700 農場卒業生の活躍・人族編(7/7)
「へッ? 僕が領主?」
唐突なことを言われて咄嗟に言葉が出てこない。
しかし周囲は、すぐさま一つの流れを作って突き進んでいく。
「それはいい。聖者様の下で学び、薫陶を受けたリテセウスくんだ。その能力は充分領主の任に堪えられることでしょう」
と言ったのがダルキッシュ様。
「今回、荒れ果てたこの領の問題を解決し、再建の土台を整えたのは彼。その功労に報いるためにも、領主の任命は相応しいと存ずる」
「おお! オレたちもリテセウスがアタマ張ってくれるなら喜んで付き従うぜ! アイツの手足になって働いてやらぁ!!」
何故かゼピニオさんまで全力賛同。
ちょっと、ちょっと待ってください!?
「推薦してもらえるのは光栄ですが、身に余ります! 僕は元々ここの領主館に仕える奉公人に過ぎませんでした! しかも生まれは外れの村で、とても高貴な血統じゃないんですよ!?」
「聖者様から聞いたが、キミの体には神の血が色濃いそうじゃないか。先祖返りで大きく発現したとか。であれば血の高貴さは、現領主家など比較にならない」
ダルキッシュ様から指摘された!?
オークボ城を巡って農場と密接な関わりのあるダルキッシュ様は、色々知っている。
「仮にそうでなかったとしても、もはや時代は変わり、責任ある立場には血統ではなく実務能力が優先されるようになっている。さっき連行されていった痴れ者のように、前領主の息子というだけの無能に領を引っ掻きまわされても困るのだ」
サルダケースのことか……!?
「何より実際問題として、血統で選ぶとしたら次に誰をここの領主に据えればいいのだ? 前領主サルジオ殿には、たしかあのバカ息子しかいないのだろう。だからあんなバカでも領主に任じるしかなかった」
「能力だけではない。一領を守り支える者は、何があろうと領地領民を見捨てないという慈しみが必要だ。キミがこの地を愛していることは今さらたしかめるまでもない」
『そうだそうだー!』と野次めいた声が飛ぶ。
居合わせた元野盗の人たちか?
「誰かがやらねばならぬのだ。それならば、もっとも適した者が名乗り上げるべきだと思うが?」
マルバストス総督は、何の後ろ盾もない下積みから苦労して、魔王軍四天王と同格の地位まで登り詰めて、人間国の総督という任務を得たと聞く。
そんな人の呼びかけだから一際重たかった。
たしかに、サルダケース亡きこの領を支えていくのは、僕ならば可能かもしれない。
農場で学んできた色んなことを、この土地で生かせることだろう。
領内を、農場と同じぐらいに発展させ栄えさせていけば、先生も聖者様もお喜びになるかもしれない。
しかし……。
「申し訳ありませんが、断固辞退いたします」
「オレたちを見捨てるのかよッ!?」
既に元野盗の人たちの慕い方が怖いレベルなんだが。
「もちろん僕もこれからこの領の再建に全力を尽くします。ですがそれは領主の立場でなくても可能です。トップに立つ人は別でもいい」
「しかし、その当てが……」
「あります」
当てならある。
その人に、これからお願いしに行こう。
* * *
改めて、裁きの舞台になったのは領主館。センデキラス領の主が本来住むべきお屋敷だった。
その室内に入りズンズン進む。
そしてある人がこもる部屋へと入った。
「失礼します」
前領主様のお部屋に。
体調を崩した領主様は今もベッドに伏せ、この部屋ももう寝室というより病室という気配だった。
「いや待て……!? まさかサルジオ殿を!?」
オセンニム様が言う。
前領主様の御名をサルジオ様という。
ダルキッシュ様より年配の領主様なので、ウチのご主人様とも面識があるよう。
「オセンニム殿……それに、ビシュディリア卿のご子息であらせられるな。立派になられた」
「ダルキッシュにございます」
若き領主ダルキッシュ様も挨拶する。
前領主様はベッドから首を回すだけで、寂しげな微笑みを浮かべられた。
「彼は後継者に恵まれたの。そなたが継承すればワルキア辺境領は安泰であろう。逆に後継に恵まれなかった私としては、羨ましい限りだ」
前領主様が伏せっていた離れは本館から遠いが、それでもあのサルダケースの無様な叫びはここまで響いていたのかもしれない。
「一人息子なので甘やかしすぎました。使用人からも進言は受けていたのですが、いずれ改めて教育すればと思っているうちにこんなザマになりまして……。まこと領主失格ですな」
「ご子息のことは庇い立てできませんが、死一等は減じるつもりでおります」
マルバストス総督も同席し、声厳かに言う。
「彼が失墜し、空席になったこの領の主の座ですが、アナタに再び就いていただきたいという話になった」
「何をバカな……!」
前領主様の声はか細いが、拒絶の意志はしっかりとしていた。
「私が領主の座を退いたのは、務めを果たせない体になってしまったからです。体調はあれから変わらぬというのに、領主の座に戻れるわけがない」
もちろん理由はそれだけじゃないだろう。
血を分けた息子がまったく期待に背き、守るべき領をメチャクチャにしてしまったのを父親として前任者として責任を感じているに違いない。
その件についても前領主様をじっくり説得していきたいところだが……。
「体調に関しては大丈夫です。すぐにでも回復するでしょう」
僕は言った。
「そのために打ってつけの人材を呼んであります」
「「「まだ呼んでるの!?」」」
もちろんですよ。
使えるものは何でも使え、神でも使えが聖者様と先生の教えですので。
トントン、とドアがノックされた。
「まいどー、出前なのだー」
ドアを開けて現れたのは可愛いちんまい女の子。
しかしその正体は可愛さとは程遠い。ドラゴンのヴィール様だ。
「ヒィイイイイイイーーーーーーッ!?」
その正体を知るダルキッシュ様だけが恐慌の悲鳴を上げた。
「おらー、呼ばれて飛び出てきてやったぞー。ニンゲンの分際でおれ様を呼び出すなど。やっぱ神どもの血が混じってるとゴーマンなのだー」
「すみません、来てくれてホントありがとうございます」
でもアナタだって得があると思ったからきたんでしょう。
段々とアレを処理できる機会が少なくなってきてますもんね。
「よっしゃー、だったら約束通り食べてもらうのだー。ゴンこつラーメン大盛、バリカタなのだ!」
ドンと置かれたラーメン丼ぶり。
その中にはもうもうと湯気立つ白湯のスープに、針金のように細い麺が沈んでいた。
あとネギときくらげと高菜と紅ショウガ。
「これは一体……!?」
「旦那様。まずはスープを飲みましょう」
蓮華でスープを掬い、口元へとお運びする。
一口啜って……。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!!」
覿面に効果が出た。
病身であった前領主様がいきなりベッドの上に立ち上がり、咆哮と共に気炎を巻き上げていた。
「ほえええええええええええええッッ!! ちょわああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?」
「えッ? えッ? 一体何事?」
想像を絶する病人の激変に、マルバストス総督ですらドン引き。
ヴィール様がドラゴンエキスを元に作り出したゴンこつラーメンは、そのスープを人類が摂取したらパワーアップしすぎて破裂しかねないというシロモノだ。
このゴンこつラーメンには、そのドラゴンエキスが一滴だけ入っている。
それでも病人が超人になるくらいの効き目。
「ほんのぉおおおおおおおッッ!! 急に力がモリモリ湧いてきたぞおおおおおおおおッ!! これならあと三百年は現役でいられるわああああああああッッ!!」
「よかったです前領主様! いえ現領主様! この勢いで再び領内を取りまとめてください!!」
「わかったぁああああああああああああッッ!!」
快活な返答に、居合わせたマルバストス総督、ダルキッシュ様、オセンニム様が揃って脱力するのだった。
* * *
このようにして僕は、故郷で起こった様々な問題を解決したのです。
農場で学んだ様々なことを活用して。
いかがだったでしょうか?
先生?
聖者様?







