686 精霊ピラミッド立てこもり事件
ピラミッドで一体何が起こっているのか?
冬には眠りについているはずの大地の精霊たちが活動し、しかもピラミッド内で好き勝手にしている。
この状況いかなるものかと説明を求めても、それに答えられる者は誰もいなかった。
いないなら呼べばいい。
ということで急遽先生に召喚してもらったのは、農場ピラミッド建設の主犯にして、異界から呼び出された審判の神アヌビス。
「おらキリキリ吐けや」
『いだだだだだだだだッ!? 待って待って!? 召喚されるなり何なのこの仕打ち!?』
アヌビス神は、お国の文化がそうなのか頭部が犬面なんだよな。
もしくはジャッカル?
とにかく犬らしく口回りが突き出ているので、そのマズルを掴み上げて引き上げる。
そもそもお前がピラミッドなんて異文化的なものを建てやがるためでなあ!
とにかく起こったことをありのままに話して数分後……。
「何か原因がわかりませんかね?」
『ふーむ? ピラミッドパワーで大地のマナが狂ったかな?』
やはりテメーの企てが元凶かぁ!?
眉間の毛を逆なでしてやるぞぁ!!
『ぎゃああッ!? やめてやめて! ……アレだろう? 問題の精霊と言うのは、こっちの世界で大地の運行を補佐している霊的存在だろう?』
はい。
そのように窺っております。
『ピラミッドパワーは、内部のマナを増幅させる効果を持っているからね。冬の間、減少したマナを無駄遣いしないために眠りにつく精霊たちもピラミッド内でなら活動できるのだろう』
そんな効果が……。
『しかしピラミッドパワーによるマナ増幅は、所詮不自然な現象だからねぇ。そのせいでマナの質が変わってしまい、それを取り込んだ精霊たちは、そう……酔っぱらった状態にでもなっているのではないか?』
あんな幼くて可愛い精霊たちが酔っ払い!?
完全に法に触れるではないですか!?
『いや、酔っぱらったというのはたとえであって、本当にお酒を飲んだわけでは……!?』
『ん? 今お酒の話した?』
してないです。
バッカスさん、『酒』のフレーズに反応して即座に出てくるのやめて。
帰った帰った。
「で、どうしたら大地の精霊たちは元に戻りますかね?」
ピラミッド内が完全に占拠されちゃって大変なんですよ。
いや、ピラミッドが制圧されて使用不可能なのは別にいいんだが、大地の精霊たちが立てこもって外に出てこないのは問題だ。
「春になれば自然に出てくるのかな?」
『いや、ピラミッドは季節に関係なくマナを増幅させて変質化させるから。冬が終わってもこのままじゃないのかな? むしろ春から夏にかけては自然マナも活性化するから、もっと酷くなるかも』
「ここからもっと!?」
俺たちは一旦撤退してピラミッドの外にいるが、ここからでも大地の精霊たちのシュプレヒコールが聞こえてくる。
「かくめーのとーしですー!!」
「れっしですー!!」
「ちまみれのはたがかかげられたですー!!」
「とーといせーしんはじこぎせーですー!」
今ですらあんな正気とは思えない発言を繰り返しているのに!?
あんな大地の精霊は嫌だ!
存在そのものが可愛くて平和なのに!
……彼女たちをヘンテコにさせているのは、ピラミッドパワーによるものなんだよな。
ピラミッドが建設される前の去年までは、こんなこと一切なかったんだし……。
「……よし、ピラミッド解体しよう」
『待って待ってやめてえええええええッ!!』
俺の決断にアヌビス神が縋りついて止める。
『せっかく建てたのに破壊なんかしないでえええええッ!! 有り難い建物なんですうううッ!! アナタの死後のおうちなんですよおおおおおッッ!!』
「煩え、未来より今だ!」
遺産と言うなら、大地の精霊の可愛さこそ後世に語り継ぐべき世界遺産!
それを阻害するならピラミッドであろうと灰燼に帰すのみ!
「待ってください我が君いいいいッ!!」
「我々の作品に酷いことしないでえええッ!?」
うおおおおおおッッ!?
ウチのオークまで縋りついてきたッ!?
そうだ建築担当で、むしろ建てることに人生の喜びを見出す普請道楽のオークたち。あのピラミッドの建設だってオークたちが大いに尽力したと聞く。
それを無情に壊されるとなったら、それは悲しいよなあ。
「わかったわかった。俺もキミらが悲しむようなマネはしたくない。ピラミッドは破壊しない方向で進めよう」
「「「「「我が君いいいいいいいいいいいッ!!」」」」」
オークたちが一斉に俺のことを取り囲んで抱きしめるのだった。
肉厚が凄い。
『ちなみに私一神でお願いした場合は?』
「迷わず粉砕する」
アヌビス神にする気づかいは一切ない。
ナイル川の底にでも沈んでおれ。
『ピラミッド内のマナの流れを調整し、精霊たちが変にならぬよう処置させていただきます……!』
「頼みますよ」
では、事態を解決するために行動をとると致しましょう。
方針としてはこうだ。
大地の精霊が、季節外れの大混乱に陥っている原因は、ピラミッドパワーで肥大化したマナが、そのせいでおかしな効力まで含んでしまったこと。
これを消し去るのに設計者たるアヌビス神が内部構造に調整を加える。
「……まではいいんだが……!?」
正直、今の状態では遂行するのは至難。
何故かと言うとピラミッド内は大地の精霊が占拠していて、内部での自由な行動なんて不可能だからだ。
「てきはころすですー!」
「じゆーとびょーどーとはくあいとぎゃくさつですー!」
鎮静化を図るためには、まずもって大地の精霊たちを保護し、速やかにピラミッドから退去させなくてはならない。
その上で落ち着いて作業してもらうアヌビス神に。
と言うわけで内部制圧班は、農場の頼れる仲間オークとゴブリンチームにお願いしよう。
「お任せください我が君!」
「農場の剣と盾と鋤と鍬と呼ばれし私たちが、どんな障害でも打ち砕き、排除してご覧に入れます!」
うーん頼もしい。
そりゃ、ウチのオークもゴブリンもただのオークやゴブリンじゃなく、変異してたり二段変異してたりするしなー。
オークボとゴブ吉などは三段変異しているから、彼らが戦闘モードになれば一国どころか世界を相手に戦える。
そんな彼らに任せておけば安心安全であるが……。
「あ、一つだけ注意を……」
「なんです?」
「大地の精霊たちには傷一つつけないでね。何せあんなに可愛いのだから」
そして実際に始まる、ピラミッド制圧ミッション。
* * *
以下、オークゴブリンたちの阿鼻叫喚。
「ダメです隊長! このルートもバリケードで塞がれています!」
「花瓶が! お花を生けられた花瓶が落とされるうううううッ!?」
「一つ残らずキャッチするんだ! お花さんも生きているんだぞ!」
「標的を一人確認! これより追跡を開始します!」
「待て追うな! 相手が単独でいた場合、高確率で罠だ!」
「ぎゃああああッ!? 岩が転がってきたああああッ!?」
「やっぱり誘導されていたかあああああッ!?」
一騎当億のオークやゴブリンたちが翻弄されていた……!?
彼らは可愛い大地の精霊を傷つけることはできない。
俺から命令されているこのもあるが、それがなくったってあんな可愛い子たちに怪我なんかさせられるか。
なので自然と何万分の一の力しか発揮されず、攻めあぐねるオークとゴブリン。
対して大地の精霊たちは、なんか知らんがピラミッド内の構造を完全把握し、各所に設置してある盗掘対策のトラップまで完璧に使いこなしている!
ここまでの条件が揃ったら、さすがの最強モンスター軍団でも攻めあぐねることよ!
「というか、大地の精霊は何人ぐらい立てこもっているのか……?」
元から集団いるからなあ。
そして知っていたはずのことだが、あの子らアグレッシブすぎて大抵の困難は自力で乗り越えられるのだった。
大地の精霊、ピラミッド立てこもり事件……。
予想外の長期化の兆し!?







