696 農場卒業生の活躍・人族編(3/7)
まだまだ人間族のリテセウスです。
僕が子どもの頃からお世話になっていた領主様の館が、数年ぶりに尋ねたら廃墟同然になっていた。
このままにはしておけぬと、僕は農場で学んだことを総動員して行動開始。
まずはこの荒れ果てたお屋敷を何とかしようと、精霊さんを召喚して働いてもらった。
「大地の精霊よ! 雑草を枯らし大地を平らげたまえ! 外壁に使われた土や石に浸透し、日々を繋げたまえ!」
え?
雑草という名の草はない?
大変失礼いたしました!!
とにかくぼうぼう茂っているのを見栄えよい具合に抑えていただけませんかね!?
はいOKです!
そんな感じで屋敷の整理整頓を進めていくと……。
何とか綺麗になった。
「「「「おおおおおぉ~~~~ッ!?」」」」」
領が機能不全に陥ってからも残ってこの館を支え続けた年配使用人の方々。
彼らの感嘆の声を聴いてやっと、自分が帰ってきた意味を実感できた。
「屋敷が……、ピカピカに……!? 部屋や廊下の隅に積もりまくっていた埃も一粒も残ってないし、かび臭い匂いもまったくない……!?」
「外も綺麗サッパリだぞ!? 汚れどころか破損まで直ってる!?」
「こんなに屋敷が綺麗なのは、先代様がまだ現役で使用人がたくさんおった時以来じゃあああああッ!?」
「修繕費もなくてずっと放置しっぱなしだったのに……!? これは夢か……!?」
いいえ、精霊さんたちの働きによるものです。
地水火風、基本四属性全部を呼び出して働いてもらったからな。
水で汚れを洗い流し、風で澱んだ空気を吹き飛ばし、火で湿気を滅し、土で屋敷のあちこちに発生した破損をすべて修繕してもらった。
まあ、あまりに大きな破損は無理だから、そこは僕自身の手で部品交換したりして直したけどね。
農場で、オークの皆さんから学んだ建築技術がここで生かされた。
「リテセウス……!? これ全部お前さんの仕業なのか……?」
「なんとわけのわからん……!? ここを離れている間に魔法使いにでもなってしまったんか……!?」
魔法は使えるようになりましたが、それだけではありませんよ。
しかし屋敷の修理整頓が果たせても、お屋敷はまだまだ往時の満ち足りた感じを取り戻せていない。
あまりにも簡素で、屋内が伽藍洞であった。
昔はもっと色んなもので賑わっていたように思える。
人は無論、物品も様々に……。
「この辺に、調度品の壺が置いてあったような記憶があるんですが……?」
「とっくに売られてしまったよ……!」
予想はしていたが、やはり……!
それで屋敷のあちこちが空っぽで寂しい感じがしていたのか……!?
「歴代領主様が代々受け継いできた絵画や骨董品……。この領の歴史を物語る大事な品だというのに、サルダケースの大バカは遊ぶ金欲しさに片っ端から……! 亡き奥様の肖像画まで、とにかく金に換えよと二束三文で……!!」
バカな!?
奥方様といえば先代様の!? サルダケースにとっては実母に当たる方の思い出の品まで。
「民の生活のために泣く泣く手放したというならまだしも、ただ自分が遊びたいがために……!? お陰で屋敷には金目のものなんて残っていない。この屋敷自体そのうち抵当に出されるかも……!?」
屋敷に残った使用人の方々は、もう随分前から給金も受けず、ただ先代様を慕う一心で残り続けたらしい。
食べる物も自分たちで用意しながら細々と。
「実はな……私も今ではもう侍従長ではないんだよ」
「!?」
ビラルド侍従長が疲れ切った表情で言う。
多くの家人を取りまとめる役割として、僕のことも教え導いてくれた人が。
「私は、サルダケース様に随分やかましく注意していたのでな……。代替わりして実権を握られた途端に解雇通告だ……!」
「そんな……、侍従長はアイツに立派な領主になってもらいたいがために口煩く……!?」
「そんな私が目障りで仕方なかったんだろうよ。何の権限もない平執事に降格することでなんとか屋敷に留まることだけは許された……!」
ビラルドさんほど経験実績豊富な家令なら、再就職先は選り取り見取りだろうに……。
そんな不遇の立場に甘んじてまで先代様のために……。
「……ッ!」
今すぐにでもサルダケースを見つけ出してぶん殴ってやりたい気分だが、それよりもまず人助けが先だ。
屋敷に残ってくれた使用人たちは、もはや給金すら支払われない状況でも何とかやりくりして仕え続けてくれていた。
きっとその日の食事にありつくことも難しかったことであろう。
よく見たらただでさえ年配の皆が、充分な栄養も取れずにやつれているのがわかる。
……改めて、こんな惨状に気づかず修行に夢中になっていた自分が腹立たしい。
「何より、皆さんをいたわる方が先だ」
僕は回れ右して屋敷の出口へ走る。
「待っていてください! すぐ戻ってきますんで!」
飛翔魔法を発動させて天高く上昇。
適度な高度までやってきたところで、今度はまた別の魔法を展開させる。
「探知魔法……!」
法術魔法でみずからの感覚を鋭敏化させつつ、精霊の助けを借りて広範囲のマナの流れを読み取る。
異種二類の魔法を併用することで感知能力を数百倍にまで高める、ノーライフキングの先生が研究の末に実用化させた完全新魔法だ。
この魔法のお陰で、遠い山の向こうにあるマナの分布も……。
「……あった」
早速、目当ての反応を見つけた。
人里から離れた辺鄙な山奥に、一際大きなマナの脈動が……。
これだけ大きくて禍々しい生命反応は、モンスターのものに違いない……。
「行ってみるか。美味しく食せるカテゴリならいいんだが……」
呟きつつ、魔力の放出度を上げて高スピードで飛ぶ。
……この魔法でさっさとサルダケースを見つけ出してボコボコにすればいいじゃないかと言われそうだが、それは無理だ。
何故ならこの探知魔法は、あくまでマナの大小濃淡を感じ分けることしかできない。
サルダケースなんてマナ感覚だけで知覚したらその他大勢の矮小反応しか示さないんだから、何千といる同じような反応からヤツだけ割り出すなんてとても不可能。
弱くて小さいからこそ厄介なこともあるわけだね。
* * *
そして面倒なことは割愛して……。
モンスターを狩り終えて帰ってきた。
ドシーンと地面を揺るがすような勢いで下ろされるモンスターの死体。
感知の通り大物だった。
セキバトというウサギ型のモンスターで真っ赤な体毛、馬のごとく大きい。非常な健脚で千里を一日で駆けるという。
非常に気性が荒く、肉食でもないのに人と遭遇したら理由もなく追いかけて蹴飛ばして大ケガを負わせる乱暴者なので、見つけ次第狩ってしまうのが人的被害を出さないためにもよい。
食べても非常に美味しいということで、僕の目的にも充分適う獲物でもあった。
「こんな恐ろしい魔物……、B級冒険者にでも依頼して退治してもらう相手だぞ……!?」
「そうしたらまた大金を支払わなきゃならんかっただろうに……、本当にリテセウスが一人で倒したのか?」
農場へ行く以前の僕しか知らない使用人仲間は、目の前のことも俄かに信じがたいらしかった。
まあ仕方がないか、ここにいた頃の僕は真面目なだけが取り柄の若僧に過ぎなかったし。
しかし、目的を果たすのはここから。
今はまだ、材料調達が済んだ程度の段階に過ぎない。
農場で餞別にいただいたマナメタルソードを振るって、早速仕留めた獲物の解体を行うぞ!
血抜きして可食部分を選り抜き……毛皮は高く売れるかもしれないしとっておこう。
そして美味しいお肉の部分を焼く!
豪快に!
肉汁滴る感じで、最後に塩を振って味付けして完成!
野性味溢れるモンスターウサギのジビエステーキ、単純塩味風味。
「なッ、なんと美味そうな匂い!?」
「口から涎が溢れて止まらん……!?」
「まさかリテセウス……、これを私たちのために……!?」
先代様の分は既に取り分けておきましたので。
皆さんでこれを食べて、少しでも元気を取り戻してください。
「美味い!? 美味いぃいいいいいいいいッ!?」
「単純な塩だけの味付けでここまで!? 肉の旨味をしっかり閉じ込める極上の焼き方だからこそ実現された、この完成度!?」
皆さんお気に召していただけたようでよかった。
聖者様から直伝されたお料理テクニックも早速役立ったな。
お屋敷も綺麗になって、住人の腹も満たされた。
これで少しは僕の帰ってきた意味も出てきただろうか?







