707 ヒーローの外見
そこでそろそろご登場いただこう。
「カモン! プラティ!」
「はいはいさー」
プラティが小脇に次男ノリトを抱え、長男ジュニアと手を繋いでやってくる。
我が妻プラティには、持ち前の魔法薬作りの腕を生かして研究を進めてもらっていたのだ。
ヒーローの変身システムの構築の研究を。
「これがドワーフさんの作ったベルトねー。……なるほど、注文通りの構造になっているわね?」
「それはもう……発注時に奥様と入念な打ち合わせをしましたから……!」
恐る恐るという感じで答えるエドワードさん。
そう、ここから先は作業がプラティに引き継がれる。
ベルトに組み込まれる変身システムはプラティが用意してくれているものだから!
「じゃあ早速実験と行きましょうかー。実はもうシステム自体の構築は終わっているのよねー」
「では折角ですので我らも見学を……」
エドワードさんと先生、これから何が始まるのか? という期待も込めつつワクワクで脇から見守る。
「では早速、ベルトをバックルに組み込んで……」
マエルガたちがこさえてくれたベルト帯に、ドワーフ製のバックルをジョイント!
これでひとまずベルトの完成だぜー。
奇しくもエルフ族とドワーフ族の共同作業になった。
「そして、このベルトを俺が巻く!」
「ええッ!?」
なんだい?
そんなに意外かい? このおれみずから変身ベルトを装着するのが?
しかしそれは俺の言い出したこと。
ならば俺が率先して実験台にでもモルモットにでもなってやらなければ!
俺は父親。
子どものためにヒーローに変身するぐらいわけないことだ!
けっして俺自身に願望があるとかではない!
「さあプラティよ! どうやって変身すればいいか解説よろしく!」
「あいよー」
ウチの奥さん返事がテキトーになってきてない?
もう飽きてきた?
「大丈夫よー、変身はこの魔法薬で行うわ!」
と取り出された魔法薬入り試験管。
それはやはり女性人魚らしいやり方だな。
「この魔法薬を……試験管ごとバックルにはめ込む!」
バチィン!
いい手応えで試験管がバックルにハマった!
早々こういう手応えよ!
男の子はいつだってこのガッチーンとはめ込むのが大好きだからな!
だから合体ロボットもいつまでも人気であるに違いない。
そして、ジョイントすることで試験管の中身の魔法薬がバックルの中に流れ込む!
バックル内部のコアパーツらしきものが魔法薬と触れ合い反応を起こして……。
おおおッ!? ベルトを中心に発生する膜が俺を包み込んでいく!?
全身くまなく包み込んで……?
ガシーン!
変身完了!!
「どう!?」
変身した俺の勇姿は!?
「うーん、魔法薬を応用して言われた通りの効果を発生したのはよかったんだけど……!?」
え? 何?
その微妙な反応は?
せっかくベルトから発生した全身装甲がくまなく俺を覆ったというのに、まだ何か問題が?
『自分で確認してもらうのがよろしいでしょうのう』
見学していた先生が指を振ると、虚空から現れる反射体。
鏡か。
しかも俺の身長よりデカい鏡。
なるほどこれで自分の姿を見ろってことですな。さすが先生、こんな姿見を即座に用意できるなんて何でもアリだぜ。
では確認確認……なんだこれ?
たしかに魔法薬で発生した黒い膜に全身覆われて、あたかも変身したような状態になっているがあくまで黒膜に覆われているだけで様相は極めて単純で、まるで黒の全身タイツのようだった。
当然、ヒーローらしい颯爽さなど欠片もない!?
むしろ悪の組織の戦闘員みたいな出で立ちだ!?
「ぱぱ、かっこわる~い」
とどめにジュニアからもダメ出しされてしまった!?
ヒーロー創造計画、大失敗の巻だああああああああッ!?
「ふーむ……デザインに難アリだったわね……」
その横でプラティが冷静な分析をする。
「全身を一時的に覆う膜状魔法薬に細工して、一定の形状記憶できるわ。それでデザイン性を上げるというのはどう?」
即座に対応策を講じるなんてプラティ、何て有能なお嫁さんなんだ!?
早速お願いいたします!!
「じゃあ、何かモチーフのリクエストある? アタシも何のとっかかりもないところからデザインって難しいのよね、専門家でもないんだし……」
なるほど。
たしかにイメージの共有は必要だよな。
ヒーローらしい様相、ヒーローらしいモチーフといえば……。
「……バッタ?」
「え?」
「バッタっぽいデザイン?」
「なんで? ヒーローってバッタなの? ヒーローがバッタってあんまり連想しにくいんだけれど!?」
いやプラティの言わんとしていることはわかる。
しかしヒーローといえば何より根源がバッタなのだ! それこそが原初神のご意向でけっして覆されることはない!
「せめてもうちょっと雄々しい感じにならないの……? 同じ虫でも他にもっとこう……あるでしょ!?」
うむたしかに。
虫に限っても子どもたちの間ではカブトムシとかクワガタの方が大人気だもんな。
男の子は皆あの角やハサミに夢中になるのだよ。
「ふむ……、そう言うことならやりようはあるわね」
「えッ? どういうことプラティ?」
「生き物をモチーフにするなら、その生命因子を魔法薬に混ぜ込ませればデザインに影響を与えることもできるわよ。それだけでなくその生き物の生態的特徴も能力として付加されるでしょうね」
「何それカッコいいッ!?」
それこそ変身ヒーローのお約束そのものではないか!
大体、特撮ヒーローは時代が進むごとに原型から飛び立ち、様々なモチーフで彩られた様々な新キャラが登場するもの。
アレモチーフも、コレモチーフも、大変カッコよかったです!
「ゾス・サイラからパクった技術を応用すれば生命因子の取り込みは簡単だわよ。そうねえ、どうせならバッタより強いヤツの生命因子を貰おうだわよ!」
何が何でもバッタから離れたいプラティ。
いいじゃない、バッタもカッコいいでしょ?
「幸いこの農場には、世界最強の生物が住み着いているじゃない。ソイツから生命因子を貰うことも簡単だし、その方がよっぽどヒーローらしいわ!」
バッタもいいよ?
そしてプラティが誰のことを言っているかも大体察しが付く。
生物的に最強なのは何者か?
それは、こちらの世界ではとっくに結論が出ている。
最強生物ドラゴン。
海だろうが陸だろうが空中だろうが……、世界中いかなる場所でも無敵無敗の力を誇るドラゴン。
そのドラゴンの能力とデザインを取り入れたヒーローならば最強だし人気爆発ではあるまいか!?
とプラティは言うのだ。
そして、そのドラゴンの生命因子を取り入れるには、我が農場に限定して有力なアテがあるのだ。
そう、我が農場に住み着くドラゴン、ヴィールがな!!
* * *
「嫌なのだー」
と思ったら速攻断られた。
どういうこった!?
「どうせなら、おれ様のパワーはジュニアに使ってもらうのだー。だから変身するならジュニアの方がいいぞ! ご主人様はまずテストケースとして、ジュニアより先に頑張ってほしいのだー!!」
「のだのだー」
と言ってジュニアを抱きかかえるヴィール。
コイツもすっかりジュニアファーストになってしまって……!?
うむ、さすればヴィールの他に生命因子を分けてもらう強力な生き物を探そうということになるのか?
でもいるかなあ?
さっきも言ったが、特撮ヒーローといえば定番はカブトムシかクワガタだろう。
しかし俺たちにカブトムシの知り合いもクワガタの知り合いもいない。
それ以外で、ヒーローのモチーフに相応しい獣もしくは昆虫が……、俺の知り合いにいたっけ?







