688 先生の送辞
春がきた。
こちらの世界に来て何度目の春であろうか。
その中でも今回は感慨深い。
春は出会いと別れの季節。
そのうちの『別れ』が一際強調されるイベントが、今春早々催されるのだから。
『卒業式』である……!
当初、様々な理由から異世界中の若者たちが集められ、ここ農場で教育を受けることとなった。
時に泣き、時に笑って農場での日々を過ごした彼らも、全課程を終えて今や立派な一人前となった。
もう教えることは何もない。
これからは学んだことを世のため人のために役立てるターンだ。
なので農場留学生の諸君は、今日からそれぞれの場所に散って学んだことを遺憾なく発揮することだろう。
リテセウス。
エリンギア。
エンゼルとその仲間たち。
他。
あの(文字通り)地獄の卒業試験をクリアした彼らは、農場での全課程を修了したことを充分に証明できている。
彼らの門出を全力で祝ってやらねば。
* * *
「皆で行った、修学旅行」
「「「「「しゅーがくりょこー!」」」」」
「楽しかった、体育祭」
「「「「「たいいくさい!」」」」」
卒業式のプログラムも無事消化されていき、残すところは少ない。
その最終近くに現れたのが他でもない、ノーライフキングの先生であった。
最初はただお手伝いをお願いしただけであったが、最終的にはこの企画先生が中心となって推し進める形になっていったからなあ。
先生にとって、今日送りだす生徒たちは我が子のように可愛くてしょうがない。
そんな先生だからこそ最後の最後で、祝辞を述べるべき立場の人なのであろう。
先生が壇上に立って、向かい合う卒業生たちを見渡す。その表情が感慨深げであった。
『……卒業おめでとう……!』
お声が、万感の思いに震えておる。
先生、男泣きの様相。
『キミたちは本日をもって、ワシから課された学業のすべてを修め、立派に成長した。今やキミたちは一人前だ。どこに出しても胸を張っていられるであろう。ワシも、キミたちがこれから世界各所で活躍する様を想像するだけで、誇らしい気持ちでいっぱいになる』
もうこの時点で生徒たちの並ぶ列から感涙の咽びが聞こえてくる。
一体感がヤバい。
『キミたちがこの農場にやってきたあの日のことが、つい昨日のようだ。あの頃のあどけなく幼い少年少女たちが、今や立派な面がまえの猛者となった。時の流れは早いものよ。数百年前のこととはとても思えぬ……!』
「先生、数年前です」
またノーライフキングの時間感覚が破綻をきたしている!?
とにかく先生が誰より生徒たちを大切にし、その成長を喜んでいるのが先生であることは疑いない。
しかし感動しているのは先生だけじゃない。
普通の学校よろしく、教師一人だけでは生徒たちを指導できる範囲に限度があるので、農場学校には他にも多くの人たちが教導に関わった。
オークゴブリンたちやエルフも、今日は卒業式に参列して脇で涙と鼻水噴出しまくっていた。
あと、途中まで指導に大きく関わり、結婚をきっかけに農場から巣立ったパッファ現人魚王妃も今日のところは駆けつけて共に卒業を祝っている。
「よがっだなぁああああああ~~!? ぼんどうに、よがっだばなばばばばあぁあああああああ~~ッッ!!」
パッファ、一際派手に感涙に咽ぶ。
なんか彼女の師匠のゾス・サイラを思い出した。弟子の結婚式の日に感激泣きはらしていたので。
何やかんや言って似たもの師弟よな彼女ら。
んでんでもって……。
先生の祝辞は続く。
『それでは最後に一つ、キミたちの卒業祝いに披露したいことがある』
と先生言う。
あれそんな余興のプログラムあったっけ? アドリブ?
『古来より言う、ヒトにものを教えるのは、教えた本人にも成長を促すものだと。このワシも、キミらを教える立場に立って今まで見えないものが見え、知らないことを知ることができた。キミたちと過ごした日々はワシにとっても有意義なことであった』
先生語る。
『キミたちとの日々がワシにも成長をもたらし、新たな力をもたらしてくれた。ワシがキミたちを教えただけでなくキミらもまたワシを導いてくれた。最後にその成果を披露し、キミたちへの感謝の証としたい』
先生、杖を掲げるとすぐさま空気の質が変わってきた。
ピリピリと、何かが起こる感じがビンビン。
『にゃんにゃにゃーん。解説役の登場にゃ!』
そこへ現れるノーライフキングの博士。
先生と同類の超越者であるものの、その外見は猫。
『先生は空間を歪めているにゃー。異界とのルートを開くつもりのようですにゃー』
「異界とのルートを?」
そういや先生は、生徒の卒業間近になってこの世界の神々だけに飽き足らず、別世界の神まで召喚するという荒業をやりだしたが。
それだけでも以前からは想像もできない顕著な変化なのですが。
また同じようなことするの?
『今回はそれにとどまらないようにゃー。どうやら先生は、あらゆる世界とのチャンネルを開いて繋ぐことができるようになったようだにゃー。マジヤベーにゃ』
マジヤベーの?
『だってほら、今先生が繋いでいる先の世界は生まれてから数年しか経っていない新宇宙にゃ。ビッグバンの余熱が冷めやらず、超々々高熱で原子構造すら安定しない。数字にすると数億度の熱で満たされた世界にゃ』
「すうおくど!?」
話のスケールが大きすぎる。
『今や先生は、異界とを繋げてそうした超エネルギーをこっちの世界に流入させ、利用できるようになったにゃ。事実上無限のエネルギーが先生の味方になったということにゃ』
「数億度ですからねえ!?」
俺らちっぽけな人類にとっては無限とほぼ変わらない規模ですよ!?
『その気になったら世界丸ごと簡単に滅ぼせるにゃー。……我らノーライフキングの中からついにアレキサンダーさんの領域に踏み込んだ者が現れたにゃ』
「まだアレキサンダー兄上の方が勝つだろ?」
『まあ、そうだけどにゃ』
とのヴィール。
しかし現場は、先生が引き起こした奇跡で皆もう唖然としておった。
数億度の超空間とのゲートを繋げながら、それでこっちの世界に被害が及ばないように完璧にコントロールしている先生は、もはや神。
『かつてのワシにはできぬ芸当であった。キミたちと一緒に成長し、キミたちのお陰で聖属性と光属性を得た今のワシだからできる。これはキミたちの与えてくれた力だ。キミたちの力と言っても過言ではない』
「過言ですッ!!」
卒業式に参列する生徒の一人だろうが、堪らないという感じで叫んできた。
気持ちはわかる。
『ワシのような老骨でも、キミたちの若い力と触れ合えてこれくらいは進歩できた。若さの大元であるキミたちなら、さらに大きな成長をこれからも遂げていけるだろう』
それはどうかな?
『さあ、行ってきなさい。キミたちの目の前には大きな未来が広がっている。キミたちがさらに成長した姿をワシに見せてくれる日を、心待ちにしておるよ!』
こうして農場卒業式は幕を閉じた。
世界桜樹の花びら舞い散るうららかな日に、若者たちは巣立ち、それぞれの国へと帰っていった。
* * *
そして、すべての農場留学生が各々の国へと帰還し、誰もいなくなった。
エンゼル取り巻きの新魔女のように、卒業後も農場で働く子たちもいるが、今はとりあえず卒業を報告しに里帰り。
なんだかすっかり農場が寂しくなったように思える。
特に先生が。
今までの賑わいなどウソだったかのようにひっそり静かに海を見詰めて、微動だにしない。
「黄昏てる……!?」
今まで生徒たちの教導に全力を傾けていた先生だけに、それがつつがなく終了して心にポッカリ穴が開いたようになっている!?
予想していたが、予想以上に心の穴の直径が大きいようだった。
「せ、先生……!?」
『いや、いけませんなあ聖者様。ワシが一人でおった時間など千年もあったというのに、ほんの数年子どもらとの触れ合いを知ってこんなザマになるとは。しかもまだこの地は聖者様や皆がいて賑やかだというのに、これでは巣立った子らに笑われますわい』
とカラカラ苦笑いを漏らす先生。
このままではいかん!
かねてからの計画を実行に移さねば!
「……実は先生、今回の企画大成功と言っても過言ではなくてですね……?」
『はい?』
「クライアントともいうべき魔王さんも大変喜んで、さらに見込みある人材を農場で育ててほしいと追加依頼を受けて……!」
『!?』
「農場留学制度……いや農場学校、二期生募集開始です!!」
もちろん指導は先生にお願いしたい!
先生と一緒に成長する子どもたちが増えますよ!
『そうですか……そうですか……!!』
先生の瞳に、灯火が宿る。
『期待してもらったからには応えねばなりませんな! 承った! このワシがノーライフキングとして、さらなる有用の人材を世に送り出すとしましょうぞ!!』
先生が奮い立ったー!
春は出会いと別れの季節。
巣立っていった彼らに代わって、今度はどんな子たちが学びに来てくれるのだろうか?







