674 雪合戦本戦・準決勝まで
そして始まる、雪合戦本番。
我々チーム『クローニンズ・ヌーボー』は、怒涛の快進撃で勝ち上がった。
雪玉を投げた。
ただひたすら投げまくった。
雪玉と一緒に、我が身に背負い込んでいる不満やら厄介事やら何やかんやを投げ捨てんばかりに。
一心不乱に投げまくった。
そして投げ続けていたらいつの間にか勝利になっていた。
この雪まつり会場で繰り広げられる雪合戦大会は、五人一チームの対抗戦がトーナメント形式で行われる。
それだけ参加者が多いということだが、トーナメントが何回戦行われるか確認する間もなくガンガン試合が消化されていった。
気づいた時には準決勝。
私ことルキフ・フォカレとその仲間たちのチームは無事勝ち残っていた。
「……途中までの記憶が途切れ途切れなんですが……!?」
「わらわもじゃ、一心不乱に雪玉投げ続けてのう」
「前後もわからぬほど没頭しないとストレスは解消されないので……!」
マモル、ゾス・サイラ殿、シルバーウルフ殿も順調に日頃のストレスを消化しつつあるようだ。
いやこのチーム、改めて見直すと本当に強い。
各国首脳クラスの人材がいるので当然と言えば当然か。
何よりもまず人族最高の身体能力を誇るシルバーウルフ殿が秀逸であった。
世界でたった五人しかいないというS級冒険者に数えられるだけのこともあり、感覚能力も反応速度も常人を遥かに越えている。
相手が雪玉を投げるより早く察知し、軌道を計算し、完全な予測をもって対処する。
世界二大災厄とすらもたった一人で渡り合えるというS級冒険者の凄まじさを見せてもらった。
さらには人魚国宰相のゾス・サイラ殿も凄い。
元々彼女は魔女と呼ばれるほど卓越した魔導士であるそうなのだが、だからこそ高度な戦術を駆使し、理詰めで俯瞰的に、相手全体を追い詰める。
彼女の指示に任せれば、まるで雪合戦のフィールドがチェス盤であるかのように、一手一手で相手を追い詰めていく。
相手は知らぬ間に追い詰められていて投了となるのだ。
そして、我が魔王軍のマモルも実によい働きをする。
あやつは元より地味な働きが得意分野だが、この雪合戦の場でもみずからは表に立たず、他者のサポートに徹している。
シルバーウルフ殿の俊敏な動作、ゾス・サイラ殿の戦術の合間合間を縫い繋ぎ、彼のお陰でまったく隙のない完璧な連係動作が完成している。
『陰からマモル』のあだ名は今なお猛威を振るっておるものよ。
表立って活躍できる人材よりも、マモルのような裏をしっかり支えてくれるものを大事にできなければどんな組織も長くはもたぬ。
その点、魔都に帰ったら魔王様とベルフェガミリア野郎に改めて進言しておかねばな。
「ルキフ・フォカレ様も凄かったですよ……!?」
「空に放り投げた雪玉が無数に分裂して直上から降り注いでたよな!? 一体どういう技だったんだ!?」
「絶対魔力使っとったじゃろうアレ? 反則スレスレじゃな!?」
そしてもう一人。
雪合戦大会は五人一チームなので、最後にもう一人メンバーがいるのだが、彼は人族の一般庶民だった。
十代そこらの少年かのう?
それなのにあんな超人軍団に交ぜられてご苦労であるが、それでも一生懸命頑張って健気なことよ。
こんな五人で力を合わせて、何とかここまで勝ち抜いてきた。
準決勝。
ベスト四まで残った。
S級冒険者、魔王軍四天王、魔女が揃えばまあ順当な成績と言えるだろう。
ここまでの連戦で、それなりに体も動かしスッキリもしたしな……。
大魔王バアル様が出場してたらもっとエキサイティングだったろうけど。
「ゴールデンバットが参加してたらもっとファイティンだったろうけど……!」
「ベルフェガミリア様が出場してたらファンタスティックビーストだったろうけど……!」
「シーラ姉様が参加してたら……一方的にやられるだけじゃ!?」
皆それぞれに不満はありつつ……。
「ないものを気にしても心に不健康だ。今ある成果を求めてひた走ろうではないか!」
「その通りですルキフ・フォカレ宰相閣下!」
「さすが宰相様じゃのう! 頼りになるわい!!」
「いやゾス・サイラ殿だって宰相だろう!? ハハハハハ!」
雰囲気も和やかとなって、チームが一丸となっている感じがする。
全人類もこのような感じでまとまっていければいいなと感じるのだった。
* * *
さて、ベスト四進出のチームが大体出揃って……。
「ルキフ・フォカレにマモルよ。卿らも勝ち残ったか」
当然のように魔王様のチームも残っておったわ。
魔王ゼダン様のチームは、ご本人以外は普通の一般庶民で構成されているようだ。
ならばここまで勝ち上がったのはゼダン様の独力……と一瞬思ったが……。
「我ら皆等しく魔王様のためにいいいいいッ!!」
「この命魔王様にお捧げするぁぁぁぁあああああッッ!!」
「ヘル! ヘルヘルヘルヘルヘルぅうううッッ!!」
「我、天命を知る!」
チームメンバー全員、すっかり魔王様に心酔しておるうううう……!?
まあ、間近でゼダン様の覇気に触れればそうなってしまうのは仕方ないが……。
……同じ魔王でもバアル様じゃ絶対ああはならんな。
一般庶民クラスでも死兵と化せば、充分に魔王様をお助けできるか。
平和な時代となっても魔王様は魔王様であられることよ。
さらに出てきたもう一チームは、見知った顔や名は見受けられなかった。
それなりの実力はあるようだが百人長クラスの中堅がまとまっているらしい。個々の戦力よりチームワーク。よい一団のようだな。
「まーたルキフ・フォカレ殿が為政者の目でモノを見ているぞえ?」
「いついかなる時も仕事を忘れられん人だなあ」
茶化すでないわ貴公らだっておんなじであろう。
……が、あの中堅チームがいかに団結力を誇ろうと、さすがに魔王様のや我らのチームには敵うまい。
ベスト四だからしてあと一つの出場枠が残っていると推測できるが、余程の曲者が現れない限りは我々と魔王様のチームの対戦が実質的な決勝戦になるであろう。
「…………皆の衆、相談があるのだが」
私や魔王軍のマモルはともかく、他種族の人たちにするこの提案は心苦しい。
しかし私は魔王様の臣下として、これを図っておかねばならぬのだ。
「皆まで言わずともわかっておりますよ」
「魔王のチームに当たったら勝ちを譲ろうというのじゃろう?」
シルバーウルフ殿とゾス・サイラ殿が見透かしたように言う。
貴公ら……!?
「私たちと似たような考え方をする貴殿なら、そう言うと思いましたよ」
「地上の覇者たる魔王が優勝する方が華もあるしの。オークボ城本戦ではまだ全制覇したことのないあやつじゃ、ここでぐらい華を持たせてやろうぞ」
二人とも……!
なんと全体を把握した意見を述べてくれることよ……!?
競技者としては差し障りがあるかもしれんが、やはり魔国宰相としては、魔王様を差し置いて優勝など恐れ多すぎる。
ここは魔王様にこそ優勝の栄華を飾っていただき、万感の締めとしよう。
「ただ、残る四組目の準決勝出場者が明らかになるまで油断はできんが……!」
「心配性だなルキフ・フォカレ殿は。いくら何でも我々と同レベルの雪合戦士がまだいるとは到底思えぬ」
何だよ雪合戦士って?
しかしシルバーウルフ殿の言ももっともか。
これ以上のチームが登場して、雪合戦大会に波乱を呼び込むのも勘弁願いたいところ……。
「うーん、でもな?」
どうしたゾス・サイラ殿?
「もう全試合終了しておらんか?」
「え?」
たしかに。
さっきの中堅チームが勝利した試合が終了し、もう雪原コートでは雪玉を投げ合っているものは存在しない?
「三チームが勝ち上がった時点で、それまでの試合が終わったのか? 全部?」
するとどうなる?
今ある三チームだけで準決勝が行われるのか?
ベスト四ならぬベスト三?
「えー、ここで皆様にお知らせがあります!」
そこへ出てきた、赤ん坊を抱えた気品ある女性!?
受付でも見かけたな!?
「プラティ!?」
「聖者様の奥方!?」
ゾス・サイラ殿やシルバーウルフ殿が慌てふためいている!?
まるであの女性が出てくることが、想像しえない災厄の始まりであるかのように!
「運営よりのお報せでーす。雪合戦大会は、準々決勝までの全試合を終了しました。これよりベスト四が出揃っての準決勝となりまーす」
それはわかる。
しかし、現在のところは三チームしか出ていないぞ。
「ここで運営側からのスペシャルサプライズです。ベスト四を彩る最後の出場者は、運営側から放たれし刺客! 農場が誇る極めのデストロイヤー! その名も……!」
その名も!?
「巷を騒がせる女子レスラー! 千の豆を持つ女! ミス・マメカラス率いるチームです!!」






