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630 皇妃竜を巡って

 誰が漏らしやがった皇妃竜グィーンドラゴンの機密を!?


 っていうか心当たりなんて一つしかないわ!

 わたくしは容疑者の下へと直行!


「オラここかぁッ!?」


 我がダンジョン内にしつらえられた一室のドアを蹴破りますわ!

 そこにいる、ただ飯ぐらいの居候竜ども!


「……『殺戮』」

「『く』? く……、くッ、『クリーン』ですわ!」

「はい『ん』がついたシードゥルの負けー」

「きゃああああッ! しりとり難しすぎますわ! お父様もう一回! もう一勝負ワンモアですわ!」

「仕方ないなあ、ではもう一回行くぞ? ……『虐殺』」

「『つ』ですわね!? ……つ、……つ? そうだ『ツタンカーメン』ですわ!」

「また『ん』がついてるじゃねえか。そしてなんだ、そのワード?」

「ぎゃあああああッ!? 違いますわ! ……そうです『ツタンカーメンさん』と言おうとしていたんです!!」

「それでも負けだよ」


 先代ガイザードラゴンであらせられるお父様と、何故か我が家に入り浸っている妹竜シードゥルですわ!

 コイツら揃いも揃って許可してもないのに居座りやがって!


 シードゥルの驚異的しりとりの弱さにも戦慄したけれど、今そこはどうでもいい!


「犯人は貴様かおりゃあああああああッ!」

「ぐおおおおおッ!? マリーお前!? 父竜をネック・ハンギング・ツリーするとは気はたしかか!?」


 煩いですわ強さこそがすべての竜だからこそ親に対しても容赦はしませんことよ。

 それよりも。


「グィーンドラゴンの存在を言い触らしたのはアナタねお父様!?」

「な、なんのことやら?」

「惚け方からして怪しい!?」


 ニンゲン形態では年甲斐もなくいたいけな少年の姿を取るお父様。

 そんなお父様を締め上げるわたくしの姿を傍から見たら子どもを苛めているようで風評被害だわ。


「皇妃竜グィーンドラゴンの存在は、たった一度ガイア母神の口から転がり出ただけ! つまりあの場で聞いていた者以外、その概念の存在自体を知るはずがないのですわ!」


 そんなグィーンドラゴンの存在が知れ渡るとしたら、あの場で聞いた者が言いふらす以外ありえないのよ!


 あの農場の人たちわたくしたち以外の竜と接点がないから伝わりようがない!

 だとしたら、あの場にいた竜こそがもっとも有力な容疑者なのよ!


「そしてお父様はあの席にいたでしょう!? ガイア母神も降臨したアードヘッグのガイザードラゴン就任の場に!?」

「げへっへ!? たしかにそうだが、竜ならヴィールやアレキサンダーだってあの場にいただろう?」

「アイツらはこの手の話題に欠片も興味がないでしょう! それよりもお父様の方が数百万倍怪しいのよッ!」


 そう、先代ガイザードラゴンであり、強さだけでなく性格の悪さまで究極のアル・ゴールお父様。

 敗北して皇帝竜の強さは失われたものの、その性格の悪さだけは健在! 厄介すぎることに!


「その性格の悪さで場を引っかき回したくなったんでしょう!? 洗いざらい吐きなさいクソガキ!」

「そこまで見抜くとはさすがマリー。かつてはガイザードラゴン継承最有力候補と言われた竜よ。しかし、お前だって悪いんだぜ?」


 ほら出た!

 悪者が悪事を暴かれて、できるだけ責めを弱めるために相手にも非があるように論じたて、どっちもどっちな流れに持っていこうとする!

 その手に乗るか!

 悪いのは常にアナタだけだ!!


「アードヘッグがガイザードラゴンとなった代から、ドラゴンの在り方が大きく変わる。それまでの『神の監視、及び制裁役』としてのドラゴンの任が解かれ、他の生物同様自由に、あるがままに生態を営むことができる」

「知ってますよそんなこと」

「そんなシステム改定の目玉というべきなのがガイザードラゴンの妃、グィーンドラゴンだ。その役割は非常に重要。初代グィーンドラゴンとしてアードヘッグに嫁いだ雌竜が、これからのドラゴン種族の在り方を決めていくと言っても過言ではあるまいか?」


 くッ!?

 何となく正論に聞こえるから困る!?


 お父様こそかつて最強竜であったくせに何故そこまで屁理屈が達者なのかしら?


「グィーンドラゴンとなる者は、多くの選択肢の中から慎重に選ばなければならぬ。決してたまたま知った者が情報を秘匿し、有利な立場で進めてはならんということだよ」

「だ、だからお父様は、数多くのグリンツェルドラゴンに声をかけたと?」

「すべては種族としてのドラゴンの未来を案じて。既に引退したとはいえ元ガイザードラゴンの責任があるのだよ」

「本音は?」

「もうアードヘッグの正妻ヅラしてるお前に揺さぶりをかけて、慌てふためく姿が見てみたかった」

「死ねええええええええッッ!!」


 このクソ父竜!

 アードヘッグたちが討ち漏らしたのなら今この場でわたくしがとどめを刺してやる!

 それが彼の妃としての務めですわ!!


「へー、面白そう、それならわたしもグリーングリーンドラゴンとかいうのになりたいわ!」

「しまったここにも聞かせちゃいけない相手が!?」


 わたくしとお父様の罵り合いをほぼ間近で見ていたシードゥルが目を輝かせていたわ!

 これ以上の競争相手は御免蒙るのよ!

 ただでさえコイツは頭が軽い分、人間形態での乳の大きさヤバいくらいのデザインなのに!?


「グリーングリーンじゃなくてグィーンだぞ、シードゥルよ?」

「ニンゲンさんの世界では王妃様って、王様の次に偉いのでしょう? ドラゴンにもそんな制度が導入されたんなら是非ともチャレンジですわ! 諦めたら何も始まらないの!」


 いかん、いい具合にやる気が奮っている!?


 お父様が声をかけた雌ドラゴンは、他にも多数いるに違いない。

 それらすべてがこれから押し寄せてアードヘッグの妻の座を巡って争い合うとしたら……。

 いくらここまで愛の歴史を積み上げてきたわたくしでも。


「父上の言、もっともなり!」

「アードヘッグううううううううッッ!?」


 なんでアナタがここへ!?


「マリー姉上が急に駆け出すから追いかけたのですぞ! それで偶然ながら父上の深いお考えを拝聴することができました!」


 やべええええええええッ!!

 アードヘッグにまで聞かれるなんて!

 クソ真面目な彼のことだから本当にグィーンドラゴン選抜の儀式とか始めかねないいいいいいッ!?


「お父様はガイザードラゴンから退位されてもいいことを仰いますわね!」

「お父様は力を失われてもいいことを仰いますわね!」

「お父様はクソザコになってもいいことを仰いますわね!」


 泥棒猫の雌ドラゴンまで揃って!?


「いかがですアードヘッグ様? ここはお父様の仰る通り、真にグィーンドラゴンに相応しいものを一から選び直してはいかがでしょう?」

「わたしたち、皇帝竜のお眼鏡にかなうよう全力を尽くしますわ!」

「わたしも! わたしも!」


 シードゥルまで乗ったああああああああああッッ!?


 ヤバいわ! このままでは九分九厘手にしていたグィーンドラゴンの……いいえ、アードヘッグの妻の座が奪われてしまう!

 誰とも知れない他の女に!?


 正直、皇妃竜の称号なんてどうでもいいの! わたくしはアードヘッグの傍にさえいられればそれでいいのよ!

 ようやくその幸せが手に入りかけていたのに、皆してその幸せを奪わないで!


「皆の気持ちはよくわかった。おれもガイザードラゴンとして義務を果たさねばなるまい」


 真面目なアードヘッグは他者の意見も真面目に受け止めるのだわ。

 それで相手の思い通りに……。


「マリー姉上」

「はい?」

「おれの妃になってくれまいか?」


 ………………。

 …………。

 へぁッ!?


 な、何をいきなり!?


「妃というものはドラゴンであるおれにはまだよくわからぬ。友人であるアロワナ殿とパッファ殿を参考にするしかない。そこであの二人のように互いに支え合って物事を成していくのが夫婦のあるべき姿なら、おれの相手はマリー姉上以外ないと思えるのだ」

「おいおいおいおいおいおい、ここで即決しやがったわアイツ」


 お父様煩いわ。

 わたくし今、数百年生きてきた中で一番嬉しい瞬間なのよ!


「今までもマリー姉上がもっとも近くでおれを支えてくれた。これからも同じようにおれを支えてくださいませんか?」

「は、はい……!?」


 乞われて、応じた。

 これでわたくしが晴れて名実ともに竜帝の妃グィーンドラゴン!?


「それじゃ面白くないですわー」

「ぐぼえわッ!?」


 誰です!? わたくしのアードヘッグの横腹にドロップキックをかますのは!?


 シードゥル!?

 アナタ恐れなすぎじゃなくて!?


「妃候補をマリーお姉様に絞るとしても! まだまだ審議を深める必要があると思いますわ! ことは重大なのですから! 新たなドラゴンの歴史が始まりの何やかんやなのですわ!」

「喋るなら最後まで喋りきって!」


 何言っていいかわからないからって途中であやふやにしないで!


「どうせなら、マリーお姉様がお妃さまに相応しいか徹底的に試してみるのがいいですわ! マリーお姉様、お妃検定です!」

「いいなそれ! 大した波乱もなく収まりそうでつまんねーなと思ってたところだ! シードゥルにしてはナイスな引っ掻きまわしではないか!」


 お父様同意しないで!

 しっとり収まるならそれに越したことはないでしょう!? 大どんでん返しとか今は流行らないのよ!?


「いいえやりましょう!」

「それならまだ私たちにもチャンスが!」


 黙れ女狐で泥棒猫のドラゴンども!

 アンタらは何とか隙をついて妃の座を掠め取りたいだけでしょう!?


 なんて熾烈な戦いなのかしら! ニンゲンたちは毎代こんな争いを繰り返してるというの!?

 案外大変なのねニンゲンって!?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] ねるとん的なちょっと待ったー!
[一言] いつも更新ありがとうございます。
[一言] >案外大変なのねニンゲンって!? もっとエグイ事連発しててドン引きだゾ! 君達も代を重ねれば「あの頃は良かった」って絶対言うゾ!
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