵なウェディングドレスを……!」
「あははははブラッディマリー様、結果論って言葉知ってますぅー?」
喜びと痛みが振りきれた状態になってしまったバティは、たとえ相手がドラゴンであろうと怯みはしない。
「はぁー、一安心したらお腹が減ってきましたねー。ヴィール様、ラーメン一杯いただけますか? ゴンこつ特濃で」
「マジで!? やったー! 濃縮ゴンこつ80%なのだー!!」
本当に怯まないな!!
バティもヴィールも本当にやめて! それは人間にとっての致死量です!
こないだのゾス・サイラさんやカープ教諭といい、結婚を巡ると女性のアグレッシブさに男なんぞは圧倒されるばかりだ。
……そうゾス・サイラさんたちのこともついこないだなんだよな。
慶事が立て続けというか、めでたいことが集中するなあ……。
……あ。
いいことを思いついた。






