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675 避けられない戦いを避けるために

 かつてないほどの衝撃が、この魔国宰相ルキフ・フォカレを襲う!

 なんだ彼女は!?


「千の強さへと続く、千の豆を抱きし女! 覆面王族ミス・マメカラス! ゲスト出演ということで、ここに現れたわ!!」


『うおおおおおーーーーーッッ!!』っと盛り上がる観客。

 いや、そう。一応この催し、観戦者もけっこういて、これまでの雪合戦も一喜一憂しながら見守られていたのだが……。


 ここに来て最高の盛り上がりを見せていた。

 あの覆面の女が現れてから!


「そう! ただ今世界各地を巡業する女子プロレス興行にて、トップ人気を誇るレスラー、ミス・マメカラスが、我らが農場のコネでもって雪合戦に参戦よぉおおおおおおッッ!!」


 受付役だった赤ん坊を抱えた女性まで興奮している。

 一種熱狂に包まれた、これはいかなることだ!?


「あのお姫様は、今や世界中で大人気じゃからのうー」


 我がチームにも、あの謎の覆面女性を知る者が。


「ウチの冒険者たちで催してる企画の花形選手ですな。たしかにあちらも農場の庇護を惜しみなく受けているが、まさかこんな形で両者を結び付けてくるとは……!」


 シルバーウルフ殿まで!?


 何、皆知っているのか?

 私だけ知らないとなったら、まるで自分が流行に乗れてないおじいちゃんみたいではないか!?


「雪合戦大会、ベスト四の最後を飾るのは覆面レスラー、ミス・マメカラス率いるシードチームよ! この運営からの刺客に受けて立つことができるかしら!? 準決勝まで進んだ強豪たち!?」

「前半は豆露店が繁盛して試合どころじゃなかったのよ! でもお昼を回って落ち着いてきたので急遽参戦って感じね!!」


 覆面を付けた女子が言う。


「もちろん雪合戦に参加するには私一人じゃ務まらないわ! 一緒に雪玉投げつける、イカした仲間を紹介するわ! カモン!!」


 と覆面女性を囲むように現れる者たち。


「ワシはエドワード・スミス親方、通称ドワーフ王。鍛冶と建築の名人。ワシのような天才職人でなけりゃ、百戦錬磨のドワーフどものリーダーは務まらん!」

「私はホルコスフォン、通称、納豆の使者。自慢の納豆を食べた人は皆イチコロです。ネバネバかまして、大粒納豆からひきわり納豆まで、何でも揃えてみせます」

「おまちどう! エルフのエルロン、通称クレイジーサラヤキーだ! 陶芸家としての腕は天下一品! 奇人? 哲人? だから何!?」

「人魚ガラ・ルファ。通称『疫病の魔女』。狂気の天才です。医学会長でもぶん殴ってみせます! でも戦闘だけは勘弁です!」


 なんか色々出てきた。


「さあ、これで準決勝を争うベスト四が出揃ったわ! これから繰り広げられる血で血を洗う雪玉投げを、皆さんも心行くまで堪能していってね!!」


 熱狂渦巻く観客。


 これを見るに、あの受付も務めていた気品ある女性は群集心理の操作もお手の物なのだろう。

 この大会自体彼女の仕切りなのかもしれない。

 ここまで白熱の盛り上げに成功するとは、侮れぬ逸材だ……!


「ああやって人の心を掌握する手際は、さすが王女じゃのう。そしてシーラ姉様の娘であることも納得じゃわい」


 しかし。

 この魔国宰相たる私の驚愕は、もっと別のところに注がれていた。


 あの覆面を着けた女性……。

 どこかで見た覚えがあるぞ私は……!?


「あれはもしや……人間国の王女ではないか?」

「あ、気づいた」


 この魔国宰相を舐めるでないぞ!


 かつての宿敵、人間国。

 その王族は、敵勢力の重要人物としてパーソナルデータは可能な限り集めてきた!


 そして宿願叶って人間国を撃破した時、捕虜として本国へ送られてきた王族も一通り引見を済ませてきた。


 だから見間違えようがない。

 薄い覆面一枚つけて騙される私ではない。


 あの覆面女の正体は、滅ぼされた人間国の王女レタスレートであろう!?


「さすがの記憶力と洞察力じゃな」

「でも露店で豆売ってる時は普通に素顔だったぞ姫様?」


 ぐぬぬぬぬ……!?

 亡国の王族など、大乱の火種にしかならぬというのに……!?


 かつて人間国を滅ぼした際、私が口を酸っぱくして人族王家の根絶やしを進言したのに魔王様はお聞き入れくださらなかった。


 いつか禍根になると危惧していた者とこんなところで対峙することになるなど!


「苦労人は、普通の人が気づかんことに勝手に気づいて、余計な苦労を背負い込むんじゃな」

「知らなくてもいいことを進んで知ってしまうんだよ」


 ぐぬおおおおおおお……!?


 レタスレート王女の対応は一旦置いておくとして、問題は今の状況をどうするかだ。


 ベスト四まで勝ち残った顔ぶれの中に、魔王様と人間国の元王女が混在している。

 かつて大戦争を繰り広げた二国の頂点が。


 それがお遊戯と言えども再びぶつかり合うなど、嫌な予感しかしないのだが!?


「早速最悪な想像をして悶えておるのう」

「常に最悪のケースを想定して心ゲッソリするのが苦労人なんだ」


 雪合戦大会、残る試合は準決勝×二と決勝戦×一の計三回。


 そのいずれかで魔王様とレタスレート王女が衝突し、万が一にも魔王様が負けようものなら……。

 ……ここまで築き上げてきた魔国の権威が一朝にして崩壊しかねぬ!


 ならぬ、それだけはあってはならぬぞ!


 こうなっては運を天に任せるのみ! 準決勝で我々のチームとレタスレート王女のチームが対戦し、これを破る!

 そして決勝戦で魔王様と相対し、優勝をお譲りする!


 これがベストの流れ!

 頼む、どうかそのような組み合わせになってくれ!


「では準決勝の対戦カードを発表しまーす」


 第一試合:『クローニンズ・ヌーボー』vs『魔王とゆかいな仲間たち』

 第二試合:『二千豆パワーズ』vs『おっさんキャンプ同好会』


 ダメだあああああああッッ!?


 運に見放された!?


 チーム名だけでだれがどのチームかわかる! 我々が準決勝で魔王様に当たってしまうとはああああ!?


 レタスレート姫と準決勝で戦うのは、恐らくあの中堅チーム!

 彼らには申し訳ないがまず勝ち目はあるまい。レタスレート王女が率いる雪合戦チームは見るからに一騎当千の猛者揃いなのだから!


 ならば我らが勝ちを譲ったとしても、決勝で当たってしまう! けして戦ってはいけない二者が。

 どうすればいいんだ……!?


「宰相殿……こうなっては、すべてを丸く収めることは叶いますまい」


 私の肩にポンと手を置く……。

 お前は……四天王マモル!?


「我々臣下の使命は、主君をお守りすること。生命的にも象徴的にも。すべての魔族に君臨する魔王様の存在を守護するには、逆にご本人に傷がつくことも致し方ないのではありますまいか?」


 それはどういう……?

 いや、マモルの言いたいことは私にも察しがついている。


 決勝戦で魔王様とレタスレート王女が戦うことを阻止する方法はただ一つ。

 準決勝で我々が魔王様を倒す!


 さすれば決勝戦で戦うのは我々となって、魔王様ではなくなる。


「たしかに魔王様には一敗の屈辱を舐めてもらうことになるが……。かつて自分が滅ぼした王族から意趣返しされるよりはよい。その方が魔王様の名誉につく傷は浅いはずだ!」

「ルキフ・フォカレ殿! 我らもお手伝いいたしますぞ!」

「我ら苦労の絆で結ばれた同志じゃぞ!」


 シルバーウルフ殿にゾス・サイラ殿!


 こんないい仲間たちに出会えるなんて、今日は何といい日なのだ。


 頼む、皆の力を貸してくれ。


 苦労の旗の下に集いし者よ!!


    *    *    *


 そして、準決勝第一試合が始まって……。


「うぐおおおおおおおッッ!?」


 勝負は一瞬にしてついた。


 我々クローニンズが投げる雪玉の雨霰は、雪崩のごとき勢いで魔王様のチームを陣地ごと押し流した。


 雪玉殲滅殺法だ!!


「勝者、ルキフ・フォカレさんたちー」


 勝った……。

 得るもののない虚しい勝利だった……!


「フッフッフ……! 負けてしまったわ。やはり魔国宰相の手腕は遊興でも容赦がないな……!」


 戦いのあと、微笑みながら歩み寄ってくる魔王様は頭から雪塗れだった。


「しかし雪合戦にここまで本気になるとは。魔国宰相は冷徹な心情の持ち主かと思っていたが、案外子どもじみたところがあるのだな」

「きょ、恐縮です……!?」

「いや責めているのではないぞ? 貴公が雪まつりを楽しんでくれているようで嬉しいのだ。このまま是非とも優勝してほしいものだ。この我を倒したからにはな!」


 ちなみに準決勝第二試合では、レタスレート王女側にいるメンバーの一人が、なんでも相手選手に腐った豆を食わせようとしたとかで失格、反則負けとなった。


 そして勝ち上がった中堅チームと我々とで決勝戦になり、私たちが勝った。


 雪合戦大会、優勝は私たちクローニンズだ!


 ……苦労人ズ……だ……!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[良い点] 特攻野郎○チームなんて誰が分かんねん! と、思って感想みたら皆オッサン仲間でワロタw 腐り豆天使、毎回誰かの足引っ張ってんなw
[良い点] 安定して面白い [一言] きっと納豆を雪玉に仕込んで、相手の口元狙ったんだろうな・・
[良い点] ミスターTの代役のせいで反則負けしたか [一言] ナイトライダーのコンプリートBOXに 何故か入ってる特攻野郎Aチーム
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