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741 カレー延長戦 交わる力

 農場でカレーが作られるようになって数日。

 小さな争いが勃発するようになった。


「今日のごはんはカレーよ!」

「いやラーメンなのだー!!」


 プラティとヴィールが争いあっている。


 一体何を巡って争っているかというと、本日の晩餐について、らしい。


「人の思い出に残る至高の一品、カレー! それができた今、農場のごはんは毎日カレーでいいくらいじゃない! エブリデイカレー曜日よ!!」

「そんなに毎日カレーばっか食っても飽きるなのだ! それに比べてラーメンは、とんこつ味噌しょうゆ塩と、最低四種類でローテーションを組むことができ、さらに麺の形態やトッピングなどを加えれば無限の広がりをもって、毎日食っても飽きさせないこと確実なのだー!」

「それを行ったらカレーだって千変万化よ! ポークビーフチキンと主役の肉を変えるだけでも別物になるし! トッピングの可能性も無限大! 何なら納豆だって入れてみせましょうか!?」

「安易に納豆に頼るなーッ!!」


 という感じである。

 長年夢見ていたカレーの完成を見て、彼女のカレー欲が最高潮に高まっていた。


 だからいつでもカレー、どんな時もカレー。

 毎日三食カレーを食べようとして、もはや戦隊の黄色い人みたいになっている。


 ……最近の黄色戦隊はカレー好きなのかな?


 対するヴィールは生粋のグルテンジャー。

 パン作りから始まって、小麦を由来とした食物の調理に何故かハマりまくった彼女は、今ではラーメンの店(屋台だけど)までかまえる職人と化してしまった。


 溺愛するジュニアにもことあるごとにラーメンを食べさせようとするんだが、それにカレー大好きになったプラティまで絡んでくるので自然、ジュニアにカレーとラーメンどっちを食させるかで争いとなった。


 プラティとしては自分のお腹を痛めて生んだ実子なのだから優先権はあるところだろうけれど、ヴィールだってジュニアが生まれてこの方溺愛してきたのだから容易に決着はつかない。


 人は争わずにいられない生き物なのか?

 争いっているのは人魚とドラゴンなんだが。


 きっとすべての生物に背負わされた業こそが闘争なんだろうな。


「カレーよ! 今日はジュニアにプリプリのエビが入ったカレーを食べさせるのよ!!」

「ラーメンなのだー! 牡蠣の出しをたっぷりとって、そこからさらに追い出汁までした濃厚牡蠣スープラーメンを用意してあるのだー」


 そもそもまだ幼児のジュニアには、真っ当な成長をしてもらえるようにもっと栄養バランスの取れた健康食をとってほしいんだが……!?


 でも子どもってカレーもラーメンもメチャクチャ好きそうだよなあ。


「がめ煮すきー」


 しかしウチのジュニアはそんな心配まったくなかった。

 子どもの頃嫌いだった味を子どもの時点で好んでいる。


「……こうなったら白黒つけるしかなさそうねヴィール。アンタとの付き合いも長くなってきたけれど、それも今日限りよ!」

「はー、ニンゲン風情がほざきやがるのだー。ご主人様ならともかく最強種族たるおれ様に下等な人類が叶うとでも思ってんのかー?」

「いつまで最強気取りでいるつもりよ? 使う機会がなくて完全に忘れ去られているけれど、アタシはママから聖唱魔法を伝授してもらって充分ドラゴンクラスに匹敵するのよ?」

「だったらその大口が本当のことか確かめてやるのだ!」

「アンタこそ、今後二度と農場で最強気取りできないようにしてやるわ!!」


 うおおおおお?

 あの二人マジでやり合う気だ!?


 そんなことになったらこの辺一帯はおろか大陸が吹き飛びかねん。


 ヴィールはもちろんのことプラティも本人が言うように世界最強の一角に食い込んでいるのだから、あの二人が激突したら容易に決着つかず、二次被害の地獄絵図が拡散していくばかりと見た!


「ダメだッ! 二人とも!」


 さすがに見過ごせないので割って入る。


「旦那様!?」

『ご主人様!?』


 危ないところだった寸前だった。

 ヴィールなんかドラゴンの姿に戻っているではないか。ヤベェ。


「二人ともいい加減にしろ! そんな風に仲たがいする醜い姿をジュニアが見たらどう思うか!」

『うッ?』「それは……!?」


 さすがに目に入れてもいたくないジュニアを引き合いに出されると怯むしかない二人であった。

 ケンカを止めるのにジュニアの存在は覿面。

 これぞ『子はカスガイ』というヤツか!?


「ぶりだいこんおいしいー」


 当のジュニアは我関せずだが……!?


「醜く争い合う場面など子どもに見せてはならない! 笑い合って協力し合う『人とはかくあるべし』という姿を率先して子どもに見せなければならないんではないか? それが大人の務めではないか?」

「冷や汁びみー」

「だからジュニアの大好きなお母さんとその他が、見苦しく争い合っていてはダメだ!」

「どぜう汁でりしゃすー」


 ジュニア……。

 もう少しパパの演説を感動的に演出してもらえないかな?


 しかし幸い、あの二人のハートに思いはしっかり伝わったようだ。


「そうね……、こんなに簡単に憎しみ合うようではジュニアやノリトの母親として示しがつかないわね……!」

「さすがご主人様、いいことを言うのだー」


 ついでに俺の株も上がった。


「でも、それじゃあどうすればいいの……!? ジュニアにカレーを食べてほしいのに、どうすることもできないジレンマ……!?」

「一つの食卓に上る主菜は一品。あちらが立たねばこちらが立たないデッドロック状態に陥ってしまったのだー」


 カレーラーメンセットじゃダメなのかな?

 ラーメン屋によくありそうなコンボ。しかしまだまだ小さいジュニアの胃袋ではそんなに大量に収まり切れないか。


「さば味噌ぐるめー」


 そしてさっきからやたら食っているジュニアのキャパシティがそんなに残っているとも思えんし……!?


 いやこうなれば……この俺の聖者の知恵を結集し、プラティとヴィールの願いを叶えるしかない。

 俺の農場にいる人たち、誰にも泣いてほしくないから!


「俺はカレーと麺類で融合召喚!」


 現れろ、プラティとヴィールの夢を繋ぐ……。

 カレーうどん!


「おおおおおおおッ!?」

「カレーとうどんが合体した! そんなことあり得るのだぁあああッ!?」


 カレーと麺類、二つの俗性を併せ持ちつつ一つであるカレーうどんであれば矛盾する問題を解消すること請け合い!!

 ここにすべての謎は解けた!!


「さすが旦那様の前では、どんな問題もたちどころに解決してしまうのね!」

「それだけじゃないのだ! これによって新たな麺類のジャンルも確立されたのだ! 雄大なるラーメンの世界地図にカレー大陸が加わったのだぁああッ!!」


 ラーメンじゃなく、うどんだけどね。

 ここまでラーメンに酷くこだわってきたヴィールなのでうどんにすり替えると色々言われるかな、とは思ったが同じ麺類だ。


 グルテンジャーであるヴィールにとって麺類皆兄弟。

 ただし十割蕎麦テメーはダメだ。

 なので多少のチェンジリングは許容範囲内なのだろう。


「素晴らしいわ旦那様! 改めて旦那様に惚れ直したわ!!」

「そんなご主人様にこそこのカレーうどんを召しあがってほしいのだ! おれとプラティが心血注いだカレーと麺類の融合を! ご主人様に最初に!!」


 ズズズイッと押し出されてきたカレーうどん。

 俺にが作ったものを俺に食せと言う。


 いやまあ、いいんだよ。カレーうどん美味しいよねって知っているし、そうじゃなきゃ作ったりしない。

 自分で作ったものだから、ちゃんと成功しているのはわかっている。


 でもな……!?

 今日俺が着ている服、真っ白なんだけど……!?


「さあ、食べて食べて旦那様! アタシとヴィールの和解の証でもあるカレーうどんを!!」

「ご主人様こそが食するに相応しいのだ!!」


 ここに来てグイグイ押してくる二人!

 ついに心を一つにしてきた!


 しかし待ってくれ!? カレーうどんは用い方によって最大の凶器になりえるんだ!

 すする際に跳ね上がるうどん! はじき出されるカレーのつゆは、衣服に付こうものならまずもって洗浄できない!


 そんなカレーうどんに、汚れが一際目立つ白衣服はまさしく鬼門。


 ちょっと待って!?

 せめてカレー染みが目立たない黒い服にでも着替えさせてもらえないかな!?


 あるいは紙エプロンでもつけさせて! えッ!? ここは焼肉屋じゃないからそんなものはない!? チックショー!!


「さあ、ご主人様ググっと行くのだ!」

「アタシたちの友情パワーの産物を! さあッ!」


 こんなに強く勧めてくるのを拒むわけにはいかない。

 腹を括って食さねば。


 大丈夫だ。要は麺を跳ねさせなければいいだけなんだ。

 慎重に箸を運び、このちょっとしたことでも荒ぶりかねない暴れんボーイなうどんを細心の注意でもってすすり……。


 ズゾゾゾゾ……。

 ピッ。


 あッ?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] 脱げよ、裸になればどーってことない
[一言] カレーな話が続きますね。 まあ、カレーとラーメンは日本の誇る二大国民食ですから。 どっちもめちゃくちゃバリエーションが豊か。 どっちも原産は日本じゃないけど。
[一言] >>NO ファミチキ NO LIFEさん そこはほら、小麦入ってないから・・・
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