658 ピラミッド後話
我が農場に新たに加わりし建築物。
ピラミッド。
世界遺産だ!!
ピラミッドには階段型、屈折型、真正型とタイプが分かれるそうだが、ウチに建ったのは一番イメージの強い四角錘の突き立った形のもの。
スフィンクスはいない。
しかしそのうち追加建造されそうで怖い。
よくもまあ、こんなクソ巨大なものをと呆れる反面、ウチの農場にはまだまだ未開拓の平地が広がっているため、まだまだ空き地に余裕があってそこまで窮屈な感じでもない。
「とはいえこんな大きなものを遺されてもなあ……?」
農場留学生の卒業試験も無事終了し、安穏とした時間が過ぎ去る一方で、この世界遺産の扱いもどうしたものかと悩む俺なのである。
貧乏性の俺なので、こんな大きな建物を何の用もなく放置しておくのは心情的に具合が悪く、何か使い道はないかと考えずにはいられない。
その辺の調査のためにも、俺もいっぺんピラミッドに入って探検してみようかと思った。
思えば卒業試験の時は俺、先生の転移に同行してロクに内部も進んでいなかったしな。
スクリーン越しに生徒たちの進撃を眺めていただけだし。
ここは俺自身ピラミッドの中を歩き回って、実地調査してみようではないか!
鞭よし!
帽子よし!
革ジャケットよし!
準備万端でピラミッドに突入する俺だった。
* * *
オーク、ゴブリンそれとエルフの中から有志を募って調査隊を結成し、いざピラミッドへと突入!
この中の何人が果たして生きて無事帰ってこれるのだろうか?(フラグ)
「はえ~?」
入ってみたら、内部は想像以上にピラミッドだった。
石積みで構成された壁。
色は総じて暖色系。まさしくエジプトの枯れた砂漠のような色。
そしてたまに象形文字の模様が刻んである。
ピラミッドだった。
「本当によく凝った作りしてあるな。通路も入り組んでて迷路じゃないか」
まさに。
これを建築した実行者は、お馴染ウチの建築好きオークたち。
毎度のことだが、アイツらはこと建築に懸けて本当に妥協を許さない。
ピラミッドといえば後世、盗掘のためにやってくる侵入者を撃退するために内部は罠満載というイメージ。
ファラオの眠りを妨げぬため、墓室への道は分かれてたり行き止まりになってたりで容易にたどり着けない。
その上で色んな罠……天井が落ちてきたり大岩が転がってきたり……で、不埒な侵入者を確実に仕留める。
そんな感じを建設手掛けたオークたちは、この異世界ピラミッドで再現しているんだろうか?
「そ、それなんですが我が君……!?」
俺の探索に同行しているオークが言った。
「このピラミッド内部、明らかにおかしいんですが?」
「おかしい?」
どういうことで?
「これを建築したのはたしかに我々なんですが、こんなのを設計した覚えはまったくないのですが?」
「ん? どういうこと?」
建築したのに設計してない?
どういうこと?
「我々がこれを建てた時、内部構造は綺麗な一本道にしたはずなんです。行き止まりまでそれほど距離もなく、ものの数分あれば行って帰ってこれるはずなんですが……!?」
「は?」
しかし実際俺たちが進んでいるピラミッド内部は、巨大迷宮だぞ?
いくつもの分かれ道。総面積も広大で、とても迷いやすいし迷ったら容易には出て来られなさそう。
いや、既にけっこうアチコチ内部を歩いているが、その体感で得た印象としては、外見からのピラミッドの容積から、この迷宮の広大さは明らかにはみ出ると思うんだが!?
「……空間が歪んでいる?」
そうとしか考えられない。
思えば試験本番の時も世界を覆うほどに巨大な蛇とか明らかに収まりそうにないものを収めていたし。
先生の弁では、ピラミッドパワーによって空間がなんちゃらと言ってたような……!?
でもそれって、試験時だけの特別な処置じゃなかったの?
恒久的に持続していくものだったの!?
「どうやらこのピラミッドは、正四角錘の空間制御によって、異界からのマナを吸い込むような仕組みが出来上がっているようなのです。異界の神々が去っても、その仕組みさえ残っていればピラミッドは、異界から常時無限にマナを取り込んで、内部に滞留させることができます」
「それがピラミッド内の空間を歪めている?」
それってつまり……?
ダンジョンってことじゃない!?
「はい、このピラミッドはダンジョン化しています」
ピラミッドがダンジョンって!?
ゲームが八ビットあるいは十六ビットの時代に大流行りしたようなステージ設定!?
「そもそも卒業試験の時からそうだったんです。各異界の神仏神獣を迎えるにはそれぐらいのことが必要だったんでしょうが。肝心の超越者たちが去ってしまわれたあと、その機能だけが残ってしまいました」
普通この世界のダンジョンの成り立ちは、世界中を循環する自然マナが地形の条件などで押し留まり、濃密化したことで空間が淀み、異界化する。
このピラミッド内部は、ピラミッドパワーで開けられた次元の通路から異界のマナが流れ込み、ピラミッド内部で濃密化することにより空間を歪めている?
そしてダンジョン化している?
これがピラミッドパワー?
「ここ……!? 思ったよりヤバいところなんじゃ……!?」
「お気を付けください我が君……!?」
気を引き締めようとしたところで早速異変が起こった。
偵察のために先行していたエルフが慌てた様子で駆け戻ってきて……!
「モンスターが! モンスターが出たぞぉー!!」
と、狼少年張りの迫真さで報告してくるのだ。
「モンスターが出てくるって……本格的にダンジョンじゃないか!?」
そして遅れてこちらへ向かってくる、包帯グルグル巻きの男(?)たち。
動きは緩慢で、いかにも生気を失った感じのヤツらは……?
「ミイラ男か!?」
いかにもピラミッドっぽいエネミーが来た!?
「うおおおおおッ!? 迎え撃て迎え撃て! 戦闘準備ぃ!?」
「我が君、左からもやってきます!」
「わああああッ!? 今度は棺ごと迫ってきたあああああッ!?」
「象形文字が! 象形文字が襲ってくるううううッ!?」
「はッ? まさかあれがメジェド様!?」
「闇のゲームするの!?」
とけっこう場所柄を考慮してくれた特色のモンスターに振り回されながらも、なんとか脱出に成功してピラミッドから脱出した。
「うう……、思った以上にダンジョンだった……!?」
するってーと何か?
先生の洞窟ダンジョン。
ヴィールの山ダンジョンに続き……。
三つ目のダンジョンが我が農場に爆誕!?
「ううむ困ったな……? まさかこんなことになるとは……!?」
新たにダンジョンができたなんて。どう対処すれないいのだろうか?
* * *
とりあえず自慢してみることにした。
人間国からシルバーウルフさんを呼んで見せびらかす。
「うおおおおおおッ!? こんな! こんなところにまた新しいダンジョンが!? 出来たてえええええッ!?」
シルバーウルフさんは先ごろ正式に冒険者ギルドマスターに就任したばかりだが、根は生粋のS級冒険者だ。
新しいダンジョンを目の前にして心躍らぬわけがなかった。
「この形態! これは遺跡型ダンジョンではないか! 洞窟、山、遺跡! これで聖者様の農場に主要ダンジョン三タイプが勢揃いしたことに!? 聖者様! 早速内部を調査してきてもいいですか!? 未開ダンジョンの探索など冒険者の血が騒ぐうううううッ!!」
ダンジョンのことになると早口になるシルバーウルフさん。
ギルドマスターとして部下を統率するより、やはり一人未開に挑むことの方が性に合っているらしい。
すぐさまピラミッド内に突入し、そして戻ってきた。
「凄いですな! 内部は見たこともないモンスターに、見たこともない構造! それに出土する宝物も独特なものですぞ!」
そういうシルバーウルフさんが抱えているのは埴輪だった。
「何故、埴輪?」
ピラミッドから埴輪?
埴輪は古代王朝の副葬品だという話を聞いたことがあるから王家の墓から出土するのはわかる気がするが……。
でも何故ピラミッドから?
ピラミッドから何故、埴輪!?






