654 十二の難行、エジプト編&地獄篇
閻魔様とアヌビス神!?
かつて先生によって召喚された、卒業試験対策用の異界神メンバー。
『……十二の試練の代役を連れてくる。その役割を三神で分担したからにはノルマは一神につき四試練』
『第一第二、そして第四試練はたまたまオーディン殿の担当であった。ノルマ四のうち三つが消費され、残っているオーディン担当試練は九番目「エルフ女王の腰帯をとってくる」。冥界の女王ヘルがエルフの女王に扮しているアレのみ!』
『つまりあとはほとんど我々のターンということだ!!』
なんでそんなモチベ高いんですか?
アナタ方にとってはいきなり別世界に召喚されて変なこと手伝わされてるだけと思ってきたが、これはもしや祭りとなったら何でも楽しんじゃうクチ!?
『満を持して登場というわけじゃな! 第五試練はワシの担当じゃからのう!』
意気揚々と閻魔様。
まずはこの人のターンということらしい。
『第五の試練は「家畜小屋掃除」。ヘラクレス本人はこれを一日で終わらせたそうじゃの!』
「へぇ~」
なんか……、ここに来ていきなりグレード下がってません?
第一第二……第四とすべて凶悪な獣たちとの血で血を洗う争いだったのに。
急に所帯じみてきたというか……!?
「ああ、ネタ切れ?」
『そう思うじゃろう? しかしその家畜小屋というのが……三十年間一度も掃除していなかったらしいのじゃ』
「さんじゅうねんッ!?」
『しかもそこに牛三千頭を飼っていたとか。当然中は牛糞塗れ。人の踏み込める環境ではないであろう。それを掃除させるとは、なるほど英雄が挑むだけの難易度はあったようじゃな。華々しさはともかく』
信じられえね!
俺は、自分の農場にある馬小屋とか鶏小屋とか毎日掃除しているぞ!
でないとそこに住んでるサカモト(馬)とかヨッシャモ(鶏)が怒るし。
何より棲み処を不潔にしておくことは病気の温床になっていいこと一つもない。
こんなこと畜産の基本中の基本なのに、家畜を育てる気構えからしてなってないじゃないか!
『おお、聖者が憤慨しておる……!』
『聖者様は農産畜産物を蔑ろにすることは看過しませんからのう』
当然だよ!
自分が育てて管理するものにいたわりを持とう!
『ま、まあ今回はあくまで試練としての困難さだけを抜き取った再現物じゃから、家畜云々は関係ないのう』
よかった!
不潔な棲み処で虐げられる家畜はいないんですね!
『ワシが管理する世界に、よく似た環境のものがあったんで、それを丸ごとピラミッド内に移動させたのじゃ。「屎泥処」といってのう』
「はい?」
『地獄の中でもっとも浅い等活地獄の一隅にあるのじゃが、グッツグツに煮込んだ糞尿で満たされて、あと溶けた銅も混じっておるんじゃ』
「地獄!?」
地獄だった。
『罪を犯した亡者は、そこに沈められて罰になるのじゃが。先生の可愛い生徒たちにはこれを掃除してもらおうと思ってのう。ヘラクレスの家畜小屋掃除もそんな感じだったんじゃろうし』
「また難易度格段に上がってますけど!?」
少なくともヘラクレスさんが掃除した小屋の牛糞はグツグツになってもいなかったろうし、溶けた銅も混じっていませんでしたよ、きっと!
『あ、あと糞尿の中にはダイヤモンドのように固い嘴をもった虫がいるから気をつけるんじゃ。亡者の肉を食い破ってさらに苦痛を与えるツールじゃよ』
「命がけの難易度になった!?」
『一番最初にある地獄じゃから苦痛度は低めじゃよ』
「これで!?」
まさに四天王最弱とか言われるレベルの衝撃。
こんなに苦しい目に遭うなら地獄、絶対落ちたくない! この世での行いは気を付けないと!
そしてそんな地獄を前にして我が生徒たちは……。
スクリーン越しに……。
「潤いし水の精霊よ! 清浄なる循環をこの一隅にも注ぎたまえ!」
水の魔法を使って糞尿地獄を洗い流していった。
さすが! 先生の授業が身についている!
「うおおおおッ!? なんか変な虫出てきた! 怖い怖い!?」
「大丈夫だ! こんな時は授業で習った叡知の一つ……麺つゆトラップで一網打尽だ!」
「虫であればこの罠に抗うことはできない!」
「ねえ、水流で一緒に押し流されてくる亡者どうするー?」
「そのまま流しとけ。地獄に落ちるようならどうせ悪人だろ?」
なんというテキパキとした動作でみるみる地獄が綺麗になっていく!
小一時間した頃にはゴミ屋敷みたいだった試練の会場が、まっさらになっていた。
見事だ生徒たち!
ウチの農場で家畜小屋掃除した経験も生きたな!
『うむ! 合格じゃ!』
閻魔様も満足げに太鼓判を押した。
* * *
『次の試練は、私の担当だ!』
アヌビス神が自慢げに言う。
アナタはピラミッド建造した時点で立派に戦犯なんですから、それ以上はっちゃけない方がいいんでは?
『第六試練は「怪鳥退治」。翼や嘴、爪までもが青銅で出来ている凶悪な鳥で、ヘラクレスは自慢の弓矢ですべて射落としたという。動物といえば我が世界の神々だぞ、何しろ誰もが何かしらの動物の象徴を持っているからな!』
その割には出番遅かったですね?
『今回の鳥ということで我が世界からお呼びだてしたのは……、神々の王ホルス様だ!』
うーん……。
もう驚きすぎて絶叫も出ない。
「そんな気軽に神々の王を呼ばないでくださいよ」
しかし抗議はしておく。
『ホルス様は、そもそも神の統治者であるオシリス様の正統なる後継者! 父君を殺害せし悪神セトと八十年にわたって争い続けた武勇の神でもある!』
「だからそんな大層な神様を、学生たちの試験ぐらいで呼ばないで」
『そしてハヤブサを象徴する神だ! だから怪鳥役に相応しいかなって』
アナタのところの神々の王に謝って!
まあ、太陽を背負いしハヤブサは速いわ眩しいわで生徒たちも相当苦戦した。
ダンジョン化して空間が歪んでいるピラミッド内では神ハヤブサが充分に飛翔できるスペースもあったし。
数の優位を生かして激烈な弓矢や遠隔攻撃魔法の飽和攻撃でなんとかホルス神を撃ち落とした。
それでもやっぱり当人、なんのダメージもないとばかりに起き上がったが。
第六試練もクリアして、意気揚々と進んでいく生徒たち。
これで十二試練の半分か。
案外サクサク進むな。
……いや、あれ? 何か忘れてるような?
『いやおつかれ……、ここの世界のニンゲンたちは元気に溢れてるなー』
『お手数おかけしましたー。じゃあ用も済んだんでさっさと帰ってね』
え? そんなすげなく?
向こうでは第一第二試練を終えたフェンリルさんとミドガルズオルムさんが、ゴロゴロまったりしてるのに?
『え? いや私もせっかくだし試験の最後まで見届けたいんだけど?』
ホルス神もいきなり帰らされそうになって困惑気味。
『ほら、アナタは主神ですから長く空けてると世界が混乱しますでしょう?』
『同じ主神のオーディンが遊び倒しているのに!?』
そういやオーディンさん今どこで何してるの?
……あ、いた。
また農場でポチたちとふれあいの時間に溺れている。
『わ、わかったよ……! 帰るよ。帰ればいいんだろう? まったくもう……!』
釈然としない風だったがホルス神、背中をグイグイ押されてお帰りになっていった。
『……行ったか?』
『たしかに。……これで第三試練を開始できますな!』
ん?
そうか、さっき覚えた違和感はこれか。
何故か十二試練のうち三番目の試練が飛ばされてたんだった。
一体何故?
『ヘラクレス十二の難行のうち三番目は「神鹿ケリュネイアの捕獲」。月の女神アルテミスの戦車を引かせるために決死の追いかけっこを繰り広げたという』
「その代役も用意してあるんですか?」
『それがけっこう難航してな。案外他の世界に神に匹敵する力を持った鹿っていなかった。それで仕方なくな?』
「はい」
『鹿だけに仕方なくな、なんつって。代わりに連れてきたのが、我が世界最悪の戦争神セト殿だ』
現れた、まさに禍々しさを発揮する神。
アヌビスさんとこの世界から招待されたその神は、何というかその顔が……何?
動物であることはたしかだが、よくわからない造形だ。
獣のようでもあり、鳥のようでもある。
『セトさんは何の動物が象徴かわからない神様で、諸説あるのだ。その一つにロバがあるから。鹿役でもいいかなって』
『鹿とロバは違うが?』
『同じ偶蹄目でしょう?』
『ロバは奇蹄目だ』
なんだか適当な理由で呼ばれた悪神。
『それよりもセトさんの問題は、さっきまでいたあのホルス神の宿敵だから。二神が対面すると必ず神話大戦になるのでホルス神がお帰りになるまで隠れてもらってたんですよ』
『まあオレも色々したからな。アイツの親父八つ裂きにして国中にバラ撒いたり、アイツの母親に言い寄ったり』
『酷いヤツですねセト様も』
『ちなみにアイツの親父が不倫してオレの妻に生ませた子がお前だがな』
愛憎がドロドロしてるううう……!?
神々の王座をかけて争い合った二神だから、会わせたくなかったわけか。それで先にある試練を繰り下げたり、役目の終わったホルス神を速攻帰らせたり……?
『そこにいたかセトぉおおおおッ!?』
そんなホルス神が戻ってきた!?
『何かお前の気配がすると思ったら、やっぱりいたあああッ!! 今度こそお前を叩きのめすうううッ!!』
『うおおおおおッ! ここまで離れてもオレの存在を察知するとはレーダーかお前はああああッ!?』
結局セトさんはホルス神に見つかって、神話大戦が起きてしまったため第三試練は本中止となりました。






