663 雪まつり、準備編
というわけで雪まつりの開催が本格決定いたしましたぞい。
農場の皆は早速それぞれの準備に入り、思い思いの構想を練り上げているようだ。
幸い原料となる雪は掃いて捨てるほど存在している。というか実際に各地から掃いて捨てたものを集めてきたんだから。
というわけで溢れた雪を有効利用するためにも、ガンガン大作を作り出してほしいものだ。
怪作は勘弁願いたいですが。
それである程度まで順調に進んでいたところで、唐突に話が大きくなりだしてきた。
* * *
「聖者様! 聖者様うおおおおおおおおッ!!」
ある日、滅茶苦茶大迫力に俺へと迫ってきたのはドワーフ王国の主エドワード・スミスさんだった。
これで一応ドワーフで一番偉い人なのだそうな。
その人が何で向こうから押しかけてきた?
「聖者様よ! 酷いではないかワシに一言の連絡もないなんて! 一言の連絡もないなんてえええッ!?」
「俺たちそんなに頻繁に連絡取り合ってないですよね?」
疎遠になった遠距離恋愛の彼女みたいな迫り方せんでくれ!
「聞いたぞ! 雪で何か色々作るイベントをしていると! そんなの我らドワーフのためにあるようなイベントはないか! 何故参加させてくれない!? 参加させるべき!」
と言ってドワーフさんたちも急遽雪まつりにエントリーすることとなったのだ。
ドワーフといえばモノづくりにかけて世界最高を自負する種族。
鍛冶から大工、細かい装飾まで何でもござれという。魔族とも大きな取引を持っていて規模は小さいが世界中から一目置かれる重要な種族なのだドワーフは。
そんなドワーフさんたちなら雪まつりでもさぞかし快作(怪作ではない)を創造してくれるだろうと思って許可した。
『報酬は出ねえよ?』ってところはしっかり了解させた。
しかしながら途中参加だけあって、先に始めた周囲との差は一定としてあった。
いつもエドワードさんとライバル関係にあるエルロンはここぞとばかりにマウントとってきて……。
「おやおや? 手先が小器用なだけが得意のドワーフさん? こんなに遅くから始めて大丈夫ですかぁ? アンタらの仕事は時間かけてなんぼでしょう?」
とめっちゃ嫌味たらしく言ってきた。
「煩いわ発想勝負のエルフごときが! プロたる者納期間近の修羅場くらい体験していて当たり前よ! 見ているがいい! 少ない時間でも最高のクオリティを体現させてくれるわ!」
「本当にぃ? ウチはスケジュール通りに進んでるよぉ? こっちが万全に整えた作品に突貫工事で勝つ自信あるぅー?」
エルロンは、エドワードさん相手には何か嫌味っぽくなるな?
そしてエドワードさんが対抗心剥き出しになるのもいつも通りの話で……。
「侮るな、ワシの作品は構想の時点でも充分お前らに勝っとるわい!! ワシはなあ、雪で造形すると聞いて咄嗟に浮かんだナイスアイデアがあるんじゃからなあ!!」
「ほう? どんなものだ? そんなに自慢なら言ってみるがいい?」
「敵に手の内を晒すアホがどこにいる!?……と言いたいところじゃがエルフごときをいい気にさせたままにしておくのも業腹じゃあ。特別に披露してやろうではないか!!」
誰かに言いたくてしょうがないんですね?
「よく聞くがいい! 我がドワーフ組が取り組む雪像のテーマは…………“情熱”!!」
……。
あの、ドワーフたちまでエルフ的な抽象芸術にハマっていったら手に負えないんですけど?
もっと地に足付けた芸術にしてくださいね、お願いなので。
* * *
その他にも余所からの参加者がいた。
エルフの里からエルザリエルさんがやってきたのである!
農場に住んでいるエルフたちとは、ザックリ言えば先輩後輩の間柄。
しかも農場エルフたちの皿を焼いたり像を彫ったりするのを『軟弱』と言って毛嫌いしていたはずなエルザリエルさんなのだが。
それなのに雪まつりには参戦するご様子。
一体どうした心境変化?
「仕方ないではないか。エルフ王たちからのたっての御命令なのだ」
とのこと。
「エルフ王やエルエルエルエルシー様はすっかりエルロンのアホに誑かされてな。チャとかいうのを広める準備を着々と進行中なのだ」
そう言えば大分前から色々やってるもんなあ。
まだ水面下進行してるのその計画? 入念にしてるんだな!?
「今回もその準備の一環で、雪で庭園を拵えろという指示を受けている?」
「雪で!? 庭園を!? エルザリエルさんが!?」
なんでなんでなんで!?……の三連発。
「私が担当者にさせられてしまったから仕方がないのだ。注文通り雪で庭石を作り、雪の表面に模様を描き、そうして作り上げた庭園の趣を『雪山水』と名付けてみた!」
「ゆきさんすい!?」
「やはり茶を飲みながら風流を感じるのに、風景は不可欠だからな! そのためにも一年かけて色々なパターンの景観を試してみた! 当日はここに客を呼び、アツアツの抹茶を飲んで冬の寒さをやわらげつつ、純白の風景を眺めて感じ入ってもらうという……!」
やっぱりエルザリエルさんも所詮はエルフだった。
自分の芸術感覚にどこまでも没入してしまう……!?
しかし雪まつり。
ただ雪像を見せるだけじゃなくて飲食でも楽しんでもらうというのはいいアイデアだな。
さっきのエルザリエルさんのお抹茶コメントで思い至った。
去年までのオークボ城でも出店を色々やってたことだし、今年も色々と出してお客さんにたくさん買ってもらって地元を潤そう。
* * *
……と思って相談に行ったら。
「今年も勝負の時が来たわね……!?」
「はッ、粋がるなよニンゲン風情が。今年もおれ様のラーメンの前に叩き潰してやるのだー」
既に自信満々の二者がいた。
まずヴィール。
それからレタスレート&ホルコスフォン組。
出店コーナーとしては大体この二者が鉄板で、ヴィールがラーメン、レタスレートたちが豆類の販売でシェアを競い合っている。
コイツらがいれば要請しなくても出店コーナーは大丈夫か。
見物客の腹を充分に満たしてくれることだろう。
「強いて言うなら、できるだけお客さんを温める料理を出してほしいかな? 今年の冬は特別寒いし。雪がメチャクチャ降るぐらいだから……」
お客さん自身にも充分な寒さ対策はしてきてほしいものだが、こちらでも風邪などひかれぬように体を温める体制を整えておくべきだろう。
ということで体を内側から温める『あったか~い』食べ物は有用!
「そういうこちなら任せるのだ! 体を温めるという点において、おれ様のゴンこつラーメンは最強と言っても過言ではないのだあああああッ!?」
たしかにラーメン食うと汗が出るよね。
しかしヴィールはいつからこんなラーメン大好きドラゴンになってしまったんだ?
「この勝負勝ったな! 今年のイベントでは、おれ様のゴンこつラーメンが圧勝なのだあああああッ!!」
「あッ、一応言っとくけど今年からゴンこつラーメンの販売は禁止ね」
「はああああああああああッッ!?」
俺からの要請にヴィールは衝撃を受けた。
「いやだって、お前が延々作り続けているゴンこつラーメンはぶっちゃけた話、劇物だろう?」
説明しよう。
そもそもゴンこつラーメンとは何か?
『とんこつラーメンの誤字?』とか思われるが違う。ゴンこつラーメンとはドラゴンを煮たてて取ったスープから作ったラーメンのことなのだ!
ドラゴンの『ゴン』をとって『ゴンこつ』な。
別に骨からスープをとっているわけではないが、そこは動物性の素材ということで豚骨とかけているらしい。
しかしドラゴン。地上最強の生物である。
その生命力は人間の常識では計れないほど強勢であり、そのドラゴンから取れたスープは、生物的に遥かに劣る人間にとっては劇薬。
希釈なしで摂取したら効き目が強すぎてバーサーカーになってしまうんだとか。
それを防ぐためにヴィールは百倍ぐらいに薄めて販売してるんだけど……。
「それは去年も売ってただろう? オークボ城にはリピーターのお客さんもたくさん来るだろうし、去年食べたドラゴン分が体に溜まって、今年もさらに食べたら段々堆積していつか許容量を越えちゃうかもじゃないか!?」
「大丈夫なのだ! きっと一年も経ったらドラゴン分も体から抜けきっているのだ! それをたしかめるためにもゴンこつラーメンでやらせてくださいなのだー!」
「人体実験じゃねーか」
味噌ラーメンにしとこうよ。
雪まつりと揃って札幌コンボになるぞ。
「それでレタスレートたちの方だが……!」
豆料理で体の温まるものってパッと思い浮かばんな。
しかし豆については既に幾多もの経験研究を積んできたレタスレートたちだ。
きっと素敵な解を用意していることなんだろうが。
「大丈夫ですマスター。これをご覧ください」
ホルコスフォンが納豆を差し出す。
コイツはまた納豆かブレないなあ、と思ったら。
その納豆を……。
「味噌汁の中に入れます」
「うほおおおおおおおッッ!?」
納豆に味噌汁!?
体を温めることにおいてたしかに汁物は鉄板だが!?
納豆に味噌汁だとおおおおお!?
味噌といえば原料は大豆!
つまりそれは大豆に大豆を掛け合わせたようなものではないか!?
「まだまだ終わりじゃないわよ」
レタスレートがさらに追い打ち!?
「納豆を入れた味噌汁に、さらに豆腐もぶち込むわ!」
「んんああああああああああッッ!?」
豆腐もまた原料大豆!
これは豆に豆に豆を掛け合わせたトリプル豆コンボ!?
さすがレタスレート! さすがホルコスフォン!
ここまで豆を使いこなせるようになっていたとは!?
「しかしここまで茶色オンリーだと色味が寂しいですね?」
「じゃあネギでも刻んで入れましょうか。緑が加われば見た目も鮮やかでしょう?」
上級者アァアアアアアアッ!?