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659 卒業試験追補、魔女検定

 先日無事終わった卒業試験であったが。


 ここに来て一部の生徒にだけさらなる試験が課せられることになった。


 人魚たちについてだ。


 人族、魔族、人魚族。世界の主要な三大種族が全部揃った農場留学生制度だが、ここ農場へ集ってきた経緯としては人魚族だけが少し異色だった。


 人魚国にある名門女子校、マーメイドウィッチアカデミア。


 その一部が農場に出向してきたという形で少女人魚たちは、ここで学んでいる。


 魔王軍からの要請で預かっている人族魔族の少年少女と違い、ここで学んでいる人魚少女たちの籍はあくまでマーメイドウィッチアカデミアにあるということで、彼女らはマーメイドウィッチアカデミアの卒業資格もしっかり得ないといけない。


 人魚少女らももちろん他種族の学友と交って先生の異界試験を突破したのだが。

 それでも故郷の学校を卒業できるかどうかの判断は別件ということで、改めて試験実施。


 しかしピラミッドでの地獄のような(というか一部、地獄そのもの)の試験を突破した猛者たちに今さら一般的なペーパーテストなど落ちるはずもなく皆無事合格。


 その上でさらに、さらなるステージを目指した追加試験が行われようとしていた。


    *    *    *


「ディスカス」

「はい!」

「ベールテール」

「はい!」

「ヘッケリィ」

「はい……!」

「バトラクス」

「はは、はい!」


 名を呼ばれて、四人の人魚少女たちが進み出る。


「アナタたちは、ここ農場で学ぶ人魚たちの中でも特に著しい成長を見せたわ。その実力は、もはや一流の魔法薬使いにも引けを取らないでしょう。だからこそアナタたちにさらなる計りにかけねばいけないと思いました」


 そう言うのは我が妻プラティ。


 二人の子を生み、すっかりお母さんが板に付いたプラティだが今日は母親としての顔を一時返上し、残忍苛烈な一流魔法薬師としての顔を取り戻している。


「アナタたちが魔女と呼ばれるに相応しいかの試験を」


 ……いや。


 今のプラティの顔つきは、かつて己の実力を誇るだけだった魔女としてのものとも違う。

 自分が強いということを誇示しながら、それゆえに弱く幼い者を導いていこうとする指導者の顔つきだった。


 子どもを生む前の彼女は、そんな意識など微塵もなかったことだから、やはり子を持つ母親となったことがプラティの心境に様々な変化をもたらしたのだろうか。


 ここにいるまだまだ幼い人魚少女たちだって、誰かの可愛い子どもだと。


「本来『魔女』は公式な称号ではないわ。強く凶悪な魔法薬使いが周囲から勝手にそう呼び恐れられるものよ。でもここで、そうした過去からの因習を切り替えようと思うの」


 プラティは言う。


「『王冠の魔女』と呼ばれるこのアタシが、アナタたちの資質を計ってあげようじゃないの直々に。もしアタシが感心するだけの魔法薬を使えたなら認めてあげてもいいわ。アナタたちもまた魔女だと名乗ることを!」

「「「「……!?」」」」


 大いなる先駆者プラティを前に緊張する人魚少女四人。


 ディスカス、ベールテール、ヘッケリィ、バトラクス。


 彼女たちはそもそもマーメイドウィッチアカデミアからの出向ということで農場に訪れたのではなく、自力でここまで辿りついてきた異色の子たちであった。


 元々はプラティの妹、エンゼルが引き連れてきた取り巻きの少女たちで、皆でプラティに挑戦してきたが返り討ち。


 そして人手不足の農場のため半ば強制的に仕事を手伝わされるようになった。


 あれから何年経っただろうか。

 農場での手伝い……人魚界最高峰の魔女たちの直接の補佐に就くことで、彼女たちはその技術知識をあらんばかりに吸収した。


 今ではもはや少女とも呼べない妙齢となってすっかり一人前。


 実力的にも一般的な魔法薬使いの水準はとっくに上回っているはずだった。

 プラティもそれを認めているからこそ更なる試練を追加したのだろう。


「さすがアタシの見込んだ子たち! やれやれ! お姉ちゃんをぶっ倒せーッ!!」


 それを傍から見て応援しているのはエンゼルであった。


 プラティの妹で、かつ人魚国の第二王女。


 いや、人魚国王がナーガスさんからアロワナさんへ代替わりした今、何て呼べばいいんだ?

 王妹?


 まあ、とにかくエンゼルだ。


「……キミは、試験に参加しないの?」

「しないわよ! 呼ばれてないもの!」


 そんなこと堂々と言うな。


「でも、昔からの友だちである皆が頑張るなら応援するのがアタシの務め! イケイケゴーゴー! お姉ちゃんをぶっ殺せー!」


 彼女らと同じ時期に農場に住み着き始めたはずなんだが……!?

 エンゼルの成長について今は横に置こう。


 問題は、これから戦う四人だ。


「試験の方法は簡単よ。……ザ・バトル」


 もっとも単純明快な方法来た。

 少年誌かよ。


「アナタたち全員でかかってきなさい。アナタたちの持つ魔法薬の知識と技術、そして気合と根性。それらを戦いの中で存分に見せつけ、アタシを認められたら名乗るがいいわ。全人魚を恐れさせる魔女の名をね!!」

「よ、よろしくお願いします!」


 最初に声を上げたのは、四人娘の一人ディスカス。


「農場で学んできた今日までの日々は夢のようでした! 憧れのパッファ姐さんに直の指導を受けたんですから!」

「私も、神とあがめるランプアイ様から様々なことを教えていただきました! こんな幸せ、農場に来る前には想像もしていませんでした!」


 次に言うのはベールテール。

 今は農場を去ってしまったが『獄炎の魔女』ランプアイにもっとも懐いていた少女だ。


「私は、ガラ・ルファ様の狂気に触れていかに自分が凡人であるかを知りました! でも凡人には凡人の身の立て方があります! ガラ・ルファ様から受け継いだほんの少しの狂気を使いこなして見せます!」


 天才の偉業は、秀才に引き継がれて世に役立てられる。


『疫病の魔女』ガラ・ルファの下で修行したヘッケリィも燃えていた。


「が、頑張ります!」


 最後に四人目バトラクスは、先の三人に言いたいこと大体全部言われてコメントが枯渇していた。


「フフフフフ……いいわその意気。それでこそこのアタシが直々に目をかけて上げた甲斐があったというものだわ……!」


 不敵に笑うプラティ。

 そのラスボスのような佇まいはやっぱり魔女時代のヤンチャさを残しているのだろうか。


「では戦いましょう! アンタたちのまだ知らぬ魔女の高みを勉強させてあげるわ!!」

「まま、がんばえー」

「きゃあああああッ! ジュニアッ! ノリトッ! ママの勇姿を見ててねええええ! この小娘ども十秒以内に皆殺しにしてアナタたちのママが最強だって示してあげるからねえええッ!!」


 母親がこれから戦闘ぶっちぎるというので、子どもたちは二人とも俺が預かっていた。


 あるいはプラティ、息子たちにいいところを見せたくて戦闘を企画した……とかないよね?


「皆、集合! 作戦会議だ!」


 一方、ディスカスらは本気で挑戦する気概で……。


「いくら私たちが成長したからって普通に戦ったんじゃプラティ様に勝てるわけがない! でも、四人がかりで袋叩きにするなら少しは勝機があるはずだ!」

「そうよね! 一対一ならまず無理ゲーだけど。四人がかりなら三人が殺されている間に一人が背中を刺せば何とかなるもんね!」

「一人でも生き残れば勝ちなのよ!」

「ワンフォーオール! オールインワン!」


 メチャクチャ悲壮な作戦を立てていた。

 あの悲壮さを迷わず許容できるのも成長の証なんだろうか?


「フッフフフフフフ……、アンタたち勘違いしているようね? 魔女を名乗れるかを問う重要な試験、ベリーイージーだと思う?」

「「「「は?」」」」

「いくらアタシが最強ビューティフルでも、成長した今のアンタたち四人を一人で蹴散らせると思うほど高飛車でもなければ楽観的でもないわ! それにアンタたちの成長をたしかめたい人は他にもいるしね」


 なのでプラティは、今日のために特別ゲストをお呼びしたそうな。


「パッファ! ランプアイ! 共に戦うのよ!」

「「「「ぎええええええッ!?」」」」


 現れた二人に、汚い悲鳴を上げる少女たち。


 それは彼女たちが尊敬し恐れた先輩魔女だった。


 かつては農場に住みこみ働いていたものの、結婚を機に人魚国へ戻って長らく農場にいなかった二人が、後輩の成長を見るため舞い戻ってきた!


「こういう理由での里帰りは悪くねーや。人魚王妃の公務は堅苦しいから、たまにはこういうハメはずしのイベントがねーとよ」

「彼女らの成長は人魚国にも益あるものです。アナタだって人魚王妃になったからにはお国のため、稀有な人材を求めることに真面目になってください」


 俺の隣にはアロワナさん、ヘンドラーくぅんも並んで俺同様にそれぞれ我が子を抱えていた。


 ママになった魔女三人。一人前を目前に控えた小娘たちに試しの激闘が始まる!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >だからこそアナタたちにさらなる計りにかけねばいけないと思いました 『計り』⇒『秤』 >「『王冠の魔女』と呼ばれるこのアタシが、アナタたちの資質を計ってあげようじゃないの直々に…
[良い点] まあ、この面子ではゲームなら完全な無理ゲーですね。 プラティ一人でも格が違うのに南無ー・・・
[一言] あの、化粧品の名前を言ってない? オールフォーワンじゃないの?
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