598 ジュニアの成長
本日、コミック版の異世界農場3巻の発売日です!
そして翌日は書籍版8巻の発売日!
どうかよろしくお願いいたします!
「てんじょうてんか ゆいが どくそん」
「ジュニアもすっかりお喋りが上手くなったわねえー」
プラティが息子に頬ずりする。
我が子ジュニアも生まれてから年をまたぐほどになり、その分だけ体も大きくなった。
生まれたばかりの頃にはできなかったこともできるようになり、母の腕に抱かれていた時とはまったく違う。
自分で立って歩けるようになったし、今のように言葉も達者になってきた。
だってジュニアもそろそろ二歳。
二歳といえば、もう赤ちゃんと呼ばれるのは卒業する頃だ。
もうすぐお兄ちゃんにもなることだし、我が子は着実に成長している。
「あぁん可愛い! 可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い!!」
ジュニアの可愛さにママが興奮しておられる。
しかし成長を喜んでばかりもいられない。
人にとって成長とは、新しい壁にぶつかることをも示すのだから。
今年二歳を迎えるジュニア、そしてその両親たる俺たちの前に聳え立つ壁は……。
「だが、ことわる」
「イヤイヤ期だ!」
……二歳前後の子どもに発動する、あらゆるすべてを『イヤ』と言って拒否する時期。
まだまだ自意識を確立できていなかった赤ちゃんが、自意識を織りなす過程で見せる時期だ。
様々なものを拒否する中で自分の好きなものと嫌いなものを判別していき、それによって自我を確定していく。
……という理屈を聞けば納得はできるものの、親にとっては魔の時間。
ただひたすら可愛いだけだった赤ちゃんが、小憎らしい発展を遂げ、牙をむく最初のタイミングなのだから!
我が家のジュニアも、ついにそのイヤイヤ期に!!
「ぜつぼうを拒否し、あきらめることを拒否し、むねにひめた希望をすてることを拒否し、立ち止まることを拒否する」
「これがイヤイヤ期というヤツね……?」
プラティも事態を重く受け止め、色々拒否するようになったジュニアを見詰める。
「しかしそんなことで母の愛は色褪せはしないわ! 自分を確立するようになったジュニアのこともしっかりと受け止めてみせる!」
「むさぼることなく、いつわることなく、かつぼうすることなく、みせかけでおおうことなく、にごりをのぞきさり、せかいにもうしゅうないものとなって、サイのつののようにただひとりであゆめ」
これ本当にイヤイヤ期って言うのかな?
しかしまあ逆説的に言えることもある。
イヤイヤ期を迎えるまでに成長したジュニアは、もうすぐ二歳になるということだ!
つまりジュニアの二歳の誕生日が目前に来るということ!
早急に祝いの準備を進めなければ!
そりゃ子どもの誕生日といえば一大イベント。
全力をもって盛大に祝うのだ。
あれ? でも去年の一歳の誕生日はしっかり祝ったの?……という声が聞こえてきそうだが。
去年もしっかり祝ったよ?
昨年は俺とプラティの結婚式でゴタゴタしてしまったが、それでもジュニアの一歳の誕生日には農場住人の全員でお祝いをしたものだ。
一歳の誕生日だったので『餅踏み』をやったな。
子どもの成長を祝って、子どもに餅を踏ませる風習に倣った。
ジュニアに草鞋を履かせて、その上でつき固めた餅を踏ませて無病息災を願うのだ。
異世界にはない行事で、皆の目を驚かせた行事であったが、あれは一歳限定のヤツなので、今年はしない。
二歳の誕生日に何をやるか、今のうちに構想を練っておかなくてはな……。
「餅付き」
「ぺったん」
とか思っていたら、どこからか掛け声が聞こえてきた。
オークたちが餅つきしていた。
謹賀新年でもないこの時期に。
「よッ」「はッ」「よッ」「はッ」
ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん……。
オークボが杵を振るって、他のオークが餅を返し……。
実に息の合ったリズミカルな動きだった。
「おお、我が君! 餅の製作は順調に進んでおりますぞー!」
「若様の誕生日にはしっかり間に合わせますのでご心配なくー!」
とオークたちが呼びかけてくる。
これはもしや……。
向こうの方ではゴブ吉を始めとしたゴブリンチームが藁を編んでいた。
藁細工はゴブリンたちの得意技ではあるが、刈り入れから一冬またいだこの時期に何故?
もしや草鞋か?
草鞋を作ろうとしているのか?
一升餅と草鞋。
子どもの一歳の誕生日を祝う行事『餅踏み』に欠かせぬアイテム二種。
その二つの作製が進められている!?
しかもゴブ吉の草鞋の作りようは実に気合が入っている。
「パーラ・ノードイ・フォーモー・ブルール・ネーイ・ヴァセ・イーダーイー・エイター・ナール・アイドール・ヘーブン・ン・ヘイル・イアイアンマ・ダイオミ・ギーザ・オージ……!」
藁を一編み一編みするごとに呪文を刻み込んでいる……!?
何のまじない?
履く者の不運を跳ね除けるとかそんな感じのヤツ?
侮るなかれ、ウチのゴブリンやオークたちは、ノーライフキングの先生から指導を受けていて、その辺の魔導師など比較にならないほど魔法に精通しているのだ!!
特にゴブ吉は、もっとも優秀な先生の直弟子で、修得した魔法だけでもその辺のドラゴンやノーライフキングと互角以上に戦える!
そんなゴブ吉が呪を込めて編んだ草鞋ともなれば、超一級の魔力武装に!?
「あッ、我が君。若の誕生日の備えは着実に進んでおります。一歳の時より二歳の時の方が盛大になるよう整えますのでご期待ください」
……やっぱりねー。
彼らは、ジュニアの二歳の誕生日に備えて、『餅踏み』の準備をしている!
二歳は『餅踏み』をしないのに!
一体どうすればいいのか?
『「餅踏み」は一歳限定のイベントなので今年はやりませんよ』と言うには準備はあまりにも進みすぎているし、何より彼らのやる気に満ち満ちている。
あの溌剌な表情をぶち壊しにしてしまえるほど俺の良心は頑強ではない……!?
……まあ、いいか。
二歳にも『餅踏み』しちゃいけないって決まりはないし。
とりあえず今年はこのまま進めておいて、来年に上手い言い訳を思いついて彼らを思いとどまらせるとしよう。
来年になったらジュニアは三歳。
七五三の時期になるから祝い事がシフトしましたなどと言っておけばいいかな?
ともかく今年も盛大なジュニアの誕生日になりそうだった。
「うぬぬぬぬ……、これはいけないのだー」
「おう、ヴィール?」
ドラゴンのヴィールが、気づけば俺の隣にいるではないか。
急にどうした?
「ジュニアの誕生日を盛大に祝うのは、誰よりもこのおれ様なのだー。誕生日に用意するプレゼントの豪華さで、このおれがオークやゴブリン風情に後れを取るわけにはいかないのだー」
餅と草鞋はプレゼントの範疇なのか。
たしかにジュニアを可愛がることにかけてヴィールは農場一、二を争う。
そんな彼女にとってジュニアの誕生日などはけっして外せるイベントではなく、全力で臨むはずだ。
「というわけでジュニアのために、空前絶後の最高プレゼントを用意してやらなければならないのだ! ご主人様も付き合うのだー!」
「えぇ!? 俺も!?」
俺もジュニアの誕生日に向けてプレゼントを用意しなきゃと思ってたんですが!?
新しい木組みのオモチャでも作ろうとか!
一四七〇ピースの大作を!
しかしそんな暇もなく、ヴィールに抱えられ飛び立つ俺!
ドラゴンの姿に戻って空を飛び、ヴィールはどこへ行こうというのか?
ジュニアのプレゼントを用意するために?
そのために一体どこへ辿りついたかというと……。
世界の外れにいるドラゴンを一体、ボコボコに叩きのめした。
なんで!?
ヴィールもドラゴンだから同族の仲間でしょう!?
『これで素材は確保したのだ! コイツでジュニアの誕生日プレゼントを作製するのだー!』
ドラゴンを素材に!?
一体ヴィールは、我が息子に何をプレゼントしようというのか!?







