701 聖者のコメント
俺です。
リテセウスくんからの長いお手紙を読み終わりました。
原稿用紙百枚分を超えそうな大作であった……!?
「彼も故郷で頑張っているようだな……!」
今は現地でできた協力者と共に、自領の立て直しに全力を挙げている模様。
ここで培ったことを最大限活用し、魔法を操り、剣を振るい、ダンジョン攻略やモンスター討伐の知識も駆使し、人脈すら活用する。
ここで学んでいることは役に立っているようだった。
『よかった……! よかったのうぅううううう……!!』
一緒に手紙を読んでいたノーライフキングの先生は、途中から感涙に咽いでとても読めない状態。
あのミイラのようなお体に、どこからあんな水量を絞り出せるんだろうというぐらいにお泣きあそばしている。
ああ、やっぱり涙のふるさととは……。
心か。
「それはともかく、ヴィールのヤツ何してるんだ……!?」
リテセウスくんからの手紙に見知った登場人物が幾人か出てきたげれど。
ヴィールが出てきたことに一際ビックリだ。
何やってんだアイツ?
しかも劇物のゴンこつラーメンを気軽に。
「アイツ、ドラゴンエキスの処理に焦って最近手段選ばなくなってきてるな……!?」
そのうち井戸水にでも混入させて不死身の超人集団でも量産してきそうだから注意深く見張っておこう。
生徒からの近況報告の手紙は、リテセウスくんの他からもたくさん届いていたが、やはり一番読み応えのある波乱万丈なのはリテセウスくんだった。
他の生徒たちは押しなべて平穏無事に過ごしているようだが、そうした何の変哲もない日常をつづった手紙を先生は嬉しげに読んだ。
読み終わると綺麗にたたんで元の封筒に戻す。
『……この手紙を大切に保存する箱を用意せねば』
はい。
『ちょうどいいサイズで、どうせだから装丁に凝ったものがいいですなあ。この手紙にこもった気持ちに匹敵するくらいの煌びやかな装飾を……! そうだ、農場に出入りしているドワーフに頼みますか。ウチのダンジョンに産出するマナメタルが報酬でよろしいかの?』
「はいはい」
先生が依頼主なら、その場でレイズできて安心ですね。
ノーライフキングの先生が死してから買い物をするのって初なんじゃなかろうか。
そのような奇特なことをさせるほどに生徒たちへの愛は強い。
「箱に入れて大切にしまっておくのもいいですが、いつも目に留まるように壁に張っておくのはどうです?」
『ほほう、いいですな?』
たとえばコルクボードとかにピンで刺して、数々の思い出をいつでも眺められるように……。
……。
……想像したら女の子の部屋みたいだ。
先生のダンジョンの最奥が。
まあ。
生徒たちからの手紙は他にもあるので、そちらをキリキリと読んでいこう。
続いてのお便りは、魔国在住のエリンギアさんから。
魔族の生徒で代表的な存在でもあったから、リテセウスくんの次に紹介するのも当然と言えるだろう。
そんなエリンギアさんからのお手紙を読んでいきますと……
――『リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい。リテセウスに会いたい……』
……。
うわぁ。
ここ農場で学んでいた時点から、チョロいタイプの彼女はリテセウスに首ったけだったが、卒業して各々の故郷に帰って、こんな闇が出てくるとは。
『リテセウスは人族で、エリンギアは魔族。卒業すれば離れ離れになるのはわかっておりましたがのう』
先生ですら、この重苦しい手紙の文面に若干引き気味であった。
こうなることはおおよそ予想できていたから、何らかの手段を講じようとしたこともあったんだが、エリンギア本人から『必要ない!』って拒まれたんだよなあ。
ツンデレ特有の強がりであることは目に見えていたけど、『本人が言うなら』と本当に何の手も打たなかったのが裏目に出た。
今からでもなんか手を打っておいた方がいいかも。
「でも、冒頭からリテセウスへの執着的な想いを一通り吐き出しきったあとは、比較的まともですよ?」
やはり人間(魔族?)、話した(書いた?)だけで落ち着くものなのだろうか。
序盤の恐怖めいた内容とは打って変わって、そこから脱した中盤以降の文面は極めて理知的な現状報告の手紙だった。
元から魔王軍の若手軍人たちだったエリンギアたちは、帰国後再び魔王軍に所属し、働いているそうな。
軍から離れていた間は、幹部候補生としての特別カリキュラムを受けていた扱いになっていて、復職したのちは出世街道のド真ん中を歩くエリート。
『そんなに特別扱いしていいの?』と若干不安でもあったが、ここ農場で受けた修行を鑑みたら、それでもOKなのかな?
『当然ですぞ! 彼らもワシ自慢の生徒たちではないですか!』
と言ってエキサイトするのが先生。
『彼らはワシの授業についてきてくれた立派な者たちです! どこに出しても恥ずかしくありません! 彼らの教育に当たったワシらが、彼らの成長を疑ってどうします!!』
「はいはい、どうどう……!」
興奮する先生をなだめるにも一苦労。
先生的には自分の施した教育の確かさではなく、それに応えて頑張った生徒たちを信頼する気持ちが十五割ぐらいであった。
『エリンギアはもちろん、他の魔族の生徒たちのワシの授業を熱心に聞いて、神クラスの精霊との契約を果たしたからな。大成長ですぞ。お陰で禁呪クラスの攻撃魔法だって自在に操れるほどなのですぞ』
チューンしすぎですよ先生。
さすがにそんな強化を加えられた日には、魔王軍に戻った彼女らが出世街道を駆けあがるのも当然となりそうだ。
今いる幹部クラスの魔王軍人さんなんて形なしだろうな。
ベルフェガミリアさん辺りはまだまだ安泰だろうけど、マモルさんとかがプリバロンしてしまう!!
……まあ、彼ほどの苦労人がトップから退いたら組織が持たないだろうからその辺は大丈夫か。
じゃあ、サクサクと読み進んで……。
えーと、何々……?
「農場を卒業した魔族たちは、それぞれ魔王軍の様々な部署で働いているみたいですね。新しく四天王補佐になったり指揮官職に就いたり……」
そんな中でもエリンギアは、魔王軍の新人士官を指導する立場に着いたそうだ。
日々生意気な新人相手をぶっ飛ばして性根を矯正しているとのこと。
まるでかつての彼女自身のようだな。
エリンギアも魔族が最強だなどと思い上がった考えを改めさせるのが、農場に送り込まれるきっかけだったのだから。
歴史は繰り返すというヤツ?
「さて、エリンギアの手紙も読み終わって、次は……」
農場を巣立っていった卒業生はまだまだたくさんおり、しかも皆が律義なことに現状報告の手紙を送ってきてくれている。
リテセウス、エリンギアの手紙を読み終わったなら、やはり次は人族魔族ときて人魚族だな。
人魚族を代表する生徒たちはやはり先ごろ魔女認定を受けたディスカスたち四人娘だ。
彼女らは、農場の仕事を手伝わせるためにプラティなどが手塩にかけて育てただけあって卒業後も農場の発酵食品部門や冷凍部門を切り盛りしてもらうこととなっている。
しかしその前に一回ぐらい親兄弟に顔見せする必要のあろうということで、彼女らは一旦里帰り中。
卒業から社会人として働きに出るまでの休暇と言い換えることもできた。
とはいえそのために一時的とはいえど農場からほとんどの人魚が去っていったためにプラティなんかは忙しさで目を回している。
ガラ・ルファとエンゼルも手伝いに回って、なんとか状況を支えているという感じだった。
――『ディスカス! ベールテール! ヘッケリィ! バトラクス! 早く帰ってきて!』
と真に迫った悲鳴を上げておったが、そんな彼女たちは今、故郷の人魚国でどう過ごしているのだろう?
ひと時の休暇をのんびりと過ごしているのだろうか?
その模様を、送られた手紙で知っていくことにしよう……。






