599 凶悪ドラゴンの始末
書籍版8巻、コミック版3巻が、つい先日ほぼ同時発売です!
どうかよろしくお願いします!
おれの名はガーダンプニー。
グリンツドラゴンよ。
世界最強の生物ドラゴンとして生まれたおれ様に敵はない!
あるとすれば同族のドラゴンだけ!
……いや、その同族で逆立ちしても勝てない相手があまりにも多いんだが。
かつて皇帝竜ガイザードラゴンであった父上を始めとして……。
その長男にして神すら恐れる正真正銘の最強ドラゴン、グラウグリンツドラゴンのアレキサンダー兄上。
その兄上に次ぐグラウグリンツェルドラゴン、ブラッディマリー姉上。
最近頭角を現し、最強クラスと肩を並べるというグリンツェルドラゴンのヴィール。
そして新たにガイザードラゴンとして即位したアードヘッグとやら。
そのどれにも勝てる気がしない……!!
おれのようなごく一般的なグリンツドラゴンでは、それら最強格ドラゴンのいずれからも秒で叩き潰されることだろう。
同じドラゴンだというのに、どうしてこうも能力差があるのだ!?
強さこそがドラゴンのレーゾンデートルだというのに!?
しかしこのグリンツドラゴンであるガーダンプニーは、それぐらいじゃへこたれない。
何故ならドラゴンには強さの他にもう一つの存在意義があるのだから。
そう、暴虐だ!!
みずからの破壊衝動が赴くまま、破壊と殲滅の限りを尽くすことこそドラゴンの醍醐味!
ドラゴンに生まれたからには弱きものを虐げ、形あるものことごとく破壊せずして何とする!
それこそがドラゴン!
幸いドラゴンは最強種族。
ただドラゴンに生まれただけで、それより弱い種族はゴマンといるのだ。
強い連中からは目を逸らし、弱いヤツらだけをひたすら苛め抜くのもドラゴンとして至極真っ当な生き方ではないか。
よし、このおれの生きる道は決まった!
遠い辺境で強者の目に届かない距離をキープしつつ、地元の弱小種族を苛めいたぶって楽しんでやるぞヒャッハー!
……などと思っていた矢先。
* * *
突如現れた他のドラゴンに一方的にボコボコにされた。
同じドラゴンなのに手も足も出なかった。
誰だこの襲撃者!? ドラゴンの中でも特に最強クラスの強者と見た!
えッ? ヴィール?
コイツが無名のグリンツェルドラゴンながら、今や皇帝級の強さを持つヴィールなのか!?
『とったどーなのだー! がははははははは!』
おれを踏みつけて珍妙な勝利宣言をする最強クラス竜。
くそう、恐れ避けようとしていた最強の一角が何故、向こうからノコノコやってくるんだ!?
弱い者いじめしながら数千年楽しく暮らすプランが始まる前から台無しに!?
『これでプレゼントの材料は揃ったぞ! コイツでジュニアがあっと喜ぶ最高の贈り物を作製してやるのだー!!』
しかもおれのことをなんかの素材としか見なしてない!?
人格すら否定された気分! 竜だけど!
最強者にとって、自分より弱い者たちなど虫けらと変わらないということなのか!? ド畜生!
「ヴィール? 同族のドラゴンさんに何をしているんだ?」
なんか最強グリンツェルドラゴンと一緒に来たニンゲンが諌めておる?
そうだ、もっと言ってやれ!
「というか何? このドラゴンさんを素材にジュニアのプレゼントを拵えようというの? クラフト?」
『そうなのだー』
「なんで余所様のドラゴンに迷惑かけるの? ヴィールだってドラゴンなんだから、ドラゴン素材が必要なら自分の使えばいいじゃない?」
それもそうだ。
ウロコでも爪でも生き血でも、何なら羽や尻尾ですらドラゴンの強靭な生命力を持ってすればすぐさま生え変わるというのに。
なんで他ドラゴンから奪ってこようとする!?
『そりゃーおれ様だってジュニアの身に着けるものなら、自分の素材を使いたいのだー。しかしこればっかりはなー。さすがのドラゴンも失ったらやべー器官が体にはあるのだ』
「一体、何?」
『首』
たしかにそうだ。
多くの生物がそうであるように、頭部はドラゴンにとっても唯一無二の最重要器官。
思考意識を司る脳があるばかりでなく、竜魔法の制御も頭部にて行われるからな。
こればかりは切り落とされたとしても、そう簡単に生え変わるものではない!
というか生え変わらない!
『だから他のドラゴンの首を斬り落として代用するしかないのだー。仕方ないことなのだなー』
仕方なくないよ!
そんな理由で同族を何の躊躇いもなく斬首できるのか、この外道!
「ど、ドラゴンの頭なんかで何を作ろうとするの……!?」
ニンゲンの男が恐る恐る尋ねる。
グリンツェルドラゴンのヴィールは答えた。
『干し首』
「干し首!?」
『干し首の製作方法を説明すると。まず切り取った頭部から頭蓋骨を抜いて、残った皮膚を煮てから干して乾燥させると、元よりずっと小さくなって持ち運びしやすくなるのだ。それが干し首だ』
「そんな禍々しい説明はいらんッ!!」
コイツ、何を言ってるんだ?
そんな惨たらしい工法をおれの頭で実践しようと言うのか、怖ッ!?
「なんて恐ろしいものを作りだそうとしているんだ!? 紛うことなき呪いのアイテムじゃないか! そんなの貰って喜ぶ二歳児がいると思っているのか!?」
『まあまあ話は最後まで聞くのだ。ドラゴンの頭はペンドラゴンだからな』
「ぺんどらごん?」
『ペンドラゴンは支配や強さを象徴する。所持する者は将来きっと、それに相応しい王者へと成長するのだ。まさにジュニアの未来を照らすにふさわしい縁起物なのだー』
「そんな鯛の御頭みたいな!?」
聞いてるこっちは恐怖でガクガクだ。
つまりおれは、縁起物にするためだけに一方的に虐殺されようというのか?
こっちの都合も関係なく?
これが強者の身勝手!?
『しかしおれはグリンツェルドラゴンのヴィール! ジュニアへのプレゼントにももう一段アレンジを加えて洒落たものにする予定なのだ!』
「というと?」
『干し首が完成したら、それに鎖を通して首から下げられるようにするのだ。つまりペンドラゴンのペンダントだ! 韻を踏んでるだろう!?』
「ペンだけにね」
そう言われて喜ぶと思っているのか?
どっちにしろ干される側は堪ったものではない!?
『さらにもう一工夫するのだ。ご主人様が前にしてくれたお話があっただろう。「賢者の贈り物」とかいう……』
「『賢者の贈り物』? ああアレか……?」
何です? どういうお話なんです『賢者の贈り物』って!?
「ある夫婦が互いに贈り物をするんだけど、プレゼントを買う金がいないんで髪やら時計やらを売るんだが、そうして用意したプレゼントが櫛やら時計をぶら下げる鎖だったために意味がなくなるという間の悪いお話だな」
なんだそれ!?
プレゼントのためにプレゼントの意味がなくなるなんてニンゲンは本当に愚かだな!?
『しかし、お話の夫婦は意味のなくなったプレゼントと共に「互いを思いやる」気持ちも贈り合ったのだ。その話におれはいたく感動した! 同じようにおれもジュニアに気持ちをプレゼントするのだ!』
「それでどうするの?」
『ペンドラゴンができても、それをペンダントにするための鎖がないといかんだろう? その鎖を買うお金をペンドラゴンを売って拵えるのだ』
「セルフ賢者の贈り物!?」
『王者と最強者の象徴を贈ることはできなかったが、おれはジュニアを想う大切な気持ちをプレゼントするのだ。美談なのだ』
ちょっと待って!?
それだとおれが干し首にされる意義が著しく失われません!?
そんなことのためにおれは首を斬り落とされるの!?
どうなの!?
『その点は安心なのだ。このためにわざわざマリー姉上に相談して、ヒトに迷惑をかける悪いドラゴンを紹介してもらったのだ。それがお前だ』
なにいいいいいいッ!?
『お前を殺しても周囲は悲しむどころか災いを取り除かれて大喜び! おれも良心の呵責に苛まれることなく干し首作りを遂行できる。八方丸くハッピーだ』
おれの犠牲は!?
『悪者の死と苦痛は、世の幸いなのだ』
ちょっと待ってええええええッ!?
待って! 首を斬らないで! お願いですううううううッ!?
おれが泣きながら命乞いするのに、口を挟んだのは小さきニンゲンだった。
ヴィールと一緒に現れたヤツ。
「まあ、待ちなさいヴィールや。仮に悪者だとしても、自分のために失われる命があってジュニアが喜ぶと思うかい?」
『そうだな、ジュニアは優しいからなー』
「悪者だって心を入れ替えることもあるだろうし、ここは別のものでジュニアに喜んでもらった方がいいだろう。俺と一緒に木組みのおもちゃを作製するか?」
『そのほうがジュニアも喜びそうだな。よし、そうしよう』
そう言うとヴィールは、被害者のおれに一言もかけずニンゲンを乗せて飛び去っていった。
……。
一体何だったの?
まるで嵐のようだった。唐突に現れて一方的に蹂躙し、容赦なく命を奪おうとしたところで気まぐれにやめて去っていった。
こんな理不尽なことがありえるのか?
圧倒的な力に翻弄される悲惨さを身をもって知った。
これと同じ気持ちを、世の多くの弱者たちは味わっているのだなあ。
心なき強者の手によって。
なんでそんな凶行ができるのだ? すべての強者も、それ以上に強い者から見れば弱者でしかないのに。
今日このおれが体験したように。
この気持ちを知った今、おれはもう以前のように弱いものを虐げることなどできない。いずれ自分も同じ立場に立たされるかもという不安から逃れることができない。
その不安から逃れるために、あのニンゲンが言ったように心を入れ替え、弱きものを守るいいドラゴンとして生きよう。
この世界が思いやりで形作られていると信じればこそ、弱者を虐げる強者はこの世界からいなくなるのだ。







