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693 お茶が緑になると医者が青くなる

異世界農場コミック4巻発売中です!

 ずずず……ッ!

 コーヒーが美味い、俺です。


 エルフたちが、生産した茶葉をばら撒いて時が経った。


 出来たものをまず無料か、限りなく無料に近い値段で提供するのは新商品の売り出しではなかなか典型的な手段だった。


 誰だって、得体の知れないものを試しで買ってみるには勇気がいるものなあ。

 汗水たらして稼いだ大切なお金が、無駄になる可能性だってあるんだから。


 だからそのためにもサンプル商法は有効なのだ。


 まずはお金なんかとらん!

 ただで我が商品を試してみるがいい!


 それで効果のほどを実感し『これはいいものだ!』と確信できたなら次からは適正価格で購入してもらう!


 最初からフルプライスで買ってもらおうなんて提供者の甘えよ!

 海のものか山のものかもわからぬ判断材料ゼロの新商品、まずは知ってもらうことこそが大事なのだ!


 広告料などと同じで、タダで商品が天地万物に知れ渡るわけがなく、知名度を上げるための初期投資は必須!


 ということでエルフたちが無料で新商品、お茶をアピールするのにまずは金をとらずに配り歩くというのは中々よい戦法に思えた。


 知らないうちに屋内に侵入して置いていくのはどうかと思ったが。


 サンタクロースばりの家宅侵入犯じゃん。


 とは言ってもほんの数年前までガチで家宅侵入してガチ盗みを働いていたエルフたちだからある意味経験を生かした方法とも言えなくはないが。


 しかし、知らないうちに家の中に置いておかれたものなんて怪しすぎて誰も使わないんじゃないか?


 そう思って不安視していた矢先、お茶サンプル配布を受けたお宅からちらほら感想が上がってきた。

 そんな『お客様からの声』を収集するシステムがどこにあったのかと訝りもしたが、以下がエルフ茶を利用してみた人々からのコメントです。


『エルフ茶で、おじいさんの腰痛が治りました!』

『エルフ茶で、病弱の娘が元気になりました!』

『エルフ茶で、持病の癪が消えました!』

『エルフ茶で、矢が刺さった膝が完治しました!』

『エルフ茶で、彼女ができました!』

『エルフ茶で、長年会得できなかった最終奥義を完成させました!』

『エルフ茶で、完全体になることができました!』

『エルフ茶で、邪神ヒポポマダスの復活を阻止できました!』

『エルフ茶で、隕石衝突を回避できました!』


 ……。

 大絶賛かよ。


 いや、売り出す前にこうなることはある程度予想はできていたんだがな。


 だって世界樹の効能が交じったお茶でしょう?


 そりゃ飲めばどんな病気も完治するし、怪我だって治るし、何なら若返りもするわ。

 死人だって甦るかも……いや、葉っぱ本体じゃないから無理か?


 どちらにしろ凄まじい効力なのは間違いなく、その影響で社会そのものが変容を迎えつつあるのはたしかだった。


「……これはいかんな……!?」


 元々俺は、俺が異世界から持ち込んだ現代知識なり、神様から貰ったギフトで必要以上に変容をもたらすのは好むところではない。


 急激な変化は必ずどこかに歪みをもたらすものだと、どっかのマンガに書いてあった気がする。


 なのでできる限り、俺の存在が世界に影響を与えずにはいられないものだとしても、それを最小限にしてできる限り緩やかな変化であってほしい。


 今回のエルフ茶がもたらす影響は明らかに許容範囲外だった。


 というわけでエルロン始め、エルフ関係者を一通り呼び出してお話しすることにした。


「エルフ茶の販売を中止してください」

「「「えええ~~ッ!?」」」


 エルロンに加え、ハイエルフのL4Cさんにエルフ王さんが揃って難色を示した。

 そんな嫌そうな顔をしてもダメなものはダメ!


「エルフ茶は効きすぎるんですよ。このままじゃ世界中の病人ケガ人を片っ端から全快させて、あらゆる死因を駆逐してしまうじゃないですか。平均寿命が駄々上がりですよ」

「いいことではないかー? いいじゃろうそれくらいー?」


 そういうわけにはいきません。


 たしかに人が健康なのも、長生きするのもいいことですが、世の中すべての人がそうなっちゃうと関係各所への影響がハンパなくなってしまうんですよ。


 まず世の中のお医者さんがすべて職を失う。

 平均寿命が急激に伸びることによって食料とか住宅事情に必ず何らかの混乱が起こる。


 そうすることによって起こる混沌に、もしかしたら普通に病気とかで亡くなるより多くの人命が左右されるかもしれない。


「それでカタストロフ戦争とか起こったり、増えすぎた人口を調整するために宇宙棄民とか行われたら俺の責任になっちゃうんですよ。異世界の平和を守るためにも急激な変化は望まないんです。わかって」

「んんんん~~~ッ!?」


 俺が噛んで含めるように説得すると、話のわからないわけでもないエルフたちも苦渋の表情ながら……。


「……仕方ない、聖者様に反対されても企画を進めることはできないからな」

「ご理解くださって感謝します」

「だがッ! 茶葉の効能を抑えて売ればいいだろう!? それなら影響は最小限で済むし問題ないはずだッ!?」

「ええぇ……!?」


 たしかに影響が低下するならいいですけど……。

 そんなことできるの?


「できるともさッ! 世界樹に宿った精霊に訴えれば、効能の調整ぐらい簡単にしてくれるさッ!」


 そう言うエルロンに導かれてやってきた、エルフの森にある茶畑。


 ……これも結局、俺の許可なく農場から茶ノ木の苗を移植して作ったものなんだよな。

 エルロンは、こっちが油断したところで盗癖をさらけ出してくる。


「こちらが、エルフ産・世界茶ノ樹の精霊様でーす」


 そういって紹介されたのは若い女性だった。それが何故か茶摘みの女性の格好をしていた。

 あの和服に頭巾をかぶったような格好の。

 摘み子さんというんだっけ?


 異世界とはまったく文化が違うんだが、精霊なら特に問題もなく許されるんだろうか?


『アナタが飲みたいのはこの緑のお茶ですか? それとも紅のお茶ですか?』


 金の斧、銀の斧みたいに聞いてくるんじゃねえよ。


『アナタたちの願いは聞き届けました。精霊たる私の立場としても、せっかく実った茶葉が人々に飲まれないのは残念無念というものです。一人でも多くの方々に飲んでいただくために全力を尽くしたのが、却って仇となったようですね』


 凄い話が早くて助かった。


 それでは、ここの茶畑で収穫できる世界樹の茶葉を、効能抑えた感じにデチューンできるのでありましょうか?


「お望みに沿いましょう。ただ今より私の茶葉は、他の産地で取れる普通の茶葉とまったく同じ効能のみを有する普通のお茶と何ら変わりはありません」

「おお!?」

「普通のお茶と同じようにビタミン摂取、カフェインによる覚醒作用。カテキンによるコレステロール値の調節や血糖値の調節、抗酸化作用、抗アレルギー作用、抗ガン化作用、老化抑制作用。さらに殺菌抗菌作用やリラックスを誘導する作用、利尿作用や皮下脂肪を燃焼させて減少させる作用などがあるだけのただの普通のお茶となりました。ご安心ください」


 ……。

 そうして聞くと、お茶って色々効き目がありすぎて怖いくらいなんだけど。


 とにかくまあ、こうして世界樹の茶葉はヤベー作用だけを失い、普通の茶葉として国際的に流通していくことになった。


 じゃあ、エルフさんたちの丸一年以上かけた苦労は何だったの? という話にもなるが何事も過ぎたるは及ばざるがごとしとも言うんで行き過ぎた分を調節するのは許容してください。


 そうして、一般的レベルでも充分薬効を持つお茶の力で、地道にこの世界の人々の健康状況を底上げしてくれたら他に望むことはないです。


    *    *    *


 そうしてエルフたちによるお茶推進プロジェクトが進んでいく中、俺の下へと嬉しい便りが送られてきた。

 続々と。


「この手紙は……!?」


 つい先日、農場を巣立っていった学生たちからの手紙だった。


 リテセウスやエリンギア、その他の多くの生徒たち。

 彼らは、農場で学べる大抵のことを学び終えて、今度はそれを世の役に立てようと各地へ散っていった。


 今頃、それぞれに任地もしくは故郷で実力を発揮していることと思う。

 その模様を俺たちは遠くで夢見るばかりであったが、想像で終わらさぬように彼ら自身が便りを寄こしてくれたのだった。


 彼らは故郷に戻ってどのように過ごしているのだろうか?

 風邪などひいてないか?


 そんな彼らの現状を知るのに、この手紙はとてもよい助けになろう。


 せっかくだから、彼らのことを一等気にしている先生とも一緒に読んでみることにしよう。


 手紙は様々あるが……、まずは彼が送ってくれた手紙に目を通してみようか。


 リテセウス。


 農場卒業生でもっとも剛毅な成績を残した子だからきっと卒業後の活躍も剛毅だろうからな。


 では早速、彼からの手紙を読み解いていこう……。


 何々……?

『聖者様、大変です』……!?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] 人類は、増えすぎた人口を宇宙に移住させるしかありませんよね
[一言] ビタミン接種って怖い。
[気になる点] >だって世界樹の効能が交じったお茶でしょう? 『交じった』→『混じった』 >普通のお茶と同じようにビタミン接種、 『接種』→『摂取』 >今頃、それぞれに認知もしくは故郷…
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