676 五人目の苦労人
ボクはネヨーテ。
人族の十歳の少年です。
ボクの生まれた村は貧しくて、幼い子どもでも働かなくては日々のごはんを稼ぎ出せない。
ボクも、下にたくさんの弟や妹がいるので皆のためにもできる限り早めに働きに出なくてはならなかった。
色んなお仕事をした。
畑仕事の手伝いとか、家畜の世話とか、商人の荷物運びに雇われたり家事の手伝い、子守りもやった。
お父さんやお母さんは、ボクにそんなに働かなくてもいいと言ってくれるが、ボクが少しでも余計に稼げばその分、弟や妹たちが楽になるので怠けてなどいられなかった。
みずから進んで苦労を背負い込むヤツだなあ、と、ご近所からからかわれたりもしたが、ボクのそういう性分だった。
どうやら一生変えようがなかった。
* * *
そんなある日、家族で出かけようという話になった。
元々旅行なんかできる裕福な家でもなかったが、今年は雪がたくさん降って地面を覆い、できるお仕事がほとんどなくなったから。
家でヒマしてるぐらいなら遊んだ方がマシ……ということで家族全員で出かけることになった。
向かう先は、隣の領で催されているお祭り。
何年か前から毎年冬に開催されて大層な評判になっていたが、ボクは日々の仕事で忙しく関わる暇がなかった。
今年は大雪で開催されるかどうかわからなかったが、やっぱりやるらしい。
『こんなに雪に覆われているのにご苦労なことだなあ』と思ったが、実際に着いてみてすぐわかった。
雪があるからこそのお祭りなのだと。
会場には、雪で固めて作られた像とか色々置いてあって見たこともないような風景が広がっていた。
お父さんお母さんや弟妹たちも圧倒されて、すぐさま来てよかったと思えるほどだった。
特に雪だけで作られた塔が、高くて高くて高すぎて度肝を抜かれた。
あんな巨大なものを雪だけで作れるものなのか。今にも崩れ落ちてきそうで妹などは怖がっていたが、『魔法で形を保たれているので大丈夫』という説明があった。
それでもあんまり安心できないけれど。
その他にも、来場者が参加できるイベントとかもあるそうで、そっちにも行ってみた。
同行していた近所のお兄さんは、毎年オークボ城に参加している人で『むしろこっちがメインなのさ!』とのたまっていた。
雪で作られた滑り台や迷路などは幼い弟妹も気に入って、何回も繰り返し楽しんでいた。
ボクの方はというと……雪合戦? なるイベントが開催されるということで、そっちに出場することにした。
なんでもオークボ城は毎回の競技イベントで、クリアした人に賞品をくれるというのだ。
しかも一等豪華な。
ボクも上手いこと好成績を叩き出して、賞品貰えて売っぱらったら家計の足しになるかもしれない!
そう思って出場を決めたボク。
ただ、雪合戦というのは団体競技でチームを組まなきゃダメらしい。
一緒のチームになってくれる人に当てなどないボクはどうすればいいの? 人数不足で失格?
かと思ったら、運営側で参加希望者を適当にマッチングしてチームを作ってくれるらしい。
ボクも無作為に選出された人たちとチームを組んで、一緒に戦うこととなった。
雪合戦という名の戦いを!
で。
実際に顔合わせしてみたチームメイトの人たちは、魔族二人、人魚さんが一人、あとボクと同じ人族(?)が一人という構成だった。
僕を含めて計五人。
ただ、そうして偶然によって集められたチームメイトのはずだったが、偶然とは思えない凄まじい結びつきを感じたのもまた事実。
何しろ、ボクと同族の人からしてただ者じゃなかった。
人族(?)……となってしまうほど、その姿は異様だった。
というか知ってる。
家計のこと以外まったく興味のないボクでも知ってるよ、人族なら知らないヤツはいないって言うレベルだもの。
彼はS級冒険者のシルバーウルフ様だ!?
あの銀色の体毛に覆われたオオカミの頭部。そんな珍しい外見特徴は二人といないはず!
人族最高の猛者で、『生き残る』という能力一点にかけては他種族のどんな精鋭にも負けないという。
しかも去年、冒険者ギルドのマスターに就任したとかで権力にかけても指折りの実力者!
そんな人と同じチームになるなんて!?
大丈夫だろうか? 足手まといにならない!?
しかもそれ以外の魔族や人魚さんたちもけっこう凄い人たちのようで、会話の端々から『四天王』とか『宰相』とか漏れ聞こえてくる。
ボクは……、間違ってとんでもない集団に紛れ込んだのかもしれない?
こんな色んな種族のトップクラスの人たちが結集した中で、一般庶民のボクなんかが明らかに浮いてしまうじゃないか!?
一体神様は、どういう基準でボクをこの中にまとめ入れたの!?
「心配せずともよいぞ坊主。ぬしは、わらわたちと一緒に群れる資格を立派に有しておる」
と言う人魚のお姉さん。
え? どういうこと?
「ぬしからあからさまに同類の匂いがしてくるというんじゃ。同類同士が引かれ合うのは、既に証明されていること」
だからどういうこと?
さらに別の人も言う。
「この年齢にて既に苦労人の資質を発現させているとは……。この才覚を褒めていいものか憐れんでいいものか」
と言うのは、五人集まった中でもっとも年配そうな魔族の人。
「きっと苦労の多い人生を歩むことであろう我らのように。しかし運命を嘆く時ではない今は! 今日は煩わしいことすべてを忘れ、苦労人の破れかぶれ力を発揮しようではないか!!」
「「「おおおおおおおおおおおおッッ!!」」」
なんか大盛り上がりしてきたよ?
どういう状況かわからないけれど、みんなそれぞれに苦労してきたんだね?
ボクはまだ幼くてそれほどの苦労をしてきた覚えもないけれど、これから先長く生きたら皆さんと同じように苦労を重ねていくのかな?
ストレス蓄積して、たまにああして発散しないとどうにもならないようになるのか?
それもやだなあ……!
「ここに集いし、五人の苦労人!」
「同僚の気まぐれに振り回され、上司のマイペースに皺寄せられ、それでもやらなきゃいけないのはわかっている!」
「新たなる同士を加え! 新生クローニンズの誕生じゃあ!」
なんなの、この人たち……!?
チーム結成の顔合わせの時点で、不安にならざるを得ないボクだった。
* * *
不安になるばかりのボクだったが、実際雪合戦が始まってみると凄かった。
やはり凄い人たちだった!?
シルバーウルフ様の凄さはよく聞いていたが、他の人たちだって凄い!
ゾス・サイラ様は人魚の中でも最上級の実力者らしかったし、実際立てる作戦は全部ハマった。
マモル様は魔王軍四天王の一人らしい。
よくわからないが偉い人だということはたしかだった。
そして、おじいちゃんのルキフ・フォカレ様。
なんと魔国宰相だとか。
宰相ってアレだよね?
王様の近くで補佐する大臣様のことだよね?
そんな人まで出場してくるって、どうなってるのこの雪合戦!?
しかもルキフ・フォカレ様メチャクチャ強い。
無数の雪玉で相手チームを蹂躙していく。
こんな凄い人たちの中にボクが交じっていていいのかとすら思えるくらいだ。
だがわかる。
最初は何のことかわからなかったが、一緒に競技していけばいくほど彼らの言っていたことが何のことかはっきりわかるようになった。
この人たち、ボクと同じくらい苦労を自分から背負い込んでいく人たちだ!!
「キミんところの舅がやらかした一件だったんだけどなあ……!?」
「はははは、はい! ウチの義父がすみませんでしたあ!!」
「前後もわからぬほど没頭しないとストレスは解消されないので……!」
「シーラ姉様が参加してたら……一方的にやられるだけじゃ!?」
……。
言ってることすべてが苦労人の悲哀を表している。
ボクも皆さんを見守って、立派な苦労人になるんだ!!
「いや、なっちゃいけんぞえ?」