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610 楽園の守護天使たち

 さあ、一回戦を無事勝ち進んだわ!


 この戦いはトーナメントだから一回勝ったぐらいで浮かれてはいられない! すぐさま新しい戦いが待っているのよ!


 二回戦!


 私たちと同様、一回の激戦を乗り越え勝ち上がってきた人は誰!?


『ちょっとお待ちなされ』


 はい?

 私を呼び止めるアナタはどなた?


『キミたちも第一試合であちこち傷めたじゃろう? 万全なパフォーマンスをするためにも治療が必要じゃ。回復魔法をかけて上げよう』


 うわあ……!?

 緑色の光に包み込まれたと思ったら、体中の痛みが消え去っていくわ!?


 バティさんベレナさん戦で強く打った背中とか、捻った足首とか、怪我が癒えていく!?


「完全回復だわ! ありがとうノーライフキングさん!」

『頑張ってよい試合をなされい』


 法衣を着たミイラさんにお礼を言う。


「凄いわね! 回復魔法なんて私こっちの世界に来て初めて見たわ! ゲームの中では普通にあったのに!」

「そもそも回復魔法という概念自体なかったんですが。そんなものを自在に操るなんて、やはりノーライフキングは人智を越えますね……!?」


 歩きながらセレナちゃんとお話する。


「そしてノーライフキングが医療班として待機していること自体が本来驚くべきことなのですが。冒険者ギルドはどういうツテでアイツを呼んだのですか?」

「アレキサンダー様にお願いしたんじゃなーい? あの方のダンジョンよくうろついてるじゃないノーライフキング?」


 こういうのを正常性バイアスっていうのかな、って思った。


 とにかくノーライフキングさんの回復魔法で、私たちは八時間たっぷり睡眠をとった直後のように万全絶好調よ!

 こんな私たちと戦うハメになった二回戦の対戦相手は誰かしら!?


    *    *    *


「私たちです」

「へろーっしゅ」


 天使だった。

 二回戦の相手は天使たちだった。


「天使ホルコスフォン及び天使ソンゴクフォン。異世界でのプロレス文化浸透のため参戦させていただきました。タッグチーム名『ウリエルズ』です」

「よろしくおねがいしゃーっす」


 何でプロレスに天使が参戦してるのよおおおおおおッ!?


 天使がプロレス!?

 こんな状況がかつてあったかしら!?


 天使ってもうちょっと厳かで神々しいものじゃなかったの!?


「ちなみにチーム名の由来は、マスターよりご教示いただいた伝説において、人間と格闘したという天使の名前を拝借しました。本日の私たちの状況には最適と思いまして」

「へぇええ~ッ!? そういうことなんだ博識ぃ~ッ!?」


 って言っている場合じゃない!

 プロレストーナメントに参加したら天使と戦うハメになってたなんて、少年マンガでもそんな突飛な展開ないわよ!?


 いや、それ以前に……!

 目の前に立ちはだかった天使二名、そのうちの一名と私たちは浅からぬ因縁があった。


「お・ま・え・はぁ~……ッ!!」


 セレナちゃんが普段上げないような怨嗟のこもった声を上げている!?


 それも納得するわ!

 セレナちゃんも気づいたのね、正面から向かい合う因縁の相手に。


 二人の天使の一人、その小さくてちんちくりんの方に私たちは大きな因縁があった。


「アンタ、『聖なる白乙女の山』にうろついてるお邪魔天使でしょう!?」

「ふぉーん?」


『聖なる白乙女の山』とはドラゴン・アレキサンダー様が支配している世界最大のダンジョン!

 私やセレナちゃんは冒険者として、そのダンジョンの制覇を目標に活動しているのよ!


 経験を積み、実力をつけ、仲間を揃えて準備を整え、『聖なる白乙女の山』登頂にチャレンジ。

 何度も何度も挑戦してきた。


 しかし実際に登頂成功したことはまだ一度もないのよ。


 何故か?


 頂上まであと一歩ってところでいつも必ずあの天使が邪魔しに来やがるからよッ!!


 天使ソンゴクフォン!

 我らが怨敵め!


「言いがかりっすよぉー?」


 煩い、気の抜けた語調で言うな!


「あーしは今アレキサンダー様に雇われてるんすから、アレキサンダー様のダンジョンを警護するのは当然のことっすぅー? 侵入してくる方が悪いんすぅー?」

「冒険者を空き巣みたいに言うなあああああッ!」


 いや、両者の違いを明確にせよって言われたら、明確には言い難いんだけど……!


「しかもアンタ、明らかに私たちのことをタゲにしてるフシがあるわよね!? いつも頂上まであと一歩って時に決まって邪魔しにくるじゃない!?」

「そんなことないっすぅー? 偶然の一致ってヤツっすぅー? 自分たちのネガティブ面を誰かに押し付けてるだけっすぅー?」

「ああああッ!? 喋り方がムカつくぅうううッ!?」


 とにかく私たちは、あの天使が邪魔するせいで、とっくの昔に制覇しているはずのダンジョンでここ数ヶ月足止めされてんのよ!


 その原因たる恨みの対象そのものが目の前にいいいいッ!!

 元々やる気ではあったけれど、なおさら闘志がメラメラと湧いてきたわ!!


「モモコさん、私、この試合はやりすぎてしまうかもしれません……! もし越えてはいけない一線を越えそうになったら止めてくださいね……!」


 セレナちゃんも殺意の波動に目覚めてしまっている!?


 それもそうよね、セレナちゃんも私のパーティの一員として『聖なる白乙女の山』に何度も登頂しているんだから!


 そして頂上を目の前にして、あのクソ天使の砲撃に吹き飛ばされるという辛酸を私と共に味わっている!

 その悔しさは痛いほどにわかるよ! 私も共に経験したんだから!


「止めないよセレナちゃん……! 一緒に飛び越えようピリオドの向こう側へ……!」


 同じ気持ちを共有してこそのパートナーじゃない!


「相手の殺気が異様なことになっていますよソンゴクフォン。アナタ日ごろからどんな悪行に手を染めているのですか?」


 対戦者側のもう一人、お姉さんっぽい天使が言う。


 アナタもそのちんちくりん天使の仲間と言うなら容赦する謂れはないわね!


「悪いことなんてしてないっすぅー。精勤してるだけっすぅー。ダンジョンの守護者が侵入者を排除するのは当然なんすから、恨まれること自体お門違いっすぅー」

「あの恨みようは、それ以上の因縁を感じるのですが? ……まったく、本当ならいつも通りレタスレートと一緒になるはずを、彼女にどうしても外せない役割があったので急遽アナタとタッグを組んだのはやはり人選ミスだったようです」

「人選じゃなくて天使選っすぅー? 言葉はちゃんと使うっすぅー?」

「……(イラッ)」


 ああッ? イラッと来ている!?

 あのお姉さん天使の方も、ちんちくりん天使ソンゴクフォンの人を食った態度に苛つきを抑えられないでいる!?


「……まあ、いいでしょう。アナタが使い物にならない分、私がしっかり働けばいいことです。イベント成功をマスターより指示され、レタスレートも共に頑張るのならば私が手を抜くわけにはまいりません」


 ッ?

 お姉さん天使の闘気が上がっていく!?

 どうやらソンゴクフォンへのリベンジだけに焦点を合わせることは不可能なようね!?


「私も本気で参りましょう。本気で……!」

「……ッ!?」

「アナタたちに納豆の素晴らしさを伝授しましょう!」


 カァン。

 思い出したかのようにゴングが鳴る。


 一応試合開始ということになるが、それと同時にお姉さん天使がどこぞから取り出した、ネバネバの豆の絡まり……!?


「何ですかあれは? 腐った豆!? あんなものプロレスの試合で取り出してどうすると? 反則攻撃にしても意味がわからない!?」


 セレナちゃん、お姉さん天使が取り出したアレの正体がわからずに困惑する。


 しかし私にはわかる……!?

 そりゃ異世界からやって来た異世界勇者だもの。教えられるまでもなくあの物体の正体に心当たりがあるわ。


 納豆!?

 まさか異世界に来てまで納豆に出くわすことになるなんて!?


「まぁーたそれっすかー? 遊んでないで真面目にやれっすよぉー?」

「お黙りなさい私はいつでも真面目です」

「だから余計にタチが悪いっすぅー」


 タッグパートナーのソンゴクフォンも呆れ顔をしている。


「いついかなる時も私のもっとも重大な使命は、納豆の素晴らしさを世に広めることです! 一回戦の対戦相手も、最後は喜んで納豆を食べてくれるようになりました!」

「コブラツイストしながら無理やり納豆を口に流し込むって、どんな拷問かと思ったっすよ。反則なのか微妙にわけわからんからレフェリーも戸惑って手出しできなかったっす」

「反則ではありません、むしろ販促です!」


 パックに入った納豆片手にファイティングポーズをとる天使。


 その姿に私は戦慄した。


 何故かって?

 異世界からやって来た私は納豆のことを知っている。それが何かわからずに戸惑うことはしない。


 しかし私は……。

 納豆が大嫌いなのよおおおおおおおおッ!?

 あんなの人間の食べ物じゃないわよおおおおおおッ!?


 まさかそんな納豆に、異世界にまで来て再会することになるなんてええええええッ!?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[良い点] 大丈夫、天使どころか神様とプロレスしてる元ジャンプ漫画あるから
[一言] ラブリーペアvsダーティエンジェルじゃ無いのかw
[一言] 納豆は嫌いじゃないし、食べられるけど殆どかき混ぜないで食べる(たれ程度は混ぜる)ので良く変わっていると言われる。悪食を除けば食べる人間が好きに食べれば良いのに。魯〇人何て知った事か。
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