600 happy
俺です。
あの一方的に叩きのめされたドラゴンさんも、これを機に改心してくれたらいいなと思いました。
それはもうどうでもいいや。
だって本日ついにやってきました。
ジュニアのハッピーバースデー当日が!
おめでとうジュニア!
本日をもって満二歳!
キミがこんなに大きくなってお父さんは超嬉しい!
これから生きていく上で多くの試練が降りかかることだろうが、今日はそんなこと知ったことかでただひたすら楽しもう!
だって今日は大いなる祝いの日なのだから!
そんなわけで俺はとりあえず大きなバースデーケーキを拵えたのだが……。
それも霞むような大きなものが既に用意されていた。
餅。
農場の平地に大きな餅が鎮座ましましていた。
「メッチャでっかい」
この餅は?
誕生日のイベント『餅踏み』用の餅ですか?
想像を遥かに超えて大きいんだけど?
なんと言うかね、平べったい餅が広場と見間違えるんじゃないかってくらいに大きい。
『餅踏み』のイベントで使う餅は『一升餅』とも言い、一升=1.8リットル程度の体積分の餅でしかない。
それでも餅としては大変に大きいんだが、今目の前にある餅を単位に換算したら……。
……百升餅?
これでおおよその規模を想像いただけるだろうか?
その製作者はオークたちだ。
「若君の成長をお祝いするために気合を入れて拵えました!!」
ウン、その気持ちは嬉しいけれど……。
どうやってこんなデカい餅を拵えたの?
明らかに臼に収まり切れない大きさなんだが?
製作工程があからさまに謎だ。
『餅踏み』イベントとしては、このデカい餅を赤ちゃんに踏んでもらってミッションコンプリートとなるんだが……。
ここまで広大な餅だと『踏む』というか……。
駆け回るというか……!?
「もちろん『餅踏み』のために欠かせないもう一つのアイテムも用意してございます! ゴブ吉殿お手製の草履です!」
「懐に入れて温めておりました!」
秀吉エピソードと織り交ぜないで。
自信たっぷりの表情で差し出された草履には、見るからに感じられる呪力が。
「若君の健やかな成長を願って、祈りを込めて編み上げました草履です! 今日のためにお使いください!」
「あ、ありがとう……!?」
祈りと言うか……呪いと言うか……!?
このゴブ吉製草履を地面に置くと、接地面がほのかに光るのでめくって確認したら……。
地面に足跡の形で苔がびっしり生えていた。
「魔力が地面に生命を吹き込んでいる……!?」
実に見事なアーティファクトであった。
というか農場の住人は気軽に伝説的なアイテムを量産しすぎだと思う。
え? 俺が言うなって?
まあ、いいや。
そんなことよりも今日はめでたい日だ。
ジュニアの生誕二周年を盛大に祝おうではないか。
「ハッピーバースデー、トゥーユー」
「ハッピーバースデー、トゥーユー」
「ハッピーバースデー、トゥーユー」
「ハッピーバースデー、トゥーユー」
「ハッピーバースデー、トゥーユー」
「ハッピーバースデー、トゥーユー」
祝う人がたくさんいるから繰り返しも多くなる。
「ハッピーバースデー、ディア、ジュニアー」
「「「「「「ハッピーバースデー、トゥーユー」」」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……!
皆からの祝福を受けてジュニア自身もご満悦。
母プラティに抱かれて、バティ作の衣装でおめかししてまさしく主役の出で立ちだ。
「さんくす」
二歳になったジュニアはお礼もちゃんと言えるようになりました。
成長してくれてパパ嬉しい!!
『子どもの成長は早くて目を見張りますのう』
誕生パーティの出席者を代表して先生!
やはりこういう時まとめ役に相応しいノーライフキングの先生。
『ワシのような老人だと、一年二年などほんの些細な違いで油断すると区別もつかなくなりますが、この子にとっては自分の生きてきた期間のすべてで重みが違いますのう。この子の成長が、ワシにとっては大したことでもなくなった時の流れの重大さを思い出させてくれます』
まったくその通りでございます!
先生からは誕生日プレゼント代わりに無病息災の祈祷をかけてもらった。
祈祷って言っても先生がやったら効き目100%だから贈り物として立派に成立する。
前年、ジュニア一歳の誕生日の時はもっと形あるプレゼントとして大賢者の法杖とかを持ってこられたのでさすがに豪華すぎて遠慮したのだ。
さすがノーライフキングともなれば最低でも宝具クラスの贈り物になってしまうため、子どもの教育上よくないとして話し合った結果こうなった。
でも先生の祈祷ならば効き目バッチリ保証されるので、むしろ我が子の健康を願う親としては、こんなに嬉しいことはない。
「ではセレモニーも済んだところで、早速メインイベントと行きましょう」
『餅踏み』の餅を踏みます。
本当は満一歳の限定イベントなのですが、二歳でも踏みます。
異世界ということでご勘弁ください。
「ジュニア、では行きなさい」
「らじゃー」
ゴブ吉草履を履いてジュニア大地に……もとい、餅に立つ。
鏡餅のように固まっているから、上に乗っても何ら問題はなかった。
百升餅の範囲が広すぎて、見た感じ地面に立っているのと変わらなかった。
「大丈夫ジュニア? 一人で立てる?」
プラティはハラハラしているが、心配するな、ジュニアも成長したのだ。
一人で立って歩けるほどに。
「わー」
ジュニア、歩くどころか走る。
餅の上を。
本当にだだの広場みたいだな餅の上。
「うごおおおおおッ!! 立派だ! 立派に成長したのだなジュニアああああああッ!」
元気に駆け回るジュニアを見て感涙するヴィール。
肉親を差し置いて泣くな。
「こんなに立派になるなんて、やっぱりジュニアは王者になるべき輩なのだあああッ! 今からでもガーダンプニーの首を斬り落としてペンドラゴンにするのだあああああッ!!」
やめなさい。
お前はちゃんとジュニアのプレゼントとして竜型の木彫りのおもちゃを俺と共同制作したろう?
ホラ、農場住民からの様々なプレゼントの中でも特に目を輝かせているぞ。
我が息子ながら、一応まだ物欲が枯れ果てていないことに安心した。
「当たり前だー! おれ様とご主人様の共同開発だからなー! 人型、竜型、ガウォーク形態にパーツの差し替えなしで完全変形なのだー!」
「え? そんな機能つけたっけ?」
本当に変形した。
あれは男の子のハートを鷲掴みだ。
ただの木組みのオモチャにそこまでの機構を持たせるとは恐るべし。
ドラゴン脅威のメカニズム。
「ウチの子の成長を多くの人が……こんなにも全力で祝ってくれるなんて……こんなに嬉しいことはないわ……!」
プラティが母として感動の涙を流す。
「この子が生まれてきたことは間違いじゃなかったと実感できる。母として本当に嬉しいわ! 皆ありがとう! ジュニアを祝ってくれてありがとう!」
「で、お前は何のプレゼントを用意したのだ?」
「子どもにとっては母親と一緒の時間こそ最高のプレゼントでしょう?」
コイツ!?
しかしプラティは今やもう一つの新しい命をお腹の中で育んでいるところだから、無理はさせられないか。
ジュニアももうすぐお兄ちゃんになるのだから、そうしたら母親を独占できなくなる。
今こうしてお母さんに甘えられる今こそもっとも大事なのかもしれない。
「よし、じゃあ誕生パーティを盛大に続けようではないか! 一応誕生ケーキもあるんだからローソクの火を吹き消してくれ」
それがバースデーパーティの鉄板イベントなんだし。
ケーキに立てられた僅か二本だけのローソクは、幼児の肺活量をもってしても容易く吹き消すことができるのであった。
これから先、ケーキに収まり切れないほど立てるローソクの数が増えていくことが心から楽しみだ。
そのあとは、ジュニアに踏まれて用済みとなった百升餅を叩き割って雑煮にして皆で食べた。
鏡開きとイベント混同されそうだ。
とにかく皆にとっての楽しく美味しく愉快な思い出となって。
ジュニアの二回目の誕生日は平穏のまま幕を閉じた。
* * *
まあ、一応平穏には。
そのために誕生パーティ中神々を締め出すのに苦労したけど。
『おおい聖者よ! なんでじゃ! なんで余らを誕生パーティに出席させてくれんのじゃ!?』
『そうだぞ! 折角そなたの子に最高のプレゼントを用意したのにいいいッ!?』
うっさいぞ冥神に海神。
アンタらにやりたいようにさせたらまた不老不死とか人の身に余るプレゼントを贈ってくるだろうが。
百升餅で作った雑煮の余りとケーキをとっておいてあげたから、それ食ってとっとと帰れ。
600回になりました。
ここまで続けられたのも皆さまのお陰です。ありがとうございます。
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