694 農場卒業生の活躍・人族編(1/7)
異世界農場コミック4巻発売中です!
僕の名はリテセウス。
これまで聖者様の住まう農場で勉強してきたが、それもある程度極まってついに一人前と認められた者です。
なので学習期間は終了し、今度は学んだことを実施して生かすために農場を卒業し、帰ってきた!
我が故郷人間国へ!!
「厳しい修行を終えてよくぞ戻ってきた、人族の若き次世代よ」
まず僕らを迎えたのは、魔族のマルバストス総督閣下だった。
人間国はかつて、魔族との戦争に長く明け暮れていたが、その戦争に敗れ去った。
だから今は魔族さんたちの軍隊、魔王軍の占領下にあって、そこで全権を委ねられた総督閣下が実質的に旧人間国を切り回している。
「魔王様より話は窺っている。かつては敵対していた人族から才能豊かな若者を育成し、次代を担いつつ人魔和平の懸け橋となる人材とする計画は成功したようだな」
「そ、そんな……!?」
普段、目つきが鋭く怖そうな顔のマルバストス総督から思いがけないお褒めの言葉に、思わず表情が緩んでしまう僕だった。
それは僕だけではなく同じように農場から帰還して、総督府からの歓待を受ける人族の学友たちも同じ。
思えば農場に旅立つ時も、こうしてまず皆で総統府に集合したんだっけ。
それがつい昨日のことのようだ。
「修行によって力を蓄えた諸君らは、その力を大いに振るってもらいたい。我ら魔王軍に所属して、私の指示の下で働くもよし、あるいは各自の故郷に戻り、みずからの判断で国に尽くしてもいい。己の判断に身を委ねるがよい」
それを聞いて僕もその学友たちも少なからず衝撃を受けた。
僕らは修行を終えて帰還したら、きっと有無も言わさず魔王軍で働かされるとばかり思っていたからだ。
だって僕らを招集して農場に送り込んだのは魔王軍だもの。
自分たちの得となるために人材育成に労力を注いできたんだから、その分キッチリ利益回収しないと採算が取れないじゃないか!?
「占領府総督たる我が務めは、植民地化した旧人間国を管理し、栄えさせること。そこに住む民が飢えず、不当に苦しめられることのないように全力を尽くすことだ」
威厳に満ちた声で言う提督。
「魔王様が全幅の信頼を寄せる場所で修行してきたそなたらは、どのような形であれ人間国に有益な働きをすると判断してのことだ。成長し、多くの知識を得た諸君らなら、自分がどうやって役に立つか、自分で考えた方が迅速確実であろう」
そこまで僕らに信頼を寄せてくれるんですか?
逆に怖い。
「もし自分で自分の役立て方がわからぬというなら、魔王軍に身を寄せるがいい。魔王様やこの私が責任をもって指示を与えよう。さあ、どうする?」
しかもこの場で返答を求めるんですか!?
鷹揚なようでいて峻烈だなあ!?
「オレは一旦出身領へ戻ります」
僕と共に帰還してきた、旧農場学生の一人が言う。
「オレは元々領主様に仕える使用人ですから。今でもそのつもりです。自分のこれからの身の振り方は、最初からの主と相談して決めようと思います」
「私は、魔王軍に所属させてください」
さらに別の誰かが言う。
「私は領主の息子ではありますが三男坊なので、家を継ぐことはないでしょうし何も決めなければそのまま無職です。ならば魔王軍に勤めて公務を果たしながら、実家と総督府の橋渡しを務めたいと思います」
「ミーも非嫡男ですが、農場で培った力で当主の座を奪取しようと思います!」
おいおい。
意外とみんなすんなり答えを出すもんだなあ。
ポンポン声が上がっていくよ。
「お嫁さんになりたい」
「冒険者を目指してもいいかなあ」
「目指せオークボ城EXコース制覇!」
「忍者王にオレはなる!」
と皆の未来地図が披露される中……。
「リテセウスはどうすんの?」
「え? 僕?」
隣の学友から尋ねられる。唐突なので戸惑った。
「お前は結局、農場留学の首席卒業生になっちまったからなあ。お前の身の振りようは皆が気になるところだぜ?」
ふむ、そんな感じなのか。
「僕もとりあえず一旦故郷に帰るかなあ……。領主様にご挨拶しておきたいし」
僕も元々は庶民出身で、出仕してとある領主様の近侍として働いていた。
それが農場留学生に抜擢されるきっかけだったんだが……。
「そもそも最初は、農場留学生って魔族の生贄にとられるもんだって誤解されてたんだよねえ」
「そうそう、だから領主の子どもはやれねえって話で、オレたちみたいな使用人が身代わりになったんだよなあ」
今思い出せば懐かしい。
それで生贄同然に差し出された結果、農場での修行を経て国内有数の能力と、魔族や人魚族など他種族間とのコネを得て帰ってきたんだから、世の中何が起こるかわからない。
人生何が起こるか、だよなあ……。
「きっと領主様は僕のこと、とっくに生贄になって死んでると思っているだろうから『違う』ってお伝えしないと……。きっと驚くだろうなあ」
「お前、里帰りなり手紙を送るなりしなかったのかよ? 留学期間何年もあったじゃねえか?」
「えッ? ワルキナは報せたの?」
「報せたよ! 当り前じゃねえか!?」
と隣の友人が叫ぶ。
知らなかった。そんなことできたのか。
聖者の農場って極秘事項だから手紙のやり取りもできないかと思っていたし、あと僕自身、農場での日々がエキサイティングすぎて夢中になってしまっていた……!?
子どもの頃からお世話になっていた領主様になんと失礼なことを!?
「やっぱり僕、何より先に帰らないと! 総督! 僕の進路は里帰りが終わってからの保留でいいでしょうか!?」
「いいよ」
総督即答!
よかった!
ということで僕は、生まれ育った自分の領へと帰還することになった。
どんな身の振り方をするにしてもやはり親類縁者に顔を見せておこうと、誰もが一旦故郷へは帰る。
これまで農場でずっと一緒だった学友たちとも解散だ。
いずれまた会うこともあるだろうが、それまで元気で!!
* * *
そして、総督府を出て故郷へと向かう僕。
旧人間国内にある領の一つだ。
僕はその片隅にある田舎村に生まれ、貧しいがために口減らしで領主様の屋敷へ奉公へ上がった。
我が領主様は出来た御方で、自領の貧しさを鑑みて多くの、村からあぶれた子女を奉公人として雇い入れている。
自領の主が、そんな思いやり深い人でなかったら僕は今頃奴隷同然の扱いか。もしくは浮浪者のようになってどこぞで野垂れ死んでいただろう。
魔王軍に敗れ去る前の、王族や教会に牛耳られていた頃の人間国はとても貧しかったのだ。
だから領主様には大恩があるし、修行して力を得た今こそ恩返しを……。
……お、領主の屋敷が見えてきた。
やっぱり魔法で空を飛んで進むと早いなあ。
農場での修行で得た能力の一つだが、帰還した卒業生全員が空に浮かんで四方八方へ散っていくのを、総督府の魔族さんたちが信じがたい表情で地面から見上げていたのが印象的であった。
やっほー雁さん、悪いけど追い越して先に行くね。
そうして、何年かぶりに到着した実家のように馴染み親しんだ領主館に到着!
ふわっと着地!
そして目前に確認したのは……。
「どういうことだ……!?」
変わり果てた領主館の無残な姿だった。
荒れ果てている。
かつては有能な領主の下、使用人たちの手入れが行き届いていて汚れ一つない誇らしき居城であったのが……。
庭には雑草がぼうぼうに伸び、館自体も手入れが行き届いておらず壁にはヒビが入り、鉄柵は曲がり……。
まるで廃墟のような……?
「いや、廃墟そのものか?」
もしや、僕が修行している間に領主様は別の館に移られた?
それで館は打ち捨てられたとか?
くそッ、やっぱり農場で勉強している間もしっかりこまめに連絡を取るべきだった。
ただ引っ越ししたとしても、一体どこに移られたのか?
ウチの領主様は、ちゃんと貴人の義務を果たせる程度に有能ではあったが、それでもあまり金持ち物持ちではなかった。
王族や教会の圧政に苦しむ民のために身銭を切って救済を行うから、常に懐はスッカスカ。
僕が奉公人として勤めていた頃、領主様が金にあかせて暖衣飽食を貪るところなんて見たことがなかった。
「だから新たに屋敷を建てて引っ越すなんて余裕もないはず……!?」
とにかく僕が少年期を過ごした屋敷。少しでも名残を見つけようと足を踏み入れた矢先。
「そこを動くな! 不埒な侵入者め!!」
いきなりの怒声にビクリと震える。
「ここはセンデキラス領主様のお屋敷であるぞ! 金目の物を目当てに入った野盗であろうが、そんな連中をのさばらせておくほどくたびれてはおらん! 覚悟するがいい!」
「えッ! もしやビラルド侍従長ですか!?」
「もしやお前は……リテセウス!?」
廃墟かと思われた領主館に見知った顔を見つけた。
こんな人も住んでいないかと思えるほど荒れ果てた館に。
一体僕が農場で学んでいた間に何が起こったんだ!?







