624 種族対抗戦
俺です。
気づいたらとんでもないことになっていた。
いや、途中まではつつがなく進んでいたんですよ。
俺も相撲大会に出場してね。一回戦『はっけよいのこった』って組み合いましたよ。
本当は気が進まなかったんだけど、子どもたちにいいところを見せてやれると言われたらね。
俺も所詮見栄に突き動かされる俗人なのですよ。
子どもたちから尊敬の眼差しを送られたいのですよ!!
というわけでジュニアとノリトに観戦されている手前、無様な一回戦負けだけは避けなければ!
と思って、一生懸命相手のマワシをとって、土俵際で踏ん張ったわけです。
のこったのこった。
幸い俺の中にある『至高の担い手』が相撲の八十二の決まり手を余すことなくピックアップ、その中から最適のものを選んでセミオートで繰り出す!
というおかげで無事白星を上げ、何とか父親としての威厳を一段階高めることができた。
これからどこまで勝ち進めるかが甚だ不安だしな。
我が農場部屋からオークボゴブ吉の二人が勝ち進んだのに加え、魔王さんにアロワナさん、あとヘンドラーくぅんも無事二回戦に進出した。
次は彼らの中の誰かと取組むことになるかと思えば全然勝てる気がしなくて震えるぜ。
そうして二回戦の開催を戦々恐々と待っていた、その時だった。
試合方式が急遽変更されたのだ!
トーナメント方式で優勝者を決めるのではなく、人魚チームとその他の種族チームに分かれて団体戦を行うと。
『何そのグラップラー的な展開は!?』とキツネにつままれた気分だが、人魚国主催の大会で、人魚族が大いにしてやられるのはやはりプライド的に問題らしい。
戸惑いはしたものの、結局俺は提案に乗った。
だって……。
トーナメント形式ならあと何回戦わなきゃいけないかわからないけれど、団体戦なら確実に一回戦うだけで済むんだよ!
たった一回の勝利で父親の威厳を保てるのなら、そんなイージーモード乗らない手はない!
とはいえ団体戦だと俺個人だけでなくさらに大勢の意見も聞かなきゃいけないから、俺が『よい』というだけで決まるわけではないのだけれど……。
「我はかまわぬ」
魔王さんは快諾した。
「人魚族とて譲れない意地があるのだろう。我々は招かれし者。ホスト側が全力で歓待してくれるというなら乗ろうではないか!」
「我々は主の意向に従います」
「我が君の指し示す先こそ、我らが進む道ですので」
オークボとゴブ吉も快諾。
チーム定数は五人ということだから、そのうち四人が賛成したらもう決まったも同然だ。
こうして人魚チームvs人魔連合チームの団体相撲が開催された。
唐突な路線変更であったが、観客の人魚たちは大いに盛り上がった。
そして行われた第一戦。
先鋒は我が軍の切り込み隊長、ゴブ吉にお任せした。
対する人魚チームの先鋒は初めて見る少年人魚。
「あら、テトラじゃない、久しぶりに見たわねー」
とプラティが知ってるような口ぶり。
「アタシの弟よ。年が離れているからあんまり接点ないんだけど。そういやそろそろ試合に出られる年齢なのねー」
ということは俺の義弟か!?
なんとも因縁の相手が土俵に上がった。
しかしその相手はゴブ吉。
農場最速の男を相手に、テトラくんはいかなる取組を見せるのか!?
……。
一秒もたなかった。
観客から見たら、なんかビュンビュン目にも止まらぬものが動き回ったと思ったら、土俵に全身つけて崩れ落ちている王弟テトラがあるのみだった。
何を言ってるのかわからねーと思うが、超スピードとかそんなものだ。
あまりに速すぎるゴブ吉の取組に、皆が終わったことに気づけなかった。
気づいた時には終わっていた。
「ゴブ吉関の勝ちー!」
行司の高らかな判定が上がる。
地上人チームまずは一勝!
「やったわー! さすがゴブ吉様、当たり前のように勝ちを飾ったわね! 所詮あんなボーヤなどゴブ吉様に勝とうなんて十万年早いのよ! 身の程を弁えられませんでしたわね! オホホホホホホホ!」
何故か本人よりも勝ち誇るカープ教諭。
でもいいんですか教職?
負けたの王族なんですけど?
公僕が大っぴらに王族をこき下ろしてあとで大丈夫かなと思ったが、今はチームを勝利に導くために意識を集中しよう。
幸先よく一勝だ。
五人チーム戦なら先に三勝した方が勝ちになるので、俺たちは残り二勝すればいい。
この勢いに続けとばかりになる次鋒の力士は!?
魔王軍四天王のマモルさんだ!
彼こそが人魔連合軍、最後の五人目!
実は魔王さんと共に魔族代表として参戦していたのだ!
「我一人で魔族代表ではいささか寂しいのでな。最初はベルフェガミリアを誘ったのだが案の定『めんどくさい』で拒否され、彼にお鉢が回ってきたのだ」
同じ四天王としてベルフェガミリアさんの後始末担当みたいな立ち位置に。
それで今回もやむなく魔王さんと連れ立って土俵に上がり、何とか危なっかしい取組でなんとか一回戦に勝った。
『アナタたちと違って一切! スモウなるものの経験ありませんので!』と涙声で訴えていた。
それでチーム戦が急遽設定されて、次鋒として出場。
対戦相手は同やらアロワナさんのようだ。
「ダメです! いけません!」
さすがにマモルさん泣きそうだ。
「さすがにこれは敵いませんて! 相手! 人魚王様じゃないですか! 私ごときに勝てる相手ではありません!」
「マモルよ、戦う前から勝ちを諦めるなど四天王としてあるまじきではないか。お前なら勝てないまでも精一杯の善戦ができると信じているぞ」
始まる前から心の折れている部下を精一杯励ます魔王さんはやはり名君だった。
しかしだからと言って素直にやる気になるマモルさんではない。
「しかし! 人魚王といえば海の王ですよ! 能力もさることながら身分的にも勝っちゃヤバい相手じゃないですか! 下手したら国際問題ですよ!!」
「アロワナ殿はそんな些末なことに拘る方ではない。むしろ全力でぶつかることに潔さを感じ、惜しみない賞賛を送る士だ。身分肩書きなど忘れて死力を尽くすがいい」
「それでもまず勝てそうにないんですがね!?」
相変わらず知らないうちに特大級の苦労をしょい込んでいるマモルさんだなあ。
さすが『クローニンズ』の一人だぜ。
しかしこのままでは埒が明かないので、俺から一言添えさせてもらおうかな?
「マモルさん、よく考えてみましょう。たしかにアロワナさんは人魚王、人魚族の象徴。そんな人に粗相があれば戦争にも発展しかねません」
「でしょう!? だから私には荷が重いんですよ! 誰か他の人に代わって……!」
「じゃあ代わってもらいますか? たとえば魔王さんとか?」
「はッ!?」
ここまで言えば察しのいい……むしろよすぎるマモルさんはわかってくれることだろう。
アロワナさんが人魚国においてアンタッチャブルなら、魔国におけるアンタッチャブルは魔王さん。
魔国の長にして名君である魔王さんにケチでもつけば、それは魔族全体への侮辱となる。
そんな魔王さんとアロワナさん、二つの不可侵領域が直接ぶつかり合ったらどうなるか?
タイマン勝負に二人とも勝ちはあり得ないのだ。
どちらかが勝てば、どちらかが敗者になる。
その遺恨が後々大変なことに……。
「わかりました。私が人魚王と戦います!」
「おおー」
「そして、上手い具合に手に汗握る感じにして適当なところで負ければいいんでしょう! わかってますよ! それが家臣の務めですよ!」
さすがマモルさんは、接待プレイにも精通していた。
次鋒戦、人魚サイドから最大限の声援を受けて土俵に上がったアロワナ王。
その迫力に圧倒されたマモルさんは結局何もできずにコロンと転がされて敗退した。
口ほどにもなかった。
続く第三戦は、人魚連合チームからヘンドラーくぅん、人魔連合チームから魔王さん。
君臣の立場が第二戦と綺麗に逆になった感じだ。
ここはもちろんヘンドラーくぅんは、そつなく魔王さんを土俵際に追い詰めつつ逆転負け。
ああいうところ器用でストレス溜まりにくいよな彼は。
これで第三戦まで終わって戦績は二対一。
一進一退で中々に白熱した攻防だ。
勝負は一体どのような形で収まるのであろうか?







