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596 卒業試験

 つまり先生が言わんとしていることは、こうだ。


 仮にシェミリさんが農場に留学したとしても、それとほぼ同じタイミングでリテセウスは卒業するだろう。

 入れ替わりとなって共に学ぶことはない。


「やだー! そんなの嫌だー!!」


 状況を飲み込めたシェミリさんは、拒絶の意を全身で表す。つまりは駄々っ子モードになる。


「だーっはははははは! 愚かめ! 結局お前の魂胆はそこだったか! しかし残念だったな! お前がリテセウスと共にいられる時間などないのだ!」


 勝ち誇ったように言うエリンギア。

 だけど……。


「卒業したらエリンギアもリテセウスと離れ離れになるんじゃない? きっとそれぞれホームに帰るんでしょう卒業後は?」


 エリンギアは魔国。

 リテセウスは人間国とそれぞれに。


 物理的にも随分離れて、なかなか会えなくなってしまうんじゃないかなあ?


「やーだー! 絶対やーだーッッ!!」


 駄々っ子が二人に増えた。


 コイツらは放っておくとして、たしかに先生の主張にも同意すべきところはある。


 彼ら留学生がここへ来て、もうどれくらいの時間が経っただろうか?

 一年?

 二年?

 うーん、今年で三年目ぐらいになるかな?


 つまりは三年生。

 俺の前いた世界の中学高校ならば最高学年として、受験なり就職なりと卒業準備に勤しむ頃合いだ。


 リテセウスを筆頭とする農業留学生たちも、ただ漫然と学ぶため農場にいるのではない。

 知識を得て技術を修め、いずれは世のため人のために働く人材となれることを目的として学んでいる。


 実際に役立てるだけ成長したのなら、速やかにそれぞれの郷里に戻り、学んだことを存分に活かすべきだろう。


『今回、リテセウスが半人前ながらも魔王殿の配下として公の場に出て成果を遂げた。これをもっておぬしたちの成長が、世間に向けて立派に成長を遂げたものという判断材料にしてもよかろう』


 いやでも……!?

 リテセウスくんですよ?


 農場留学生の中でぶっちぎりの実力と才能を持つ彼と、他の生徒たちを一緒に考えてもいい……!?


『大丈夫です、皆ワシが手塩にかけて育てた生徒たちです!』

「はいッ!?」

『分け隔てなどありません。誰一人例外なくワシの誇れる生徒たちです!』

「はあ!」


 適当に相槌を打つことしかできない俺だった。

 先生の迫力に飲まれた。


 そして一方、当の生徒たちは……。


「おおお……!?」

「ついに……!?」


 戸惑いつつも概ね落ち着いて、事態を噛みしめていた。

 案外、この農場を巣立っていくということに動揺はないらしい。


「いつかは来るものと思っていましたから……!」

「たしかにいつまでも、ここで勉強しているわけにはいかないもんな……」

「故郷の母ちゃんにも久しぶりに会いたいな……!」


 という感じで皆前向きだ。


「「やだやだ絶対やだー!!」」


 エリンギアとシェミリさん以外は。

 まあアイツらは完全に捨て置くとして……先生どうかお続けください。


『いや、本当によく成長したのう……! 最初はあどけなく、何も知らないような表情であったが、厳しく充実した日々を乗り越え、今ではいっぱしの面構えじゃ』


 いや先生……!?

 そういうことではなく……!?


「最初はお手伝いでお呼びしたはずの先生が、いつの間にか主導されるようになっていましたもんね」

『いやはやお恥ずかしい……! 長いこと一人でいた反動か、若者に教え時には教えられる日々が刺激的に過ぎましてのう……!』


 そんなこんなで、今では農場留学生企画の主導者的立場にいる先生だ。


 今まで教えてきた日々のことが走馬灯のごとく先生の胸中を去来する!


『立派になったのう……! 本当に立派になったのう……!!』

「先生! 感涙するのはまだ早いです!!」


 教え子たちのことになるととかく感傷的になる先生であった。


『たしかにそうじゃ! 皆、まだワシからの教えを完璧に修めきったわけではない! 最後の仕上げが残っている! おぬしたちが皆それぞれ、ワシを納得させられるだけ成長したかどうか、しっかりたしかめねばならん!』


 声を若干厳しくする先生。


『卒業の前に、試験を執り行おうと思う。……つまりは卒業試験!』

「「「「「卒業試験!?」」」」」


 まんまであった。


『おぬしらがここで学んだことをちゃんと身に付けてきたか、使いこなせているかをしっかり見極めねばならん。中途半端なままで外界へと放ち、却って世の迷惑となっては申し訳が立たぬのでな』


 可か不可かを判断するための試験。


『それゆえ手心は加えぬ。落ちることを前提とするほどに厳しい試験を作り出すので、皆心引き締めてかかるように』

「「「「「はい先生!!」」」」」


 返事のいい留学生たちだ。


「「やだやだやだやだー!!」」


 あっちの恋する乙女どもはとことん黙殺して……。


「でも先生、具体的な試験内容はどうするんです?」

『そうですなあ……』


 これから考えるんかい。

 なんか滅茶苦茶厳しくするって脅かした以上、よっぽどのヘルモードじゃないと『やっぱり生徒に甘いんですね』なんて揶揄されるぞ。


『いいのを思いつきましたぞ』


 早速案が出た。


『オークボとゴブ吉に勝ったら合格』

「やめましょう」


 厳しいとかそういう次元をぶっちぎって不可能。

 ミッションインポッシブル。


 少年漫画に出てくる人命なんか屁とも思っていない類の試験でももうちょっと有情だ。


「誰も合格できない試験なんてやってもしょうがないでしょう。ここは難易度を下げつつ、絶妙なバランスを狙って試験のアイデアを出していきましょう」

『そ、そうですな……!』


 普段は知力も高く、農場で一、二を争うほどの分別のある先生なのに、生徒のためというか教育のことになると途端に暴走気味になる。


 人には誰しも暴走特急になるツボの一つや二つがあるんだろうか?


『どうせなら技量や知恵ばかりでなく、心の成長も確認できるような試験がいいですな。大きな力を持つ者こそ、それを適切に扱うために正しい心が必要になります。それがない者に力を与えて解き放ったとなっては、育てたワシの罪になりますでの』


 慎重にしてかつ自他に厳しい先生であった。


 心を試すか……、大抵は間違いだと思ったのが正解です見たいなイジワル選択肢問題になるよな。


『心が清らかでない者が浴びると魂まで消滅する光……とかがどこかにあったような気がしますが……』

「だからやめて」


 不合格=死みたいな図式は絶対やめて。

 先生、完璧に冷静さを欠いとりますやん。


『それならばニャーにおまかせにゃー!!』


 うわ、なんか出てきた?

 猫だ。


 いや違う、一見猫にしか見えないこの猫は、猫なのだが。

 しかしてその実態は、世界最悪の超越者ノーライフキングにして、その中でもっとも凶悪とされている数人の一人……。


 ノーライフキングの博士!

 猫の姿をしているぞ!


『冷静さを欠いた先生に代わってニャーが試験内容を考えてやるにゃ! 同じノーライフキングとして相互扶助の考えが大切なのにゃー!』


 おお博士。

 珍しく仲間意識などを発揮しているではないかノーライフキング同士?


『というわけで、試験問題の素案を作成したにゃ! 丸が多いほど合格にゃー!』


 博士が見せつけてきた表を確認すると、以下こんな感じだった。


・家族全員が同意しているか?

・屋内で飼育できる充分なスペースがあるか?

・引っ越しの予定はあるか?

・一日の中で猫と遊んであげられる時間を確保できるか?

・脱走対策は万全か?

・毎日ブラッシングできるか?

・毎日またたびを与えられるか?


「猫を飼う準備のチェック表じゃねーか!?」


 これ全部に丸がついても得られるのは猫を飼える資格だけだ!


「やはり猫なんぞに頼ってもダメだ! ちゃんとした試験内容をこちらで考案しなければ!」


 この状態ではとてもまともな試験内容を思いつけないので、一旦閉めて議題は次に持越しにしよう。


 別に生徒たちの卒業を急ぐわけでもないし、遅くとも一年以内には試験やって卒業の可否を決めて実際に卒業式までやってのけたいよね。


 これまでじっくり育ててきた留学生の一生が決まるかもしれない大事な試験だ。

 俺たちも真面目に、じっくりと考えていこう。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
我が儘なツンデレほど見てて見苦しいものはない。 ただでさえこの作品のヒロイン各種、ツンデレ成分多いのに。 リセテウスは魔族国に就職決まってるんだから、エリンギは心配すること無いだろうに。実家帰省する…
[気になる点] 誤字報告 別に生徒たちの卒業を急ぐわけでもないし、遅くとも一年以内は試験やって卒業の可否を決めて実際に卒業式までやってのけたいよね。 一年以内【には】試験… ではないでしょうか?…
[一言] そもそもリテセウスは故郷に戻る気があるのかな? いくらいい人とはいえ息子の身代わりとして自分を魔族に差し出した領主と、そのバカ息子のために働こうとするとは思えないのですが。 普通に考えて…
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