597 コロッケ・ノスタルジー
「紀男、お前の好きなごはんはなんだい?」
俺が学生の時死んだはずのばあちゃん!?
何故ここに!?
「好きな食べ物は?」
あッ、ハイ。コロッケでしょうかね!?
「そうかい。……じゃあなるべくゆっくりおいで。そうしたらばあちゃん特製コロッケを拵えてあげるからね」
* * *
変な夢を見たので無性にコロッケが食べたくなった。
なので作ります。
思えば異世界に来てコロッケを作るなんて初めてだな。
面倒くさいからな!
下手したら煮魚よりも遥かに面倒かもしれない。油も使わなきゃいけないし。
ということで用意するのはメイン素材となるジャガイモを筆頭に、玉ねぎやひき肉、パン粉に小麦粉に卵。
あと調味料を色々。
必要だと思ったものがすぐさま揃う農場の恐ろしさ。
開拓が始まった頃の、作りたいのに素材がないから泣く泣く諦めた……なんて時代が遥か昔のようだ。
そういう細かいところでも自分の進んできた道を確認できて感動する。
感動はほどほどにしてコロッケを作るぜ。
ジャガイモを茹でたら皮をむいてグニグニグングニルと潰せ。
玉ねぎをみじん切り。
炒めようミンチ。
混ぜる。
小麦粉、卵とパン粉と絡めて……。
揚げたら完成!
キャベツのみじん切りもちゃんとあるよ!
「まあ、作ろうと思ったらサクサク作れちゃうんだよな」
食材も器具も揃ってるしね。
しかし大事なのは作業の進み具合がサクサクなことよりも、衣がサクサクかどうか!?
上手いこと言ったな俺!
しかし重要なのはコロッケが美味いかどうかだ!
ということでいただきます。
サクッ。
「今口の中で……、口の中でサクッていった……!?」
めちゃ美味い。
サクサクの衣に、中身のタネが熱いしホッコホコ、これぞジャガイモって感じだぜー、という触感だ。
タネに合わせた玉ねぎや肉のおかげでジャガイモ独特の粉っぽさも消えてるし。
続けてソースをかけて召し上がるぜー。
揚げ物用のソースを作るのには苦労したが、トンカツの時に絶対欠かせないから何とか苦労して開発し、それが今日も役に立っているぜ。
トロリと掛けて……、サクッ。
おおう揚げたてはソースをかけてなおサクサクぶりが持続するのか。
コロッケの熱をソースが冷ましてちょうどいい塩梅になってなおうまい。アツアツもいいけどね。
あー、キャベツの千切りが進む。
ごはんも欲しくなってきた。
炭水化物に炭水化物の禁断の組み合わせがまったくギルティにならないのはごはんとコロッケだけだな。
あとコロッケパンもいい。
「呼ばれて飛び出て」
「じゃんばらや」
来たな。
新作料理を試すと必ずやってくるプラティとヴィール。
もはやテンプレート化されて来ているから驚きもしないけど。
しかしプラティも段々お腹が大きくなってきたな。
第二子を胎内に収め、かつ長子のジュニアを抱きかかえる様子は、まさしく聖母じみている。
「お腹に障るからあまり動かないでくれよ。ちゃんと出来上がったら持っていくつもりだったからさ……」
「そんなの待てないわ! 美味しそうな匂いがしたら即行動! それがアタシのポリシーなのよ!!」
何児の母になろうとプラティの本質は変わらないのであった。
貪欲。
「おらー、おれたちが来たからにはさっさと新作料理を出しやがれなのだー。これが楽しみで生きてるようなものだからなー!」
そして追剥ぎのようなヴィール。
彼女らに抱きかかえながらジュニアだけがただ一人、波一つない湖面のように澄んだ瞳をしていた。
「まあ、わかったからお食べなさい」
「「おおーッ!?」」
差し出したコロッケに熱狂する二人。
油の始末も大変だから、今日一日で出来るだけたくさん揚げていく所存だ。
ジャガイモもたくさん用意したからな。
「これは……、トンカツ!?」
違います。
パン粉つけて揚げただけしか共通点ないじゃん、見た目に騙されるな。
「ふぉおおおおおーーーーーッッ!? 違うぞトンカツじゃないぞ!? 中身はフワフワでホコホコの……、なんだぁーーーッ!?」
ヴィール、コロッケの正体に気づけない模様。
まあ仕方ないよね。
俺もコロッケの中身がジャガイモだなんて知ったのは二十歳越えてからだ。
「外の衣は相変わらずサクサクで、でも中身の何かは物凄くホコホコしているからトンカツよりも衣のサクサク感が際立つわ! ソースとの相性もいいし、ふっくら優しい味だわ!!」
プラティも気に入ってくれたようで何よりだ。
……そうだ。
ジュニアもコロッケ食べるだろうか?
さすがに赤ん坊に油ものは控えた方がよいかもだが、ジュニアももうすぐ二歳、皆が食べているものを食べても平気なのではないだろうか?
そこでコロッケをほぐして、口を火傷しないよう充分に冷ましてから上げてみたが……。
『うん美味い、これは美味いぞ』という顔付をしている。
相変わらず食に対してストイックそうな姿勢をする息子だった。
…………。
しかし俺、何でいきなりコロッケ食いたいなんて思ったのかな?
今朝見たあの夢のせいだろうか?
しかし実際のところ俺、別にコロッケがそこまで好物というわけでもないんだよな。
嫌いじゃないけど、そんな夢に見るほど大好きってわけでもない。
本当に好きなら異世界に来てできるだけ早いうちに作っていたしな。
じゃあなんで……と思ったが、ジュニアにコロッケを食べさせているうちになんかわかってきた。
コロッケって案外おふくろの味じゃないかと。
品名カタカナの洋食風ではあるものの、洋食というには家庭のイメージが大きいし、わざわざ店に行って頼みたいとも思わない。
実際扱ってる店なんて、そんなにないし。
コロッケって案外、家で食べるもの? しかも出来合いのものと家で食べるものとでは同じ品目なのに別物のように違うというのも珍しい。
スーパーのお惣菜コーナーで買うコロッケは大抵できてから時間が経ち、衣に水気が移ってしんなりしてしまっている。
出来たてサクサクのものを味わいたければ、やはり家だ。
しかも作り方が実は複雑で、種類も多く、人によってまちまちになってしまうものだから余計に子どもの頃に食べた思い出が深くなる。
あんな夢を見て、唐突にコロッケを作りたくなったのは、我が息子に子どもの頃にしか味わえないコロッケの味を体験させるため?
いや知らんけど。
「これはうめえええええええッ!! また一つ、おれ様のメモリアルに刻み込むべき料理に出会ったのだああああああッッ!!」
まったく関係ないヤツが思い出を獲得しているし。
まあいいか、ヴィールは大事な家族なのだし共有する思い出が多くあっても。
「よーし追加をじゃんじゃん揚げていくか。油の処理が面倒だから、一度思い立った時にガンガン揚げる」
「頼もしいぞ! おれもまだガンガン腹に入るのだー!」「アタシもお腹のこの分まで食べるわよー!」
『うぉん、まるでオレの胃は溶鉱炉だ』とジュニアが言ってる感じがした。
まったく同じコロッケでも芸がないので、色んな種類を拵えるか。
ジャガイモの代わりにかぼちゃコロッケ、タンパク質たっぷりの牛肉コロッケ。
クリームコロッケは……、揚げ方が難しいので今回はパス。
同じ理由でカニクリームコロッケも、そもそも食材としてのカニ肉が手元にないし……。
カレーコロッケ。
そもそもまだこっちでカレー作ってない。足りないものはまだまだたくさんあるんだなあ。
オイスターコロッケ。……オイスターってなんだ!?
結局は普通のコロッケにかぼちゃコロッケに牛肉コロッケで、コロッケパーティが大いに盛況した。
農場の他のメンバーも匂いと油の揚がる音に誘われて集まり、結局いつも通りの賑わいになったぜ。
* * *
翌日、油で胃がもたれた。
さすがにコロッケばかり食べすぎたか……!?







