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641 不死山開山

 こうして唐突に始まった世界の危機は、唐突に事なきを得て収まった。


『はぁ……? するってーと……?』


 老師とヴィールの二人がかりでボコられた形の始祖竜プロトガイザードラゴン、それで一旦大人しくなってこちらの話に耳を傾ける。


『今の世界は別に神々から蹂躙も受けていないし、特に問題がないと……? じゃあなんでおれ様は復活したんだ? 何もない時には何も起こらないシステムなんだぞ?』

「その責任はすべて俺にあり……、お騒がせしてまことに申し訳ありません!!」


 平謝りする俺。

 だってこの竜を用もないのに復活させたのは、紛れもなく俺の『至高の担い手』によるものなんだから。


「アナタの復活は完全無欠の手違いでした! お騒がせいたしましたが、アナタが世に出てもいいことはありませんので再びとこしえの眠りについてくれませんか!?」

「永眠するのだー」


 この存在するだけで騒ぎにしかならなそうな竜さんは、可及的速やかに再び封印されてもらうのがいい。

 というわけで一刻も早く火口へ押し戻そうと皆で全力を挙げる。


『答えは…………NOだッ!!』

「なんでッ!?」

『逆に聞くが、お前は数万年ぶりに呼び起されて「手違いだったからまた寝てください」と言われてすんなり眠りにつけるのか!?』


 そ、そう言われると……!?

 俺たちの主張が不思議と理不尽に聞こえてくるが……!?

 いや、不思議でも何でもないか?


『おれ様が生み出されてより数万年……。この世界が母の危惧したような惨状に陥っていないことは幸いだが、だからと言って意味もなく呼び覚まされたことに何も思うところがないとはなれない』

「いや本当マジすみません」


 平謝りするしかない俺。


「おなさけをー」


 ジュニアも一緒になって謝る。

 できた息子だ。


『……チッ、世界の現状がわかっただけでもよしとするか』

「ドラゴンのくせに物分かりがいいヤツなのだー」

『うるせえッ!! ……しかし、何万年も経てば世界は随分変わったようだな。まさかこの究極至高、唯一無二の存在、原始皇帝竜プロトガイザードラゴンのテュポン様を抑え込められるヤツがいようとは。数人がかりで卑劣な手段で……我が複製の手を借りたと言えどもな』

「負け惜しみが滲み出ているのだー」

『うるせえっての! 大体お前! お前もただのドラゴンではあるまい! どれだけ力が弱まっていてもこのおれ様と互角に戦えるドラゴンは、単なる通常複製ではありえない!』

「おんー?」


 最初の竜は、それでもやっぱりドラゴンで最強の誇りを守るために、色々負けて仕方ない理由を模索している。


『究極至高、唯一無二の存在、原始皇帝竜プロトガイザードラゴンのテュポン様と互角に戦うには、それこそ我が力の多くを込めて受け継がせるようにした「龍玉」の持ち主でなければ! つまり、お前こそが今この時代のガイザードラゴンということで間違いないな!?』

「間違いあるのだ」

『ええぇーーーーッ!?』


 すべての竜の頂点に立つ皇帝竜ガイザードラゴンになら負けてもしゃあないという風に話を持っていきたかったのであろう。

 しかしアテが外れる。


「おれ様はどこに出しても恥ずかしくない由緒正しきグリンツェルドラゴンなのだ! ガイザードラゴンにならこないだ弟竜のアードヘッグがなったばかりなのだぞ!」

『だ、だったらおかしくないか? 新たなガイザードラゴンが決まったら他すべてのドラゴンは消滅し、皇帝竜の糧になるはず……!?』


 それ最近になってシステム改定されたんですよ。

 今ではドラゴンも意味もなく争うことがなくなって平和そのものです。


『なんということだ……!? ドラゴンは神々の監視役の任を失ったというのか……? 現世にはドラゴンを翻弄する不思議な力の持ち主までいるし……!? たった数万年で世界変わりすぎだろ……!?』

『数万年でたったとは、最古竜の時間感覚はノーライフキングもビックリにゃー』

『光陰矢の如し、少年老い易く学成り難し』


 カルチャーショックを受ける竜だった。

 こういうのもウラシマ効果って言うのかな?


「大体今はガイザードラゴンより遥かに強い竜がいるからなー。神どももアレキサンダー兄上にビビッてヤンチャできないのだ」

『何ぃ!? おれ様の「龍玉」も受け継いでいないのにそんなに強いヤツが!?』

「アレキサンダー兄上は宇宙最強なのだー。お前が抜け出せずにヒーヒー言ってた異空間も、アレキサンダー兄上なら力任せに破壊できてたしな。なー?」


 と、術の主である老師へ振る。


『「九曲黄河陣」、不可。「十絶陣」、不可。「万仙陣」、不可』

『老師の持ってるどんな次元仙術でもアレキサンダー殿だけは封じられないにゃがねー』


 それを聞いた最初の竜、ワナワナと震える。

 まだ火口には戻ってくれないんですかね?


『わかった。おれ様をソイツのところへ案内しろ』

「ええー?」

『「龍玉」も持たないザコ竜が、おれ様を遥かに超える力を持つなんて認められるかッ! 究極至高、唯一無二の存在、原始皇帝竜プロトガイザードラゴンのテュポン様をも超えるだと!? この目で見るまで信じない! 実際に会ってソイツの実力をたしかめる! 評判だけのこけおどし竜だったら不遜の罰に捻り殺してやる!』

「不遜なのはアナタだったってなりますよ?」


 どうやら始祖竜さん、まだまだ不死山の火口には戻ってくれないらしい。


 さてどうしたものかと周囲を見渡してみると、またちょっと厄介げなものを視界に入れてしまった。


 S級冒険者のゴールデンバットが、魂が抜け出しそうなほど口をあんぐり開けて立ち尽くしていた。


「オレがずっと憧れていた霊峰・不死山で、こんな体験が待っていようとは……!?」

「うんうん、驚いたね。たまげたね」


 実際口からフヨフヨ伸び出ているゴールデンバットの魂を掴んで口の中へ押し戻す。

 反魂の法、俺にもできましたよ先生!


「頼むからショックで死なないでね。そういうのはドワーフさんたちだけで充分なので」

「我がライフワーク『異世界百名山』に書き記すためと思って不死山に登ったが、想像を超える出来事が起こりすぎてどう書き記したらいいかわからん……! こんなの起こったことをありのままに書いたら、『何を書いてるかわからねー』と思われてしまう!」


 それでいいんじゃない?

 事実は小説よりも奇なりですよ。


「事実を書いてもウソと思われて、『この本全部ウソしか書いてないんじゃね?』とか言われてしまう! 我が人生の集大成『異世界百名山』がああああッ!!」

「落ち着いて落ち着いて」


 思わぬところで彼の計画が崩壊の危機を迎えていた。

 このままではゴールデンバットが夢破れて憤死してしまいそうだが、それを阻止するために何かいい手はないか!?


『じゃあ、こういうのはどうにゃ?』


 博士が尻尾を揺らしながら『にゃーん』と寄ってきた。


『今、老師と相談してきたにゃが、不死山麓に敷いてある結界を解除するそうにゃ』

「え? なんで?」

『元々封印された始祖竜へみだりに人を近づけさせないために老師が番人をしていたんだからにゃ。封印された当人が抜け出してきたらあとに残るのは霊験あらたかな霊峰だけにゃ。ご利益を得るためにどんどん登るがいいにゃー』


 なんとマジで!?

 番人本人である老師へ視線を送ると……。


『善の善なるは即ち善なり』

「よくわからないがやったー!」


 山大好きゴールデンバットは飛び上がって喜んだ。

 これからもまた不死山に登れるなら登山家としては大喜びだろう。


『そのことを著作に書き記して、事実その通りなら読んだヤツらも信じるにゃ。他のことも事実だと認めるはずにゃー』

「もっとやったぁああああああッッ!?」


 もっと飛び上がるゴールデンバット。

 飛び上がりすぎてそのまま昇天しないよう気を付けてほしい。


「しかしいくらなんでも大サービスすぎませんかね? いいんですか恐るべきノーライフキングがそこまで掛け値なしに助けてやって」

『にゃーに、老師も常々この山に人が入ってほしいと思ったようにゃ? 元々自分が仙人化した山だからにゃー。同じように修行する将来性あふれた後輩を求めているようにゃ』


 老師の菩薩像めいた表情に、どこかワクワクした心の弾みが浮かんでいた。


 ノーライフキングってまた皆、あんな風に指導欲に溢れているのかなあ?

 封じられた怪物の番をする使命から解き放たれたノーライフキングの老師は、あとは自分のあとを追って仙人の道を目指す後輩を助けられるように、この不死山を霊場として整備していく所存のようだ。


「よぉーし! そうなったら早速山を下りて執筆にとりかからなければ! S級冒険者ゴールデンバット、一世一代の大仕事の始まりだああああッ!!」

「キミのやらなきゃいけない仕事は他にもあると思うんですがね?」


 他のS級冒険者……たとえばシルバーウルフさんは正式に冒険者ギルドマスターに就任して、これから始まる魔国ダンジョンの冒険者解放へ向けて準備に大忙し。

 同じくS級のブラックキャットはギルドマスター夫人としてシルバーウルフさんをサポートする。


 ピンクトントンさんとカトウさんはプロレス興行を通じて、魔国の人々の冒険者を受け入れてもらおうとドサ回りしている中……。


 コイツだけが自分の欲望を満たすためだけに駆け巡っている!

 それでいいのか!?


「自分の好きなことだけやるのが一番いいのさ!!」

『努めるは好むにしかず、好むは楽しむにしかず』


 老師もなんかこのアホを肯定するような口ぶりはやめて!!


 こうして一通りの観光を楽しみ、日が暮れる前に帰らないとというのもあるので俺たちは下山した。


 老師の飛天術で一瞬だったけどさ。

 また帰りの道程を自分で踏みしめられなかったことにゴールデンバットは悲憤したが、より綿密な紹介を『異世界百名山』に書くため、もう一度登るんだそうな。


「ぴくにっく、たのしいー」

「そうかジュニア。今度はママや弟とも一緒に来ようなー」


    *    *    *


 さて、ここで後日談を少々。


 復活したプロトガイザードラゴンのテュポンさんは、噂に聞いたアレキサンダーさんの強さを信じられず本当に挑戦しに行ったが、案の定瞬殺されたそうだった。


 そしてゴールデンバットは数ヶ月にわたる推敲の末に『異世界百名山』を上梓。

 ベストセラーとなって人魔両国に互いの観光スポットを紹介し、興味を持った一般の人々が国境を越えて物見遊山に行く。


 その動きが二国の交友を活発にし、結局冒険者ギルドのした中で一番効果的な融和政策となったんだとか。


 シルバーウルフさん、ブラックキャット、ピンクトントンさん、カトウさんらが口を揃えて……。


「「「「納得いかねえ」」」にゃーん……!!」


 ……と愚痴っていた。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[良い点] 恐らくパンドラの箱の失敗があるから自分のギフトには自身の意思とは関係なく封印などを解いてしまうと気づけたんですね。 [一言] 老子とか孔子とか ストレートに書けない老師 大変そうでも面白…
[気になる点] あれ?テュポン対アレキの話に続くのかと思ったら アッサリ瞬殺されて終わったw めっちゃ気になる~!
[良い点] 瞬殺w アレキのアニキが最強かよ [一言] そしてまたアードヘッグとマリーのところに居候が増えるのか
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