表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
679/1422

677 彫刻家と雪まつり

 私は天才芸術家。


 人族のピソッホだ。

 この名は向こう数百年は歴史に刻まれ語り継がれることだろう。


 何故って?

 私が天才だからだ!!


 しかもただの天才ではないぞ?

 芸術家だ!


 天才にして芸術家なんて、神はなんと豊かな才能を私に与えたもうたのだろう!

 え?

 天才と芸術家は別の概念なのかって?

 芸術家の才能が天のごとくあるから天才芸術家じゃないかって?


 わかってないな凡人どもは!!

 芸術家と言うのは、そんな生易しい概念ではないのだ!


 神に選ばれた一握りだけが芸術家であることを許される!


 芸術とは自己表現!

 つまり表現するに足るだけの強力な自己を持つ者だけが芸術家であることを許されるのだ!

 それは天才であることとはまた別の話!


 芸術家に足るだけの自己を持ちながら天空的な才能まで持ち合わせる!

 だからこそ天才芸術家である私は天地開闢的に偉大なのだ!!


 誰だ?『ウザい』って言ったのは!?


 まあいい。

 そんな私だからこそ、皆がもてはやし敬うものだった。


 お城に呼ばれ、王様や大臣などと気軽に会い、私の作品を手放しで称賛してくれたものだった。


 私の自己が表現された傑作たちをいくつも買い取ってもらい、そのたびに莫大な報酬が支払われたものだった。


 昔は。


 今はどうだろうか?

 今だってブイブイ言わしてるさあ! 私の作り出すものはいずれも大反響を呼んでいるさあ!!


 ……ゴメン、ウソ。


 戦争が終わり、人間国が滅びてから私を取り巻く環境はすっかり変わってしまった。


 私のパトロンの大半が、旧人間国の重臣だったからな。

 皆、戦争に負けて没落していったよ。


 私が精魂込めて作り上げた芸術作品も『そんなのに割く財力はもうない』と言われて買い手がつかず。


 ならばと新しい権力者である魔王軍のお偉いさんに売り込もうと作品を持っていったが……。

『んだコレ? わけわがんねぇ?』と言われて追い返された。


 所詮魔族には!

 野蛮な魔族どもには私の天才的芸術は理解されなかったのか!!


 なんという不幸!

 この天才で芸術家が、時代に受け入れられずに沈んでいくとは!


 こんなことがあっていいのか!?

 私の作り上げた芸術作品たちは私の死後、その価値がわかるほどに人の文化が成熟するまで埋没するしかないというのか!?


 ということがあってから早数年。


 私の描いた絵も、彫り上げた彫像も一向に売れず鳴かず飛ばずの毎日。


 最盛期に蓄えた財もそろそろ底をついて、明日食うメシの確保もどうしたものかと悩む状況。


 まさに芸術的窮地。

 世に理解されないという芸術家にとってもっとも過酷な災厄が襲ってきた!!


「そんなこと言わないで制作しましょうよー、巨匠ー」


 と言うのは昔馴染みの画商だ。


 以前は作品の一つも投げ与えれば、その日のうちに大金へと変えてきたが、今や何の成果もあげられぬ役立たず。


「そりゃー巨匠が時流に合った作品を作ってくれないからでしょう? いくらアッシが商才逞しくとも、モノに価値がないと高値で売りさばけませんやー」


 いーや、お前が無能だからだね!


 私の作るものは芸術品だぞ!

 芸術なれば凡人どもが高値で取引して当然のものなのに何故、二束三文で買い叩かれねばならん!?


「だから時代が変わったんでさー。戦争負けちまったじゃないですか? だから人間国を加護してくれなかった天空の神々なんて崇める価値もねーって風潮が強まってるんですよ」


 だからどうした?


「だから巨匠って大概ゼウスとかアテナの絵やら像やら作製するでしょうー? 売れないんですってそんなのー?」


 何を言う!

 私の才能は天から与えられたもの。だから天才!!


 天への感謝を表すために天空の神々をモチーフに芸術品を作製するのは当然のことだろう!


 それに昔は、天空神のモチーフ作品がよく売れていただろうが!!


「だから時代が変わったんですって。ゼウス像とか天空の女神(半裸もしくは全裸)の絵画とかを喜んで買ってた人たちは軒並み敗戦で没落したんです。大枚叩く財力なんてもう持ってないんです」

「うぐぅ……」

「金持ってない層のニーズに応えたって何の得にもなりゃしないでしょう? それよりも! 今描くべきは冥神ハデスを始めとして冥界神モチーフですよ! 進駐してきた魔族のお偉いさんはお金持ってますよー! 彼らに媚びる作品こさえしょう!」


 愚かな!

 戦争に負けたからと言って、昨日まで敵だったヤツに媚びを売れというのか!?


 私は天才芸術家だぞ!


 自己表現こそが芸術家の本分だというのに、他人におもねったら自己がなくなるではないか!

 だから芸術は他人に媚びてはいけない! 他人こそが芸術に媚びるべきなのだ!


「芸術家めんどくせぇ」


 一言でまとめるな!


「そんなこと言わずに、率直にパリーッと儲けましょうよー。魔族ウケする冥界神のモチーフで。ハデス神の妻デメテルセポネの姿絵とかどうです? もちろん露出度高めで!!」


 私は自分の描きたいものしか描かねえ!

 それを凡人どもが高値で買え!


「うーん、相変わらず聞く耳もたねえなあ。どうしたもんか。……あ、そうだ」


 なんだ画商?

 あからさまに何か思いついたような顔をして?


「いや、最近噂に聞いたんですが。今年めっちゃ雪降ったじゃないですか?」


 そうだな。

 私の住んでいる山荘近くはそんなでもなかったが。


「なんで芸術家気取りって人里離れたところに住みたがるかなあ。それはともかく、大雪で各交通も分断されてけっこうヤバい状態だったんですよ。ウチも荷物を得意先へ届けられないってなりそうで超ピンチ」


 ハッ。

 お前の扱う荷物って、画商だから画材とか絵画そのものだろう?


 私以外のヤツが作製した絵も像も芸術作品じゃない!

 雪に埋もれてしまえ!


「まあ、でも結局は頼りになる人々のお働きで雪かきされて、交通は確保できたんですけどね」


 チッ。


「で、本題はここからなんですが、雪まつりが開催されるそうなんですよ」


 雪まつり?


「除いた雪を再利用しようとかで、雪で作られた像やらなんやらが展示してあるんだそうで。巨匠も芸術家として興味が出てきませんか?」


 ほうほう?


「知り合いも何人か行って帰ってきたんですが、なんでも雪で作られた立派な神像があるそうですよ。実にいい出来栄えだそうで。あとなんか? 滅茶苦茶デッカイ雪で作った塔もあるとか?」


 ふむ?


「どうです巨匠も一度見に行ってみませんか? 何かインスピレーションを得られるかもしれませんし。しばらくやってるそうですから今から見に行っても間に合うでしょう」


 ……ふッ。


 この天才芸術家に、その雪像とやらの評価をして見せろと?

 素人ごときの作った雪像の?


 面白いではないか!

 どうせミーハーな素人どもが流行りを追ってハデスの像でも盛り付けたんであろうが、真の芸術家である私がクソほど批評してダメ出ししてくれよう!


「一番迷惑なタイプの客!」


 作品が売れない鬱憤晴らしにもちょうどいいわ!

 見ているがいい! 天才芸術家である私が真の芸術が何であるかを素人どもに教授してやろうではないか!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bgb65790fgjc6lgv16t64n2s96rv_elf_1d0_1xo_1lufi.jpg.580.jpg
書籍版19巻、8/25発売予定!

g7ct8cpb8s6tfpdz4r6jff2ujd4_bds_1k6_n5_1
↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] 芸術家かあ…エルフさん達の所に芸術枠で研修生とかどうでしょ
[一言] 性格がクソ神にそっくり!
[一言] 次回はこのウザイ天才芸術家さんが雪祭りの雪像群を見て挫折する回かな? まあ、無駄にプライドが高い様だから作品群をけなして回るかもしれないですね。 エルフやドワーフの作品をどう評価すのか楽しみ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ