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627 弓取式

「ぐぬおおおおおおおおッッ!?」


 マズいッ、再び押されてきたッ!?


 ナーガスさんの発揮するパパパパパパパパパパパワーに、新米パパでしかない俺は到底抗いようがない!


「もすうううううううッッ!!」


 怒涛のがぶり寄りに、俺の踏ん張りは決壊寸前だ!

 背骨がギシギシ言ってきた!


 やはりナーガスさんは恐ろしい人だ、一人の男としても、家族を養う父親としても、俺の遥か先を行っている。

 俺より遥かに年長で、その分数え切れないほど多くの困難を乗り越えて燻し銀となった彼に敗れるとしても仕方のないことなのか。


 俺の心に諦めが灯りかけていた、その時だった。


「まだよ旦那様!」


 土俵の外から聞こえてくるこの声は、プラティ!?


「たしかにパパの父親力は凄まじいけれど、だからこそ付け入る隙はあるわ! パパの、一人の(おとこ)でもなく、父親でもない、さらなる一面を突くのよ!!」


 どういうことだ!?

 と俺の推測が働くよりも早く、プラティが掲げたそれは……!?


「……ノリト!?」


 生まれたばかりのうちの次男じゃないか!?


 ……可愛いなぁ。

 赤ん坊の我が子は可愛いなぁ!


 っていかん、真剣勝負中に気を緩めては即座に敗北へと繋がってしまう!

 まして今の相手は士の中の士、ナーガスお義父さん!


 そんな人と組み合っている最中に気を緩めたら、即死亡と気づいた瞬間ヒヤリとしたが……。

 俺は無事だった。


 何故なら、相手の方がずっとユルユルになっていたからだ!


「もすうううううう……ッ!」


 さっきまでの気迫はどこへやら?

 すっかり目尻が垂れ下がってユルユルになっている!


 それはやはりノリトのお陰か。

 プラティは、ナーガスさんにとって目に入れても痛くないほど可愛い娘、そのプラティがお腹を痛めて生んだノリトはさらに可愛いに違いない。


「よし、狙い通りにパパの気が緩んだわ! 今よジュニア追撃よ!!」

「じいじ、すきー」


 さらにお兄ちゃんの方まで出てきてナーガスさんを揺さぶる!

 可愛い孫のダブル攻撃によって、男はメロメロにされてしまった!


「もす、もすもす、もすぅううううう……!」


 ああッ、あの鬼気迫るマスラオはどこへやら!?

 土俵の上にはもはや孫に甘々なおじいちゃんしかいないッ!


 ……はッ、そうか!

 これがプラティの作戦か!?


 どんなに質実剛健、修羅場を潜り抜けた男でも、孫を前にしたらデレッデレに蕩けてしまう他ない。

 孫の可愛さで、英傑の力を消し去る。


 ……つまり、これこそ消爺(シャオジー)ッ!


「これでパパは骨抜きよ! チャンスよ旦那様、一気に押し戻してー!」

「ひだりては、そえるだけー」


 プラティとジュニアの応援が響き渡る。


 たしかにチャンスだ!

 父親として遥かに俺を上回るナーガスさんに勝つには、この瞬間に全力を解き放つ以外にない!


 孫に呆けて隙だらけとなった今なら簡単にマワシを取ることができ、掴めば即座に『至高の担い手』が発動しよう!


 しかし、今の俺は……!


「はああああ、可愛いなああ……!」


 ナーガスさんに負けないぐらい我が子らに夢中だった。


 だって可愛いんだよウチの子らは!


 二歳にゼロ歳だぞ!

 こんなに可愛い盛りの我が子らが揃って、相撲なんか取っている場合じゃない!

 子どもらによる消力攻勢は、ナーガスさんだけでなく俺まで巻き込んできた!


 これぞ消父(シャオチチ)だッ!!


「はああ……! 可愛い可愛い……!」

「もすいい、もすいい……!!」


 俺もナーガスさんも、子どもたちが可愛くてもう相撲どころじゃない。


「……」


 そこへ長男ジュニアがモゾモゾと土俵へよじ登ってきた!?


 ああッ、危ないぞジュニア!

 ここは男と男の真剣勝負の舞台なんだぞ!


 子どもなんかが足を踏み入れていい場所じゃない可愛い可愛い!


「はっけよーい、はっけよーい……」


 ああジュニア!

 お相撲ごっこがしたいのか! さすが男の子だなあカッコいいぞ!


「もすもす、もすぅ……!」


 ああッ、お義父さん下がって! 息子の相手は父親であるこの俺に!


 ほらジュニアが張り手の真似事してますよ、可愛いなあ、ああ可愛い!

 よしよし強いぞジュニア!

 小さいお手々で、身長差的に俺の膝小僧辺りをペチペチ叩くことになって、その動作が可愛らしい!


 ここはお遊びに付き合ってやって、効いてるフリをしないとな!


「うわー痛い痛い、押されるー」

「もされるー」


 それはナーガスさんも同様で、ジュニアは右手で俺を、左手でナーガスさんを平等に張り手ペチペチしていた。

 その力は、お互いぶつかり合っていた時に比べたらそよかぜみたいなものだが、息子(孫)可愛さから押されるだけ後退する。


「やられるー、強いぞジュニアー」

「もすもすー」


 そしてほどなく土俵際まで追い詰められ、そして簡単に押し出されてしまった。

 俺とナーガスさん同時に。


 取組の勝者はジュニアに決まった。


「……えー、両者土俵から出たことによって、引き分けー」


 と行司役のアロワナさん。

 ちょっと待って! 今のはどう見ても勝者ジュニアでしょう!?

 物言いをつけますぞ! もっとよく審判してください!


「もすもす! もすもすもすもすッ!!」

「父上も聖者殿も正気に戻ってください。元々二人の勝負ですぞ!」


 そうだったっけ?

 まあそんなのどうでもいいや我が子たちが可愛すぎるので。


    *    *    *


 こうして、人魚国主催による相撲大会は平和裏のうちに幕を閉じた。


 いや冷静さを取り戻したらけっこう際どい展開だったと思う。

 一時は陸海の種族が綺麗に割れての対立になってしまったんだから、下手したら遺恨を残しかねなかったけれども、それはジュニアのお陰で事なきを得た。


 対抗戦も、純粋に見直したら三勝一敗一引き分けで人魔連合チームの完全勝利であったけれども。

 最終戦のしょうもなさに皆、勝敗なんてどうでもよくなってしまったからな。


「ぐぬうううううッ!! ぬかったわ! ウチの子の可愛さに旦那様までポンコツになってしまうなんて!」

「考えが浅はかだったわねプラティ。アナタもまだまだ家内として、夫の操縦法が未熟ということ、精進が必要ね」

「ぐぬううううううううッッ!!」


 悔しがるプラティ。

 しかし最後があんな、しょうもない感じになったからこそ見る方にも仕合う方も脱力して、いい具合に相撲の素晴らしさが伝わったのではないか。


 人魚族、魔族人族、すべての人類が共有して楽しめるものとして相撲が流行り、それを懸け橋としてあらゆる種族が友好を結べたらいいと思う。


 さて、では最後に。

 相撲大会の締めとして弓取式を行わねば。


 弓取式とは、相撲場所の最後に執り行う閉会式みたいなものだ。

 弓を使った舞を披露し、最後に四股を踏んで『皆様お気を付けてお帰りください』ってな感じだ。


 異世界の作法には疎かろう皆様に代わって今回は不肖、俺が……。

 結びの一番で、あんなしょうもない結果を見せて本当に不肖の俺ですが……。


 舞を演じさせていただくことにしましょう。


 弓をヒュンヒュン振って……。

 四股を踏んで……。


 どすこい!


 皆も相撲を楽しもうね!

一旦お休みをいただきます。次回更新2/4(木)予定です。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[良い点] 消爺の発想はなかったわ… [一言] 消父も加わってもうグダグダ。これはひどい(褒め言葉)
[一言] >>「もされるー」 うっかり喋っちゃうの草
[良い点] 消爺wwww そこまでやってくれるならもう文句のつけようがないですねwwww つかこの落ちの為の前振りだったのか、なるほど。 [気になる点] 子ども勢が喋るよりナーガス陛下が喋る方が反響あ…
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