705 父子はヒーローを求める
さて、こうしてついに農場留学生の全員が片付いて、新しい試みをしたくなってきた。
俺には最近、思っていることである。
我が子たちについて。
もっと我が子たちと遊びたい、もっと我が子たちに好かれたい、子どもたちが大人になったあとも心に残り続ける素敵な思い出をもっと共有したい。
そう思うと、どうしても必要だと思うものが、この世界にないということに気づいたのだ。
「なあ、プラティ……」
「どうしたの旦那様?」
「この世界にはどうしてヒーローがいないんだろう?」
「何言ってるの!?」
ジュニアやノリトにごはんを上げながらプラティは叫ぶ。
「旦那様が突拍子もないことを言うのはいつものことだけど、今回尚更突拍子もないわね? 詳しく窺ってもいいかしら?」
「ジュニアにもノリトにもヒーローが必要なんだ!」
「子どもらにとってはパパこそがヒーローなんじゃないの?」
そうだととっても嬉しい。
『我が人生に意味はあった』と言えるレベルでの嬉しさだが、それとはまた違うんだ。
「他にヒーローと言ったら……世間的なヤツ? 勇者は充分にヒーローと言えるし、魔王さんやS級冒険者も、一般人からの憧れのレベルは充分にヒーローと言えるでしょうけれど」
たしかにそうだ。
でも違うんだ。俺が求めているのはそんな実益的なヒーローではなく。
「子どもの……子供時代の思い出を彩る、そんなヒーローのことだ!」
「だから何なのよ?」
プラティが『サッパリわかんねえ』といった顔つきで俺のことを凝視するのであった。
彼女がわからないのも仕方ないか。
これは俺自身の幼児体験に根差したものなんだから。
これは最初から語らねばなるまい。
俺自身がまだ子どもの頃……即ち、まだ前の世界にいた時、俺がもっとも憧れていたのは、身近な偉人やスターではなく……。
テレビの向こうにいるヒーローだった。
彼らは週に一回必ず会いに来てくれて、その勇姿を高らかに俺に見せてくれた。
超人的パワー、不屈の精神、そして華麗な必殺技で毎週毎週必ず敵たちを葬り去り、正義の所在を俺たちに示してくれた。
夢見る幼い俺たちに。
そんな彼らの勇姿を刻み付けられた俺たちの幼少時代はキラキラと輝いているんだ。
子どもの頃というのは、誰にとっても一番特別な時期!
その時代を彩ってくれたヒーローこそ、その人の記憶にもっとも残る、特別なヒーローなのだ!
毎週一回日曜の朝、子どもたちの下へ訪れてくれるヒーローが。
「ジュニアやノリトの下にも、そんなヒーローが訪れてきてほしいんだ!!」
「はんはん、はぁああ……?」
そんな気のない相槌打たないでプラティ。
男の子にとっては大事なことなんだ!
上の子も大きくなって言葉とか理解できるようになってきた。
さすれば俺自身の子どもの頃を思い出して、あの頃はあのヒーローに夢中だったなあ、なんてこともイモヅル式に思い出す。
あの頃のときめいた気持ちも。
俺的にも、子どもと一緒に毎週日曜のヒーローたちを応援するのは父親の夢!
もう何十年続いているシリーズもあるからな。
子どもが夢中になる最新版をその後ろで見て『今はこういう風になってるんだなー』と時代の流れを感じつつ、自分が子どもであった頃の自分だけのヒーローを思い出す!
そしてあの頃の子ども魂が熾り始め、大人になったことで得た経済力を武器にあの時買えなかった玩具を買い漁る!
『子どものため』という言い訳を免罪符に!
カードもメダルも時計もなんでも集めてやるぁああああああッッ!!
ということを親としてやりたいんですよ。
しかし残念、俺は異世界で結婚し子どもを作った。
そのこと自体はいいんだが。
異世界にはテレビはないし、テレビが流す番組もない。当然ながら子ども向けの特撮番組だってないし、その中で大暴れする特撮ヒーローだっていない。
「異世界で俺たちは、ヒーローを共有することもできないのか……!!」
ガックリと肩を落とす俺。
その横でプラティが『?????????』という表情をしていた。
望みが断たれる思いに打ちひしがれようとしたとき……。
いや待て……?
俺はこの異世界で今日までどうしてきた?
そう、ないものは自分自身で作り出すのだ。
作物も家も、その他様々な道具も、全部自分のアイデアと、仲間たちの協力で作り上げてきたじゃないか!
ヒーローだって作れる!!
俺自身の手で、この世界にニチアサ特撮ヒーローを創造するのだ! 可愛い我が子たちのために!!
よし決定!
「プラティ協力してくれ! 俺たちの手でヒーローを作り出すんだ!」
「世界を裏から演出しようとでもすんの?」
字面だけ聞いたら完全に悪役のセリフだった。
* * *
詳しく詳らかに解説すること小一時間。
やっとプラティに俺の意図を正しく伝えることに成功した。
「要するに、旦那様の元いた世界に、子どもなら必ず見るような決定版の絵物語があったわけね」
「そうそう、そう言う感じです」
アニメとか特撮を正確に説明するとなるとまた原理とかが面倒くさくなりそうなので上手く割愛した。
「で、こっちの世界でも私たちの子どもにそう言うのを見せて上げたいと?」
「そうです! 男の子の夢なんです!」
どうか我々父子に夢を見させてやってつかぁさい!!
「……ふッ、仕方ないわねえ。男って何歳になっても心はガキのままなんだから」
「お、おう……!?」
「そんな男の子に付き合ってあげるのが女の甲斐性ってヤツよね! いいわ、この世界最高の魔法薬使いプラティ様の名に懸けて、そのヒーローをこっちの世界でも顕現させようじゃない!」
プラティ!
なんていい女性なんだ!
キミと結婚できて本当によかった俺!
「……じゃあ、子どもの夢となるヒーローの具体的な特徴を聞こうじゃない。何事も具体化させないことには形にならないのよ?」
たしかにプラティの言う通りだ。
俺の中でヒーローの代表というべき像は……。
「……ベルトをしている」
「?」
プラティが首を傾げる。
「ベルトなら……誰でも巻いてるもんじゃないの?」
「違うんだ、そういうものじゃないんだ!」
わかんないかなあ、もう……!?
「特別なベルトなんだよ! ヒーローはそれを使って、普通の人間からヒーローへと変身するんだ! つまりは変身ベルトなんだよ!」
「変身ベルト? ベルトでどうやって変身するの?」
「そりゃあ、ベルトに風を当てたり……、もしくはメダルとかメモリとか携帯電話とかを差し込んだり……」
「そんなことして、どういう原理で体が変わるっていうの?」
「それはぁ!?」
それはもっとも聞いちゃいけないことですよ!?
「そもそも、なんで体が変わらなきゃいけないの? 別に普通の姿のまま戦えばいいじゃない?」
それももっとも言っちゃいけないこと!
違うんだ! ヒーローというのは変身してこそ本気で戦える存在なんだよ。
変身してこそ派手さが増して、非日常感を演出し子どもたちを夢の世界へ誘うことができる!!
そして変身したヒーローを模したソフビ人形や玩具も売れるんだ!
製造技術の問題的にも、変身前の俳優の人形では売れない!
「なるほど……、大体わかったわ」
『大体わかった』。
それは理解を放棄した者の宣言。
「じゃあ、ヒーローは変身するためのベルトを着けるとして、他に特徴はないの?」
「バイクに乗ってる」
……は、そこまでこだわらなくてもいいか。
最近のに近づくほどあんまりバイクには乗らなくなるし、あまつさえ自動車を乗り回すヤツまでいる。
そもそも異世界でバイクまで用意しようとすると難易度が格段に跳ね上がるし、ここは無期限保留としておこう。
「それから……、それからヒーローの特徴というと……」
何があっただろうか?
もう数十年の長きにわたって続くヒーローたちに共通する特徴って、案外とないんだよな。
既にもう何十人もいるから。
その中で……あ、あった。
よくファンの間で話題になる、すべてではないが多くのヒーローに共通する特徴。
「ヒーローの多くが無職!」
「……」
それを聞いた瞬間、プラティの表情がこれまでにないほど苦々しく変わった。
「無職のヒーロー……? それ……子どもたちに見せてもいいの?」
「大丈夫! 全然大丈夫!」
だってヒーローたちは地球の平和を守ることこそが重要な仕事なんだから!
信じて!







