698 農場卒業生の活躍・人族編(5/7)
「領主の手先だと? ふざけやがって……!」
農場卒業生リテセウスただ今絶賛戦闘中です。
領内を騒がせている野盗との捕り物で、その一味と対峙。
「オレたちが物盗りにならなければならなかった理由を作っておいて何をほざきやがる! すべてはお前たちが無能で強欲なせいじゃねえか!」
「いや、それは現領主の責任で……」
僕は前領主に従う者と言ったんだが、そんなことささいな違いなんだろうなあ。
今の彼らにとって権力者はすべからく皆、敵だった。
「オレたちは大人しく捕まるつもりはねえ! 小僧、若いからって手加減しねえぞ、戦場に出てきたからには相応の覚悟を持ってるんだろうな!」
リーダー格の男が剣をかまえて言う。
彼らを閉じ込めている結界を消すには術者である僕を倒すしかない。
なのでリーダー含めて全員剣を抜き、その切っ先を僕に向けていた。これが針の筵ってヤツかな。
「もちろん、これでもそれなりの場数は踏んできたつもりだよ」
ダンジョンに入ってモンスターと戦ったり。
あとは模擬戦ながらもオークボさんと戦ったり、ゴブ吉さんと戦ったり、レタスレート姫と戦ったり……。
「ガキが生意気な口を利くじゃねえか。こちとら兵役で駆り出され、一般兵として人魔戦争の地獄を潜り抜けてきたんだぜ。お前の言う場数とやらが、本当の実戦と遜色なければいいがな……!」
そう言うリーダー男のかまえは実戦的で、たしかに本当の生き死にを経験した凄みがあった。
僕もそんな相手を決して甘く見ない。全力で相手をさせてもらう……!
「うぎゃあぁああああああーーーーーーーーッ!?」
そしたら一撃で決まった。
ぶつかり合った瞬間相手の剣だけが粉々に砕け、それだけで収まらず相手の男は体ごと吹き飛ばされる。
「ぐおごろろろろろろろろ……ッ!?」
地面にぶつかりバウンドし、ゴロゴロと転がって、結界の壁にぶつかることでようやく止まった。
「お頭ぁッ!?」
「お頭がただの一発で!? あんなガキ相手に……!?」
「何の冗談だよぉ? そんなのあるわけねえだろぉ!?」
リーダーがやられて今度こそ大混乱をきたす野盗集団。
やはり一人の強烈なカリスマ性に率いられた烏合の衆でしかなかったか。頭さえ潰してしまえばもう勝ったも同然。
「もうこれ以上抵抗しないでください。大人しく投降してくれれば無駄に傷つけるつもりはありません」
そう言って僕は馬車から降り、結界の端へと向かう。
全身叩きつけられぐったりとしている野盗リーダーへと向かい……。
「ぐ……!?」
倒れる彼と見下ろす僕。
完璧に勝者敗者の構図であった。
「まだ名前を聞いていなかったが?」
「ゼピニオ……これで満足か?」
ではこれから野盗リーダー改めゼピニオさん。
話をしていこうじゃないか。
「こんなガキに一撃瞬殺されるなんて……オレもヤキが回ったぜ。すべての罪は頭目であるオレにある。オレのことは縛り首でも磔にでもするがいい。代わりに他の連中には寛大な処置をしてやってくれねえか」
既に敗北を認めて腹を括ったということか。
すべての責任を自分一人で取ろうというのは立派だが。
「どんな理由があろうと犯罪に走った事実は変わらない。アナタが唆したんだとしても、それに乗って盗みを働いたのは彼ら一人一人の判断だ。自分の行いには自分で責任を持たなければいけない」
「そうなるまで追い込んだのはどこのどいつだ!?」
野党のリーダー、ゼピニオは吠え掛からんばかりの語気で言う。
僕との激突で全身ガタガタになっているだろうに、それでも闘志を失わない気概は凄い。
「この領が荒れ果てたのも、オレたちが強盗なんぞに落ちぶれなければならなかったのも全部領主が悪いんだろう!? 領主は、自分のするべきことをせずに領民を見捨てた! 反逆されて当然だろうが!?」
耳が痛い。
この領で起こった問題のすべてが、結局は一人の男の怠惰と自分勝手に帰結するからだ。
「領主がやるべきことをやらなければ民は飢える! その上重税まで取ろうというなら領主が民を殺しているようなものじゃねえか! だからオレたちは立ち上がるしかなかった! 死なないためにはな!」
「責任ある者が守ってくれないなら、民は自分で自分を守るしかない。法なんかも必要ない、となるわけか」
聖者様の故郷に『残忍な政治は、獰猛な獣よりも恐ろしい』という言葉があると教えられた。
たしかに民を顧みることのない冷酷な王や領主は、モンスターより何倍も多くの人を苦しめるし殺す。
人に危害を加えるモンスターは、狩人や冒険者によって退治される。
「無能で人から搾ることしかできない権力者も退治されなければならない」
「は?」
「その上で、荒れ果てたこの領を立て直さなければならない。その手助けをアナタたちの償いに当てようと思うのですが、どうですか?」
「ちょっと待て!? お前は領主の手先なんだろう!? 自分の主を裏切るって言うことか!?」
だから現領主じゃなくて前領主の部下なんですって。
しかしそうした小さな違いは、やはりスルーされてしまうのだろうか。
「裏切りにはなりません。主が道を踏み外しそうになった時、命を懸けて諌めるのも部下の役目だと教わりました」
あれは、特別授業で講義しにきてくれた魔王様からだったな。
『君主と臣下の関係について』という有り難いテーマでたっぷりとお考えを聞かせてもらった。
「ここの領主はやるべきことを行わなかった。アナタたちの言う通りです。だからこそ罰を受けなくてはならない。それが果たされたあとで、いよいよ領民の皆さんが安心して暮らしていけるように領を改善していかないといけない」
それには人手が必要だ。
範囲の大きいことなので、さすがに僕一人じゃまったく手が回らない。
「アナタたちに手伝ってほしい。人々を守るために立ち上がった人たちです。実際頼りにできるものと期待しています」
「ほ、本気か……? オレたちは領主に歯向かった犯罪者だぜ?」
「現領主については、反抗されて当然のボンクラだから仕方ありません。しかし法を破ったことは、なあなあにしては後々絶対に問題になりますからケジメはきちんとつけてもらいます」
とはいえ、そっちの権限がまったくない僕の一存ではこれ以上どうにもならんけどな。
でも決して悪いようにはしない。
その意図が伝わったのだろう野盗リーダー、ゼピニオは四肢の力を抜き、項垂れた。
「……一時はオレが領主の代わりになってでも……と覚悟していたんだが、やはり思い上がりだったな。こんな若僧が何倍もその役割に似合っている」
「僕はただの従僕です。領に尽くしたい気持ちはありますが、自分がトップになんて大それた考えは持てません」
「小せえクセに欲のない野郎だ。だけど誰かが、今のボンクラ領主の代わりにならなきゃ、この領をよくすることはできねぇぜ。オレたちを率いたいんなら、それくらいの覚悟は見せてくれよ」
周囲の野盗仲間が息を飲んだ。
実際には野盗ではなく、反乱を起こした不平領民と言ったところなんだろうが。
彼らのリーダーは今や完全に兜を脱ぎ、目の前の若者に望みを託すつもりでいる。
「安心してください。責任を押し付ける相手にはたくさん心当たりがありますんで」
「信頼していいのかよくわからん請け合いだな。しかしこれを断っても縛り首しか待っていないんだろう。オレだってできればもう少し生きて、この土地のために役立ちてえ」
ゼピニオさん。
立ち上がって言う。
「そのためにお前がオレを使ってくれるって言うなら。とりあえずその話のってやらあ」
「『とりあえず』ですか?」
「お前が、全幅の信頼を寄せられるような頼もしさがあれば即決してたさ。もう少し堂々とした振舞いを心掛けな」
差し出された手を握り返し、協力関係の成立となった。
領内を騒がせていた問題が消え去り、代わりに頼もしい協力者を迎えられたのだからこれほど頼もしいことはない。
これで準備は整ったと言える。
満を持して、一番の元凶を取り除くことにしよう。
* * *
「リテセウス! 死んでいなかったとはな! 見苦しい生き汚いヤツめ!」
それが数年ぶりの再会の第一声だった。
僕が忠誠を誓うセンデキラス領主様の息子、サルダケース。
今はコイツ自身が領主らしいが、最後に会った数年前から輪にかけてでっぷりと肥え太り、目の濁ったブ男になったな。
「しかしまあ、ボクのために手柄を挙げたというからには褒めてやらねばなるまい! 領主としてな! 最近領内を騒がせていた賊を捕えたとはグズのお前にしては上出来だ!」
アイツを迎えた領主館の玄関先には、縄を打たれた男たちが数十人と並んで座らされていた。
その中には、あのゼピニオさんもいる。
そう彼らは捕縛された野盗集団だった。
「領民の分際で、領主たるボクに逆らうなど言語道断! 見せしめに全員火あぶりにしてやる! ボクに逆らった罪深さを思い知れ!」
野盗集団が捕縛されたというニュースが流れた途端、サルダケースは嬉々として領内に戻ってきた。
これまでコイツは領主でありながら領外の大都市で遊び惚けていたと聞いていたが、何のことはない。
真の理由は、野盗が怖くて逃げだしていたのだ。
「はーっはっはリテセウス! バカなりにこの領主サルダケース様の役に立ってくれたな! ここから出て行った何年か前より多少マシになったじゃないか!? これから先もボクのために死ぬ気で働くというなら、領主の恩情で馬小屋ぐらいに住む許可を与えてやろう! これからもボクに無限の忠誠を誓えよ! ハーハッハッハ!」
コイツは、僕が旅立った数年前から何も成長していないどころかむしろ酷くなっているということがわかった。
予想はしていたことだが、領主という重責を少しも理解できず、むしろ『領主だから何をしてもいい』と思い上がっている。
権力者として最悪のケースだった。
これ以上コイツをのさばらせてはいけない。
僕は右手を振り上げ……。
平手で、思い切りコイツの頬を叩いた。
「っぷっげらぁああああああああッッ!?」







