652 十二の難行(簡易版)
さて。
ついに始まりました農場留学生、卒業試験。
彼らのために用意された試練一通り。それをパスすれば晴れてここで学んだことすべてが一定基準に達したということで卒業が認められます。
あの生意気だったヒヨッ子が。頼りなかった半人前が。
頼れる一人前になれたかどうかを確認するのだ!
* * *
俺は、ノーライフキングの先生と共に瞬間移動し、何やら整った場所へと来た。
『ここがゴール地点になります』
いきなりゴールに来てしまった。
まあ俺は試験を受ける立場ではなく、彼らが学ぶこの場所の主として彼らの成長を見届ける係だからな。
先生と一緒にここで待ち、見事到達した子らを祝福する役目に徹しよう。
「一体、どれだけの生徒がここまで辿りつけるのだろうか……!?」
思わせぶりなことを言ってみる。
この手の展開で、多くの観客に紛れながら思わせぶりなことを言う、後々強大な敵として主人公に立ちはだかりそうな謎のキャラクター。
……っぽく立ち振る舞ってみたい。
『きっと一人の脱落者もなく辿りついてきてくれることでしょう。ワシはそう信じております』
先生が、少しも声を震わすことなく言う。
その凛然とした響きに、先生がみずから手塩にかけて育て上げた生徒たちへの揺るぎない信頼が窺えた。
『どんな困難を前にしてもけっして諦めることなく進むこと。それがこの試験に一番大切なことです。彼らにはその力を示してもらい、巣立ったあとにも頼りにしてほしいものです』
「は、はい……!?」
先生からめっちゃ真面目に返された。
この試験は試される側の生徒たちにとってだけでなく、試す側の先生にとっても非常に重要なことだと窺える。
「……で、この試験は具体的にはどんな内容なんでしょう?」
ピラミッド内部を進んでいくことが概要だということはわかる。
しかしただ進むだけではあるまい。
その途中には様々な障害があって、生徒たちの行く手を阻まんと待ち受けていることであろう。
それが試験の本内容であるに違いない。
『お察しの通り、ピラミッド内部はあの子らを叩きのめさんとする障害で溢れております。すべてはあの子らの実力の底まで見通さんがため。心を鬼にしてできる限りの厳しい試練を用意しました』
「は、はい……!?」
先生の迫真さに俺も思わず怯む。
『試練の内容は、かつてのあの女神の発言を参考に決めてみました』
あの女神?
誰のことだろう?
かつて先生が卒業試験の相談役として召喚したのはアヌビス神、閻魔様、大神オーディンの他に……。
「ああ、テミスさん! 女神テミスさんですね!?」
法と正義を司る女神テミス。
『私のことじゃないわよ?』
『うおおッ!?』
女神テミス!?
姿が見えないと思ったらこんなところに!?
『残念なことに先生が言っているのは私じゃない方の女神ヨ。あの場所にもう一人、私の他に女神がいたでしょう?』
テミス女神の他に……?
それはまさか……!?
「ヘラさん?」
『そうそれ』
あの疑う余地もなく皆から腫物扱いされてる天母神ヘラですか!?
あの人の言動で参考にすべき点など微塵もありましたっけ!?
『旦那が浮気しなように自分以外の女は皆死ねばいい』とか言っちゃう人ですよ!? いや神ですよ!?
『あのクソ女神が言ってたじゃない。自分が、とある英雄に与えた試練を。実に自慢気に』
「はッ!?」
それは、かつての英雄ヘラクレスに、ヘラが与えたとか何とかって言う試練のこと?
たしか全部で十二もある……!?
『左様』
先生が言った。
『あの女神の人格はともかく、彼女の語ったヘラクレスの十二の難行は中々に参考できると思いましてのう。才能あふれた者を名実ともに英雄へと押し上げた事業。我が生徒らが挑戦してもきっと実りある経験になると思いました』
「先生!?」
『ピラミッド内に用意した生徒たちへの試練は、いずれもヘラクレスの成し遂げた十二の試練を模したものです。数もそのまま、全部で十二種あります』
「はああああああッッ!?」
ちょっと待っておくんなまし!
神話の英雄ヘラクレスが挑んだ十二の試練をそのまま農場留学生たちにも挑ませるということですか!?
『それすなわち……』
1.獰猛なライオン狩り。
2.邪竜ヒュドラ退治。
3.神の鹿を捕獲する。
4.人食いイノシシを生け捕り。
5.家畜小屋掃除。
6.青銅の怪鳥を射殺。
7.海神の牡牛を捕まえる。
8.暴君の騎馬を捕まえる。
9.エルフの女王の腰帯を手に入れる。
10.牛を捕獲(二回目)。
11.黄金の林檎をゲットする。
12.地獄の番犬ケルベロスを捕獲。
『……以上!』
先生は説明してくれるが……。
……それはいくら何でもハードモードすぎません!?
ガチの英雄が生涯をかけて成し遂げたアレやソレを、学生たちの卒業審査にそのまま当てはめるって!?
『たしかに、かの英雄はそれら難行を成し遂げるのに十年以上を費やしたと言います。我が生徒らにまったく同じ試練を課し、同じように十数年を消費させてしまっては可哀想と言うもの』
そうですよね?
『そこで、ピラミッド内に用意したのはあくまでそれら十二の試練を模した、軽めのもの。難易度も規模もオリジナルの足元にも及びません。ルールも定めていますから危険なく安全に、かつての英雄の事績を追体験できるようになっています』
「な、なんだ……!?」
それを聞いてホッとした。
いくら何でも英雄ヘラクレスとまったく同じ試練なんて難易度も危険度もトップクラス過ぎて、受ける生徒たちが可哀想だ!
しかしその辺の難易度調整は先生も考えてくれてるんですね。
『お、ちょうど生徒たちが最初の試練に差し掛かりましたぞ?』
俺たちの目の前に大きなスクリーンがあって、そこにはピラミッド内の通路を進む農場留学生たちの姿が映し出されていた。
遠見の魔法による
こうして試験の様子をリアルタイムで覗ける……もとい、見守れるということか。
『伝説に置いてヘラクレスの最初の試練は、魔の谷に住む獅子退治でした。我が使徒たちもそれを模した試練に挑んでもらいます』
「獅子……ライオン退治……!?」
またのっけから凶悪そうな……!?
『伝説ではそのライオンは、ただのライオンじゃなくバケモノの雄雌との間に生まれたとか何とか。モンスターの一種だったのかもしれないわねー』
追加説明ありがとうございますテミスさん。
「た、大変そうですね……!? 大丈夫なんですか? 生徒たちが噛まれたりしたら!?」
『ご心配なさらず聖者様。あくまで試練は模擬的なものです。それに伝説と同じ怪物獅子も用意できるはずがございません。何しろ本物は、何千年も前に英雄が対峙しておりますゆえ』
「そ、そうですよね……!?」
では今日の試験で用意された『怪物獅子退治(疑似)』の内容は。
『無論、「代理」です……!』
「『代理』か……!?」
つまり怪物獅子を演じる違うモノが生徒たちを待ち受けていると?
『いかにも。まあ扮するとしても対象が伝説の怪物なので、代役にもそれ相応の「格」が求められますがのう。そんなとき頼りになるのが彼らです』
『異界の神々どものことよ』
『彼らの口利きで、様々なモノどもがヘラクレス十二の難行の標的となった魔獣神獣の代役を務めております』
獣ばっかりっすね……!
『第一の試練、怪物ライオンの代役は、……大神オーディンからご紹介いただいた……』
試験現場を映すスクリーンに、画面からはみ出さんばかりに巨大なオオカミが登場した。
『……魔狼フェンリルくんですな』
滅茶苦茶デッカい。
相対する生徒がネズミかって思えるほどのスケール差。
ねえ、これさ……。
「本物の怪物ライオンよりヤバいんじゃない?」
『そうよねえ、あっちの運命では世界最終戦争にて主神を食い殺すことになっている大魔獣なんだから、英雄に絞め殺されるライオンとは比べ物にならないわよねえ』
……。
本物よりその代役の方がラスボス風味やんけ!?
「先生! 先生これ大丈夫なんですか!? 生徒たちに危険はありませんか!?」
『心配ありませんとも。何しろ大神オーディン殿のご紹介ですからな。しっかり生徒たちを思いやって手加減してくれることでしょう』
ホントに!?
ああたしかに、あのフェンリルさんとやらが生徒の一人に噛みついてるけど思いっきり甘噛みだ!
ただし生徒の体が半分、オオカミさんの口の中に入っているがな!
まるで骨型のイヌ用おやつを齧っているかのようだ!






