724 動きだす神
皆が大好き、魔族少年のディアブロくんだよ。
今、魔都でもっともホットな流行は、パンデモニウム商会から発売されている、神の像さ。
改造を加え、自分だけの神像を作り上げる。
自己表現として格好の手段というわけさ!
魔都のナウなヤングの若者たちは皆、自分だけの世界に一体だけのオリジナル神像を持っている!
その出来栄えを今日も見せつけ合うぞ!
* * *
「フフンッ! ディアブロくん! キミのゼットハデスは今日も冴えわたっているね!」
「我が宿命のライバルにして永遠の友ベルゼブくん! キミのヴィクトリーハデスこそ、さらなる磨きがかかっていると見た!」
改造素体としてもっともスタンダードなハデス像をチューンして、ボクたちの技と魂が燃え上がる。
磨き、塗装、追加パーツの美しさと自然さ。
それらにおいて最高の水準を持っているのはボクとベルゼブくんの二人だけ。
彼に負けないために、今日もボクは愛機ゼットハデスにさらなるチューンナップを加えたんだ!
武装追加! ポセイドスフィギュアから流用された三又鉾に、自作の剣も追加してボリュームを増した!
浮きたった印象にならないよう塗装も統一し、メインカラーは明るくて清涼感のある白と青のツートンだ!
まさしく正義の使者といった感じだろう!!
「フッ、相変わらずわかりやすいヒーロー感がお好みのようだねディアブロくん!」
そう言うベルゼブくんの愛機は、頭からつま先まですべて真っ黒!
総ブラックカラーのハデスではないか!?
「黒こそ強者の色! 強くてシブい! 全身を黒で覆われたヴィクトリーハデスのカッコよさを目の当たりにするがいいッ!!」
ベルゼブくん!
まあ、全身黒一色というのはボクたちの年頃には割とありがちの発想なんだけど、彼の場合は伴う技術が一級品で、塗りムラが一切なく、しかも艶消し完璧なので、ただの真っ黒ハデスとは一線を画した仕上がりだ。
なんというハイクオリティ……!?
ボクらの年頃でここまでの仕上がりを実現できるなんて、まさかお父さんに手伝ってもらってたりしないよね?
「……」
「ベルゼブくん?」
と、とにかくベルゼブくんはボクの全力クオリティを見せつけ合うに相応しい相手なのさ!
彼と競い合うからこそ、現状に満足せずボクもボクのゼットハデスも永久に進化し続ける!
ボクらの戦いに終わりはないよね、マイフレンド!!
そうしてボクらは今日も街角で自信作を見せつけ合っていると……。
「ふんふふーん♪……あら?」
何か知らない人が通りかかったよ。
若くて綺麗なお姉さんだよ!? ボクらもそろそろ思春期真っ盛りなので、女の人が接近してくるだけで、なんだか変な気持ちになってくるのさ!
「これはもしや……、パンデモニウム商会から発売されている神々フィギュアシリーズではありませんか?」
よく知っているねお姉ちゃん!
でもただのフィギュアじゃないよ! ボクたちがセンスと技術を詰め込んだこの世に二つとないオリジナルフィギュアなんだ!
見て見て! ここがパカッと開いて中から剣が飛び出すんだよ!
「へぇえ……、よくできてますねえ……!」
このギミックの素晴らしさを理解できるなんて、お姉さん見どころがあるじゃないか!
名前を聞いてもいいかな!?
「私ですか? 私は……人呼んで『自称無能』のベレナ!」
ベレナさんっていうの?
でも何その罵倒とも言えそうな二つ名は?
大丈夫ベレナさん? 職場で辛いこととかない?
「大丈夫ですよー、そういう葛藤は随分前に乗り越えましたので。それよりも市場では神々フィギュアシリーズがこんな風に受け入れられてたんですねー。リサーチは聞いていましたが、実物を見たことがまだなかったので、こうして遭遇できたのはラッキーですね」
うん? その口ぶり……?
もしかしてベレナさんは関係者な人?
「そうですよー、今日はフィギュアの売り上げの推移と、新製品の展望を伺いにパンデモニウム商会を訪問してたんです。……先方の言う通り、想定から少々外れた売れ方をしているみたいですが、まあよくあることです」
関係者が! 関係者がついにボクらの作品に目を付けたの!?
これは凄いよベルゼブくん! 生産者に直接ボクらの熱い魂を伝える大チャンス!
今こそアピールの時……!
……そういえばベルゼブくん?
さっきから一言も喋っていないけど、どないかしたの?
「あのッ! あのそのけのこの……! きれきれきれきれ……!?」
ベルゼブくんが緊張しまくっているぅううううーッ!?
そうか、こんなに綺麗なお姉さんの前だから、シャイでチェリーなボーイであるベルゼブくんはカチコチに固まって何も喋れなくなってしまったのか!?
よし、ならばボクが孤軍奮闘するより他ないね!
ボクはまだ精神年齢が幼いので、性を意識せずに渡り合うことができるよ!
「見て見てお姉さん! ボクの唯一無二の、硬くて可変するものを!」
ボク自慢のゼットハデスを見せつけるよ!
「これはボクが一生懸命改造してカッコよいモデルにしたハデス様なんだよ! 名前はゼットハデスなのさ!」
「うわぁ、カッコいいわねえ……!」
これのよさがわかるなんて、さすが製作に関わっているだけのことはあるね!
愛想笑い感があるけれど!
「今、魔都の子どもたちの間では、神フィギュアで自分だけの改造をするのが大流行りなのさ! 特に見て見て! 手足がフレキシブルに動くでしょう!?」
ボクは自分のゼットハデスの手や足を、グネグネ動かしてみるんだよ!
「一度身体部位に切り分けてから、関節パーツを埋め込んで新たに組みなおしたんだよ! これがホビー仲間の中で一番ヒットした改造で、今や皆がマネしているのさ!」
「ほうほう、これはたしかに斬新なアイデアですねえ、一体誰が思いついたのかしら?」
驚いたかい? 気に入ったら真似してもいいんだよ?
「関節部が可動するなら、こういう工夫もできるんじゃないかしら?」
え? ちょっと貸してみてって?
いいけど大事に扱ってね。ボクの宝物ゼットハデスなんだから。
「えーと、たしか持ち合わせはあったはず……そうこれをフィギュアの手足に取り付けて……!」
えッ? 何をしようとしているのベレナさん?
壊しちゃ嫌だよ、ボクのゼットハデス!?
「……作業完了です! フィギュアの各部に、魔法石を取り付けました。魔力に反応して動く石!」
「ええッ!?」
「小さなものを手と足、頭、それに胴体に一つずつ。それらに魔力を込めて、連動して上手く動かせばどうなるか……!?」
え?……えええぇーッ!?
コイツ、動くぞ!?
ボクのゼットハデスが大地に立って歩いている!?
「これはベレナさんの改造のお陰!? ボクのゼットハデスが、まるで生きているかのように!?」
「感覚さえ掴めば操作は比較的簡単ですね……、こんな風に……!」
おおー!
剣を抜いて振り上げた! 振り下ろした!
ボクのゼットハデスがーッ!!
「凄いよベレナさん! ねえ、これボクにもできる!?」
「簡単な魔力操作さえできればね。こんなに小さなオモチャだから重量も大したことないし、魔力量よりは動作の精密性が求められそう」
ムッ、オモチャとは失敬な。
ボクの魂の絆ゼットハデスだよ!
「魔族は大体皆魔力を持っているから、一般的な基礎量で充分に動かせるから、残りは魔力操作性ね。それを上げるには練習あるのみよ」
「ボクにもできる? ねえできる?」
「もちろんよ、アナタだって魔族なんですから魔法の素養はあるわ」
やっほう!
凄いやベレナお姉ちゃん! この改造は、新たなブームを巻き起こすこと必定だね!
自分で組み立てた神フィギュアを自分の思う通りに動かせるんだから、可能性が無限大に広がっていくよ!
ところでベレナお姉ちゃん!
この改造ボクが思いついたことにしていいかな!?
そしたらボク、明日からヒーローだよ!!






