644 干し柿雑話
柿でもって干し柿を作った話が瞬く間に広まって、他の樹霊たちが押し寄せてきた。
『ズルいです! 柿ばかり加工してズルいですぅうううッッ!』
『私も干してください! きっと美味しくなってみせます!!』
『水分を飛ばして甘み凝縮された存在にッ!!』
と樹霊たちが憑依した果実たちに囲まれた。
そう彼らはいつだって自分が一番美味しくなることに貪欲なのだ。
独り特別扱いはよくないな。
ではやってやろうじゃないか。
区別なくすべての果物を、干して、カラカラにして、甘みを限界まで凝縮させる!
ドライフルーツ祭りをな!!
さあどのフルーツから干してやろうか!?
お前もドライフルーツにしてやろうか!?
『聖者様! まずは私から!』
お前はフルーツの定番、リンゴ!?
普通に食べても美味しいリンゴを干すという、まさに野心的行い!
中身がみっちり詰まって硬いリンゴは、そのまま干しても水分が抜けにくいのでスライスしてチップ状にして干します。
できた!
ドライアップルが!
スライスしたからチップス状でスナックみたいに食べられる!
リンゴ独特の甘みがより濃厚に味わえる!
紅茶と一緒に食べてもいいな。
アップルティーとかあるぐらいだから当然のように合うぞ! なんなら紅茶に直接ぶち込んでもいいぞドライアップルを!
『聖者様! 次は私が!』
バナナか!
バナナも水分がよく抜けるように皮を剥いて、そして輪切りにして干す!
すると、よりなおチップスのようになってつまみ食いするには絶好の形状!
酒の肴にもピッタリだ!
ウイスキーとかに合うらしいぞ!
「あとひく甘味……、いくらでも食べていられる……!?」
『聖者様! あとがつかえているのでサクサク行きましょう!』
たしかにドライフルーツは、水分をなくしている分歯ごたえはサクサクとなりがち。
しかしすべてがすべてそうというわけではない。
その代表選手がお前だ!
ドライマンゴー!
どれだけ干そうと完全に水分を失うことがない。それによる弾力ある歯ごたえが魅力のドライフルーツ!
『『『『『我々を忘れてもらっては困りますぞ!』』』』』
お前たちは!?
レモン、オレンジ、はっさく、みかん、ゆず!
柑橘類五人衆!?
『我ら柑橘類は、「どれがどれ?」といわれることが多いですが、だからこそドライフルーツとして力を合わせて進みます! どうぞご賞味ください!』
皮諸共干したので酸味も伴ったドライ柑橘類!
そして次のドライは……!?
ブドウ!
つまり干しブドウ!
これこそ皆にとって一番馴染み深いドライフルーツではありませんでしょうか!?
パン生地にまぶして焼きたいぜ!
それがブドウパン!
「これも食べだすと止まらなくなるな……!?」
どんなフルーツだって干すことができる。
干したら、それまでとは違った味わいを楽しむことができる。
ドライフルーツ。
そのまま食べてもいいし、ヨーグルトにブチこんでもいい。パン生地なりケーキ生地に混ぜ込んで焼くのもいい。
いつものフルーツに飽きた時、つまんでみようぜドライフルーツ!
『フフフフフ……! これで終わりのつもりですかな……!?』
「なにッ!? 誰だ!?」
『私の存在を忘れてもらっては困りますな。干すといえば、私こそが本家、私こそがパイオニア……!?』
なんだと!?
その自信満々な口ぶり、……まさかお前はフルーツの王様ドリアン!?
ドリアンをもドライにしようというのか!?
『いつもフルーツ関係で私がオチ要員になるわけではないですよ』
あッ、ドリアンの樹霊こっちにいた?
だったらますますこのラスボスめいた声の主は!?
『ではそろそろ種明かしをいたしましょう! 私です!』
ソイツは……!
キノコの化身、マタンGO!
『干すと言えば干しシイタケ!! 私が究極のドライフルーツ! 干しシイタケを御馳走いたしましょう!!』
「お前フルーツじゃねえじゃねえか」
しかも干しシイタケは水に戻さないと食べられない。
そのままじゃ食べられないじゃないか!
レギュレーション違反の干しシイタケ乱入で、その日のフルーツたちの集いはお開きになった。
* * *
こんなこともあった。
また忙しい合間を縫って魔王さんが遊びにきた。
早速干し柿をお出しした。
お茶請けに添えた干し柿を、魔王さんは迷うことなく口に放り込み……。
「おおう、独特な甘みだな。ネットリとして癖になる」
気に入ってくれたようだった。
「しかしこのように甘い菓子は婦人か子ども向けだな。男が甘いものを好むとどうも咎められる気がして、隠れて食べてしまう」
わかる。
変なプライドが邪魔をしてパンケーキとかタピオカとか頼みづらいよね。
しかし干し柿なら大丈夫。
ガールなイメージはないし、男の人だって好きなだけ甘みを満喫できるぜ。
いや、むしろ干し柿には男性的な、武辺的なイメージだってあるのだ。
こんな逸話だってあるのだから。
「俺の前いた世界に……明智光秀という武将がいましてね」
「うむ?」
「運悪く戦争で負けてしまうんですが、逃げたけど捕まって処刑されることになったんですよ。で、処刑場に連れてかれる途中に『喉が渇いたから水をくれ』って言うんです」
歴史ファンなら有名なエピソード。
死刑囚を護送する役人は、白湯がなかったので仕方なく代わりに『干し柿ならある』と差し出す。
しかし明智光秀は『柿には痰の毒があるから別のものにしてくれ』と断った。
「それを聞いて周囲の人は笑ったんですよね『これから死刑になる人が健康を気遣ってどうする!』と」
「うむうむ」
「明智光秀はこう答えるんですよ。『大きな目的を持つ者は最後まで自分の命を大事にすべきだ。本望を遂げるまで死んではならないのだから』と」
「素晴らしい!」
元から武人気質の魔王さんは、このお話に膝を打って喜んだ。
「たしかにその通りだ! 与えられた使命を果たすために何があろうと生き抜く! それが真の武人に必要なもの! その話、魔王軍でも大いに広め、明智光秀を魔王軍人の生きる見本としよう!」
「はい」
「……ところで、この干し柿は毒が入っているのですかな?」
「大丈夫です。そこはただの迷信です」
というわけで魔王さんは明智光秀の話を大いに気に入って、話のタネにして帰っていったのだった。
…………。
……………………。
……間違えた。
「明智光秀じゃなくて石田三成だった……!?」
ミツナリだよ!
関ヶ原で負けて打ち首になって干し柿云々のエピソードを残したのは石田三成だったよ!!
普通に間違えた!
気づいたのはその日の夜に布団に入ってからだった!
いや待ってほしい。
でも仕方ないよ、あの二人ってよく似てるじゃん。
双方名前に『ミツ』が入っているし。
武闘派ってよりは知性的という性格も似通っている。それを鼻にかけて上司もしくは同僚から嫌われるってところも。
さらに仕えていた天下人が死んでからすぐ自分もいくさに負けて死んでしまうところも一緒じゃない?
違う?
だから俺があの二人と取り違えたのも仕方のないこととしてくれませんか。
うおおおおおッ!? 明智さんは本来金柑の人なのに、何で干し柿の人と間違えたああああッ!?
フルーツ関係の持ちネタがあるところまで共通しているじゃないか!?
こうして俺の勘違いミスによって。
明智光秀さんはこの異世界で干し柿の人として名を広めていくのだった。






